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『しあわせな結婚』第6話、なぜ“30歳差”婚の話が出たのか。主人公の言葉と作品のテーマ性「既成の価値観がいつも正しいとは限らない」

<ドラマ『しあわせな結婚』第6話レビュー 文:木俣冬>

「これから、惚れた女のために一緒に戦いましょう」。幸太郎(阿部サダヲ)と妻・ネルラ(松たか子)と刑事・黒川(杉野遥亮)。奇妙な三角関係が始まった。

ナレーションでこれまでの物語が解説され、第5話までと違うムード。まるで別のドラマがはじまったのかと思った。「刑事が妻に恋をした」こんなタイトルのドラマもありそうだ。

第6話は真犯人探しだがコメディ要素も多め。誕生日と新居探しのくだりは楽しかった。

話の流れに沿ってみていこう。

ネルラは黒川に改めて事情を話すことにした。幸太郎は弁護士として同席する。

ひとつひとつ15年前の事件の経緯を語るネルラ。以前の証言と違うことを言うので黒川が「また嘘をついていたんですか」と問うと「嘘ではありません」「15年前はそれが彼女の真実です」と間髪入れずに幸太郎がかばう。

黒川はすでにネルラ派なので彼女に不利な方向に話を持っていくことはないはずだが、幸太郎はライバル視なのか、黒川にはピリピリムード。黒川も幸太郎の差し出した書類を無視してネルラのほうばかり見ている。

幸太郎は隣に座ったネルラの横顔をじっと見つめ、いちいち、うんうん、小さくうなずいている。彼の誠実さを感じる。

だが、最初の事情聴取が終わって、帰りがけ、黒川が「明後日、誕生日ですよね」とネルラに切り出す。幸太郎はそのことを忘れていた。

幸太郎VS黒川。接戦か?と思わせて、帰り道、「黙っててほしかったわよね」「まったくだあいつ」とネルラと幸太郎はふたりで黒川を悪く言う。ネルラと幸太郎は誕生祝いの料理を想像して楽しく帰っていく。

そんなことはつゆ知らず、黒川はいちごのショートケーキをデスクで貪り食っていた。「おめでとう」のプレートが所在なさげに置かれている。ネルラがひとりで来たら食べてもらおうと思ったのだろう。不憫な黒川。

そして誕生日。鈴木家がそろってネルラの誕生日を恒例のちらし寿司の豪華版でお祝い。

超高級本まぐろとウニといくら。ネルラの好物のレンコンも入っている。お刺身が薔薇の花、いくらで46と書いてあり、レンコンがレースの縁飾りのよう。まぐろとウニといくらという重めな食材をこんなメルヘン調に飾りこむ考(岡部たかし)の料理の腕とセンス。ショートケーキは勝てるはずもない(ショートケーキに罪はない)。

出席者の5分の3がおじさん(幸太郎、寛、考)なのに、こんなにおしゃれな誕生会をやっているところも不思議だが、鈴木家は長いことこうやって生きてきたのだ。ネルラの年齢分としたら46年。鈴木家の結束は強い。

ところがふいに寛(段田安則)は、この家を出てもいいと言い出す。考もレオ(板垣李光人)もちょっと複雑な顔になる。ネルラもそんな気はさらさらない。

食事のあと、レオがネルラに、寛は家から出て解放されたほうがいいと思っているのだろうと言う。寛は幸太郎を認め、彼のようないい夫が現れたから、自分たちがネルラを守る必要もなくなったと感じたのかもしれない。

レオはいつか家族がバラバラになる日がくると思っていたと嘯くが、実は最もさみしいと思っているようだ。

夫婦の部屋に戻って、洗面所で幸太郎は歯磨き、ネルラはドライヤーかけ。食事、歯磨き、食器拭き、なんてドメスティックなんだ。でも決して単調じゃないのがこのドラマのすてきなところ。誰もがふだんやっている行為の再現度が高い。

キッチンで食器を拭きながらネルラは「わたし、外で暮らしてみたい」と言い出す。ただし、幸太郎のマンションは「いろんな女の人がスポットで来てたところでしょう」と眼中にない。「スポットで来てた」という言い方が可笑しい。

その頃、黒川は布勢(玉置玲央)の当時の知人たちに改めて話を聞いていたが、布勢は「悪い女にひっかかって人生を狂わせてしまった」と画商が嘆いていたと聞く。ほかの知人も、ネルラは大学のときモブのような存在だったと言い、「ネルラは地味な学生でしたけど、ホントは恐ろしい女だったんですね。布勢の才能を潰したのはあいつですよ」と悪く言う。

そういう話を聞くとネルラにもまだ疑惑が残る。すべてが彼女の狂言で、本当は彼女がやったのかも? 黒川はどう思っているのだろう。

◆「真実は、既成の価値観を乗り越えた所にある場合もあるんです」

ネルラは楽しそうに幸太郎と新居探し。このときのふたりはブルーと白のリンクコーデ。芸術の街・上野に住みたいと言い出す。

ここでは「コント家探し」といった風情に。時代劇調にしゃべる不動産屋(山内圭哉)のキャラが濃い。阿部と山内は小劇場でそれぞれ人気と実力を兼ね備えた異才だった。ドラマでこんなふうに共演するのは演劇ファンとしてはうれしい。

不動産屋にすすめられたマンションを内見していると、『ニュースホープ』のMC梶原(馬場徹)と鉢合わせ。梶原は同級生の母だった人気作家の千堂祥子(吉川美代子)を連れていて、彼女と結婚すると言う。

それが不倫ではないかとネットニュースになって大騒ぎ。火消しのために『ニュースホープ』の放送中、真摯に状況を説明したことで事なきを得た。

吉川美代子さんのプロフィールを見て、年齢にびっくり。その年齢には見えない。生き生きと自立している人。ナイスキャスティングだ。

それにしてもなぜここで、梶原の親子ほど年齢差のある女性との結婚話を盛り込んでくるのか。いまどきのテレビ番組あるあるは楽しいのと同時に、それを警察で見ていた黒川の表情が気になる。もしかして年上のネルラとワンチャンあるのではと思ってしまったのではないか。

……と思ったら、幸太郎に電話してきて黒川は戦いのリングから降りる宣言をする。

『ニュースホープ』で幸太郎が、

「梶原さんには、この先もこの仕事を胸を張って続けてもらいたいし、しあわせにもなってもらいたいですね。わたしの私見ですけど、一般常識とか、既成の価値観がいつも正しいとは限らないと思うんです。梶原さんと奥さんの年齢差は、常識ではありえないかもしれませんけれど、常識を飛び越えてつかんだ愛だからこそ、輝かしいと思います」
「真実は、既成の価値観を乗り越えた所にある場合もあるんです」
「一方で、今の世の中でそれを貫くことは容易ではありません。それでも時に突っ込まなければならないことが人生には起きるんです」

と言うのを聞いて、幸太郎のネルラへの愛がホンモノだと感じたようだ。

「奥さんに引きずり回されるのはやめます」「原田さんが、既成の価値観の向こう側で、奥さんを守っていることがよくわかりました」――。あれ。意外とあっさり終わってしまった三角関係。ちょっと残念な気もするが、黒川は事件の真相を追求する係として頑張ってほしい。

ネルラは実は悪い女だという証言を聞いた黒川は、もしそうだったら正義の警察官として彼女を守ることはできないと思ったのかもしれない。そういう意味でどんなことになってもネルラを守ろうとしていた幸太郎に一目置いたともいえるだろう。黒川は反目していた幸太郎を認めたのかも。

鈴木家も黒川も、誰もが幸太郎に敬意を抱いていく。幸太郎の信頼感はすごい。『ニュースホープ』での梶原擁護の発言も倉澤プロデューサー(堀内敬子)をはじめ、皆、前のめりに聞いていた。

そしてやはり幸太郎とネルラの絆は強い。幸太郎のマンションにはじめて訪れたネルラは、素朴な嫉妬心をむき出しにして、幸太郎はむしろ嬉しい。そもそも黒川が入る隙間は1ミリもなかったのだ。

マンションのキングサイズのベッドも、ペアのカップもタオルもみんな捨てて、ここで暮らそうとネルラは決意するが、幸太郎は事件が解決するまでは鈴木家のマンションで暮らそうと言う。

鈴木家の食卓で幸太郎は宣言する。

「おっしゃるように、ネルラと2人でしあわせになる方法もあるとは思います。でも、ここはネルラが大切にしてきたみなさんと一緒にいたいと思うんです。僕にとってもそれが一番安心なんです」

幸太郎が鈴木家に信頼されているのと同時に、彼もまた苦手だった家族というものを信頼し身を委ねてみようと思ったのだろう。

ところがその翌朝、さっそく新展開。

ネルラは事態の深刻さとはまるでテンションの違う、バレリーナがジャンプして止まったみたいな寝相をしていた。(脚本・大石静さんが、阿部さんと松さんとの座談会で「もっと寝乱れてほしい」と言っていた。それに松さんが答えたのであろうか。)

黒川のもとに出頭してきたのは、考だった。

岡部たかしは、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK 24年度前期)では収賄容疑で逮捕されて過酷な取り調べを受ける役を演じていた(主人公のお父さん)。そこでは無罪を訴え続けたが、今回の考は自首。自ら罪を認めている。

考が真犯人で、今度こそ事件解決? いやいや、まだ最終回には早いぞ。

最後はちょっと真面目に締めようと思う。

大石静脚本のドラマはいつも「一般常識とか、既成の価値観がいつも正しいとは限らないと思うんです」「真実は、既成の価値観を乗り越えた所にある場合もあるんです」というようなことを描いているように思う。「場合もある」と絶対とは言い切らないところにいまどきの配慮を感じた。

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※番組情報:『しあわせな結婚
毎週木曜よる9:00~、テレビ朝日系24局