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オールスター、初の熊本開催。工藤公康と熊本の少年たち、約束と絆の手作りグラウンド

7月13日(金)・14日(土)に行われる「マイナビオールスターゲーム2018」。

今回の第2戦(14日)の開催地は、初めてとなる熊本県(リブワーク藤崎台球場)だ。

2016年4月に起きた熊本地震の復興支援の一環として決まった熊本での初の球宴開催だが、パ・リーグの監督を務める福岡ソフトバンクの工藤公康監督にとって、熊本に“夢のオールスター”がやってくることには特別な意味がある。

©テレビ朝日野球

2016年のシーズン、最大11.5ゲーム差をつけていた日本ハムにまさかの逆転優勝を許し屈辱を味わったソフトバンク。その批判を一身に受けていた工藤監督は、翌年2017年1月、ある少年たちと出会った。

熊本県の西原村学童軟式野球クラブの少年たちだ

熊本県阿蘇郡西原村は、熊本地震で震源地となった益城町の隣にあり、地震では震度7を記録。建物の半分以上が解体を余儀なくされる甚大な被害を受け、少年たちが使っていたグラウンドはガレキ置き場となり、彼らは大好きな野球をする場所を失ってしまった。

しかし、工藤監督はこのとき、西原村まで少年たちに会いに行き、一緒に野球をしたのだ。いったい、グラウンドはどうしたのか。

 

◆畑をグラウンドに。大人たちの手作り作業

ここから始まる奇跡のような“約束の物語”のきっかけとなったのは、地震当時小学4年生だった西原村学童野球クラブの山内愁くんの“涙”だ。

©テレビ朝日野球

地震発生後、避難所生活をおくっていた山内くん。当然、野球をプレーすることはできず、練習といえば避難所の近くで素振りをするくらいしかできなくなってしまった。

そして地震発生の3日後、家族と車中泊をしていた山内くんは、母親の直子さんの前で涙を流す。地震への恐怖や、仲間たちと会えない、仲間たちと野球ができないことへの寂しさからの涙だった。

©テレビ朝日野球

この涙に、山内くんの祖父・山下一義さんが立ち上がる。グラウンドがなくなり、野球ができなくなった孫やチームを不憫に思った山下さんは、地震から約1カ月経った2016年5月、自身の所有する畑を“グラウンド”としてチームに提供することを決めたのだ。

そこから、大人たちによる新たなグラウンド作りが始まった。

当時は、仮設住宅の設置などで村に重機やボランティアが集まっていた頃。グラウンド作りはそこに乗っかる形で開始し、災害ボランティアや保護者など、のべ50人以上が子供たちのために作業した。

土入れ、切ってきた竹を使ってのバッティングゲージ設置、前グラウンドからコンテナなどを移動してのナイター設備の用意まで、手作りグラウンドの完成は急ピッチで進み、わずか1カ月足らずで再び子供たちが練習できる環境が整った。

クラブの監督・清水亮宏さんは当時を振り返って、「震災後まもない時期で、周りからは野球をさせることに対していろいろと言われることもありましたが、子供たちの日常を戻すことが村の復興に繋がるのではないかと考えました」と語る。

野球というスポーツを通しての子供たちの健全な成長、そして、そこからの村の復興。そのために、大人たちが必死に頑張った1カ月間だった。

 

◆工藤監督と子供たち。交わされたお互いの「優勝」の約束

2016年のシーズンオフ。この年、悔しい負け方をしていた工藤監督のもとに、西原村役場から連絡が届く。

その内容は、「熊本地震で被災した野球クラブの子供たちに会いに来てほしい。手作りのグラウンドを訪れてほしい」というもの。工藤監督はこれを快諾し、西原村の手作りグラウンドでの野球教室の開催が決定した。

工藤監督は、依頼を受けたときのことを次のように振り返る。

「練習場がなくなってしまったので、畑だったところを土で埋めて、そこにグラウンドを作ってやっている。そこまで大人の方々が頑張ってやっている場所があるんですという話を聞いたときに、すごく感激してしまって。

野球をやりたくても出来なかった時期があるなかで、それでも諦めないで野球をやってくれた。当然子供たちの想いというのもあったと思うんですけど、それを支えた監督さんはじめ周りの(大人の)方たちに感謝したいという気持ちでいっぱいでした」

2017年1月28日、こうして工藤監督による西原村での野球教室が実現した。投げ方の指導や子供たちとの1打席勝負が行われ、最後に当時の6年生キャプテン・東龍之介くんが、緊張しながらも勇気を振り絞って、工藤監督にこうお願いした。

「僕たちは、県大会優勝という目標で頑張っています。僕たちは県大会優勝するので、工藤監督も優勝宣言をしてください」

これに工藤監督は即答で、「はい、日本一になります」と答えた。

工藤監督は後に、このときのことを次のように振り返っている。

「いいグラウンドでした。その中で子供たちがのびのびと野球を楽しんでやっている姿を見るのが本当に好きでしたし、嬉しかった。行って良かったなって思います。励ましに行ったつもりが、励まされました」

 

◆果たされた約束と、再会

そうして迎えた2017年シーズン。先に約束を果たしたのは、少年たちだった。

熊本県大会(熊日旗)で西原村学童野球クラブは、準々決勝で練習試合でも一度も勝ったことのなかった相手を見事破り、8月21日、決勝戦でも勝利。宣言通りに優勝を成し遂げた。清水監督は、選手たちがくじけそうなときには、「お前ら(工藤監督と)約束しただろう」と鼓舞していたという。

©テレビ朝日野球

そして、この優勝の一報は工藤監督にも入る。工藤監督は振り返る。

「凄いなっていう思いが強かったですね。彼らは言ったことを実践したので、自分たちも負けてられないなということを思いました」

その後のことは、野球ファン・スポーツファンであれば多くの人が知る通り。2017年11月4日、日本シリーズ第6戦でソフトバンクはDeNAを逆転で下し、悲願の日本一奪還を果たした。

工藤監督に約束をもちかけた東キャプテンは、このときのソフトバンク優勝について、「言葉に表せないくらい嬉しくて、大きな声で喜んでしまいました。約束が(お互い)果たせたことが嬉しかったです」と振り返る。

そして工藤監督も、このときの気持ちを語る。

「誰かに“頑張ろう”ではなく、“お互いに頑張ろう”と言うことが大事だと感じました。また子供たちに会いたいという思いになりました。喜びをしっかり伝えたいし、子供たちの声も聞きたかった」

そうして、2017年のシーズンオフ、西原村での2回目の野球教室が開かれ、工藤監督は子供たちと再会した。

西原村学童野球クラブの新キャプテンは、涙で大人たちを動かした山内愁くんだ。工藤監督と山内くんらチームは、お互いの優勝を報告し、あたりが真っ暗になるまで、手作りのナイター設備を使って存分に野球を楽しんだ。

両者の絆は、これからも続いていくことだろう。

©テレビ朝日野球

来る7月14日の「マイナビオールスターゲーム2018」第2戦。工藤監督は、超一流選手たちを引き連れて熊本へやって来る。そしてこの試合、西原村学童野球クラブの子供たちも招待され、球場の外野スタンドで工藤監督の采配を見守るそうだ。

子供たちは、地元での夢の球宴の開催を、どんな目で見つめるのか。<制作:テレビ朝日野球>

※放送情報:「マイナビオールスターゲーム2018」両日ともテレビ朝日系列にて放送
・第1戦 京セラドーム大阪
7月13日(金)よる7時〜 ※一部地域を除く

・第2戦 リブワーク藤崎台球場(熊本県)
7月14日(土)よる6時30分〜

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