ヤクルト山田哲人のグラブを作る、社員1人のメーカー。その独自経営と二人三脚の物語
7月13日(金)・14日(土)に行われる「マイナビオールスターゲーム2018」。今回で68度目の開催となるが、超一流の技とプライドがぶつかり合うこの球宴、今年はどんな名場面が生まれるのか。
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今回セ・リーグのファン投票で二塁手の1位となったのが、ヤクルトスワローズの山田哲人だ。
現代野球の要であるセカンドに就き、“打って走れる選手”としてこの上ないプレーをみせる最高の選手である山田。守備への意識も非常に高く、基本をおろそかにしない丁寧なグラブさばきには定評がある。
しかし山田はこれまで、守備力に卓越した選手に贈られる「ゴールデングラブ賞」を受賞したことは一度もない。
理由はずばり、山田自身も手放しで称賛する広島カープの二塁手・菊池涼介の存在だ。菊池は実に5回のゴールデングラブ賞受賞歴をもっており、山田は“史上最高のセカンド”に授賞を阻まれ続けている。
「ゴールデングラブ賞を獲りたい」――いまもその夢を持つ山田哲人。そんな彼を支える男がいる。
大阪にあるグラブメーカー、株式会社ドナイヤ。その創業者である村田裕信(むらた・ひろのぶ)さんこそ、ゴールデングラブ賞獲得を目指す山田を支える男だ。山田は2013年のシーズンから現在に至るまで、大手メーカーではなく、このドナイヤのグラブを使い続けている。
工場への発注から営業・販売・発送まで全てを村田さんが行い、社員はいまも村田さん1人である株式会社ドナイヤ。山田はなぜ、ここのグラブを使うのか。その理由は、村田さんのこだわりと理念を追っていけば見えてくる。
◆プロが使うレベルのグラブを市販品に
1999年にもともと務めていた会社を退職、その後1年間海外で生活し英語を習得した村田さんは、帰国後に米野球用具メーカーの商品を扱う卸専門会社に入社。そこで九州地区の営業担当を任された後、“英語が出来る営業マン”として今度は外資系の用具メーカーにスカウトされた。
当時はグラブについては素人であったが、各球団のロッカールームへ飛び込んでいき、会社が用具提供していた池山隆寛選手(ヤクルト・当時)や他社と契約を結んでいた宮本慎也選手(同)など当時の名手たちに教えを請い、知識を増やしていく。
そのなかで村田さんは、「プロが使うレベルのグラブを市販品として売りたい」という理想を描くようになった。
スポーツ用品店では、“〇〇選手モデル”のものは売られているが、それはプロ選手が使用している型を真似ているグラブを販売していることが多く、革の質などを考えるとプロが使うものと「同じ」とは言えない。
一般市販品グラブを、プロレベルまで充実させる――その実現への思いが、ドナイヤ立ち上げのきっかけとなった。ちなみに、“ドナイヤ”の由来は関西弁の「どないや!」。名づけ親は、何も分からなかった頃に教えを請うた池山隆寛だ。
◆“革”の交渉に1年間
ドナイヤ設立に向けて動き出した村田さんだったが、ここで彼は立ち上げまでに1年間の“ニート期間”を過ごすことになる。
この間に村田さんが何をしていたのかといえば、“交渉”だ。プロ用のグラブに出回る革を市販用に回してもらうための交渉に1年かかったのだという。
そんな地道な苦労も経て立ち上げたドナイヤ。村田さんは培った人脈を活かし、プロ選手・コーチから地元の高校球児に至るまで徹底的なリサーチを行った。そのなかで、“プロでも使えるグラブ”と“一般の人も使えるグラブ”の共通項を見出す。内容は企業秘密だ。その共通項を採用した定番型を作ることで、プロでも使える市販品が実現した。
現在、硬式用に10種類・軟式用に10種類が用意されているが、硬式・軟式用ともに同じ型で、立ち上げから8年間の継続商品となっている。色は、ライトブラウン一色。ライトブラウンは、良い革・素の革にもっとも近い状態で出せている証拠なのだという。
また、商品は全て出荷前に村田さん自身が手にはめ、1タームの出荷で1週間をかけて全ての検品を行っている。現在、硬式用は4カ月待ち、軟式用は11カ月待ちの状態だ。
◆徹底的にこだわられた独自の営業・販売手法
ドナイヤは、その営業や販売方法にも大きな“独自性”がある。
まず村田さんは、ドナイヤを立ち上げてから現在に至るまで、スポーツ店への新規開拓営業は計5日間しかしていないという。あとは我慢して、自分の生み出した商品を信じて待つだけでやってきた。
また人脈もあることから、ドナイヤのグラブを広めるためにはプロ選手たちに無料での“バラまき”をすれば早い話だったかもしれないが、「それをしてしまうとドナイヤ設立の理念に反する」ということで敢えてせず、プロ選手にも必ず“販売”という形をとってきた。そのため、販促費も宣伝広告費もかけていない。
そしてドナイヤは、Webサイトも設けていない。カタログにも住所等は載せておらず、スポーツ店、もしくは顧客と連絡を取る手段はFacebookのみだ。
さらに、インターネット上での値崩れ(いわゆる“ネット価格”)を絶対に起こさないため、貸し出しや「安くするので置いてください」というお願いなど、ドナイヤの価値を下げてしまう可能性がある営業には一切手を出さず、我慢を続けてきた。
そうして立ち上げから8年間、インターネット上での値崩れは一度も起きておらず、スポーツ店はドナイヤのグラブを定価で販売することが出来ている。
2010年のドナイヤ設立から今年2018年にかけ、出荷量はおよそ50倍に増加した。業界では「奇跡のグラブ」と評されている。
◆山田哲人との二人三脚
そんなドナイヤのグラブを山田哲人が使用し始めて、今年で6年目。
プロ入り当初、山田は「グラブにはあまり興味がなかった」と語る。実際に使うメーカーも決まっておらず、そんな山田を見て村田さんは、「当初コロコロとメーカーを変えていたから、何か自分に合うものを探しているかもしれないと信じて…」と山田の状況を察知し、足繁くグラウンドへ通い続けた。
しかし、ハイテンションで積極的、グイグイと話しかけてくる村田さんのことを、山田は「最初は警戒していた」とのこと。距離のあった2人だが、グラブを通じて費やす時間が徐々に関係を深くしていき、山田がドナイヤを使うことを決意するまでに至った。
そして村田さんは当時、グラブの手入れがなっていなかった山田に、グラブのメンテナンスについて1から10まで叩き込んだ。その結果山田は、“第1号”となったドナイヤのグラブを実に4年間にわたって、しかも革が馴染んだ良い状態で使い続けることが出来たという。村田さんも、現在では自分のグラブのメンテナンスについては山田のほうが詳しいほどだと話す。
そのほかにも、離れた大阪から山田の試合映像をチェックしたり、また自主トレの際などには村田さんが山田の守備を動画で撮影し、それを一緒に見ながらグラブの出し方や捕り方をチェックしたりと二人三脚でやってきた2人。時には言い合いになったりケンカしたりすることもあるそうだが、それもお互いを信頼しているからこそのことだろう。
現在、4年間使用したドナイヤ第1号のグラブを大阪・豊中市の実家に飾っているという山田哲人。
ドナイヤとのこれからについて、「これから先もドナイヤにお世話になって、ゴールデングラブ賞を取りたい。難しい壁で、グラブだけじゃなく自分の技術も必要になってきますが、なんとかドナイヤの力を借りて、チームに貢献できるプレーをたくさんしたいと思います」と話している。
山田哲人の守備から、ますます目が離せない。オールスターでは、どんなプレーを見せてくれるのか。<制作:テレビ朝日野球>
※放送情報:「マイナビオールスターゲーム2018」両日ともテレビ朝日系列にて放送
・第1戦 京セラドーム大阪
7月13日(金)よる7時〜 ※一部地域を除く
・第2戦 リブワーク藤崎台球場(熊本県)
7月14日(土)よる6時30分〜