貧困のスラム街からスターに。ブラジルの新星・ジェズスを支えた母の厳しさと愛
ロシアで開催中のワールドカップ。優勝候補本命の1国・ブラジルといえば、エース・ネイマールだ。ケガから完全復活した彼に全世界のサッカーファンの視線が集まっているが、同代表の若きストライカー、ガブリエウ・ジェズス(21歳)にも注目したい。
ジェズスの注目ポイントのひとつが、ゴールをすると必ず行うポーズだ。右手を顔の横にやり、電話をするポーズをとる。
このパフォーマンスの意味を説明する前に、まずはジェズスの出自、衝撃的ともいえる“シンデレラストーリー”を追っていこう。
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ジェズスが生まれたのは、サンパウロ郊外のスラム街。マフィアのアジトがあるスラム街で、部外者は足を踏み入れると命の危険すら伴うほどの場所だ。
そして、ジェズスの父親は彼が生まれる前に失踪しており、幼少期は食べるものも十分に手に入らず、夜は壊れかけたシングルベッドに母と兄と家族全員で抱き合いながら眠りにつく暮らしだった。
そんな、常に貧困と共にあった少年時代、ジェズスの人生に希望を与えたもの。それがサッカーだった。
◆貧困のなか厳しく育て上げた母親
サッカーの練習場だったのは、アスファルトの上。ジェズスはそこで、毎日夜遅くまでボールを蹴り続けた。
そうして8歳の時に地元のクラブチームに入るも、そこはサッカーに真面目に打ち込める環境ではなく、チームメイトの中には練習で出る食事だけが目当ての子供もいたという。そこから歳を重ねるにつれ、周りの子供たちは学校をやめ、サッカーもやめていった。
そんななかでジェズスがサッカーに集中することができた理由。それは、母の“厳しい教育”だった。
ジェズスの母は、息子にあえて厳しく接してきた。少しでも間違ったことをすると容赦なく怒鳴りつけ、周りの子供が次々と学校へ行かなくなるなか、母は必ず学校へ行かせ、そしてサッカークラブに通わせ続けた。
さらに、ひもじい思いをしないよう朝から晩まで清掃業の仕事に勤しみ、女手ひとつで苦労に苦労をかさね立派に息子を育て上げた。初めのうちは反発していたジェズスだったが、懸命に働く母の姿は彼の心を動かし、いつしか「プロサッカー選手になって母を貧困から救う」ということが彼の夢になっていった。
そして2015年、転機が訪れる。
◆ゴール後の“電話のポーズ”の意味
2015年、ジェズスはブラジルの名門クラブ・パルメイラスで念願のプロデビューを果たした。そして翌年にはリオ五輪の代表に選ばれ、3ゴール。ブラジル史上初となる金メダル獲得に大きく貢献した。
すると彼はサンパウロの郊外に戻り、自分と同じ苦しみを味わわないようにと、故郷の子供たちに300足ものスパイクをプレゼントする。ジェズスはこうして、デビューから僅か1年足らずでスラム街の子供たちの憧れの存在となった。
さらに勢いは止まらず、2017年にイングランドのビッグクラブ、マンチェスター・シティと約39億円の移籍金で契約。ブラジル人には難しいと言われていたプレミアリーグの舞台にも直ぐに順応し、レギュラーの座を掴んだ。
またワールドカップ南米予選では、2016年9月のエクアドル戦でA代表デビューを果たすといきなり2ゴールの活躍を見せ、最終的にネイマールを超えるチームトップの7ゴールを記録。いま、世界中が徐々に彼に注目し始めている。
話を冒頭に戻そう。ジェズスがゴールをした後に必ず行う、電話のポーズ。
このポーズでジェズスは、最愛の母に誰よりも先にゴールの喜びを伝えているのだという。つまり、“母に電話をかけている”のだ。
サンパウロ郊外のスラム街から逆境を乗り越え、ついに世界最高峰のワールドカップへ挑んでいるジェズス。彼は、この夢の舞台から母に“電話をかける”ことはできるのか。その実現に期待せずにはいられない。
◆ブラジル、第2戦はコスタリカ
ネイマール、そして若きストライカー・ジェズスを擁するブラジルは、6月22日(金)にグループステージ第2戦、コスタリカ戦に臨む。
ブラジルとコスタリカ、過去の国際Aマッチ10戦での対戦戦績は、ブラジルの9勝1敗だ。唯一の黒星は、1960年3月10日のパン・アメリカン・チャンピオンシップで喫したものまで遡り、ブラジルは58年間コスタリカに負けていない。
しかし、現在のコスタリカは、前回のブラジル大会でベスト8に入り“ダークホース”として世界のサッカーファンをわかせた中南米の強豪で、GKにはレアルマドリードの守護神・ナバスがいる。
ナバスは、タレントぞろいのブラジルの攻撃を抑えることができるのか。初戦を引き分けたブラジル、そして初戦を落としているコスタリカ。双方にとって非常に大事な一戦となる第2戦。その激闘から目が離せない。<制作:テレビ朝日サッカー>
※放送情報:「2018FIFAワールドカップ ロシア ブラジル×コスタリカ」
2018年6月22日(金)よる8時~放送、テレビ朝日系列地上波にて生中継