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稀に見る僅差、ドラマだらけの展開。トヨタも表彰台獲得【WRC:ラリー・イタリア最終結果】

現地時間の6月10日、WRC(FIA世界ラリー選手権)の第7戦「ラリー・イタリア」のデイ4(最終日)が開催された。

4本のSSが行われた最終日は、WRCの歴史においても稀に見る僅差の勝負であった。今季チャンピオンシップ決定後に、このラリー・イタリアが“天王山”だったと称されるラリーになるかもしれない。

©WRC

ラリー・イタリアの最終結果、上位は、1位ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)、2位セバスチャン・オジェ(フォード/1位から0秒7遅れ)、3位エサペッカ・ラッピ(トヨタ/同1分56秒3遅れ)、4位ヘイデン・パッドン(ヒュンダイ/同2分45秒6遅れ)、5位マッズ・オストベルグ(シトロエン/同3分0秒9遅れ)、6位クレイグ・ブリーン(シトロエン/同4分24秒4遅れ)。

この日は、前日トップのオジェ(フォード)と2位ヌービル(ヒュンダイ)の一騎打ちだった。両者のタイム差は3秒9。ワンステージで簡単にひっくり返る差のなか最終日はスタートする。

両者の集中力はまさに別次元で、SS17のステージトップはヌービル(ヒュンダイ)。0秒8遅れでオジェ(フォード)が続く。これにより両者のタイム差は3秒1へと縮まった。

続くSS18、再びヌービルがトップ。1秒8遅れでオジェが続き、両者の差は1秒3となった。SS19、またまたヌービルがトップを獲得。0秒5遅れでオジェが続き、これで両者の差は0秒8へ。ついに1秒差を切り最後のパワーステージを迎えることとなった。

©WRC

SS19走行後のヌービル(フォード)は、「SS19はミスだらけだった。スピードを失ったよ」と不満を口に、逆転を狙うヌービルにとって、常に「まだ出来る」という気持ちが前に出ていたことがわかるコメントだった。

そしてオジェはギリギリのリードを保つも0秒8まで差が縮まったのだが、公式レポーターによるインタビュー対応を嫌がったのだろう。振り切ってパワーステージへ向かった。

しかし、ここでオジェは最大のミスを犯す。オフィシャルスタッフによるタイムカードの用紙を受け取らずにパワーステージへ向かったのだ。ラリーでは1台ずつ走行するので、走行後に必ずタイムカードを受け取る。それが公式記録へと記録されるからだ。

このギリギリの緊張感に誰にも邪魔されたくなかったのだろうが、これがオジェにとって手痛いペナルティにつながるとは誰も予想していなかった。

 

◆最後の逆転。トヨタ・ラッピも今季初の表彰台

そして迎えたSS20。1位オジェ(フォード)と2位ヌービル(ヒュンダイ)の差は0秒8。走行順はオジェがラスト。つまりオジェは、自分の走りで優勝を勝ち取るか、逆転負けをするかが決定する。

大小の石がゴロゴロと転がるパワーステージ、ここまで来たらパンクなどを恐れて攻めないわけにはいかない。オジェは鬼神のような走りを見せてゴールするも、タイムはヌービルに及ばず、0秒7差で逆転を許した。優勝が決まったヌービルは、オフィシャルスタッフがタイムカードをチェックしたのを確認して、マシンの屋根にコ・ドライバーと共に上がって喜びを爆発させた。

©WRC

ヌービルは「なんだろう、僕たちはすべてを出し尽くした。なんて言えばいいのか…」と話し、そこへ最後までガチンコで戦ったオジェが祝福に訪れる。再びインタビューに戻り、「本当に僅差だった。でも勝った。チームに感謝したい。彼らは最高だ!」と声が上ずるほどに喜びを表してコメントした。

逆転を許したオジェは、「今日できることは全てやった。最後のステージは路面に石も多くて僕のミスも多くて駄目だった。でも、チャンピオンシップはまだ続くからね。残り6戦、まだパニックになるほどの差じゃない。まだ僕たちに有利なターマック(舗装路)ラリーもあるしね」と、今回の負けは認めつつもチャンピオンシップは負けないと意地を見せた。

©WRC

そして、3位にはトヨタのラッピが入った。トヨタは今回も不運が多かったが、それでも3位に入るほどにマシンのパフォーマンスは高かった。

ラッピはパワーステージ走行後、「今シーズン初表彰台獲得は嬉しいよ。正直、もっと前に表彰台のチャンスはあったと思うけど、ミスでそれらを失ってきた。だから、ここで表彰台を獲得して、チームにも感謝したい。いい週末だった」と表彰台獲得を喜んだ。

 

◆オジェに“執行猶予”のペナルティ

こうしてラリー・イタリアは終了した。しかし、SS19でタイムカードを受け取らずそのままSS20へと向かったオジェ(フォード)の行動が問題になった。

©WRC

主催者は、オジェが獲得したポイントとチームに加算されるオジェの部分のポイント剥奪を決める。しかし、チーム側からの反訴もあり、このペナルティ自体が緩和された。限定的に今回のポイントを認めるが、再び同じような行動をした場合はポイントを剥奪する執行猶予へと変更になったのだ。

また、1万ユーロ(約130万円)の罰金が課せられることになった。つまり、今回オジェが獲得したポイントはあくまでも暫定。シーズンがこのまま終了し、それまでに問題が起きなかった場合のみ確定するというデリケートなポイントになった。

暫定的ながらもドライバーズチャンピオンシップは、ヒュンダイのヌービルが149ポイントでトップ、2位にフォードのオジェが122ポイント、3位にはトヨタのオット・タナックが77ポイントで続く。同じくトヨタのラッピが70ポイントで4位となった。

マニュファクチュアラーズポイントは、ヒュンダイが212ポイント、フォードが184ポイント、トヨタが161ポイント、そしてシトロエンが129ポイントとなっている。

こうしてシーズンの半分を折り返したWRC。次は昨年トヨタのラッピがデビューイヤーで優勝を決めた「ラリー・フィンランド」だ。

ファクトリーをフィンランドに置くトヨタにとっては、地元ラリーとなる。7月26日から29日の開催。夏の高速ラリーはどんなドラマを生むのか、楽しみに待ちたい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>