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「指導者が難しい時代」栗山英樹氏が感じる、プロ野球の現場で起きている変化 データの時代に問われる“新たな指導者像”

北海道日本ハムファイターズのチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)を務める栗山英樹氏が、テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』でナビゲーターの南原清隆と対談。

9年ぶりのリーグ優勝を目指すチームの現状、そして未来を託す若手選手たちへの想いを語った。

テレ朝POSTでは、対談の模様を3回に分けて紹介する。第3回のテーマは「現代野球と指導者」。

◆「非常に指導者が難しい時代になっています」

今年2月、沖縄県名護市で行われた2人の対談。栗山氏がまず持ち出したのは、こんな話題だった。

「ナンチャン、野球、すごいスピードで進化しています。勉強しているつもりですけど、ものすごいスピードで先にいくんですよ」

困惑した様子で語り始めると、現代野球の急速な進化についてこう続けた。

「もうどんどん変わってきますね。いろんな理論が入ってきて、自分の感覚にはないものも選手たちは学んでいく。さらにこのスピードがどんどん上がり始めていて、こっちが追いかけても追いかけてもどんどん先に行かれる。そんな雰囲気が現場にありますね」

野球の変化に対して、実はCBO就任直後からこんな懸念を打ち明けていた。

「データの使い方は大事なんですけど、そこに寄り過ぎると人間のいちばん大事な感性が消えちゃう。それこそ見極めじゃないですか。いろんなことが起こるので、そのあたりもしっかり見ようかなと思っています」

その意識のもと、野球最先端の地・アメリカを視察。日々アンテナを研ぎ澄ませ、新たな学びから指導者の在り方を模索してきた。

今や日本でも、12球団すべてでアナリストを置き、数値に基づく指導を行う「データ野球」が当たり前だ。

例えば、ピッチング練習に導入されているのが弾道測定器「ラプソード」。ピッチャーとキャッチャーの間に置き、投球することで球速や回転数、変化量、打者から見た軌道などが数秒でわかる。

さらに、バッティング練習にはスイングを測定し、その数値からフォームを3Dで確認できる解析システム「ブラスト」も。

こうしたデータの活用によって、現代野球は目まぐるしく進化している。

栗山:「昔はコントロールのいいピッチャーって、いつも同じリリースポイントで投げていると言われていたじゃないですか。でもデータ的には逆らしいですね。人間って100%同じ動きができないから、投げた時の動きが絶対違うらしいんです。同じ動きで同じところで離すと、逆にリリースポイントがズレるはずなんです。

本当に良いピッチャーは、そこをちょっとだけ調整できる。同じ動きじゃないほうがコントロールがいい。同じ動きでやるとボールばっかりになるっていう分析なんですよ」

南原:「なるほど」

栗山:「そういうものが今いっぱい入ってきて、どう処理するか。そういうところだと思います」

南原:「今の若者はいろんな情報を自分で手に入れて、自分なりに進んでいくっていう印象を受けます。その中にデータも入ってきますし、上の世代はどういうふうに向き合っていこうと考えているんですか?」

栗山:「なるべく選手の意図を確認して、選手と会話をしながらどう進むのか(決めます)。たとえ間違っていても、『それは違うんじゃないか』って言うんじゃなくて、話を聞きながら『今こうなってるんですよ』『こうしたいんです』ってうまく導けるような会話を指導者がしなきゃいけない。非常に指導者が難しい時代になっています。ひたすら勉強しないといけない時代になっているのは間違いないと思います」

◆変化に向き合う現場の声

この現状を、現場に立つ指導者たちはどう受け止めているのか? 栗山氏が監督時代から信頼を置く金子千尋ファーム投手コーチに話を聞いた。

金子:「僕は『そういうのもっとちょうだい』というタイプ。今まで野球界になかったものをほしいので。“日本のプロ野球はこうでなきゃ”みたいなものって、僕はあんまり好きじゃなくて、選手みんながちゃんと理解して、プレーに影響をできるものをちゃんと与えたいなとは思っています」

一方、WBCでもコーチをつとめた大ベテラン、栗山氏と同年代の清水雅治ファーム総合コーチは、戸惑いを抱えながらも変化に順応しようとしていた。

清水:「今、いろいろな数値を教えていただいて、実際にそれを確認しているんですけど、本当に難しいんですね。自分の中でも学ばなければいけなくて。バッティングでも守備でもすべてに大雑把なことが言えない。こっちも勉強しなきゃいけない。YouTubeの勉強(動画)のほうがよっぽどタメになることだって多々ありますよ」

南原:「データ野球と実際の野球ですが、逆にデータの怖さってありますか?」

栗山:「例えばバッターが打球スピードを上げる練習ばっかりする。スピードが上がらなくても、いつも同じスイング軌道を取れるようになれば、多少スイングが遅くてもラインには入ってくるので、確率は上がるじゃないですか。でも、スピードを速くしようとし過ぎると、フォームが崩れることもあるわけです。

データをどう使うか、自分の指導にどう活かすか(が大事)。『データ野球と実際の野球、どっち?』って我々も考えちゃうんですけど、そこは1回捨てて、個々の選手のいちばん良いやり方を見つけていく。そういう時代なのかなと思っています」

◆「データを良くするために投げているわけじゃない」

では指導者たちは、データを活かすために実際にどのような指導を行なっているのか?

清水:「実際に数値化してくれたほうが選手に入りやすいと思うんですよね。アナリストがデータを参考に助言して、その横から自分の意見を言う、みたいなことをさせてもらうと、選手に入りやすいのかな。みんなが考えを共有したなかでいちばん良いものを探していく。そういうところはまったく変わったんじゃないでしょうか」

金子:「いきなりデータの話をするということはあまりなく、まず僕は選手の特徴を知る。何が良くて、ここを改善すればもっと良くなるというところをしっかり見極めてから、『データを使ってこうしよう』というふうにできたらいいと思っています。

これは福島蓮投手の話なんですけど、『チェンジアップが速過ぎるんです』という相談を受けたんです。データではチェンジアップは落ち幅で見ていなくて、スピード差で見ているからだと思います。もちろんスピード差も良いに越したことはないんですけど、ピッチャーはデータを良くするために投げているわけじゃない。

バッターを打ち取るために投げているので、データが良くなくてもバッターが打ちにくいと感じれば、僕はそれで良いと思っている。結局はバッターに投げなきゃわからないよという話はしています」

◆「答えがないことって世の中いっぱいある」

新たな時代へ進化を続ける野球界。その未来に、栗山氏は何を見据えているのか?

栗山:「僕は、『正しい』って言っちゃいけないってずっと思っていたんです。いろんな答えがあるから。みんな言うことは正しいか、言ってることが全員間違っているか。ただ最近思うのは、答えがないことって世の中いっぱいあるのかなって。もともと答えがないんですよ。だから苦しんでいい。

もっと日本の天才に野球界へ来てほしいですね。誰もが有無を言わないような天才が集まって、『こういうやり方がないか』みたいな議論をしたいなって。僕ら圧倒的に野球をやってきた人間が『あんたらバカか?』と言われるぐらい、真新しい何かを期待をしています」

南原:「最初に『野球、すごいスピードで進化しています』って言ってましたけど、困っていたわけじゃなかったんですね」

栗山:「嬉しくてしょうがないですよ。わからないことがいっぱいあって、『悔しいな』と思いながら、『絶対若い世代より俺は前へ進んでやる』って思っているわけです。『絶対に俺、理解してやる』って。そういうのが楽しいですね」

これまでも、野球を知る喜びを原動力に多くの学びを得てきた栗山氏。変わりゆく現代野球の未来図を見据え、その最前線でこれからも新たな学びに挑み続ける。

番組情報:『GET SPORTS
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)