錦織圭も導いた、松岡修造の言葉。ジュニア選手たちにかける厳しい言葉の“基準”
92年4月に日本人初となるATPツアー優勝。その年の6月にATPツアー準優勝に輝き、当時日本人男子最高位の世界ランキング46位にまで上り詰め、95年にはウィンブルドンで日本男子62年ぶりのベスト8進出をはたした松岡修造。
その松岡修造が、自身の経験を踏まえ、男子テニスの次世代の選手を育成するために立ち上げた取り組みが、「修造チャレンジ」だ。この「修造チャレンジトップジュニアキャンプ」は現在では日本テニス協会の男子強化プロジェクトになり、今年2018年で実に20周年を迎えた。
「修造チャレンジ」にはこれまで数多の有望選手が参加し世界に羽ばたいていったが、なかでも“最強”の卒業生といえるのは錦織圭選手だ。
錦織選手は「修造チャレンジ」について、「ここ(修造チャレンジ)で本当にいい経験ができて、修造さんに自分に足りないものを教えてもらったことがタメになったなと思います。世界に行くキッカケを作ってくれたのが“修造チャレンジ”でしたし、本当にプロになるキッカケというか、一歩目を教えてくれたところです」としみじみ語る。
5歳でテニスを始め、11歳の時に小学生の全国大会で優勝した錦織選手。その実績により、出身地である島根県からはるばる「修造チャレンジ」に参加することとなった。
当時からプレーは天才的だった“錦織少年”。しかし修造は、合宿の中で彼の唯一とも言える課題を見抜くことになる。それは、内気であまり自分をアピールできなかったことだ。
「修造チャレンジ」で選手たちが鍛えられるのは、テニスの技術だけではない。たとえばカリキュラムの中には、流れる音楽に合わせて“感じたままに踊る”というユニークなものもある。一見テニスとは関係なさそうだが、そこにある深い狙いは、“表現力”の向上を目指すというもの。
17歳で単身渡米し、当時練習相手を探すのにも苦労したという修造は、自身の経験をもとに合宿の参加選手たちへカリキュラムの先にあるものを語り掛ける。
「僕も(ジュニアの遠征の時に)全員の前でいきなり『歌ってください』『踊ってください』と言われた。本当に恥ずかしくってしょうがなかった。でも、どうにか頑張って声出して馬鹿みたいに踊ったんだよ。それから俺はみんなに知られた。人気者だよ。どんどん(一緒に)『練習してください』ってなった」
強くなるためには、海外でのコミュニケーションも不可欠なテニスの世界。勝つためには、心・技・体すべての要素を鍛えなければならないのだ。
そうして様々な分野の専門家が集結し選手たちを鍛えるこの合宿で、修造が選手たちの“心”を鍛えるために最も重きを置いているもの。それは、“言葉”だ。
◆「一番言われたくないけど言ってください」という言葉をかける
ときに厳しい、ときに選手たちを泣かせる言葉を投げかけることもある修造。いったい彼は、どんな意図で選手たちへの言葉を選んでいるのだろうか。
修造:「僕がかける言葉は、その選手に対して響く言葉。つまりその子が言って欲しいという言葉です。ずっとメンタルサイドから見ていて、本当はこの言葉を一番言われたくないけど言ってください、という言葉を選んでいます。
そこには自分の経験もありますね。僕を指導してくださったコーチもそうだし、僕自身が自分自身と対話してきた言葉、そこから選んできたというのはすごくあります」
修造はこの“基準”から、卒業生である錦織選手には“あること”は一切言わなかったという。
修造:「圭は表現することがあまり得意ではなかったんです。僕もその点はずっと言ってきました。逆にテニスのことは一切言っていませんでしたから。
そんな彼がアメリカに行くときに、『修造さん、僕はアメリカに行って表現力をとにかく強くしてきます』と言ってくれたんです。その言葉が、僕は一番残っています。彼が弱かった部分だし、それがなければ絶対世界では成功していない。
それが僕が彼と出会ってからの3年間で一番伝えたかったことだったので、僕はホッとしたというのと、指導できて良かったと思いました」
このように「修造チャレンジ」で得た良き思い出を振り返りながらも、「振り返ると、もっと自分がかけるべき言葉があっただろうなと思います。それと、選手それぞれが持っていた夢をほとんど実現させてあげられなかった。それはすごく申し訳ないと思っています」とも口にする修造。
20年という長い期間、すべてが“正解”だったというわけではないようだが、そんな「修造チャレンジ」の20年間を振り返って、修造はこう語った。
「一番恵まれているのは、松岡修造ですよ。1000人くらいのジュニアが、僕のエラそうな言葉についてきてくれたわけですから。あの時間っていうのはやっぱり僕にとっての宝だし、僕は人を応援するのが“生きがい”なのかもしれないけど、ジュニアから応援されてるっていうことを改めて感じますね」
現在世界で活躍するトッププロから、テニスを退き第二の人生を歩んでいる人まで。すべての参加選手たちへの感謝の思いを胸に、「修造チャレンジ」は“魂のコトバ”とともにこれからも続いていく。<制作:テレビ朝日スポーツ局>
そんな「修造チャレンジ」20周年を特集する番組『松岡修造のテニス合宿20周年SP ~錦織圭が目覚めた本気のコトバ集~』が5月12日(土)に放送。
錦織圭ら有望選手が次々とこの合宿から世界へ羽ばたいていく背景には、松岡修造が子供の心を変える「魂のコトバ」がある。番組ではその膨大な“金言”を紹介するとともに、卒業生の今を取材。
錦織圭ら世界で活躍するトッププロから第二の人生を歩む者まで、彼らの心には今も松岡修造のコトバが深く刻まれていた。
※松岡修造のテニス合宿20周年SP ~錦織圭が目覚めた本気のコトバ集~
2018年5月12日(土)午前10:30~11:40放送、テレビ朝日