番組Pが語る、『題名のない音楽会』がゲーム音楽を特集し続ける“意義”
オーケストラと異ジャンルの音楽を融合するなど、常にチャレンジし続けているテレビ朝日の最長寿番組『題名のない音楽会』。
同番組で放送されるたびに、いや、“放送告知”がされるたびにネット上で大きな注目を集めるのが、「ゲーム音楽」の特集回だ。
同番組ではこれまで、『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』、『スーパーマリオ』といった国民的ゲームの音楽がオーケストラサウンドのもと演奏されてきたが、なぜクラシック音楽などと並び“ゲーム音楽”を取り上げ続けているのか?
5月12日(土)の『題名のない音楽会』は、「植松伸夫が厳選!ファイナルファンタジー吹奏楽の音楽会」と題して放送されるが、それに先駆けて、同番組の鬼久保美帆プロデューサーに話を聞いた。
◆ゲーム音楽のコンサートで驚いたこと
――『題名のない音楽会』で最初に“ゲーム音楽”の特集をやった回について、またそれをやろうと考えたいきさつを聞かせてください。
鬼久保P:「2010年に、『ドラゴンクエスト』の作曲家のすぎやまこういちさんと、『ファイナルファンタジー』の作曲家の植松伸夫さんのお2人に出ていただいたのが最初でした。このお2人が出るというのは、ゲーム界では結構な“事件”。ゲームファンの方々に大きな反響をいただきました。
その頃から事あるごとにゲーム音楽の特集をやっていますが、2010年になぜやったかというと、その頃すでに一部でゲーム音楽を生演奏でやるというコンサートが開かれていたんです。番組で初めて取り上げる1年ほど前にそれを観に行ったとき、ビックリしちゃったんですね。
何にビックリしたかというと、20代・30代の大人たちが観に来ていて、男女も良いバランス。クラシックのコンサートにいないなぁ…と思う層の人たちが、ドバッとそこに集まっていたんです。
さらに驚いたのが、私はてっきりスクリーンにゲームの画面なんかを流しながら、あくまでゲームを引きにして演奏するのだと思っていたら、スクリーンはなく、演奏だけで行われていたこと。
まず、ゲームファンにクラシックの音楽ホールに足を運ばせるということ自体がすごいと思ったし、しかもゲームの映像抜きで、音楽だけに聴き入っているという姿に大きな可能性を感じました。こういう時代になってきているんだなって。
そうして、ゲーム音楽をクオリティー高くオーケストラで演奏するという企画の展開が考えられるなって思ったんです。それで2010年に一度放送して、その後数年間寝かせて、2015年にはまた植松さんをお迎えして『ファイナルファンタジー』を特集しました。
とにかく、反響がすごかったです。『題名のない音楽会』というクラシックを主とした番組で、きちんとゲーム音楽を取り上げるということが新鮮だったようですね。
また、その頃からすごい勢いでゲーム音楽のコンサート自体も広がっていきました。実はそれは日本だけじゃなくて、海外でも。アメリカで、赤字で倒産しかけたオーケストラがゲーム音楽を演奏するようになって復活したという事例なんかもあります。植松さんもいま、世界中から呼ばれますからね」
◆ゲーム音楽の一部は、すでに「クラシック」
――そうして『題名のない音楽会』ではこれまで複数回「ゲーム音楽」が特集されてきましたが、鬼久保プロデューサー自身が考える「ゲーム音楽(RPG音楽)の魅力」は何でしょうか?
鬼久保P:「ゲームの中で使われるという目的がハッキリしているので、非常に情景が明確。その音楽を聴くと、情景が浮かびますよね。まさにそのために作られているので。
だから、映画音楽と一緒だなと思います。ある気分を増長させたり、あるシーンを描写させたりするための音楽ということでは何ら変わらない。聴いていてすごくワクワクしますし、楽しいです。そして、ひとつのゲームの中にも当然いろいろなシーンがあるなかで、非常にうまく出来ているなとも感じます」
――では、ゲーム音楽をオーケストラで演奏し、それを届ける意義は何でしょうか?
鬼久保P:「もうすでに、ゲーム音楽ってある種クラシック音楽の一部になっているのではないかと思うんです。
たとえば『ドラクエ』なんかはまさにそうですけど、作曲したすぎやまこういちさんは3音しか出せない時でもオーケストラの音を想像して、オーケストラで演奏するのが元々の構想にあった音なので、(オーケストラ演奏は)自然なわけです。
それでいて音楽の完成度が、親しみやすさの面でも非常に高い。だから、お客さんも喜びます。喜ばれて、良い曲で、演奏もしやすくて…ってなると、もうこれは1回だけではなく、何回も繰り返して演奏していく“クラシック”です。
また、5月12日に放送される『題名のない音楽会』では“ファイナルファンタジーVII(セブン)”の音楽を特集しますが、今回はファイナルファンタジーのメインテーマ曲は演奏しなかったんです。というのも、こちらも既に“クラシック”な音楽として定着しているからこそ、あらためて力んで演奏することもないのではないかと考えました。
いま、ほとんどのオーケストラがゲーム音楽を特集するコンサートをやっているんじゃないかという勢いですが、そうやって親しみやすくて、生の演奏で聴いて『あ、美しいな』と感じる名曲のレパートリーが(オーケストラに)増えていけば、生でオーケストラを聴く機会も増えるし、そこから興味がほかに広がったりもするでしょう。
ゲーム音楽がそのようにチャンスを広げる曲であることに、(オーケストラで演奏しそれを届ける)意義があると思います」
最後に鬼久保プロデューサーは、「クラシック音楽って、ずっと古い曲だけを演奏することではない。どんな音楽だって生まれたころは新しい曲だったわけですから、新たなクラシックが増えて(オーケストラ音楽が)活性化していくんだったら、素晴らしいなって思います。だから、番組で定期的に特集しているんです」と話していた。
これからどんな“クラシック”が生まれていき、どんな曲がオーケストラで演奏されるのか。ゲーム音楽はいまや、一部のファンだけのものではなく、世界中の人、そしてその子孫までが聴いていく音楽になっている。
●番組情報:『題名のない音楽会』 植松伸夫が厳選!ファイナルファンタジー吹奏楽の音楽会
2018年5月12日(土)、テレビ朝日ほかで午前10:00~10:30放送
※テレビ朝日系24局各局で放送時間が異なります。各局の放送時間はこちら
※BS朝日では2018年5月13日(日)午後11:00~11:30放送