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18年ぶりにWRC(世界ラリー選手権)に挑戦するトヨタは何を目指す?

12月13日、北欧フィンランドの首都ヘルシンキで、トヨタ自動車が18年ぶりに世界最高峰のモータースポーツの一角を占める「WRC」(FIA世界ラリー選手権)に参戦するチーム体制の発表会が行われた。チーム名は「TOYOTA GAZOO Racing」だ。

WRCは、1月19日からスタートする「ラリー・モンテカルロ」を皮切りに、2017年シーズンは1月から11月まで13戦が予定されている。

その開催国を見ると、世界選手権というだけあって、モナコ公国、スウェーデン、メキシコ、フランス、アルゼンチン、ポルトガル、イタリア、ポーランド、フィンランド、ドイツ、スペイン、イギリス、そしてオーストラリアとなっており、WRCはまさに世界中を転戦するモータースポーツ競技といえる。

強いチームや組織を作るためには、強いリーダーシップが必要なもの。そんな世界最高峰のモータースポーツに参戦するトヨタは、最高のリーダーを起用して挑戦することを決めた。

それが、WRCで4度(1996~1999年)世界王者になったトミ・マキネン。

(※豊田章男チーム総代表とトミ・マキネンチーム代表)

現役時代は三菱やスバルといった日本の自動車メーカーのドライバーとして戦っただけに、今回のトヨタの挑戦には最適な人物だ。

なにより、トヨタ自動車社長であり、チームの総代表を務める豊田章男氏との強固な信頼関係が、多国籍なチームスタッフの意識をひとつに結集させ、わずか18カ月という短い期間でチームとマシンをWRCで挑戦するレベルにまで引き上げた。

そのマシンは、「ヤリスWRC」(日本名はヴィッツ)。

発表会に登壇したチーム代表のマキネンは、マシンとチームが持つ潜在的なポテンシャルについて、

「実際にヤリスのテストが始まったのは4月からだった。そこからものすごい距離を走行してきた。ヤリスWRCは信じられないほどのポテンシャルを持つ、優れた設計のクルマだ」

と期待を寄せつつ、さらに、

「勝つためにはすべてのパーツが必要だ。そこに新たに加入したドライバーのフィードバックで、他のチームマシンとの相対的な評価も加わり、ヤリスはさらに進化している」

と語り、マシン・スタッフに加えてドライバーの重要性を語った。

(※スペインやフランス、さらにはフィンランドなど世界各地でテストを続けるヤリスWRC。マシンの車体には、形状がわかりにくくなる偽装ペイントが施されている)

そして発表されたのが、TOYOTA GAZOO Racingの核となるドライバー体制である。

ドライバーは、テスト段階からマシン開発に関わったユホ・ハンニネン(フィンランド)、そして2016年シーズン限りで撤退を表明したVWから移籍を決めた、3度年間ランキング2位を経験しているヤリ゠マティ・ラトバラ(フィンランド)だ。WRCで16勝、現状のWRCの世界を代表するトップドライバーのひとりである。

先ほど、マキネン氏が新たに加わったドライバーのフィードバックと発言したのは、このラトバラのものだった。さらに3人目のドライバーには、テストドライバー兼スポット参戦ドライバーとして、2016年シーズンのWR2クラス(WRCのひとつ下のクラス)で王者を獲得したエサペッカ・ラッピ(フィンランド)のチーム加入が決まった。

(※左からヤリ゠マティ・ラトバラ、ユホ・ハンニネン、エサペッカ・ラッピ、トミ・マキネン代表)

偶然にも、チーム代表のマキネン氏もフィンランドの英雄。つまり、2017年シーズンのTOYOTA GAZOO Racingはフライングフィン・チームとなる。

フライングフィンとは、北欧フィンランドのドライバーにつけられた別称で、まさに空を飛ぶほどに限界ギリギリ迫力満点の走りをする、フィンランド人ドライバーを称える言葉として使われている名称。

もちろんチーム全体は、エンジン開発はドイツに拠点を置きル・マン24時間レースなどを戦うTMG(トヨタ・モータースポーツ有限会社)、開発のサポートはトヨタ自動車の東富士研究所、さらにはフィンランドに拠点を置くトミ・マキネン・レーシングが車両開発を先導するなど、TOYOTA GAZOO Racingはダイバーシティ(多様性)を具現化したチームだ。

ただし、そのバックボーンとして、フライングフィンの力がWRCに挑戦するトヨタのスタートダッシュに大きく寄与することは間違いないだろう。

そして、ヤリスWRCを見ると、その迫力のスタイルにも注目が集まるところだが、目を惹くのは「マイクロソフト」の文字。

IT界の巨人であるマイクロソフトは、トヨタのWRC参戦に単純なスポンサーとして参加するのではなく、トヨタの自動運転技術やマイクロソフトが開発しているIoT(Internet of Things/モノのインターネット)にも技術的なメリットがあると言う。

しかし、いちばん大切なのは、モータースポーツをする情熱。そして、負けず嫌いが集まる戦いの場に打って出ること。

そこに立つことで、年間1000万台のクルマを世界で販売し、34万人を雇用し、27兆円を売り上げるトヨタは、単純な名声ではなく、その過程での人の成長や、世界最高峰に挑戦するなかでの人の感情を揺り動かす何かの発見を期待しているに違いない。

どんなスポーツでも、最高峰レベルの争いは人々を魅了する。オリンピックであれ、ワールドカップであれ、テニスでもゴルフでも競技を問わない。WRCもそうした人々を魅了するスポーツのひとつであることを、ぜひとも一度テレビを通してでも見てもらえれば感じてもらえるだろう。

世界のトップに立つことは簡単なことではない。1月19日からスタートするWRCの開幕戦、トヨタがどんな戦いをしていくのかをまずは観てみたい。<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

【TOYOTA GAZOO Racing】
[チームスタッフ]
チーム総代表:豊田章男
チーム代表:トミ・マキネン
ドライバー:ヤリ゠マティ・ラトバラ、ユホ・ハンニネン、エサペッカ・ラッピ

[マシン]
ヤリスWRC(日本名:ヴィッツ)

全長:4085mm
全幅:1875mm
エンジン:1600ccターボ
最大出力:380bhp
最大トルク:425Nm
ギヤボックス:6速
ホイールサイズ:7×15インチ(未舗装路)、8×18インチ(舗装路)

【2017年WRCカレンダー】
第1戦 1月19‐22日 ラリー・モンテカルロ
第2戦 2月9‐12日 ラリー・スウェーデン
第3戦 3月9‐12日 ラリー・メキシコ
第4戦 4月6‐9日 ラリー・フランス
第5戦 4月27‐30日 ラリー・アルゼンチン
第6戦 5月18‐21日 ラリー・ポルトガル
第7戦 6月8‐11日 ラリー・イタリア
第8戦 6月29日‐7月2日 ラリー・ポーランド
第9戦 7月27‐30日 ラリー・フィンランド
第10戦 8月17‐20日 ラリー・ドイツ
第11戦 10月5‐8日 ラリー・スペイン
第12戦 10月26‐29日 ラリー・ウェールズGB
第13戦 11月16‐19日 ラリー・オーストラリア

※写真はすべて©WRCもしくは©TOYOTA GAZOO Racing/無断転載禁止です。