「夢のよう」受賞者が三者三様の個性を発揮!<第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサート>
2025年2月20日、第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサートが東京オペラシティコンサートホールで開かれた。
(左から、戸澤采紀、前田妃奈、務川慧悟)
「出光音楽賞」は、1964年に放送を開始した『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)の25周年を記念して1990年に創設された、出光興産株式会社が主催する音楽賞。
長年にわたって、将来有望な若手・新進音楽家の育成に多大な貢献を果たしてきた。クラシック音楽の作曲、演奏、学術研究等を対象に選考し、若手の音楽家に授与される賞だ。受賞者には音楽活動の支援として300万円が贈られている。
近年ではクラシック音楽のすそ野を広げる活動を世界的に広げマスメディアでの活躍もめざましい反田恭平(2016年受賞)、藤田真央(2019年受賞)、亀井聖矢(2022年受賞)らも受賞している。
選考委員は、今回は池辺晋一郎(作曲)、石田一志(音楽評論家)、海野義雄(ヴァイオリン)、木村かをり(ピアノ)、木村俊光(声楽)、そして25年1月に逝去した秋山和慶(指揮)が名を連ねる。
受賞後に開催されるガラコンサートは、受賞者たちがオーケストラと共演する晴れの場となっている。
今回は受賞者であるヴァイオリニストの戸澤采紀、同じくヴァイオリニストの前田妃奈、そしてピアニストの務川慧悟の3名が出演し、それぞれ協奏曲のソロを務めた。
ガラコンサートに先立って行われたのは、今年1月に逝去した指揮者・秋山和慶への献奏。
曲はモーツァルトのディヴェルティメント ニ長調K.136より第2楽章。
秋山和慶は出光音楽賞の選考委員を長年にわたって務めた日本を代表する名指揮者だ。本来であればこの日の指揮台に立つ予定だったが、代わって第1回出光音楽賞受賞者である沼尻竜典が東京交響楽団を指揮した。
献奏に続いて授賞式が行われた後、いよいよ受賞者たちの演奏へ。
務川慧悟(むかわ・けいご)
最初の受賞者は務川慧悟。務川は1993年愛知県生まれ。パリ国立高等音楽院に学び、2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール第3位、2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位を獲得し、パリと日本を拠点に意欲的な活動を展開している。
フランス音楽への造詣が深い務川が選んだのは、20世紀フランス音楽の傑作として名高いラヴェルのピアノ協奏曲より第1楽章と第3楽章。高度な技巧に支えられた華麗なソロを披露してくれた。
戸澤采紀(とざわ・さき)
続く戸澤采紀は2001年東京都生まれ。15歳で第85回日本音楽コンクールにて最年少で優勝を果たし、現在はベルリン芸術大学修士課程に在学しつつ、ベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミーに在籍している。
メンデルスゾーンの名曲、ヴァイオリン協奏曲の第2楽章と第3楽章で、のびやかな美音を響かせた。
前田妃奈(まえだ・ひな)
3人目に登場した前田妃奈は2002年大阪府生まれ。2022年のヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールで優勝を果たすなど、輝かしい受賞歴を誇る気鋭だ。
現在、東京音楽大学アーティストディプロマ在学中。「大好きな曲」というブルッフの「スコットランド幻想曲」の第3楽章と第4楽章で、思い切りのよいエネルギッシュな演奏を聴かせて客席を沸かせた。
◆受賞への大きな喜び「心から嬉しい」「夢のよう」「とても光栄」
3人の受賞者はそれぞれ、出光音楽賞を受賞した喜びと今後の抱負を次のように話している。
戸澤:「音楽家を志す者なら誰もが知る賞なので、心から嬉しいです。名だたる方々が受賞してきた賞を私がいただけることが、授賞式を迎えた今もにわかには信じがたいほどです。今後はソロでも室内楽でもオーケストラでも、すべての分野で必要とされ、私にしかできない仕事ができるような音楽家になりたいと思っています」
前田:「尊敬する先生方や先輩方が並ぶ歴代の受賞者のなかに、私の名を連ねさせていただくことをとても光栄に思っています。音楽は一期一会のもの。同じ曲を続けて2回弾いても、同じ演奏にはなりません。自分がこれから先、どんな道を歩むかわかりませんが、人生の経験を積んで将来どんな音楽をできるのか興味があるので、心身ともに健康に音楽を続けていきたいと思っています」
務川:「小さい頃から知っていた賞を、自分が受賞したことは夢のようです。子ども時代の自分に将来この賞を受賞すると言っても、きっと信じないと思います。現在はフランスと日本で半分ずつくらいの生活をして、とても刺激があり、よいバランスを保てています。ヨーロッパの文化を吸収し、自分の演奏に生かしていきたいと思っています」
また、出光音楽賞の選考委員を務める作曲家・池辺晋一郎と音楽評論家・石田一志の両氏は、今回の受賞者についてこう語る。
池辺:「三者三様の個性を持った受賞者たちが、実力を存分に発揮してくれました。
務川さんは整理整頓されたメカニズムに加えて、研ぎ澄まされたリリシズム(※)を持っています。戸澤さんはテクニックが完成されています。しかし決してテクニックに溺れず、初々しさと清潔さを失っていないところがすばらしい。前田さんは大胆でアグレッシブです。オーケストラとのアンサンブルを楽しんでいる様子が音楽によくあらわれていました。
このまま伸びていけば、それぞれがこれまでになかったタイプの演奏家になれると思います」
(※リリシズム:抒情性。歌うような旋律の美しさや、豊かな感情のこもった表現を指す。)
石田:「日本は弦楽器奏者の宝庫ですけれど、近年は国際的なピアニストの輩出も続いています。本日の演奏を聴いて、よい人選ができたなと改めて思いました。
先輩方がそうであったように、受賞者のみなさんには演奏だけではなく、できればいいお弟子さんを育てる役割も果たしていただきたい。それと、単に世界的に活躍するというだけではなく、現代の日本の作曲家をどんどん世の中に広めていってほしいなと思っております」
なお、今回の公演の模様は、3月22日(土)に放送される『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)で放送される。
<取材/文:飯尾洋一>
※番組情報:『題名のない音楽会』
2025年3月22日(土)あさ10:00~10:30、テレビ朝日系(※地域によって放送時間が異なります。詳細は公式HPまで)