水木一郎が語る、海外で日本のアニメ・特撮の影響力を実感した出来事
今や日本の文化として世界中で認知されているアニメ。
アニメがきっかけで日本に興味を持ったり、アニメソングで日本語を覚えたという外国人も増えている。そんなアニメファンにとって水木さんは憧れの存在。世界中のファンから“アニキ(ANIKI)”の愛称で親しまれ、国内だけでなく、フランス、中国、韓国、コスタリカ、シンガポール、タイなど海外でも公演を開催し、人気を博している。
◆どの国へ行っても盛大な「アニキ」コールが…
-映画『パシフィック・リム』などもそうですけど、海外の作品でも『マジンガーZ』にインスパイアされたものが多いですよね-
「何と言っても『マジンガーZ』は人が乗り込むタイプのロボット、いわゆるスーパーロボットの元祖ですからね。『マジンガーZ』がなければ『ガンダム』も『エヴァンゲリオン』もなかったんじゃないですか。
発想も斬新だし、デザインも洗練されている。子どもの頃に見ていたなら、なおさら絶大な影響を受けているでしょうね。今や世界中の多くの映画監督やクリエイターたちが、『マジンガーZ』をはじめ日本のアニメからヒントを得たりするのも納得できますね」
-『鋼鉄ジーグ』にインスパイアされた映画もイタリアでヒットしましたね-
「『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』ですね。監督ともお会いしたんですけど、ジーグを心から愛しているのが伝わってうれしかったですね。
僕の歌った主題歌も主演の俳優さんがカバーして流れるんです。『鋼鉄ジーグのうた』はイタリア国民なら誰もが歌えるほどで、色々なアーティストがカバーしてくれています。
アニメや特撮の番組は日本での放送の数年後には海外に普及していたので、番組を見て育った子どもたちが今、第一線で活躍する世代になっているんですね。僕も、海外のファンから『子どもの頃から大好きです』とリスペクトを受けて、あらためて日本のアニメ・特撮の影響力を実感しました。
いまだに過去の作品が再放送されていたりして、ファンは一層幅広くなっています。タイでは新作のヒーロー作品『ミライガーT1』が日本とタイの合同制作で作られて、第1期の主題歌は僕のソロ、第2期の主題歌は現地のすごく人気のあるアーティストと僕とのデュエットなんです。そんなコラボができるのもうれしいですね」
-海外での公演も多いですね-
「そうですね。いろいろな国で公演させていただいていますけど、アニメソングのイベントとして初めて行ったのは2001年の香港でした」
-「香港キャラクターショーケース2001」ですね。みんな日本語で「アニキ」って叫んでいたとか-
「そうです。『アニキ』は漢字で書くよりも、そのままローマ字で『ANIKI』のほうが馴染んでいるみたい。呼びやすいというのもあるだろうけど、みんな、日本で『アニキ』と呼ばれているのを知っているからね。
香港は最初に『日本のアニメソング、特に水木さんの歌が人気なんです』っていうことで堀江美都子と呼ばれたんだけど、どれほどのものなのか半信半疑だったんです。いざ歌ったら、客席のみんなも日本語で一緒に歌っているじゃないですか。さらに、1曲ごとにスタンディングオベーションで次の曲が歌えないくらい拍手が鳴りやまないんです。泣いている人もたくさんいましたね。そんな光景を見るのは初めてでした。
これは実際に目の当たりにした人でないとわからない。いくら言葉で説明しようとしても伝わらないだろうし、信じてもらえないのは悲しいから、自分から話すのはやめよう、とそのときは多くは語りませんでしたね。でも香港のメディアにはずいぶん取りあげられました。主要な新聞各紙から、芸能、情報、ファッション誌にいたるまで、ジャンルを問わず取材を受けました。僕らを表紙にした別冊付録がついたり、カラーで何ページも特集が組まれたり。関心の高さに驚きましたね」
-すごいですね-
「2010年に上海万博に出演したときも、『中国はアンコールの習慣がありませんから』って事前に説明されてたんだけど、アンコールはもちろん、アニキコールもありましたからね。オープニングセレモニーのときは、プログラムの途中でアンコールがかかるから、次になかなか進まなくて大変でした。ライブは4日間あったんだけど、開演前から外が騒がしいなと思ったらアニキコールだったり、終演後、出待ちのファンが楽屋の外でみんなで『マジンガーZ』をアカペラで歌ってくれていたり。僕も驚きましたが、中国の常識を知る関係者はもっと驚いたでしょうね。
フランス公演でも『コン・バトラーVはフランスでは放送していないからリストから外してください』と言われたものの、アンコールに次ぐアンコールでもう歌う曲がなくなって『みんな、知らないかもしれないけど…』と言って歌ったら、ノリノリでみんな『V! V! V!』って盛り上がったり。
中米コスタリカに呼ばれたときも、こんなに遠い国で僕の歌が知られているのか不安だったけど、有名な長寿番組のゲストに呼ばれたり、マジンガーのコスプレがいたり、ジョイントした地元のミュージシャンも僕の歌で育っていたり。ホント、行ってみないとわからないものです。ただ、どこの国でも、みんな一緒に『ゼーット!』と歌ってくれる。これだけは、疑わなくなりました。
つい先日、『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』の公開に先駆けて香港でイベントがあったんです。始まる前のBGMに合わせて、既にみんなマジンガーソングを一斉に口ずさんでいるんですよ。テレビ版のオリジナルも劇場版の新しいアレンジも、みんな一緒に『ゼーット!』と声を合わせてきました。『Z』は世界をつなぐなあ、と感じますね」
-近年、日本人アーティストの海外公演も多くなりました-
「イベントも世界各国で開催されているから、若手も行きやすくなっただろうね。ただ、安売りしたらいけないというのが僕の考え。本当に価値を認められて行くのでなければ意味がない。アニメソングは世界中のファンに夢や希望を与えてきたんだから、彼らがリスペクトするその価値を下げるようなことはしてはいけないと思います。
たとえば僕らがタダ同然で海外に行ってしまったら、後に続く後輩たちもそれにならうことになる。アニメソングの未来も奪うことになると思うんです。だから、行った国の数で競ったり、集めた人数で競ったりすることはしません。目を輝かせて喜んでくれるファンのために、これからも求められるところへ行きます」
◆アニソン登山部で登頂ゼーット!
-水木さんには25年くらい前にお会いしてるんですが、全然変わらないですね-
「年を取っている暇がないんですよ。ゆっくり休みをとるのが好きじゃない。
若くなるためのことは特に何もやってないです。野菜を意識して食べるのと、登山をするのと…それくらいですね(笑)」
-ジムなどへは?-
「以前はたまに行ってたんだけど、同じ景色しか見えないのでつまんないなと思って、そのうち目黒川沿いをウォーキングするようになりました」
-周りの人に気づかれませんか?-
「気づかれますね。都会だと行く先々で『ゼーット!』ってみんなに言われるし、やっぱり景色が変わり映えしないんで、どうせ歩くなら山がいいんじゃないかって。アニソンを歌っている歌手仲間と『アニソン登山部』というのを作ってもう5年ですね。僕らのモットーは、Z景(絶景)と温泉とその土地のおいしいものをいただくという、いいとこどりの安全登山。那須岳や立山、安達太良山、筑波山といった百名山から、標高の低い里山まで、四季を通して歩いています。今年もつい最近、秩父に蝋梅(ろうばい)を見に行って来ましたよ」
-途中でくじける人はなく?-
「いないですね。多分、リーダーの僕が一番最初にくじけるくらいじゃないかな。ゆっくりマイペースでいいんです。一歩一歩、登っていけば、いつか頂上が見えてくる。仕事も人生もこれがテッペンなんて感じることはないけど、山には必ず頂上がある。だから、登るんでしょうね。登っているときはつらくて、『タクシー呼んでくれー』なんて思うこともあるけど、登頂したときの達成感はやっぱり最高です。去年は、富士山登頂に成功しました」
-富士山は今、大変じゃないですか-
「そうね、日本人はもちろん、外国の方も多くて、渋滞ができるほどですね。なかには山の装備もなくて登ってる人もいるんで、大丈夫かなと思ったりするんですけど」
-そういう人が増えたと聞きますが-
「低い山でもそうですね。冬場でまだ雪が残っているところに普通の靴で登ってきたカップルが、ツルツルすべってキャーキャー言ってたりね。山をなめたらダメ。新しくメンバーが入るときには、まず、装備をきちんとそろえてもらうところから始めます。
今ではメンバーはアニソンシンガー、スタッフ合わせて20人ちょっと。頂上では必ずみんなで『登頂ゼーット!』の写真をとるんですけど、最近では即興ライブをするのも恒例ですね」
◆ヒーロー主題歌のグランドスラムを達成!
-“仮面ライダー”、“メタルヒーロー”、“戦隊”、そして“ウルトラマン”…数え上げたらキリがないほど、一通り全部、ヒーローの歌をやっていますよね-
「そうですね。ライダーソングは誰よりも多く歌っているし、メタルヒーローは『時空戦士スピルバン』で出演もさせていただいたし、戦隊は『獣拳戦隊ゲキレンジャー』の『道』と、主なヒーローシリーズは歌わせていただきましたが、ウルトラマンのテレビシリーズはなかなか巡ってこなかったんです。『ウルトラマンオーブ』で初めてオファーをいただいて、次の『ウルトラマンゼロ THE CHRONICLE』の主題歌も歌わせていただきました。ウルトラマンが加わったことで、『ヒーローの主題歌のグランドスラムを達成しましたね』と言われました。
ヒーローシリーズ以外でも、まんべんなく歌っていますね。コミカルな歌があったり、大人なバラードがあったり、こどもの歌も、歌謡曲もある。アニメソング自体が、演歌調もあれば、ロックもあるし、いろいろな音楽の要素が詰まっているしね」
-すごいですね-
「これまで、いろいろな歌を勉強してきたから歌えたんだと思います。水木一郎の個性を出さずに、作品によって歌い分けていたので、特定のイメージがつかなかったのも幸いしたんでしょう。時代もよかったですね。新しい番組の歌を次々に歌うことができた。今からの歌手は無理かな。アニメソング歌手が人気職業になって、競争も激しいしね。1200曲も歌うチャンスがあったことは奇跡ですね」
-そこまで続けられる声帯がね-
「今も絶好調なんですよ、声は。まだまだ成長しているんです。このまま10年、20年いけそうかな。ただ足腰、脳はわからないけど(笑)」
-毎日の生活はどんな感じですか?睡眠時間などは?-
「そんなにとってないですね。必ず朝6時ぐらいにツイッターとインスタを打つんです。そのネタを考えるのが大変なんですよ(笑)。寝るのはだいたい1時とか2時。ナポレオンよりもちょっと寝ているくらいかな(笑)。
アップしたら、今度はみんながどんな反応をするのか気になるんですよね。結局、長いことスマホをいじることになるんです」
-それはもう中毒みたいですね-
「完全に中毒ですよね。『もうやめる、もうやめるぞ』って毎日、言ってるんですけど、やめられないんですよね(笑)」
-これからやりたいことは?-
「やっぱり歌以外はないですね。声域が広がってるんですよ、いまだに。声が続く限りは歌っていたいですね」
-普通は年齢とともに狭くなるんじゃないですか-
「そう。音域が普通は下がるんですよ。それが、最近の歌は高い音が多いから、それに合わせてレコーディングしているうちに、どんどん出るようになっちゃった。昔は苦手だったリズムもとれるようになったり、日々精進してますよ」
-後進の育成もされていらっしゃいますしね-
「ヴォーカルスクールを主宰してね。なかなか僕を越えるような人材は育たないけど、でも頑張っていますよ」
-これからの夢は?-
「日本中、世界中で僕の歌を待っていてくれるファンのところへ行って、生の声を届けたい。海外のアーティストとのコラボもやってみたいね。それから、究極は宇宙ライブかな。宇宙ステーションでのライブ。アニメは言葉が通じない国の人たちの心を動かす何かがあるので、これはもしかしたら宇宙人が聞いても、感じ取るものがあるんじゃないかと思って。でも、何と言っても歌を歌うことこそが僕の幸せ。少しでも長く歌い続けていたい。目指すは最高齢現役歌手ですね」
声が出る限り歌い続けていくという水木さん。女性から圧倒的な支持を受けている『ルパン三世愛のテーマ』のようにささやくようなバラードでもヒットを飛ばしたいと話す。これからもステキな歌声で世界中を元気にして欲しい。(津島令子)
※劇場版『マジンガーZ / INFINITY』オリジナル・サウンドトラック
(ワーナーミュージック・ジャパン 通常盤 2800円+税)
※『オーブの祈り』(水木一郎 with ボイジャー feat. May J.)
1曲200円 iTunesにて配信!
※『水木一郎 グレイテスト★ウルトラマンソングス』
(日本コロムビア 2400円+税 )
※『GO AHEAD~すすめ!ウルトラマンゼロ~』
(円谷プロダクション 1500円+税)
※『アニソンアカデミー校歌』
(日本コロムビア 1200円+税)
※『翼を持つ者 ~Not an angel Just a dreamer~』
(エイベックス 1500円+税)
※『水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス』
(日本コロムビア 2500円+税)