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【WRC】第3戦は映画界で話題のメキシコ 伝説の王者セバスチャン・ローブ復帰!

WRC(FIA世界ラリー選手権)の2018年シーズン第3戦「ラリー・メキシコ」が、3月8日からスタートする(8日~11日)。

シーズン初のグラベル(未舗装路)ラリー、また標高2000mを超える高地ラリーでもあり気温が高い。土ぼこり、少ない酸素量、暑さ、というマシンにとっては三重苦となるラリーだ。4日間で、全SS(スペシャルステージ)は22箇所を予定している。

©WRC

第3戦は、最近世界中から、とくに映画の世界で注目を集めているメキシコでの開催。

つい先日行われた第90回アカデミー賞で最多13部門にノミネートされ、作品賞や監督賞など4部門でオスカーを獲得した映画『シェイプ・オブ・ウォーター』を監督したギレルモ・デル・トロ氏。彼はメキシコ・グアダラハラ出身の移民だ。

映画『シェイプ・オブ・ウォーター』は、1962年の冷戦下、幼い頃のトラウマで声を失ってしまった女性と、アマゾンの海で発見された生物(半魚人)とのラブストーリーなのだが、作品内で生物は研究対象として政府の秘密機関から虐待を受ける。そして生物を虐待する政府の人物は、当時流行していた自己啓発本『ザ・パワー・オブ・ポジティブ・シンキング』(1952年発行ノーマン・ヴィンセント・ピール著)を読む。

この本はドナルド・トランプ米国大統領の愛読書としても知られており、ギレルモ監督は作品を通じてアメリカとメキシコ国境に壁を作るなど“アメリカ第一主義”の政策を取らんとするトランプ大統領への疑問をこめたと受け止められている。

また、同じく第90回アカデミー賞の長編アニメーション部門でオスカーを獲得したピクサー映画『リメンバー・ミー』は、舞台をメキシコの死者の世界にしたファンタジー作品。授賞式ではメキシコ人アーティストたちにより同作のテーマ曲が高らかに歌われた。

こうしてメキシコはいま、エンターテイメントの世界を通じてその存在や魅力を大きく発信している。

©CitroenRacing

そんなメキシコで行われる「ラリー・メキシコ」。こちらも世界中を魅了するエンターテイメントでもある“モータースポーツ”の世界でのいちばんのニュースは、シトロエンから3戦だけ復帰する伝説の王者、セバスチャン・ローブの登場だろう。マシンはもちろん、2004年から2012年まで9度の世界王者を共に獲得したシトロエンだ。

通算優勝回数78回という“生ける伝説”の出場。元チームメートであり現王者であるセバスチャン・オジェ(フォード)との対決が注目を集めることは間違いなく、またWRC出場ドライバー全員が伝説のドライバーとのラリーを楽しみにしているはずだ。

 

◆ラリー・メキシコの“トラブル要因”

ラリー・メキシコは、シーズンを通じてマシンにとって非常に重要なラリーイベントとなる。というのも、ラリー・メキシコ名物の土ぼこり、標高2000mを超える高地、そして高い気温は、WRCマシンにとって克服すべきトラブル要因ばかりなのだ。

©WRC

まず、“土ぼこり”。乾いた細かい粒子状の土ぼこりはマシンのあらゆる機械部分に入り込み、さまざまな不具合を引き起こす要因となる。

次に“高い標高”は、アスリートが高地トレーニングを行うのは少ない酸素量の高地で心肺機能を鍛えることで平地でのパフォーマンスを高めることが目的となるが、逆に言えば高地で戦うWRCマシンにとって、酸素量が少ないことはその酸素を燃焼に利用するエンジンパワーの低下を意味する。高地でも高いエンジンパワーを発揮できるかは勝敗を分ける大きなポイントだ。

そして、“高い気温”。これもエンジンパワーに関係するのだが、高校で学んだ「ボイル・シャルルの法則」を当てはめると、空気は気温が低いほど密度が濃くなる。つまり、開幕戦の「ラリー・モンテカルロ」や第2戦の「ラリー・スウェーデン」は気温が低いウインターラリーであることからパワーを出しやすく、WRCマシンのエンジンにとっては冷却もラクで最高といえる環境にあった。

それがラリー・メキシコでは一転、高い気温のために空気密度が薄くなり、マシンにとって重要な冷却効果も期待できない。結果としてパワーダウンしてしまったり、オーバーヒートでマシントラブルしてしまったりする。

©TOYOTA GAZOO Racing

昨シーズンのラリー・メキシコでは、トヨタがこの高地ラリーと高い気温に苦しんだ。

マシン開発ベースがフィンランド、エンジン開発ベースがドイツ、さらに18年振りのシーズン復帰ということで、高地ラリーと高い気温での経験が不十分だったことがマシントラブルに繋がってしまった。

そのため、その後も暑いラリーイベントではエンジントラブルが発生するなど、シーズンを通じて高い気温への対応は克服すべきポイントとなっていた。そうした問題点が、今季はどれだけ解消しているのか。今回はそれを検証するラリーとなる。

そして、もしこのラリー・メキシコでトップレベルの速さと信頼性を示すことができれば、2018年シーズンはチャンピオンシップ王者を狙うトヨタにとって、その挑戦権を得ることができるはずだ。

今シーズンからトヨタに加入したオット・タナックは、ラリー・メキシコへの意気込みをWRC公式テレビにこう語っている。

「たしかにラリー・メキシコは他と違って、マシンのパワーが少なくなったことを感じます。ただ、それは高地のため仕方ないことなので、いかにコーナースピードを高く保って対応することができるかが求められます。

そしてラリー・メキシコのステージは、高速の道、低速の道、細い道、テクニカルな道などなど、各SSが違うキャラクターのために攻略が難しい。ただ、ここで良い成績を収めることができれば、きっとシーズンも良い方向に進むと思います」

©CitroenRacing

昨シーズンの勝者は、シトロエンのクリス・ミーク。ただし、最後のパワーステージでコースアウトから駐車場に入り込むトラブルが発生。手にしていた勝利を危うく逃すところで、サービスパークで待つスタッフたちの一喜一憂ぶりは大きなニュースとなった。そんなミークは、伝説の王者・ローブと共に今季初勝利を目指す。

そして、速さで勝るヒュンダイも注目すべきチーム。ラリー・スウェーデンで勝利したティエリー・ヌービルは、ここで勝てば間違いなくチャンピオンシップ争いの主役に躍り出るだろう。チームメートのアンドレアス・ミケルセンも勝利を目指している。

北米開催のラリー・メキシコ、その開催地と日本の時差は15時間だ。SS1のスタート時間は現地時間8日の午後8時8分を予定、日本時間では9日金曜日午前11時8分に最初のマシンがタイムアタックスタートとなる。

伝説の王者のセバスチャン・ローブと、現役王者であるセバスチャン・オジェの戦い。そこに、トヨタとヒュンダイがどう絡んでいくのか。楽しみに観たい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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