「今の俳優さんのなかでは日本一」塩見三省、名優・西田敏行について語る
特別大賞を受賞したのは『アウトレイジ 最終章』で、塩見さん演じる中田の兄貴分の西野役を演じた西田敏行さん。16年4月、頸椎(けいつい)亜脱臼の手術を受けて4ヵ月入院していた西田さんの退院後初の作品。西田さんも塩見さんと同じく杖をついての衣装合わせだったという。
◆塩見三省、フィルムが回る音に復帰を実感!
-授賞式は西田敏行さんもご一緒でした-
「西田さんとは結構ほかの映画でも共演しているんですけど、今回は本当に子羊を食べるライオンのような感じで、初日から『ガーン』と来てくれて…。あれほどの俳優さんが、僕の前で持てる力を全部出してくれたから、有り難いなと思っていました」
-衣装合わせのときにはまだおからだが思い通りでなかったそうですが-
「まあ、僕はちょっと西田さんも大げさかなとそう思っていたけど、傍から見たらそうだったんだな、西田さんの言う通りだったんだなっていうのは、すごい感じています。
一番最初のクランクインのときが西田さんとの2ショットの場面だったんですけど、すごかったですよ。西田さんがマックスだったから。あの人は今の俳優さんのなかでは日本一だと思う。アドリブってよく言うんだけど、それがアドリブなのか台本なのかというのはよくわからないぐらいすごかった。
あるシーンでカメラが僕の後ろ側から来て西田さんのアップで最後に止まるんです。北野監督はフィルムで撮っているから、僕のすぐ横にカメラがあって、『ジーッジーッ』て音がするんですよ。そのフィルムの回る音を聞いたときに『ああ、僕は戻ってきたんだな』と思いました。だから僕は、あの2ヵ月の撮影と北野さんが『よし、やろう』と言って下さったことが、すごい宝物でしたね。それで無事に納品できたということが僕の誇りです」
-きょうの授賞式、映画ファンみんなが、塩見さんがスクリーンに戻ってくるのを待っていました。拍手が鳴りやまなかったですね-
「うれしかったです。でも、こんなことを言ったらいけないんだけど、誰かのためにということではなくて、本当に身に突き刺さってくる苦しさだったから…。ともかく自分がちゃんと立って、コケないでステージ中央まで行くという、そのことしか頭にないから、皆さんのためにとか、そんなことは全然。映画に戻って来てくれるとか、そういうことはもうあとからの話で、僕は今の精一杯を出し切り、それを皆さんに見てもらう。それしかないんだろうなと思っています」
◆ドラマで星野源の父親役に
-ドラマ「コウノドリ」では星野源さんのお父さん役でした-
「星野君もくも膜下出血だったから、お互いに共感するところがあった。僕を使うということは、今までのように『じゃあ、そこ塩見ちゃん』というわけにはいかないから、やっぱり『コウノドリ』のスタッフも覚悟がいったと思うんだ。だって、どんな状態かわからないから…。これからも僕を使うということは、かなり勇気がいることで、僕も勇気を持っていかないといけないけど、何々の役というのは、ちょっと無理だと思う。だからあて込みのね。
『コウノドリ』は、今の最新の医療が発達しているから人が死ななくなった、だけど助かった後、どうフォローしていくか。まあ生活ということなんだけど、そこが今、おざなりになっていて、そういうセリフが僕にあったの。だからもう、『これを僕が言う』って感じで。いい役だからとかいうことじゃなくて、やっぱりそういう自分のなかで、モチベーションや湧き上がるものがなかったら、なかなかできないと思います。
『アウトレイジ 最終章』の中田は、ちょっとこれからの僕もできないし、誰もできないんじゃないかな。世界にこの状態になって映画に出ている人はちょっといないだろうから(笑)。そういう意味でも北野監督がよくやって下さったと本当に思いますね」
-4月にはDVDも出ますね-
「ひとりで部屋を暗くして見ると泣いちゃうよね。スクリーンで見るのも良いけど、DVDでひとりでこの映画を見るというのも、すごく興味深いと思います。
この映画は暴力映画、バイオレンスという装いで、北野監督はエンターテイメントを撮っています。そのエンターテイメントを突き詰めた先に現れてきたものは、監督の作家性であり、実際この『アウトレイジ 最終章』は、構造が2重3重になっている。男たちの欲望の話でもあり、人間の精神の有り様でもある。それが北野映画なんですよね。
映画を見終わって、僕の病気も自分の欲望の果てだったのかな…と、そんなことを思って、じわーっと映画の余韻に浸りました。そこのところの映画だと思うと、やっぱりこの人はすごいなって。
北野監督とは、2004年に公開された『血と骨』の現場で、俳優・ビートたけしさんとの出会いが初めてでした。その日、ビートたけしさんが入られるということで僕はピリピリしていたんです。たけしさんは大きな車に乗って現れ、圧倒的なオーラで威圧感を感じました。
でも、その現場で俳優としてビートたけしさんと相対したことは、緊張しつつもうれしくて、大きな宝物になりました。
それから、次に『アウトレイジ ビヨンド』の神戸のロケ現場で、北野武監督の元で、俳優・ビートたけしさんに再び相対したとき、『塩見さん、覚えてるよ。「血と骨」のあのシーンは…。』僕は『えっ、ホントですか?』と驚きながらも、うわっとうれしくて。覚えていて下さったのだ、という喜びは今も忘れません。
本当に北野さん、西田さん、岸部(一徳)さん…同世代に生まれて、僕は幸せだと思います」
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現在もリハビリ中の塩見さん。授賞式の壇上で、杖を手にゆっくりとステージ中央へと進む塩見さんに、集まった映画ファンの拍手が鳴りやまなかった。病気をされてからの苦悩ははかり知れない。傍から簡単に言えることではないが、それでもスクリーンでまた塩見さんに会いたいと強く思う。(津島令子)
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