「北野武監督に感謝」映画復帰した塩見三省が語る監督への熱い思い
映画『アウトレイジ ビヨンド』のヤクザの若頭補佐・中田役や、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の“琥珀職人”勉さんなど、幅広い役柄を演じてきた名優・塩見三省さん。
2014年3月、脳出血で倒れて5ヵ月入院。左手足に後遺症が残ったが、懸命にリハビリに励み『アウトレイジ 最終章』でスクリーンに復帰。
この作品で「第39回ヨコハマ映画祭」で助演男優賞を受賞。1月28日(日)、神奈川県立音楽堂で行われた授賞式終了後、塩見さんにインタビュー。
◆映画復帰はただ、ただ、北野武監督に会いたくて…。
-助演男優賞受賞、おめでとうございます-
「ありがとうございます。自分じゃいわゆる演技というのができなかったから…。からだが動かないし、ただ北野監督が撮って下さったという以外ないですね」
-最初にオファーがあったときはどうだったんですか?-
「台本を読んだらすごくたくさんセリフが書かれていたから、ちょっと無理だとみんな思っただろうけど、僕的には『北野さんに会いたい、北野さんの映画に出たい』という思いで、『やりたい、やりたい』ってマネジャーに駄々っ子のように言って…。命みたいなものを吹き込んでもらいたいなって思った、北野さんに。うれしかったです」
-ご病気のことを監督は?-
「ご存知だったと思います。歩いているところをスタッフにビデオに撮ってもらっていたから。
『こんなからだになりました』ということを監督に見せに行ったら、何もなかったように『じゃあ、塩見さん、よろしくね』って言って。そのひと言だったから、これは本当に、芝居をやるとかそういうことじゃなくて、ある覚悟というのか、毎日を生きていく、北野監督についていく、撮影していくという覚悟を決めました。
まあ、よく撮って下さったなと。僕にとっては、素晴らしい撮影の日々でした」
-現場で北野監督はあまり何もおっしゃらないそうですね-
「北野さんはあんまり誰とも話さないから。サイレントというか、静かな現場です。『塩見さん、サングラスかけるか』と言うくらいでしたね。
バイオレンスの映画なんですけど、ものすごく穏やかな気持ちで。
カメラの前では、俳優ってそんなことはないから初めてなんですけど、このからだをさらけ出すというか、カメラの前では穏やかって言うか、気持ちがストレートに出ていると思います。
だからサングラスをかけている間は、ずっと花菱の中田であり続けたというのはあります」
※塩見三省 プロフィール
1948年1月12日生まれ。京都府出身。同志社大学卒業。70年代から舞台を中心に活動をはじめ、1989年より、つかこうへい作・演出の舞台『今日子』『幕末純情伝』『熱海殺人事件~塩見三省スペシャル』の3連作に出演。1990年代から映画、テレビ、CMに多数出演。コワモテの役から人情味あふれる人格者まで幅広い役柄を演じている。
2004年、映画『樹の海』で第15回日本映画批評家大賞・助演男優賞受賞。2012年、映画『アウトレイジ ビヨンド』で第22回東京スポーツ映画大賞・男優賞受賞。
◆塩見三省、俳優を続けていくことが恩返し
-前作『アウトレイジ ビヨンド』から5年ですが、そのときにはこの続きもあるというお話はなかったんですか-
「全然ありません。それは本当に。でも、こんなからだになって、北野さんじゃなかったら、オファーはかけてくれなかったからね、絶対に。危なくて使えないから。だからよく平気で、平気ではないんでしょうけど、北野監督、森社長(オフィス北野)、プロデューサー、スタッフの皆さんが助けて下さったと思っています。感謝しています。
撮影中、僕が階段を登るときには背負ってくれる人まで用意してくださっていたからね。北野さんは言わないけれど、オフィス北野の皆さんがガチっと万全の態勢で。だから、僕も色んな映画をやって来たけど、これ以上のものは出せないと思う。
声も少しやられてるんだけど、でも、まあ生きていて、生きてりゃいいっていう…。僕にとって結構グッとくる映画だったなあと思います」
-愛が感じられますね、北野監督の-
「うーん、そうですね。北野監督の懐の深さ、映画への愛なんだろうな。
北野監督の映画に1シーンでもいいから花菱の中田として出たいと思ったのが、きょうのヨコハマ映画祭の助演男優賞受賞までつながってきたことは、ものすごいことだと思う。
自分のなかでは、ちょっと整理がつかないというか、やっぱり人に生かされてるんだなって思いますね、自分ひとりじゃないって。
病気になる前はね、僕はひとりでやっていると思っていたんです。だけど、みんなの支え、事務所や友人たちの支えでやることができた。
そんな当たり前のことが、この映画を通して身にしみてわかったんです。
僕も元には戻れないけど、元の自分に戻ろうというんじゃなくて、今の自分を出していくというか、何か新しい鎧(よろい)を身につけたように、これが新しい塩見なんだと…。
それが北野さんとの約束なんじゃないかなと思うんですよね。これで『俳優辞めました』というわけにはちょっといかないなっていうか、あれだけのことをやってくれたんだから、まあ死ぬまでっていうか、生きている限りはオファーがあるないに限らず、俳優であり続けていくということが北野さんに対しての、ひとつのアンサー(恩返し)だと思います」
北野監督への熱い思いが伝わってくる。次回後編では名優・西田敏行さんとともに出席した「第39回ヨコハマ映画祭授賞式」での舞台裏も紹介。(津島令子)