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俳優・中村優子、No.1ホステスの役作りで高級クラブに体験入店。最終的には指名されるまでに

初主演映画『火垂』(河瀬直美監督)でブエノスアイレス国際映画祭主演女優賞を受賞し、話題を集めた中村優子(なかむら・ゆうこ)さん。

『血と骨』(崔洋一監督)、『ストロベリーショートケイクス』(矢崎仁司監督)、『クヒオ大佐』(吉田大八監督)など話題作に次々と出演することに。

 

◆受かると思わなかったオーディション

2004年、映画『血と骨』(崔洋一監督)に出演。この作品は、1920年代に成功を夢見て済州島から大阪へやってきた金俊平(ビートたけし)が、持ち前の腕っ節の強さと上昇志向でのし上がっていく壮絶な半生を描いたもの。中村さんは俊平の美しい愛人であり、しだいに病魔に侵されていく山梨清子役を演じた。

「『血と骨』はオーディションがすごく記憶に残っています。とある1シーンをやったのですが、その後に崔さん(監督)とプロデューサーなど数名がいらっしゃって、『最後に何か質問はありますか?』と聞かれたんですね。

そのとき、パッと目が行った崔さんの手を、なぜか衝動的に掴みたくなりまして(笑)。それで、『手を触ってもいいですか?』と」

――崔監督ビックリしたでしょうね。

「崔さんは笑ってらっしゃったかと。それはたとえば、思いがけず野原にゴツゴツした鉱物を見つけて、熱そうだけどおもしろそうだから、手で確かめてみたいというか。今にして思えば、そんな感覚だったような気がします。まったく受かるとは思ってなかったです」

――過酷な役どころでしたね。子どもができないからと責められ虐待され、脳腫瘍にもなって。

「そうですね。脳腫瘍を患うとどういう症状があって、からだにどのような影響が出るのかとか、たくさん調べました。現役のお医者さんにもお話を伺いましたね。

でも、清子は唯一(ビート)たけしさん演じる俊平から心をもらったというか、俊平が愛したであろう女性で。そこはすごくやりがいのある役目をいただけたなと思いました」

 

◆「あの“頭ポンポン”はつらい」

2006年、中村さんは映画『ストロベリーショートケイクス』(矢崎仁司監督)に出演。ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞した。

この映画は、仕事も性格もまったく違う4人の女性たち、大失恋を経験したフリーター・里子(池脇千鶴)、デリヘル嬢の秋代(中村優子)、過食症のイラストレーター・塔子(岩瀬塔子)、会社員・ちひろ(中越典子)の日常をリアルに描いたもの。

中村さんが演じた秋代は、学生時代の男友だちの菊地(安藤政信)をずっと思い続けているが、打ち明けられず、自傷的にデリヘル嬢をやっている秋代役を演じた。

「原作の魚喃キリコさんのタッチが本当に美しくて。矢崎さん(監督)も、小林身和子さんをはじめとする衣裳部のみなさんも、シルエットにすごくこだわっていらっしゃいました。衣裳合わせは二度にわたって行い、本番さながらの緊張感でしたね」

――秋代さんは切ない役ですね。学生時代から菊地くんのことがずっと好きなのに打ち明けられず、彼に会うときだけ美貌を封印してあえてメイクもおしゃれもしない。

「そう。興味がないようなフリをして『男としてなんて見てないけど…』みたいな感じを装う。今までの作品を振り返ると、私にとって『ストロベリーショートケイクス』は、色褪せない恋人みたいな、そんな位置付けですね。

愛にたどり着く前の恋という感じ。だからこそ危うかったり、でもたくましかったり、軽やかだったり…そういう彼女たちの物語一つひとつが本当に愛おしい恋人みたいで。これは矢崎さんがあえてそうされたんですけど、現場は女性スタッフがすごく多かったんです。やっぱり女の子たちの物語だからということで。

恋をしているかどうかは置いておいても、恋する女性の空気を全体で作っていった感じでした。『わかる、わかるこの気持ち!』なんて(笑)。結構みんなでいろいろ言いながらやっていましたね。恋バナとかバカ話もして、ずっと笑いが絶えなかったです」

――4人のうちのひとり・塔子役を演じていた岩瀬塔子さんが、原作者の魚喃キリコさんなのですね。

「そうなんです。佇まいから説得力が違いますよね。ご本人はとても気さくで細やかで、本当にすてきな方。ますますファンになりました」

――秋代役を演じるにあたって何かされたことはありますか?

「あのときは役作りとして秋代日記を書いていました。菊地と出会ったときのことから書きはじめて、撮影期間中もずっと続けていましたね」

――彼女はあえてデリヘル嬢をして、菊地に好きだと打ち明けない理由にしている感じがします。

「そうですね。秋代は菊地と出会っていなければ、デリヘル嬢はやっていなかったと思います。自傷的にやっている感じで」

――菊地がまた鈍くて秋代の想いにまったく気がついていない。

「そうなんです。ちゃっかり恋人もいてね。秋代が菊地のアパートにこっそり様子を見に行くと、窓のところで彼女の頭をなでてポンポンしているんですからつらいですよね。

あの“頭ポンポン”っていうのも矢崎さんの演出で。たしかそれもメイクルームでみんなで盛り上がりました。『あの頭ポンポンはつらいよね』って」

――あの作品を好きな映画の一つにあげる人も多いですね。4人それぞれが痛くて、愛おしいというか。

「うれしいですね。自分の物語として見てくださる方が多いのかもしれませんね」

――撮影現場はいかがでした?

「緊張感はありながらも、とにかく明るくて楽しい現場でした。スケジュールは結構ハードで、夜遅くなってしまうこともあったんですけど、その疲れを笑い疲れで吹き飛ばすというか。くだらない話もたくさんして、おなかが痛くなるほど笑って。その切り替えが、かえってお芝居の集中力を生んだように感じます」

――秋代は菊地を冗談のように誘い、一度だけ関係を持ってからデリヘル嬢が務まらなくなってしまいます。

「そうですね。菊地が触ったからだに触れられたくなくて客を殴ってしまって…。それまでのバランスが崩れて、秋代の心が剥き出しになってしまった、ひりつくシーンでした」

 

◆銀座のクラブに役名で体験入店

『火垂』でストリッパー役を演じるにあたり、俳優であることを伏せながら実在のストリッパーの巡業に同行。その役を“生きる”ために何が必要かということを学んだという中村さん。

2009年に公開された映画『クヒオ大佐』ではNo.1ホステスを演じるにあたり、撮影前に素性を隠して実際に銀座のクラブで働き、指名を受けるまでになったという。

この映画は、自らをジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐と名乗り女性に近づいた実在の日本人結婚詐欺師の半生を描いたもの。父はカメハメハ大王の子孫で自称パイロットのクヒオ大佐(堺雅人)は、嘘八百の経歴と巧みな変装で女たちに近づいていく。中村さんはクヒオ大佐のターゲットの一人、No.1ホステス・須藤未知子役を演じた。

――『火垂』が『クヒオ大佐』のときのホステス修業につながったという感じですか?

「そうですね。自ら申し出ました。最初の顔合わせで吉田大八監督や助監督さんがいらっしゃるときに『所作や雰囲気などを身につけたいので、銀座のクラブを紹介していただけないですか』とお願いをして、1カ月くらい週3でお店に入っていました。

お店に出勤する数時間前にそのクラブの指定の美容室に行って、しっかり髪をセットしていただいて。新人の未知子(役名)と名乗っていました。

やっぱりこの仕事の醍醐味って、普段なかなか出会うことのできないような方たちと出会えたり、お話を聞けたり…というのがすごくおもしろいなって」

――お店の方たちは、映画のための役作りでということを知っていたのですか?

「はい。水割りの作り方とか所作なんかを身につけるために来ている体験入店だと知っていて、たくさん教えてくださり、さりげなくフォローもしていただきました」

――お客さんは知らないわけですよね。

「もちろん知らなかったので、『未知子さん』とか『未知子ちゃん』と呼ばれていました。あるホステスさんが、『クラブは殿方のディズニーランドです』とおっしゃっていて。『楽しむために来ているから、小さなことでも、何でもいいから褒めてみてね』と、悪戯っぽく笑われたのが印象的でした。

それでなんとなくわかったのが、皆さんもちろんおきれいなんですけど、その中で一番目立っている方がNo.1というわけではないんですよね。

それよりも、話しているとすごくホッとさせてくれるホステスさんがひとりいらっしゃって。その方がNo.1だったんです。やはり安心感や癒しというものは、老若男女問わず、人の求めるところなんだなと」

――最終的に指名されるようになったとか。

「はい。奇跡ですね(笑)。本当は接客が全然向いてないんですよ。映画の役のためだから興味を持って、楽しくお仕事をさせていただいたんですが、簡単にできるようなものじゃないです」

――アルバイトをされたことはあるのですか?

「あります。以前に一度、友人が経営していたカフェで。すごく楽しく働かせていただいたのですが、そこで自分がいかに接客に向いてないかということがよくわかりました。すごく挙動不審でダメなんです(笑)。だから皿洗いをやらせてくれと頼んで、ひたすらお皿を洗っていました」

――騙そうとしているクヒオ大佐から逆に独立資金を巻き上げようとするユニークなキャラでしたね。とてもきれいでゴージャスですてきでした。

「ありがとうございます。あれは気持ち良かったです(笑)。普段の自分とあまりに違うので、映画を見てくれた同級生たちからは詐欺師扱いされました(笑)」

トップクラスのホステスの動きを撮影させてもらって参考にして、1000回作ることを目指し、家でもお酒の作り方を繰り返し練習したという中村さん。徹底した役作りで知られ、『鉄男 THE BULLET MAN』(塚本晋也監督)、『ユンヒへ』(イム・デヒョン監督)、『燕は戻ってこない』(NHK)などに出演。

次回はその撮影エピソード、公開中の映画『箱男』(石井岳龍監督)も紹介。(津島令子)

※河瀬直美監督の“瀬”は旧字体が正式表記

ヘアメイク:風間啓子

©2024 The Box Man Film Partners

※映画『箱男』全国公開中
配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:石井岳龍
出演:永瀬正敏 浅野忠信 白本彩奈/佐藤浩市 渋川清彦 中村優子 川瀬陽太

1997年に映画の製作が決定し、スタッフ、キャストが撮影地のドイツ・ハンブルグに渡るもクランクイン直前に撮影が頓挫してしまった幻の企画が、27年の時を経て実現。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る「箱男」。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、ついに箱男としての一歩を踏み出すことになるが、数々の試練と危険が襲いかかり…。