キタサンブラック。優秀な血統を持たぬ競走馬が現役最強馬にまで成長した理由
12月17日(日)に放送されたテレビ朝日のスポーツ情報番組『Get Sports』では、有馬記念での引退を発表している現役最強馬・キタサンブラックについて特集した。
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オグリキャップ、ディープインパクト、オルフェーブル…。競馬通でなくとも一度はその名を耳にしたことがあるだろう。この競馬史に残る名馬たちは、その戦績もさることながら、伝説的な引退レースによって人々の記憶に刻まれ神格化されてきた。中央競馬の1年を締めくくる最高峰のレース、有馬記念でのラストランだ。
そして今年、そんな輝かしい歴史に新たな伝説を紡ごうとしているのがキタサンブラック。
中央競馬の最高峰に位置するG1レースを6勝、獲得した賞金はおよそ15億円と共に歴代2位を誇る現役最強馬。引退レースに選んだ有馬記念を制せば、G1歴代最多勝利と獲得賞金歴代1位を手にし、名実ともに史上最強馬となる。
◆優秀な血統を持たない競走馬が「現役最強馬」となった理由
そんなキタサンブラックの強さの秘密に迫るべく向かったのは、中央競馬の調教施設・栗東トレーニングセンター。
3歳と遅めのデビューだったキタサンブラックだが、初レースから3連勝し、さらに3歳馬で争われる菊花賞でG1初制覇とデビュー当初から結果を残してきた。しかし、調教師の清水久詞によれば、意外なことにデビュー前はそれほど期待をかけられていなかったという。
「走るたびに結果を出してくれて、この馬に失礼な思いをしていたなと。想像以上に強い勝ち方をしてくれるので」
競馬界では“血統”が最も重要視され、優秀な血を引く子供には時に数億円の値段がつくこともあるが、実はキタサンブラックの父・ブラックタイドは特筆すべき成績を残しておらず、その子供の取引額は平均しておよそ500万円と言われている。
では、なぜキタサンブラックは現役最強馬にまで成長したのか。そこには、生まれ持った類まれなポテンシャルとそれを最大限に引き出すための驚くべきトレーニングがあった。
普段からキタサンブラックを世話する辻田厩務員は当時の印象についてこう語った。
「3歳の夏を超えた時に体がいちばん変わった。体高も変わって幅も出て」
競走馬の平均的な体重は、およそ470kg~480kg。500kgを超えれば「大型馬」と呼ばれることが多いが、G1初制覇を前に、キタサンブラックの体重はなんと540kgに達していたという。さらに、調教師の清水はもうひとつ驚くべき才能を見出していた。
「デビュー当時から、競馬の直後も、きつい調教の後も、ケロッとしていて乱れた様子がなくて、この子の心肺機能は違うモノがあると競馬の度に思い知らされた」
どれだけ激しいレースをしても、ウィナーズサークルではもう息を整えていたというキタサンブラック。そこで清水は、あえて過酷な課題を与えてきた。栗東トレーニングセンターの一角に、高低差32mという急激な坂が800m続く調教コースがあるが、通常の馬なら1日1本走るのが精一杯。しかしキタサンブラックには、なんと3本も走らせていた。
そんな厳しい調教の成果もあって、現役最強馬が完成していた。キタサンブラックの走りは、スタートから先頭集団につけそのままゴールまで駆け抜ける、いわゆる「先行型」。
馬群をリードするスピードと、それを維持するスタミナが求められるスタイルだが、その大きな体から繰り出されるスピードと高い心肺機能が生み出すスタミナを武器に最後までペースを落とすことなく勝ち星を積み上げてきた。
その強さが最も際立ったのが、今年のG1天皇賞・春。いつものようにスタートから2番手と先行し、最終コーナーで先頭を捉えると、追いすがるライバルたちを寄せ付けず1着でゴールイン。タイムは3分12秒5と、あのディープインパクトが持っていたコースレコードを実に1秒近く縮める新記録で連覇を飾った。
騎手を務める武豊も、キタサンブラックの強さに太鼓判を押す。
「初めて乗った時からすると、いまは随分と逞しくなったし強くなった。どこかひとつ一部分が突出してるっていうよりも、全体的に高い能力を持っているという感じ。スピードもあるし、スタミナもあるし。逆に言えば欠点みたいな所が少ない非常に珍しいタイプの馬です」
◆現役最強馬から史上最強馬へ
有馬記念は、ファン投票によって選ばれた馬だけが走ることの出来る“1年の集大成”とも言うべきビッグレース。これまでオグリキャップ、ディープインパクト、オルフェーブルといった数々の名馬が引退レースに選び、幾多の歴史的瞬間が目撃されてきた。
キタサンブラックにとっては、去年ゴール直前で差し切られ2着と悔しい結果に終わった舞台でもあるが、このラストランで勝利すればG1歴代最多勝利と獲得賞金歴代トップを手にすることになる。
現役最強馬から史上最強馬へ、果たして最終章を有終の美で飾ることが出来るのか。<制作:Get Sports>
※番組情報:『Get Sports』
毎週日曜日夜25時10分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)