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『Destiny』最終回、何度もリピートしたくなる石原さとみ&亀梨和也のラスト。今度こそ決して離れない手の繋ぎ方を

<ドラマ『Destiny』第9話レビュー 文:木俣冬>

西村奏(石原さとみ)無双――。

20年前の環境エネルギー汚職事件にまつわる辻英介(佐々木蔵之介)の自殺、12年前のカオリ(田中みな実)の事故死、真樹(亀梨和也)の失踪、現在の放火事件、これらすべての事件の繋がりを奏は突き止めた。

すべての事件に関わっているのは真樹の父・野木浩一郎(仲村トオル)。放火事件によって昏睡状態に陥るも奇跡的に回復した浩一郎を奏は問い詰め、ついに真相を聞き出す。

奏、無双ではあるが、最終回前半は、仲村トオル劇場だった。

(※以下、最終回のネタバレがあります)

◆野木浩一郎(仲村トオル)の“真実”

元総理・東忠男(伊武雅刀)は20年前、息子・正太郎(馬場徹)が汚職事件に関与していた事実をもみ消すため、浩一郎を利用した。

証拠になる偽メールを仕掛け、それを英介たち検察がでっちあげたことにして、浩一郎に追求させたのだ。

浩一郎も最初は自分の行いは正義と信じてやっていた。あとから、東忠男の仕組んだことだったとわかったもののあとの祭りで、20年、ずっと沈黙を貫くことになる。そのことによって英介が自殺してしまったのだから、心が晴れることはなかっただろう。

東忠男に協力したことで、弁護士として名をあげ、8年経った頃、息子・真樹の友人・カオリが訪ねてきた。彼女の口から汚職事件が蒸し返されたときは生きた心地がしなかったに違いない。

しかも、真樹の恋人が英介の娘だなんて、英介の亡霊に呪われているような気持ちになったのではないだろうか。

まるで歌舞伎とかにありそうな因縁話である。「彼女もまたあの事件の犠牲者かもしれない」とつぶやく浩一郎と、カオリの自動車事故の回想場面にドキリとなった。

そして、カオリと浩一郎が話しているカフェに、東忠男の秘書・秋葉(川島潤哉)がいるんじゃないかと思わずテレビ画面に目を凝らしてしまった。

もしかして、秋葉がカオリの車に仕掛けをしたってこともあるのでは? 万が一、汚職事件の真相がこのまま暴かれてしまったら大変だから、秋葉が動いてもおかしくはない。でも、カフェには秋葉らしき人はさすがにいなかったし、そこは視聴者の想像に委ねられている。

カオリは死に、真樹も失踪してしまい、事件の真相の蓋は閉ざされた。が、12年後、真樹が戻ってきて、またしても事件のことを蒸し返してきた。

浩一郎は見た目はとてもクールだけれど内心、心臓バクバクしていたのではないかと、お気の毒になる。ここまで1ミリも浩一郎に心を寄せるところを発見できなかったが、ようやく同情できた。

放火によって入院中の浩一郎には毎日のようにカサブランカが贈られてきた。それは秋葉を通した東忠男の脅しのようなものだったのだ。お見舞いに香りのきついカサブランカもどうかと思ったけれど、それも含めて嫌がらせだったのかもしれない。

大きな家が全焼するほどの火事のなかで九死に一生を得た浩一郎は「僕はあの火事で生まれかわったのかもしれないね」とさわやかで、「その笑顔は少し真樹に似ていた」と奏に思われてしまうほど。

すべてを奏に話した浩一郎はドス黒さがなくなって、すっきりした顔色で奏に協力を申し出る。

◆20年前の事件の真相。この壮大な展開を解決する鍵は…

仲村トオル劇場を堪能したあとは、夜の病院の屋上。

奏から聞いた父の事情をにわかには信じられない真樹。

だが、浩一郎の懺悔(?)に立ち会った奏は彼を信じ、「真樹はとんでもないばかだ」が「でも父として真樹を大事にしている」と言っていたことをそのまま伝える。お父さんにも「ばか」といわれ、真樹、ほんとうにばかばか言われすぎ。

自分を含め、誰もが心配しているから、手術を受けてほしいと奏に説得された真樹は自分の命に向き合うことを決意し、奏は事件の真相に向き合う。ふたりのそれぞれの戦いのはじまりだ。

ふたりを苦しめることになり、いまもなお影を落とす20年前の事件の真相という壮大な展開を解決する鍵――そのアイデアはおもしろいものだった。

事務官・加地卓也(曽田陵介)が秋葉と繋がって奏の行動を監視していたときに使用していたガラケー。若い加地がなぜガラケーを使用していたかというと、秋葉がガラケーを使っていたから。

秋葉のガラケーは、20年前に捏造されたメールを送ったものだった。当然、データは消去されていたが、なぜか秋葉はガラケー使用料金を20年間支払続けていた。月2401円。20年とすると576240円。議員秘書には痛くない金額かもしれないとはいえ、なぜ……。

この証拠の品をもとに、奏は秋葉の取り調べに挑む。その日は真樹の手術の日だった。気がかりではあるが、奏は秋葉との真剣勝負に集中する。第2話で、カオリの十三回忌の法要に参列するため長野に行くはずだった日曜日、奏が違法薬物所持事件の参考人調書を行っていたことと重なる。

思えばこの事件も、息子の不祥事を親がもみ消そうとした事件であった。そして再び奏は、権力を持つ親子の不正に立ち向かうのだ。

◆奏は貴志…恋人だった2人の終わり

秋葉を取り調べる奏の口調は、上司・大畑(高畑淳子)に少し似ていたような気がする。奏の成長を、仕事のできる上司の醸す雰囲気に似せることによって表したのかもしれない。

まっすぐに純粋なまなざしで問いかける奏に、「やってません」という秋葉の反応は、しらばっくれるという言い方がぴったりだった。ここは、秋葉役・川島潤哉劇場。

態度は悪いが、元総理の秘書だから下品ではなく知性的ではある。やがて、厳しい奏の追求にもう誤魔化しきれないと悟った秋葉は、笑いだす。そのときもガハハと笑わず口をおさえてやや上品。

なにかのときに東忠男を脅す武器だったガラケーのデータを「殺されないようにもっていたお守りがじぶんの首をしめるなんてね」と自分を責めるように笑い続ける。秋葉も20年間、心落ち着かない日々を過ごしてきたのだろう。

川島潤哉は、朝ドラこと連続テレビ小説『舞いあがれ!』(22年度後期)で、リュー北条という名のうさんくさい編集者を演じて注目された。この役もやな感じに見える人物だったが、秋葉よりは親しみやすさはあった。

今回はとても澄ましていて、同じ人物には見えない。どんな役にも鮮やかに化ける俳優だ。

さて。秋葉の自白を得て、奏は病院に駆けつける。

「オペはうまくいきました」と報告する貴志(安藤政信)が丁寧語で、他人行儀な感じが切なかった。奏は最初「ありがとう」と気さくな言い方をしてしまうが、次は「ありがとうございました」と言い換える。これでふたりの関係はもう恋人同士ではないことが感じられた。

結局、貴志はどこかで豹変して災いを撒き散らすなんてことはなく、最初から最後までいい人だった。安藤政信が最後までどちらに転ぶかわからない微妙なところを演じてハラハラさせてくれた。

事件は解決、手術は成功。そして、奏と知美(宮澤エマ)と祐希(矢本悠馬)は長野にカオリのお墓参りにいく。退院した真樹は一番乗りでメロンクリームソーダを供えた。

◆何度でもリピートしたくなるラスト

何もかも終わったあと、ようやくふたりきりになる奏と真樹。でもここで、びっくりするのは、なぜか「さよなら」と別れようとすることだ。

「振り返ってはいけない。私と真樹ははじめから出会っていけない運命……」

と浸りながら去っていく奏に、おいおいおいと、誰もが思ったことであろう。

冷静に考えれば、事件は解決し英介の名誉も回復したとはいえ、浩一郎が英介を追い詰めたことには変わらない。言ってみれば、奏にとって真樹は親の仇のような存在である。その事実は変えようがない。

奏は貴志を傷つけてしまった罪悪感もあるだろし、その罪を背負って、しばらくは一人で仕事に邁進するという、そんな選択もあってもおかしくはない。ここで真樹と元サヤになってめでたしめでたしではなく、ハードボイルドな道を歩むのもかっこいいのかもしれない。

そして、科捜研の女・マリ子や、失敗しないドクターX・未知子みたいに、検事・かなでになってもいいかもしれない。いやいやいや、それはないない、おーーーい奏、と思った瞬間――。

このときの、石原さとみと亀梨和也、ふたりの表情の変化が何度もリピートしたいほど最高だった。

スローモーションで駆け出しながら「まさき」と呼ぶ声がオフになっているところは、第1話で真樹が別れ際、「おれがカオリをころした」の「ころした」がオフだったことと対になっているようにも見える。

悲しい別れ(あれもカオリの葬儀の帰りだった)から、12年の長い年月を経て、罪よりも深い愛を得た奏と真樹。今度こそ決して離れない手のつなぎかたをするのだろう。

最後まで真面目に真実に向き合った奏、最後まで友情を守ろうとした真樹、彼らのそれぞれの正義(愛)は世にはびこる不正に打ち勝ったのだ。

最後までドキドキが止まらない、でも、仕掛けだけではなく、ちゃんと愛のあるドラマだった。

※ドラマ『Destiny』は、TVerにて無料配信中

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※番組情報:『Destiny