【WRC】トヨタ、2018年シーズンにO.タナックが加入!マキネン代表の周到な戦略
10月18日、TOYOTA GAZOO Racingは、WRC(FIA世界ラリー選手権)の2018年シーズンを戦うドライバー体制を発表した。
18年ぶりの参戦となった2017年シーズンは、シーズン開始時はヤリ‐マティ・ラトバラとユホ・ハンニネンの2台体制だったが、シーズン途中の第6戦ラリー・ポルトガルから、テストドライバーのエサペッカ・ラッピが3台目のドライバーとして参戦している。
これは、スタッフの熟練度を上げてから3台目を投入するというチーム代表トミ・マキネンの周到な戦略の下で進められてきた。結果として、第11戦を終えた時点でシーズン2勝と、望外の結果で新体制のチーム初年度を進めている。
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そんなマキネン代表の2年目の戦略も足踏みする様子は一切見えない。それが、18日に発表されたドライバー体制だ。復帰2年目となる2018年シーズンは、最初から最後まで3台体制というライバルたちと同じ体制で挑む。
そして、そのドライバーとして選ばれたのが、第1ドライバーは引き続きエースのヤリ‐マティ・ラトバラ。第3ドライバーには、WRC2年目となる若手ラッピ。
そして、2017年は開発ドライバーとしてマキネン代表と共にチームを引っ張ってきたハンニネンに代わり、現在2017年シーズンのランキング2位につけているオット・タナックとの契約が発表されたのだ。
オット・タナックは、エストニア出身の30歳。1987年10月15日生まれなので、先日30歳を迎えたばかりだ。WRC戦歴は、2009年からスポット参戦しており、現在までに77戦出場。
今シーズンからコドライバーとして同じエストニア出身のマルティン・ヤルヴェオヤとコンビを組むようになると、第7戦のラリー・イタリアでWRC初優勝、第10戦のラリー・ドイチェランドで2勝目、さらに2位1回、3位3回と、その才能を一気に開花させた。まさにWRCで最も伸び盛りのタレントを手にした格好だ。
思えば、マキネン代表の手腕は常に一歩二歩先、もしかするともっと先を見据えて手を打つ棋士に近いのかもしれない。
2016年もギリギリまでトヨタはドライバーを発表せず、VWのチーム解散を見ると間髪をいれずラトバラ獲得を決め、さらにはWRC2王者となったラッピを押さえた。それでいて、チームを一緒に作り上げてきたハンニネンの処遇も忘れない。
そして今シーズンも、水面下で2018年シーズン以降を見据え、ライバルチームで走るドライバーたちを評価し最高のタイミングで成長しているタナックを引き抜いた。
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マキネン代表のコメントからも、タナックへの期待が読み取れる。
「かねてから注目していたオット・タナック選手をチームに迎えることができて嬉しいです。彼は若さと経験の理想的なバランスとメンタルの強さを兼ね備えており、我々のチームによく馴染んでくれると思います。
タナック選手は今季期待を上回る活躍を見せており、あらゆる路面においてスピードと安定したパフォーマンスを残せる。我々の強力なパートナーとなるはずです」
よく馴染んでくれるというのは、ひとつの大きなポイントかもしれない。
というのも、WRCを戦うTOYOTA GAZOO Racingが本拠地を構えたのは北欧フィンランド。スタッフの多くがフィンランド出身ということもあり、文化的にもフィンランドに近いほうがやりやすい。
その点、タナックが育ったエストニアは、フィンランドからバルト海を挟んだ対岸の地だ。しかも、フィンランド首都のヘルシンキとエストニア首都のタリンは海路で昔から結ばれた地で、現在も4社もの船舶会社が乗り入れ、海路も複数ある。フェリーの移動時間もほんの2時間強だ。
つまり、ベースとなる文化でお互いに分かり合える部分が多い。これは、一緒の方向で戦うにも大きな強みとなる。
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また、ユホ・ハンニネンのコドライバーを務めるカイ・リンドストロームは、最終戦ラリー・オーストラリアからチームのスポーティングディレクターに就任する。
過去にマキネン代表だけでなく、ペター・ソルベルグやキミ・ライコネンといったトップドライバーたちのコドライバーを務めていただけに、冷静沈着にラリーを俯瞰して戦略を立てるスポーティングディレクターには適任だろう。
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昨年は12月13日とかなりギリギリになってチーム体制を発表したトヨタだったが、来季に向けて2カ月も早い体制発表は、マシン開発を含め、いよいよ来季にチャンピオン争いを狙っていくという意思表示とも取れる。来季のトヨタは勝負を仕掛けるに違いない。<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>