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ドラマ『Destiny』第3話、考えぬかれた構成にスタオベ!椎名林檎の主題歌がもたらした絶頂感

<ドラマ『Destiny』第3話レビュー 文:木俣冬>

本気感が凄い。椎名林檎の主題歌『人として』が第3話にして正統派な使い方に。第1話、第2話とわざと外してきているのかなと思ったのだが、それはきっと第3話のためだったに違いない。

それについては後述するとして、順を追って物語を見ていこう。

(※以下、ネタバレがあります)

野木真樹(亀梨和也)とその父・浩一郎(仲村トオル)が激しく言い争っているところに出くわしてしまった西村奏(石原さとみ)。自殺したと思っていた奏の父・英介(佐々木蔵之介)だが、真樹は「(浩一郎が)殺した」と言っていた……。

さっそく奏は、父が死ぬ前に関わった環境エネルギー汚職事件について調べる。国会議員を収賄罪で追い込んだ英介を、証拠捏造の疑惑で逆に逮捕間近に追い込んだ弁護士が浩一郎だった。

現在、奏が担当している違法薬物所持事件と同じく、権力者が関わった事件が浩一郎によって有耶無耶になっているとは……。何かありそうな予感に心をざわつかせている奏のもとに浩一郎が訪ねて来て、奏は果敢に本題――環境エネルギー汚職事件の話に切り込んでいく。

検事である自分の仕事について「自分の正義を貫くこと、いや、正義を貫けるかどうか それが試される仕事かもしれないな」と言っていた英介が捏造などするだろうかと思う奏に浩一郎は、「(自分は)弁護士として正義を貫いた、そしてお父さんは負けた」「お父さんは自分で自分自身を裁いた」とまったく悪びれない。

混乱し、冷静さを欠いた奏は、浩一郎に「検事として聞いているの? それとも辻英介の娘として?」と問われ、両方と答える。すると、「だったら少々お粗末だね、検事としては」とばっさり。圧倒的に浩一郎のほうが上手であった。

◆12年ぶりに一堂に会した仲間たち

検事として、娘として、のみならず奏は、真樹の元カノとして、奥田貴志(安藤政信)のいまカノとしてのふたつの立場で揺れている。真樹と貴志が、奏を過去と現在からぐいぐい揺らしまくる。

真樹(亀梨)は微笑みの医師・貴志(安藤)に病院に呼び出されていた。

「すみません、お呼びたてして。ちょっと話したいことがありまして」と穏やかに語りかける貴志に、奏のことを話す気か? と思ったけれど、レントゲンの件だった。

その晩だろうか、真樹は奏のマンションの下まで来て、奏のスマホに電話をかける。なんで家まで知っているの? 貴志が教えたの? といささかぞわっとする。

真樹も貴志もふたりして、よく言えば一途、悪く言えば愛情表現が不器用でやや粘着質みたいにも見えてしまう。それもこれも奏の魅力であろうか。

奏と共に彼女の実家に遊び行った貴志は、母・西村悠子(石田ひかり)の前で「僕と結婚してください」と奏にプロポーズ。まだ返事をしていなかった奏でも「はい」というしかない。

貴志、不器用で誠実そうだが、意外と追い詰めていくタイプである。最近、急にプロポーズしたわけも、奏が遠くにいってしまいそうな予感があったからではないだろうか。

貴志はさらに、冷蔵庫に指輪を隠すサプライズを仕掛ける。まるで、奏の心を冷蔵保存するかのように。でも奏の心は冷却されない。熱くなる一方だ。

母は、夫・英介の死を乗り越えたようだが、奏はまだ、英介のことも、真樹のことも乗り越えられない。いや、むしろ、過去のことがいままた蘇ってきて心穏やかではいられない。

ひとりで抱えきれない奏は、知美(宮澤エマ)に相談しに彼女の家を訪ねる。

カオリ(田中みな実)の事故に真樹が関与しているのではないかと相談。12年前、お通夜の日「俺がカオリを殺した」と言ったのを聞いたと、奏ははじめて口にした。

ここは視聴者的には驚かない。第1話の口パク、「殺した」にしか見えなかったから。問題はそこではなく、なぜ殺したのかという心情である。

「罪を侵すか侵さないかって紙一重なんだよね」「踏み越えるか越えないか」――。奏は、検事だからこそ、人間の両義性を認識していた。

「もう引き下がれないんだよね、私真実知りたいから」なんて言っているところへ、祐希(矢本悠馬)が連れてきたのは……真樹!

12年ぶりに仲間が一堂に会す。カオリだけ抜きで。

◆奏と真樹、互いの引力…理屈を超えた“魔力”

このシーンは俳優の演技の見せどころで、4人それぞれの心の震えの表現が鮮烈で、クオリティがじつに高かった。

「会いたかったから」と逡巡しつつも思い切った真樹。

動揺する奏。

もっと動揺する知美。

ただ親切心で友情を復活させようとして、どうやらそういう状況じゃないことを感じて焦る祐希。

「奏に近づいちゃダメ」と真樹に注意する知美。

後ろ髪引かれながらも、ここは自分の居場所じゃないと察して去る真樹。

行ってはダメだと思いながら「いましかない、心のなかでそう声がした」と本能が動いてしまう奏。

「奏、ダメ行っちゃ」とやけに止めることを不思議に思う祐希に、「だって全部私が悪いから、全部私が悪いの」と絶叫する知美。奏と真樹の追走劇にこのアクションが入ることで、奏と真樹の再会の罪の意識が一層、高まった。

大学時代、カンニングはダメと思いながらゆるしてしまったように、奏と真樹の互いの引力には理屈を超えた魅力(魔力)があるのだ。

検事として真樹に真実を聞こうと思っているのか、元カノとして追いかけているのか。奏のなかでは混じり合ってしまっている。これではきっと浩一郎に、「だったら少々お粗末だね、検事としては」とまたダメ出しされてしまうだろう。

主題歌『人間として』が流れ、歩道橋で向き合う奏と真樹。ふたりは絶対離れない手のつなぎ方を……。

3話目にしてついに、これぞクライマックスというべく主題歌のかかり方である。1、2、3話とじらしたからこその絶頂感。考えに考えぬかれた構成にスタオベしたくなった。

椎名林檎の歌詞は正義という理屈と、人間の本能のせめぎあいを美しく、かつシニカルに謳っている。

なんだかんだ言って結局は自分たちの欲望に身を任せるしかないのではないかという極面に立った奏と真樹。この場面も俳優の演技の見せどころである。

真樹と向き合ったときの、奏のちょっと顎を引いた横顔は、大学生時代の気弱な雰囲気に戻っていて、石原さとみの演じ分けの細かさに唸る。大学時代の垢抜けない表情の出し方も抜群で、いい意味で化ける人だと思う。

亀梨和也は、知美の家での気まずさと、結婚すると聞いたときの「そうなんだ おめでとう、そうなんだ」と“そうなんだ”を繰り返すほどの動揺など、強気にふるまいながらほんの少しこぼれ出る弱さのさじ加減が名匠の域である。なんともいえない哀しみ選手権があったら、常に上位にランクインしそう。

12年間、ずっと奏を思っていたのだということがよくわかって、胸が締め付けられた。

真樹:「いいな、奏と結婚か」
奏:「なにいってるの」
真樹:「だな」

なんとなく別れてしまってからの再会で、どちらかに別の相手がすでにいても、なんとなく元サヤになりそうな、独特の親しい空気感。第2話の「すごいな、がんばったんだな」「そうだよ、がんばったよ」に次ぐ、脚本・吉田紀子氏の何気ない会話に宿るリアリティだった。

※番組情報:『Destiny
毎週火曜よる9:00~9:54、テレビ朝日系24局

※『Destiny』は、TVerにて無料配信中!

※動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」では過去回も含めて配信中!

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