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俳優・栁俊太郎、“命を奪う役”を演じる怖さ。先輩・浅野忠信の“涙”が今の自分のヒントに「本当にすごいです」

『MEN’S NON-NO』の人気モデルとして活躍し、パリコレやミラノコレクションにも出演経験をもつ栁俊太郎さん。

2012年に俳優デビューし、『今際の国のアリス』(Netflix)の“ラスボス”や『ヒル』(WOWOW)のヨビ役など衝撃的な役柄に挑戦。繊細かつ大胆な演技が話題に。一見わからないほど外見を激変させることも厭わず、幅広い役柄を演じ分け、2022年にはドラマ9本、映画4本が公開に。

2023年も『ハレーションラブ』(テレビ朝日系)、『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』(Netflix)など多くの作品に出演。2013年に撮影された初主演映画『僕の名前はルシアン』(大山千賀子監督)が渋谷ユーロスペースで公開中。

 

◆トイレで出くわしたゾンビメイクにビックリ!

2020年、『今際の国のアリス』でスキンヘッドで顔面には大きなタトゥーという衝撃の姿でラスボス役を演じた栁さん。2023年8月には『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』に出演。

この作品は、世界がゾンビパンデミックで崩壊し、街中にゾンビが溢れるという絶望的な状況のなか、「これでもうブラックな会社に行かなくてすむ」とポジティブにサバイブする主人公・アキラ(赤楚衛二)が奮闘する姿を描いたもの。栁さんはアキラの親友で、アキラとシズカ(白石麻衣)とともに生き延びるために戦うケンチョ役を演じた。

――『今際の国のアリス』とはまた全然違うタイプの作品でしたね。

「ああいう役はなかなかやったことがなかったです。3枚目の役もありましたけど、どちらかというと人を襲う側の役が多かったんです。ゾンビ映画を撮るとしたらゾンビになるほうが多かったので、主人公の手助けをするという設定が新鮮でした(笑)。何かちょっとヒーローになった気持ちで、あんなにポジティブに撮影を終えられたことはないですね」

――この作品もスケールがすごかったですね。

「プロデューサーが『今際の国のアリス』と同じ方なので、『きっとまたスケールがでかいことをしてくるのだろうな』って思っていたんですけど、あの歌舞伎町も横浜にセットで作ったんですよ。

『歌舞伎町でどうやって撮るんだろう?』って思っていたらセットで、『あー、案の定歌舞伎町作った』って(笑)。『アリス』のときに渋谷のスクランブル交差点を栃木で作っていたので、免疫がついていたんですけど、それでもやっぱり最初は驚きました。『渋谷だ!』って(笑)。漫画の原作者も『アリス』と一緒なので、すごくご縁を感じていますし、ありがたかったです」

――かなりの数のゾンビが登場しましたが、撮影されているときはいかがでした?

「めちゃくちゃリアルで怖かったです(笑)。普通にトイレですれ違ったりするんですけど、めちゃくちゃビビりました。朝、ヘアメイクが終わってトイレに行こうと思ったら急に扉が開いて、後ろからあの姿で出てきて『すみません』とか言われて(笑)。

『いや、こちらこそびっくりしてしまってすみません』という感じなんですけど、それが何百人もいるって感じでしたから、本当に怖くてリアルな演技ができました」

――一発で眠気も冷めますよね。昔はゾンビはゆっくり動くイメージがありましたけど、最近のゾンビはものすごく早くて。

「たしかにそうですね。ゾンビのあのスピードも、感染してからの時間でどう変わっていくのかを、監督も結構大事にしていたのでおもしろいですよね」

――この作品では、赤楚さんと栁さんは親友という設定で、お互いに守り合ってゾンビと戦う仲間でした。『ヒル』ではかなり激しくいたぶっていましたね。

「『ヒル』では本当にイヤなやつの役だったので、赤楚くんに『ゾン100』の現場で、『本当にあのときには栁くんにめっちゃムカつきました』って言われましたけど、『ゾン100』では仲良くできて良かったです」

©「僕の名前はルシアン」製作委員会

※映画『僕の名前はルシアン』
渋谷ユーロスペースで公開中
配給:Tokyomuse Films 合同会社
監督:大山千賀子
出演:栁俊太郎、菜葉菜、大鶴義丹、大島葉子、定岡正二

◆事件の資料を調べていくうちに心が…

現在、2013年に撮影した初主演映画『僕の名前はルシアン』が、約10年の月日をかけて完成。満を持して渋谷ユーロスペースで公開されている。

この映画は、自殺願望をもつ若者たちがその願望を共有するサイトで知り合うところから始まる。愛を求める孤独な10代の少女は、インターネットで「ルシアン」と名乗る理想的な男(栁俊太郎)と知り合う。同じ頃、連続殺人事件が発生。遺体に暴行の痕跡はなく、犯行動機もわからないままで、捜査は難航していく。栁さんは、主人公の美しきサイコパス・ルシアンを演じた。

――撮影は、2013年に行われたということですが、当時の状況はいかがでした?

「当時は何もわかっていない状況でした。今あらためて『観ろ』と言われたら、僕自身はちょっと…という感じなんですけど。やっぱり過去の自分というのは、観るのが怖いじゃないですか。だからなかなか複雑な思いがあります。

でも、当時は本当に一生懸命やっていました。ただ、とてもハードな内容なので、現場では本当にしんどかったという印象が残っています。どうしたらいいかわからなかったし。ルシアンの中にいるモンスターの部分を出さないといけないので、気持ち的にも体力的にもすごくしんどかったです」

――当時はまだ20代前半でしたしね。

「そうですね。当時はまだ役者として経験も浅かったですし、映画の話をいただけるだけで、もう何にでも挑戦したいという気持ちだったんです。しかもこんなに出番の多い役はなかったので、『ぜひ、ぜひ!』という感じでお受けしました」

――撮影が始まっていかがでした?

「撮影に行く前は、毎回心臓がバクバクしていました。いろいろなことを考えて芝居できるぐらいのスキルもなかったですし、(サイコパスを演じるのは)本当にもう魂が壊れるところまで壊れなきゃいけなかったのできつかったですね。

それはすごく怖いことで、本当に心臓がバクバクして、『ちょっと休ませてください』っていうときもありました。当時は、やっぱりメンタルが全然追いついてなかったですよね。でも、そういうのも、当時ならではの経験だったので、鍛えられたなって思います」

――連続殺人犯ですから、実生活ではないことですしね。

「そうですね。だから、そういうニュースや事件などを当時深く調べたりしていると、やっぱりズシンと来るんですよね。そういうものばかり見ていると精神的にきつくなってくるし…。

でも、それをやらなきゃいけないというのもわかっているし、それを出さなきゃいけないという現場はつらかったです。当時こういう事件が結構多かったですし、ネットがまだそこまで規制されていない時代だったので」

――この映画の後も同じような事件が増えましたね。

「当時は警察があまり関与できなかったので、今観るとどう思うんだろうと思いますね。『今の人が観ると、こんなことはあり得ないと思うのかな』とか。

ネットの世界はもっとすごかったし、もっと荒れていましたからね。実際、それで傷ついた人も多分いっぱいいるでしょうし、こういう事件も多かったので。

だから、これを観た若い人がいたら気をつけて欲しいというか、そういうことにならないように気をつけようと思ってくれればいいなあと思います。

こういう作品を作る側の人間として、『どうなっちゃうんだろう?』っていう怖さみたいなものはやっぱりありました。自分の中にあるかもしれないモンスターの部分をいろんな人に見られる怖さというか。もちろん仕事だし、そういう職業だからどんな役をやってもいいんですけど、自分に余裕がなかったので、そういうことも色々考えると、撮影現場に行く前は結構つらかったなって思います。

以前、浅野(忠信)さんの友だちに聞いたんですけど、浅野さんが焼肉屋で『俺、明日(撮影で)人を殺さなきゃいけないんだけど、そいつにも家族がいるわけだし、親もいる。それを考えると、そいつにもその親に対しても申し訳ないし、俺は絶対泣いていると思うんだよね』って。

『人を殺しに行く前日ってどういう気持ちなのかって考えたときに、絶対それでお別れする人がいて、その人とお別れすることって多分そいつにとって絶対気持ちいいものではないし、俺がこいつだったら泣いていると思うんだよね』って言いながら、浅野さんが泣いていたらしいんですよ。涙を流して泣きながら相談してきたらしくて。

それを聞いて、僕はその撮影がどうなったのか個人的にすごく気になったので、浅野さんに聞いてみたんです。そうしたら、次の日にサングラスをして現場に行ったらしいんですよ。

サングラスをかけるシーンじゃなかったので、『何で浅野さんサングラスかけているんですか?このシーン、サングラスはいらないですよ』って言われたときに、『見てください。俺、昨日泣いて、こんなに目が腫れちゃったんですよ。役的にはそれありじゃないですか?』って言ったら、『それおもしろいですね、じゃあそれでいきましょう』って、サングラスをかけて出ることになったって。

サングラスをひとつかけることによって、目を見せないということでその人の人を殺す前の覚悟が感じられたり、その人の人間らしいところがちょっと見られたりするというヒントでもあると思うから、そういうところを大事にしていかないと、人を殺すシーンとか、そういう役が多い僕はパターン化してきちゃうなって思って。パターン化してしまうとおもしろくなくなるし、新鮮味がなくなるだろうなと思うので、そういうことを先輩から教わりました」

――浅野さん、すごいですね。

「そうですね。本当にすごいです。あれだけ人を感動させている人って、やっぱりいろんなことを考えているんだなあってあらためて思いました」

 

◆気分転換は料理を作ることと愛犬の存在

ドラマや映画のオファーが絶えず、出演作品が続いている栁さん。振り幅の広い役柄に挑戦し続ける癒しの存在は、20歳のときから一緒に暮らしている愛犬・メリーちゃんだという。

「一番リラックスできるのは、料理を作って晩酌をしながら犬と一緒にテレビでスポーツ観戦をしているときですね。料理をしているときがすごく無心になれていいんです。でも、犬は一番の癒しの存在だし、心の切り替えにもなるんですけど、人を殺したり、ネガティブな役をやるときって、犬のことを考えるとつらいんですよ。

たとえば、『僕の名前はルシアン』のルシアンに飼っている犬がいたら…とか考えるだけで、結構きついですね。何かそれぐらい守るものがあるということはつらいことでもあると思うんです。

だから、将来もし子どもができたりしたら、どうなっちゃうんだろうって思ったりします。強くなるのか、逆に抱え込んでしまって命を絶つ人も実際にいるわけじゃないですか。結局何か守るものが多くなったときにそうなってしまう人も多分多いと思うので、自分ではやっぱり絶対強くあるべきだなと思いますけど、難しいですよね。

役が終わったらスパンって切るというのは、なかなか難しい。引きずっている気持ちはないんですけど、そこの切り替えは先輩たちに色々聞いてみたいです」

――今後はどのように?

「今入っている仕事、目の前のことをこなすということです。将来的にというのは、やっぱり一番に人間としてカッコ良くクールで、こういう男になりたいというところを追い求めることですかね。そうなると役が入ったときの考え方もどこかで影響してきて、善い人ができたり、自分がいいな、おもしろいなと思える役ができるんじゃないかなと思っています」

演じる役柄によっては、一見本人だと気が付かないほど外見を激変させることも厭わず、真摯に向き合う姿が清々しい。オファーが絶えないのも頷ける。

公開中の『僕の名前はルシアン』に加え、2024年1月19日(金)には映画『ゴールデンカムイ』(久保茂昭監督)が公開予定。勢いが止まらない。(津島令子)

ヘアメイク:望月光(ONTASTE)
スタイリスト:伊藤省吾(sitor)