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ドラマ『unknown』最終回で描かれた、あまりに悲しい“愛”の交錯。「本当のことなんて。誰にもわからない」

<ドラマ『unknown』最終話レビュー 文:横川良明>

すべての悲劇は“愛”から始まった。

ついに完結を迎えた『unknown』。そこにあったのは、悲しくて、やりきれない、愛の交錯だった。

◆町田啓太が焼きつけた“加賀美圭介”という消えない痕跡

なぜ加賀美圭介(町田啓太)は吸血鬼を憎むのか。それは、かつて児童養護施設にいたときに、職員だった今福梅(木野花)がついた咄嗟の嘘から始まっていた。

両親の死により心に深い傷を負った加賀美が、少しでも前を向けるように、両親が死んだのは悪い吸血鬼のせいだと嘘をついた。

「悪い子にしてると鬼に連れていかれちゃうぞ」なんてよく小さい頃に言われたけれど、あれと同じ。言った張本人さえ忘れてしまうようなほんの子ども騙しのつもりだった。

だけど、加賀美はそれを信じてしまった。梅の加賀美に向けた“愛”が、加賀美の人生を狂わせてしまった。

しかも、その真相にはさらにもうひとつの秘密があった。

なぜ加賀美の両親は死んだのか。その本当の死因は、加賀美が摘んできた鈴蘭による中毒死。両親への加賀美の無邪気な“愛”が、すべての始まりだった。その真実を隠すために、梅は嘘をついたのだった。

誰も恨めない、誰も責めることもできない、残酷な結末。いっそもっと加賀美が同情の余地もない極悪人だったら、正義の顔をして石を投げることができただろう。でもそうではないから、たくさんの罪なき人の命を奪ったことに対する怒りと、どこかで何かが違っていたらこの結末は変えられたのだろうかというやるせなさが、心の中でノッキングを起こす。

逃亡した加賀美は、森の中で闇原こころ(高畑充希)にアイスピックを向ける。でも、どうしても振り下ろすことはできなかった。親友の命さえ呆気なく奪ってしまったのに、なぜこころを手にかけることはできなかったのか。

それは、知ってしまったからだろう。一緒に笑って、一緒にはしゃいで、時には仕事の文句も言いながらチューペットを半分こにして、長い長い張り込みの夜を一緒に過ごした。

こころのことを何も知らなかったら、「悪い吸血鬼」だと簡単に一括りにできた。でも、知ってしまったから、ハエを叩き潰すのと同じようにはできなかった。

ずっとわからなかった。あの血の味のキスでこころを吸血鬼だと確信したなら、そのあとに見せた加賀美の優しさはなんだったのだろうと。

こころが悲しいときは、壁になって泣かせてくれた。こころと朝田虎松(田中圭)が喧嘩したときは、さくらんぼ園まで連れ出してくれた。本当にこころを「悪い吸血鬼」だと憎んでいるなら、もうこんな茶番を演じる必要はないのに、どうして加賀美は最後まで優しくしてくれたんだろうと。

でも、あの「嫌いになった?」という回想で、謎が解けた気がした。あのとき、こころは「加賀美が何しても嫌いにはならない」と答えた。

今思えば、とても暗示的な台詞だった。加賀美がどれだけ自分のやっていることに罪悪感を抱えていたかはわからないけど、すでに罪を重ねている者にとっては救いのような言葉だ。加賀美は、いちばん嫌っている存在に救われたんだと思う。

何よりあの「嫌いになった?」は、もしかしたら自分自身への問いだったのかもしれない。信頼していた相棒が、吸血鬼だった。憎むべきはずなのに、傷ついている自分がいる。この動揺の正体がわからなくて、加賀美自身が聞きたかったんだと思う、「こころのことを嫌いになった?」と。

そして、その答えがようやく出た。だからアイスピックを力なく下ろした。

これから加賀美はどうやって生きていくのだろう。わかりやすい憎悪の対象があった方が、人は生きやすい。憎しみは、生きるエンジンになる。でも、今はもう誰も憎む相手がいない。

むしろ自分が奪ってきたのは、善良で、慎ましく、もちろんたまに悪さをしたり、ひどいことを言ったりするかもしれないけど、自分の人生を毎日一生懸命に生きているだけの、自分たち人間と変わらない尊い命だったと知ったこれからは、もっともっと苦しい人生になるだろう。罪の重さに耐え切れず、いっそ狂ってしまった方が楽かもしれない。

でも、その重圧こそが加賀美が背負うべき罰なのだ。そんな描かれていないことを考えてしまうくらい、加賀美が頭から離れない。

一晩経っても解けることのないこのやりきれなさは、それだけ視聴者の心に強く強く加賀美圭介という人物が残った証拠。吸血鬼の噛み跡のような消えない痕跡を、町田啓太が焼きつけた。

◆高畑充希が体現した“慈愛”の精神

『unknown』が「愛の物語」であるならば、それを最も強く体現したのは、こころ役の高畑充希だったと思う。

正直、仲間たちの命を奪い、自分まで殺そうとした人間を家に呼ぶこころの神経は理解しかねた。

虎松が怒るのも無理はないと思う。虎松にとっては、父親代わりの世々塚幸雄(小手伸也)を殺した相手だ。加賀美との関係性も、こころほど深いわけではない。こころと虎松とでは、加賀美に向ける感情は相似ではないのだ。

だから、加賀美に向かって怒りをむき出しにする虎松を必死で止めるこころを見て、どっちの味方なんだろうという思いが湧いた。もちろんそんなことは簡単に決められるものではないのだけど、ちょっとこころが加賀美に寄り添いすぎているように見えたのだ。

でもその危うさを、高畑充希はそのあとの演技で跳ね除けた。

こころに馬乗りになる加賀美。その顔は、吸血鬼は倒さなければいけないのだという使命感と、その呪いが解けたことを信じたくない気持ちとで引き裂かれるようだった。

一方、こころは組み敷かれているのにどこか凛然とすらしていた。いたわりとも同情とも違う。目の前にいる人の苦しみをすべて受け止めようという覚悟の浮かんだ表情だった。この表情が感傷的になりすぎていないから、こころがずるい女にならなかった。

そして、「なんで……?」と加賀美の中で張りつめていたものが崩れかけた瞬間、こころも悲しげに眉を寄せる。ちゃんと加賀美に、こころが寄り添っていた。

異性愛とはまったく違う。母性愛に限りなく近い慈愛をここで高畑充希は体現した。だから、「愛の物語」という言葉が陳腐にならなかったんだと思う。

◆田中圭が貫き通した“人間らしさ”

なぜ最後に虎松が銃を外したのかも、いろんな読み解きができる。

殺人犯の父と同じ道を歩んではいけないという自制心もあっただろう。父はいなくなったけど、彼には世々塚や街の人たちなど家族みたいな存在がたくさんいた。彼/彼女らから教えてもらった優しさが、虎松を引き留めたという見方もできる。

でも僕は、虎松がこころを愛していたからだと思った。こころは虎松にお願いした、「加賀美のこと捕まえて」と。こころが願ったのは、加賀美を憎むことでも、復讐することでもない。その約束を守ることが、自分のやるべきことだ。そうわかっていたから、虎松は銃を外した。それが、虎松にとっての「愛の物語」だった。

田中圭は、最後まで人間味たっぷりの虎松だった。加賀美との晩餐で見せた、あの抑えきれない憤りを必死に鎮める顔は、田中圭らしいまさに“生きた”顔。しきりに上下する喉仏。震えるようなまばたき。田中圭の芝居に人間らしさを感じるのは、そうした身体と連動した表現から感情が伝わってくるからだ。

それでいて、暁凛(MEGUMI)にディスられているところはなんともチャーミング。「アラフォーなのに少年感出してくる」はこのチームだから出てくる台詞。田中圭には、アラフォーどころか永遠に少年感を出し続けてほしい。

◆『unknown』から考える“愛”の正体

「わからないですよね、本当のことなんて。誰にもわからないんですよ。なのに、わかった気になって、憶測で勝手なことを言うのはもうやめにしませんか」

伊織(麻生久美子)のラストの台詞は、このチームからの社会へのメッセージとも受け取れる。わからないものをわからないからと言って迫害したり差別したり、あるいはわかったような顔をして、自分の理解できる範疇の現象に置き換えたり問題を矮小化する。

理解不能な狂人はみんな「サイコパス」。凶悪犯罪の原因は「社会の歪みの犠牲者」か「生育環境に問題があった」か。でも、真実はそんなにわかりやすいものではない。

だから簡単にわかったふりをするのではなく、わからないものをわからないまま受け入れた上で、わかろうと努力を重ねる。とても難しいことだけど、その真摯さが必要なんだと思う。

そういう意味では、五十嵐大五郎(曽田陵介)の存在はある種象徴的だった。大五郎にとってはまったくの赤の他人である加賀美に、大事な母親を殺された。メインキャラクターの中で最もストレートに加賀美に憎しみを抱ける立場だ。

けれど、大五郎はもう少し冷静に加賀美との距離を測っているような印象だった。もちろん許さなくたっていい。でも、なぜ加賀美がそういうことをしてしまったのかを知ることが、彼自身の心の平穏のために必要だから目はそらさない。

手を替え品を替えコロッケの差し入れを続ける梅。そんな彼女に付き添う大五郎の思いが見て取れる気がした。

虎松の父・一条彪牙(井浦新)の事件の真相は結局最後までわからないままだった。庭月源治(酒向芳)の話していたことが真相のすべてなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。そこは“unknown”のまま、というのがこのチームの出した答えなのだろう。

実際、人生ですべての謎が解き明かされることはない。あのとき、あの人はなんであんなことをしたんだろう。あのときの言葉はどういう意味だったんだろう。一生解けない“unknown”を抱えたまま人は生きていく。

虎松も、きっとこれからも折にふれて父を思い出すだろう。そのたびに、なぜ父は人を殺したのかわからずに苦しむことだってあるかもしれない。

でも大事なのは、それまで過ごした父との愛しい日々まですべて偽物だったわけではないということ。親子でも、夫婦でも、恋人でも、友達でも、相手が自分に見せるのは、その人のごく一面でしかない。すべてをわかったつもりになるのは欺瞞だけど、一方でだから誰も信用できないというのもまたエゴイスティックだ。

その人が、自分に見せようとしてくれた一面を信じて大切に慈しんでいけばいい。それが、僕は“愛”なのだと思う。(文:横川良明)

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