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圧巻の“町田啓太劇場”!ドラマ『unknown』、クライマックスに向け急転直下の“裏切り”も

<ドラマ『unknown』第8話レビュー 文:横川良明>

いいサスペンスには“裏切り”がある。

きっとこんなオチになるだろうという予想を軽やかにひっくり返し、観客に衝撃を与える。

ついに犯人が明らかになることが予告されていた『unknown』第8話は、まさにそんな“裏切り”と共に幕を閉じた。(※以下、第8話のネタバレを含みます)

◆視聴者を釘付けにした“圧巻の町田啓太劇場”

世々塚幸雄(小手伸也)が死んだ。現場に駆けつけた警察から逃れるべく走り去る闇原こころ(高畑充希)。窮地のこころを救ったのは、加賀美圭介(町田啓太)だった。

なぜこんなところに加賀美が……? かすかな疑念は、やがてどんどん膨らんでいく。エンジン音だけが響く静かな車内に、こころと加賀美の会話だけがぽつぽつと続く。

なぜ結婚式の日、自分は助かったのか。こころの推理を聞いた加賀美は、短く「そうかもね」とこぼす。そのリアクションを見て、こころも何かを量りかねているようだった。いつもと違う不穏な空気が2人の間に立ち込める。

そして、加賀美の車は、人目を避けるように、かつて加賀美が暮らしていた児童養護施設へ。もうこのあたりで全視聴者が思うわけです。

これはもう加賀美が犯人で決まりやん、と。

閉鎖された施設内に忍び込むこころと加賀美。ずっと見ていた加賀美の背中が、今日だけすごく遠くに感じる。

加賀美はいつも優しかった。つまずいたら支えてくれるし、陽射しが強ければスッとカーテンを引いてくれる。でも、その優しさが今日は怖い。

鳴り響く『トルコ行進曲』のオルゴール。恐る恐るこころは尋ねる。「吸血鬼とかって、信じる?」と。すると加賀美はいつものように「え?」と笑って、こう言った。

「どういうこと?」

もうこの瞬間の恐怖ったらないですよ。完全にホラーだった。日本三大ホラーは、貞子と伽椰子と町田啓太でした。

ただ真顔なだけなのに、この人が正常ではないことがわかる。目に光がないのです。

貧血を起こしたこころは、血の成分が入ったタブレットを取りに車内へ戻る。いや、もうそのまま絶対に車をかっ払って逃げた方がいいって! 目の前にいる人間は、明らかにやばいやつです。

しかし、こころは再び加賀美のもとへ。加賀美は、昔読んだ悪い吸血鬼の絵本の話をする。

「知らないか。こころも読んだことあるのかな〜と思ったんだけど」といつものようにおどけた声で、絵本を投げ捨てる加賀美。もうね、声と行動が一致してなさすぎるのよ。こころと同じタイミングでビクッとしちゃったわ。

そして、眩暈を起こすこころに向けて「血が足りない?」と、こころのバッグからかすめ取ったタブレットを見せる。ここでうまいのが、この一連の仕草の間、一瞬たりともこころから目を離さないところ。

じっと問うような、責めるような目で、こころを見つめたまま、手だけでポケットからタブレットを取り出す。普通ならポケットに一度視線を落とすのが自然な仕草なんだけど、そういう人間的なアクションを意図的に省いている分、余計に不気味さが際立つ。

加賀美の恐ろしいところは、こうした冷酷性と幼児性が矛盾なく共存しているところです。「人間にとって害だから」とこころに向けた視線は冷血そのもの。

一方で、「ショックだったなあ。なんか裏切られた気がした」と残念がる口ぶりは、まるで友達と遊びに行く約束を反故にされた子どもみたい。

そう。加賀美の言動は、まるでヒーローごっこをしている子どものよう。自分を正義の味方だと思い込んでいる。駆けつけた朝田虎松(田中圭)に対して「俺はただ虎さんを守ろうとしただけです」とにっこり笑顔を見せる加賀美は、自分のやっていることに1ミリの疑念も罪悪感もない。

サイコパスでもシリアルキラーでもない。人類を未知の外敵から守る正義のヒーローとして、町田啓太は加賀美圭介を演じた。それがあまりにも異様だから、視聴者は加賀美に釘付けになる。

爽やかで人当たりが良く、でもどこか飄然としていて掴みどころがない。これまでの7話を通して町田啓太が築き上げてきた加賀美圭介像が反響板となって、恐怖と戦慄がより冷え冷えと響き渡る。まさに“圧巻の町田啓太劇場”というべき第8話だった。

◆絶叫で終わった急転直下のクライマックス

吸血鬼殺人事件の犯人は、加賀美だった。ある意味、これは多くの視聴者の予想通りだっただろう。提供バックの「予測不能な衝撃の真相とは…?」という煽りを見ながら、いやいやちゃんと予測できてましたけど〜とドヤ顔をしまくっていた。

だが、このドラマの“裏切り”はそのあと。

こころを殺そうとした加賀美が、突然血を吐いて倒れた。同じ頃、伊織(麻生久美子)が何者かに襲われる。海造(吉田鋼太郎)が捕らえた犯人は、今福梅(木野花)。そして梅婆は自白する、「私が全部やりました」と。

まさに急転直下のクライマックス。すみません、完全に予測不能でした。

え? なんで梅婆? いったいどういうこと〜〜〜??? という絶叫のまま第8話は終了。すべての真相は最終回へと持ち越された。

もうここからは完全に憶測だけど、梅婆のあの自白は加賀美を庇ってのことだろう。加賀美が血を吐いたのも、梅婆からもらったコロッケになんらかの毒物が仕込まれていたから。

つまり、梅婆は加賀美の犯行を知っていて、これ以上加賀美が罪を重ねないように毒を盛った上で、自らが犠牲になる覚悟を決めたということになる。

それだけ深いつながりが加賀美と梅婆の間にあったということか。梅婆は、加賀美の祖母なのだろうか。あるいは、加賀美が過ごした児童養護施設の関係者という説もある。となると、第1話で梅婆の家を訪ねたのは、やはり加賀美という線が濃厚になる。

また、世々塚も五十嵐まつり(ファースト・サマーウイカ)も吸血鬼だったことが判明。他の被害者も同様に吸血鬼だった。なんて吸血鬼人口密度の多い街!! と思わなくもないが、言ってしまえば僕らが生きている現実だって本当はこころのようにこっそりと吸血鬼が暮らしているのかもしれない。相手が隠していれば、知る由はないのだ。

また、本作における吸血鬼とは「他の人とはちょっと違うもの」のメタファーである。どんなに平凡に見える人だって、「これって自分だけなのかな」と思うような違和感やコンプレックスは大なり小なりあるだろう。

でも、そんな自分だけが抱えているように見える悩みや差異も、打ち明けてみれば他の人も同じように感じていたというのは、よくある話。そういう意味では、取り立てておかしなことでもないのかもしれない。

◆二元論がもてはやされる現代が生んだ“加賀美”という怪物

いよいよ残すところは最終回のみ。なぜ加賀美がそれほど吸血鬼を憎むのかという動機の面が気になるけど、実はこれ自体はそんなに深い理由はなくてもいいのかもしれない。

もちろん親を吸血鬼に殺されたとか考えられるパターンはいろいろある。でも、単純に「自分とは違う」という理由で吸血鬼を駆逐しようとしていた方がリアルな気もする。

だって、現実社会も「自分とは違う」というだけで迫害される人たちがたくさんいる。人間は、自分とは違うものに恐怖を感じる生き物であり、自分の生活を守るために他の命を犠牲にすることは、僕たちだって日常の中でごく普通に目にしていることだ。取り立てて加賀美だけが異常なわけではない。

加賀美が虎松に対して無邪気な親愛を寄せるのも、虎松が人間だから。加賀美にとって、人間は善であり吸血鬼は悪。それだけで殺す理由は十分だ。こころは「私、なんか悪いことした?」と聞いたけど、殺す側はそんな1人ひとりの心情まで斟酌はしない。

敵国だからという理由だけで、人を簡単に殺してしまえる。そんな戦争を何度も何度も引き起こしてきた人類に、加賀美を異常だなんて言うことはできない。

特に、今の世の中はなんでも二元論でジャッジしたがる人が増えた。加賀美はそんな現代の産物なのだろう。

だとしたら、そんな加賀美にこころと虎松はどう対峙するのか。予告でこころを襲おうとしている加賀美に向けて銃口を構える虎松が映し出されていたけれど、あの3人の場面が大きな見どころになりそうだ。

人と吸血鬼。それぞれ異なる性質を持った者同士が手を取り合って生きていくために必要なものはなんなのか。もしそれが愛だとしたら――。このドラマがラブサスペンスと銘打たれている意味を、僕たちは最終回で知るのかもしれない。(文:横川良明)

※番組情報:『unknown
【毎週火曜】よる9:00~9:54、テレビ朝日系24局

※『unknown』最新回は、TVerにて無料配信中!(期間限定)

※動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」では過去回も含めて配信中!