ドラマ『unknown』第4話、やっと下ろすことのできた重荷。“全身で”泣いた田中圭の演技に胸を掴まれる
<ドラマ『unknown』第4話レビュー 文:横川良明>
田中圭の泣き顔は、なんだか心のいちばんデリケートな部分を突き刺すものがある。
殺人犯の息子としてずっと秘密を抱えて生きてきた朝田虎松(田中圭)。『unknown』第4話は、彼が背負い続けた重荷をやっと下ろすことのできた回だった。
◆田中圭は、顔ではなく全身で泣く
泣きの演技は、俳優の個性がよく出るところだと思う。まるで氷が溶けるように、すっと美しい涙を流す俳優もいれば、火口から噴き出すマグマのように、感情を爆発させて泣く俳優もいる。
田中圭は、綻ぶように泣く。きゅっと締めつけていた心の靴紐が、人の優しさや愛にふれて、思わず綻ぶ。自分の急所を直撃されて、鼻先に痛みがこみ上げる。
その表出があまりにも生っぽくて、田中圭が泣くと、つい気持ちがシンクロしたり、ほだされたりしてしまう。
第4話では、そんな印象的な泣きのシーンが2つあった。
1つ目が、親代わりである世々塚幸雄(小手伸也)との場面。闇原こころ(高畑充希)を失うのが怖くて、秘密を言い出せなかった。そう本心を明かした瞬間、いつもおちゃらけて振る舞っていた虎松が、別人みたいに弱い顔になる。
その顔を見て、常人の想像が及ばないかたちで家族を失った虎松にとって、自分の家族をつくることがどれほど勇気のいることだったのかを視聴者も思い知る。顔じゅうにシワをつくり、少し腫れぼったくなったような目元に、胸が痛くなる。
何より世々塚に肩を抱かれ、涙を鎮める代わりにハイボールを煽り、決意を固めたように世々塚を見上げたときのその顔がいい。泣き止んだとき、人ってこういう顔になっているよなと、近しい誰かを思い出すようなリアリティがある。ほどけた靴紐を結び直して、ちゃんとこころに向かって走り出すことを決めた顔をしていた。
2つ目が、クライマックスの闇原邸のシーン。海造(吉田鋼太郎)に向かって虎松の胸の内を代弁するこころの言葉を聞いて、また感情が綻ぶ。その場で崩れ落ち、嗚咽が漏れないように手の甲で口元を必死に押さえつける。
体の強張りも、震えも、とても鮮明で、顔で泣いているのではなく、全身で泣いているから、田中圭の泣きの演技につい胸を掴まれてしまう。
しかもウエディングドレスの試着のシーンであそこまで振り切ったテンションではしゃぎまくった姿を見ているから、余計にコントラストが際立つ。
日なたの真ん中で人を明るくする虎松と、日陰の隅で誰にも見つからないようにうずくまっている虎松。その両方を田中圭がしっかりと体現してくれるから、朝田虎松というキャラクターが立体的になるのだ。
◆このドラマにコミカルパートが必要な理由
そして、今回はセンチメンタルなパートを田中圭が担った分、いつも以上に高畑充希のコメディエンヌの才を堪能できた回でもあった。
虎松の過去を知りつつ、本人の前では知らないふりをする。その動揺を、小気味のいい心の声でコミカルに表現してくれた。序盤の朝食のシーンなんて、台詞のテンポとノリの良さに、切迫したシチュエーションのはずがつい笑ってしまう。
熱演しすぎる世々塚を前に「こわいこわいこわい」と本音が漏れ出るところだったり、充実しすぎている海造の伊織(麻生久美子)コレクションを前に「愛、重」と呟くところだったり、高畑充希は台詞の緩急が絶妙なのだ。
持ち前の音感とリズム感が、彼女のキレのいい台詞回しと間の取り方を支えているのだろう。戦車級の吉田鋼太郎を前にして力負けしないのは、舞台経験豊富な高畑充希のなせるワザだ。
吉田鋼太郎と小手伸也は、今回も好き放題に大暴れ。やたら張り切って虎松の実演をする世々塚に、加賀美圭介(町田啓太)の枕元に立ち続ける海造と、このあたりはもう剛腕俳優2人のステージ。吉田鋼太郎なんて最後の方はもう町田啓太の寝込みを襲ってるレベルだった。吸血鬼というより悪霊です。
でも、そうやって思い切りふざけながら、締めるところはしっかり締めてくれるのが、この2人のすごいところ。
世々塚と虎松が知り合ったのは、父親の事件がきっかけだった。近隣住民から嫌がらせを受け、居場所を失った虎松に温かい手を差し伸べる世々塚。部屋は汚いし、そこらへんにエッチなDVDが落ちてるし、いろいろお節介すぎるところはあるけれど、大きな体で虎松を受け止め、虎松の頑張りを誰より近くで見守ってきたのが、世々塚だった。
人情なんて言葉、今時あまり使われないかもしれないけれど、小手の演じる世々塚からは古き良き人情がつまっている。
特に、泣いている虎松を見て優しく微笑み、「泣くな」と頭をさするところがよかった。あそこで「うわ、気持ち悪」とさっき虎松に言われた言葉をそのまま返すところに、気の置けない2人の関係性が表れている。
真面目一徹の描写じゃ奥行きが出ない。ここであえてちょっと茶化したようなやりとりをするから視聴者の涙腺は緩む。その前振りとして、このドラマにはコミカルパートが必要なのだ。
一方、虎松の秘密を知った海造は大激怒。こころ(高畑充希)と虎松の結婚に猛反対する。
けれど、決して虎松が殺人犯の息子だから反対しているわけではなかった。これから家族になる相手に秘密を隠していたことが許せなかったのだ。
「これからは一人で抱え込むのはやめなさい。こういうとき頼りになるのは、家族だけなんじゃないのか」
決して娘のこころにかけるような甘い口調ではない。年長者としての厳しいアドバイスだ。
でも最後の「家族だけなんじゃないのか」の吉田鋼太郎の声色に、義理の父として、娘婿に見せる愛情と距離感が伝わってくるから、何も説明しなくても海造が虎松をもう家族として受け入れていることがわかる。
そもそも闇原家のスーパーハイテクセキュリティに、ちゃっかり虎松も登録されている時点ですでに虎松を家族として認めているようなもの。あの虹彩認証システムに虎松の情報を追加したのが海造だったとしたら、それはかなり萌える話だ。
棺桶を組み立てるのさえ四苦八苦するような海造が、ああだこうだ文句を言いながら登録している姿とかちょっと見てみたい。
そんな妄想が膨らむような愛すべき人物像を、吉田鋼太郎もまたしっかりとつくり上げている。
◆加賀美の気になる経歴…“コロッケ好き”はヒントなのか
そして、吸血鬼殺人事件の展開はと言うと、現場に残された落書きは犯人からの殺害予告であることが判明。さらに、その落書きの主として五十嵐大五郎(曽田陵介)が浮上する。
だが、今回のエピソードで重要なのはそこではない。
むしろ気になったのが、施設育ちという加賀美の経歴だ。両親に捨てられたのか、あるいは早くに亡くしたのか。
雑誌記事を読む限り、宗像一家は4人とも殺害されている。つまり、加賀美が宗像一家の生き残りという線はまずないと言っていいだろう。だが、この事件と何ら関係がないというのも考えにくい。となると、一条彪牙(井浦新)が宗像一家を殺害する動機に何かしら関わっているということか。
ヒントになりそうなのは、今のところコロッケ好きという設定くらい。単なるネタにも見えるけど、コロッケが何かしら加賀美のバックボーンにつながっていると考えた方がサスペンスとしては自然な気がする。
とりあえずちょっと体調が弱っている町田啓太がとても色っぽかったので、加賀美は一生風邪をひいててほしい。
もう一つ気になったのが、世々塚だ。虎松が訪問したとき、妙に慌てふためき、部屋を片付けようとした。しかし、部屋は散らかったまま。虎松を外で待たせている間、世々塚は何をしていたのか。
何かを隠していたのかのかもしれないし、実はあのとき、別の誰かが世々塚のもとを訪ねていて、虎松に会わせないために時間稼ぎをしていたとも考えられる。
いずれにせよ事件当時のことをよく知る世々塚は、今後も要注目人物だろう。
次回予告では、ついに新たな犠牲者が出ることが匂わされていた。虎松へのダメージの深さも考えて、この流れでいくと最も有力なのは世々塚だが、果たしてどんな展開が待っているのか。いつも以上に見逃せない回となりそうだ。(文:横川良明)
※番組情報:『unknown』
【毎週火曜】よる9:00~9:54、テレビ朝日系24局
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