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石倉三郎、名前を一字もらった恩人・高倉健さんとの最後の撮影。驚きのイタズラを受け「またこんなことをするよ、健さんは」

映画『四十七人の刺客』(市川崑監督)で23年ぶりに恩人・高倉健さんと再会した石倉三郎さん。

自分の撮影はないのに、石倉さんのラストカットのときにソッと立ち会ってくれていた健さんの優しさに、胸がいっぱいになったという。『四十七人の刺客』で再会して以降、頻繁に連絡を取り合うようになり、電話や手紙のやり取りも。健さんの遺作となった映画『あなたへ』(降旗康男監督)でも共演している。

 

◆メイク写真のパスポートに税関で1時間半の足止めを…

私生活では38歳のときに、門前仲町の「花菱」という人気割烹料理店の女将さんと結婚。二人でレコードを発売したり、バラエティ番組に出演したこともあり話題を集めた。

さまざまな逸話をもつ石倉さんは、ハワイで税関に1時間半も足止めされたこともあったという。

「41、2歳の頃かな。女房たちとハワイに行くことになっていたんだけど、撮影所に『パスポートが切れているよ』って電話がかかってきたんですよ。

もう間に合わないってなって、撮影所で写真を撮ってもらったんだけど、そのときに撮影していたのが森光子さんのドラマで、俺は用心棒兼殺し屋みたいな役だったの。そのメイクと扮装のまま写真を撮ってもらったから、『顔が違う』ってハワイの税関でひっかかっちゃってさ。俺だけ1時間半も足止め」

-写真を撮ったとき、これはまずいかもしれないとは?-

「全然思わなかったですよ。写真には違いないだろうって。それもあったし、職業欄でも引っかかった。だから顔で引っかかって、職業でも。『フリーって何なんだ?自営業って何だ?』って聞かれて。

それで『実は、俳優というか、まあ何かそういうのをやっているんですよ』って言ったら、『何かじゃないんだよ、何で俳優って書かないんだ?』って言われて。『恥ずかしいじゃないですか』って言ったら『恥ずかしい?何?それわからない』って言われたんですよ。

あんまりモメたら帰国させられちゃうからさ、『照れている場合じゃないんだな』って思って、それから職業欄に『俳優』って書くようになりましたよ。それまではずっと『自営業』って書いていたんですよ。『俳優』なんてこっぱずかしくて書けなかったからさ(笑)」

芸能界屈指の酒豪としても知られる石倉さん。電話1本で、東京から京都まで飲みに行ったこともあるという。

「萬田久子さんから『いま、橋爪(功)さんたちと飲んでいるんだけど、来ない?』って携帯にかかってきて、『わかった。行くよ』って言ったら『無理よ。だって京都だもん』って言うんですよ。

俺は『誘いは一切断るな。酒の席には福がある』が信条だし、『来れないだろう?』って言うから『何言ってるんだよ』って意地でね。行くしかないじゃない。それに行ったらウケるだろうなって、ウケを狙っているんですよ(笑)。だから、すぐに新幹線に乗って9時過ぎくらいに京都の店に着きましたよ。

結果的に行って良かったんですよ。つまりそれはネタになるから、チャラですよね。二人ともビックリしていましたよ。『えーっ?』って、ハトが豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていてね。それはおもしろかったですよ(笑)」

 

◆高倉健さんの茶目っ気タップリのいたずら心で…

2012年、石倉さんは高倉健さん主演映画『あなたへ』に出演。この映画は、亡き妻の「故郷(長崎)の海に散骨してほしい」という願いを叶える主人公の旅を描いたもの。石倉さんは漁協の役員を演じた。

「あれは、私が頼み込んだんですよ。『ノーギャラでいいから出してくれ。役なんて言わないから出してくれ。出るだけでいいから』って、それで出たんですよ。

それで長崎まで行ったらホテルが、天皇陛下がお泊まりになった部屋だったんですよ。風呂に入ったら菊のご紋章でしょう? 健さんなんですよ。『またこんなことをするよ、健さんは。勘弁してよー。こんなところ冗談じゃないよ』って(笑)。

健さんの部屋は新館のほうなんですよ。ホテルの人に聞いたら『高倉さんが、石倉さんは絶対にここを気にいるはずだから、この部屋にしてくれって言っていました』って。健さんのイタズラなんですよ(笑)。

それで部屋にウェルカムフラワーがあって、『またよろしくな。高倉健』って書いてありましてね。翌日『おはようございます』って言ったら『よくお休みになれましたか?陛下のお部屋は』って言うんですよ。

『勘弁してくださいよ』って言ったらゲラゲラ笑っていましたけどね。こんなことばかりするんですよ、あの人は(笑)」

-お名前も健さんから一字もらって、いいお名前ですね-

「今となっては最高ですよ。なんていったってメシが食えているんですから。お笑いの世界でメシが食えるようになったんですけど、それから俳優部に転向してまたコツコツやって来たでしょう? で、10年ほど食わしてもらって、そこからシフトが2時間ドラマに移っていくんですよ。

それで一緒にやっていたディレクターが辞めていったり偉くなったり…それでパタッと仕事がなくなってくるんです。それで、下の年齢の人たちがディレクターになって…というのが、ちょうど10年だったんですよ。それからポツポツですよね。

それでその頃に俺はもう夢は叶えていましたからね。夢は役者でメシが食えればいいやってだけのことでしたから。別にスターになりたいなんて思ったことはないし、今でも思っていませんけど、そんなことはあり得ないですよ(笑)」

料理上手としても知られ、テレビ番組などでその腕前を披露することもあり、『石倉三郎の料理事始め』(小学館)という著書も出版している。

「あれは、『熟年離婚、濡れ落葉みたいな中年の情けないオヤジたちが料理を作ったらどうだろう?毎週一品でいいから、月に4回やってくれる?』って言うから『OK、OK』って言って受けたの。それがバーンと当たっちゃって2年半続いて、『これ本にしましょう』って言うから『勝手にやってくれよ』って。それだけのことですよ。初めて印税が入りましたけどね(笑)」

-職人さんという感じがまた合うんですよね-

「まあね(笑)。何かそういう小器用(こきよう)なところがあるんですよ、私は。器用じゃないんですよ、小器用。やってくれと言われると、何でも『おーっ、わかった』みたいなことでやってきましたよ」

-映画『オケ老人!』(細川徹監督)では、楽器のティンパニもすぐに覚えたとか-

「はい。あれもその場で習ってできました。だから、俳優が現場でやらなきゃいけないことは、だいたいすぐにできるんですよ。変に小器用なんですよ。『任せておけ、そんなこと。やってやるよ。OK、OK』って、いつもそんな感じですよ(笑)」

2016年には『つむぐもの』(犬童一利監督)で映画初主演。これは昔気質の頑固な和紙職人と韓国から来た若い娘がしだいに心を通わせていく様を描いたもの。石倉さんは、妻を亡くして以来、偏屈な性格から誰とも心を通わせることなく生きる主人公・越前和紙職人の剛生を演じた。

「あの映画は、今のマネジャーと『待っていてもしょうがないんだから、二人で企画を立てようぜ』ということになって、仲のいい脚本家に電話をしたんです。

そうしたら、そこにたまたま映画のプロデューサーがいて、『今度紙職人の話を撮るんですけど、主演でお願いできませんか?』って言うから『おお、やります。OK、OK』って、それで決まったんですよ。

こっち側の仕掛ける気持ちが動いているからね。『噂をすれば影』って言うでしょう? あれは影が行くから噂をするんですよ。だから、あれは自分でぶん取った主役ですよね。自分で仕掛けていかないと来ませんよ」

-『つむぐもの』では、脳腫瘍になって右半身に麻痺が残ってしまうという難役でしたね-

「経験してないことをやるというのは、やり甲斐がありますよね。後継者問題や介護の問題、国際交流など、さまざまなテーマが含まれていて、なかなかいい映画ですよ、あれは」

©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会

※映画『それいけ!ゲートボールさくら組』
2023年5月12日(金)より公開
配給:東京テアトル
監督・脚本・編集:野田孝則
出演:藤竜也 石倉三郎 大門正明 森次晃嗣 小倉一郎 田中美里 本田望結 木村理恵 特別出演:毒蝮三太夫 友情出演:三遊亭円楽 山口果林

◆同世代のキャストが集結した楽屋は楽しくて、楽しくて

2023年5月12日(金)には、映画『それいけ!ゲートボールさくら組』が公開される。この映画は、高校時代ラグビー部のマネジャーだったサクラ(山口果林)が経営するデイサービス“桜ハウス”が倒産危機と知り、かつてラグビーで青春を謳歌したメンバーが60年ぶりに集結。

老体にムチ打ってゲートボール大会に出場して優勝を目指すことになるのだが、悪徳ゼネコン企業の陰謀も…という展開。石倉さんは、ラグビー部のメンバーで、引きこもりの息子を抱えている花田菊男役を演じた。

「最初『藤竜也さん主演でやるから』って聞いて、『藤さんと?いいね』って、そういう感じでしたよ。『ゲートボール?ジジイの映画じゃないかよ』って思いながら参加したんですけどね。ゲートボールはやったことがないし、『何がおもしろいんだろう?』って思っていましたからね」

-実際にゲートボールをやってみていかがでした?-

「うまかったですよ。みんな『うまいね』って言っていましたからね。だから小器用なんですよ(笑)。でも、おもしろいとは思わない。

最初はできなくて下手という設定だったから、そっちのほうが大変でしたよ。下手にやるほうがね。それで、『本番、ゴールに入れてください』ってなると入るんです。やれるんですよ(笑)。

藤さんと一緒でおもしろいなと思ったし、やっぱり映画が好きですからね。映画が好きだから映画にタッチしていきたいというのがあって、早い話が映画なら何でもいいんですよ。『こういう役はやらない』とか言うやつがいるでしょう? そんな贅沢なことは口が裂けても言えませんし、思ったこともない。

だから、よく『これからどんな役どころがやりたいですか?』って聞かれるんだけど、『役どころ?冗談じゃないよ。誰がそんなこと言えるの?来る役が自分の役ですよ』っていう世界ですよ。そんなものは(笑)」

-ひと通りいろんな役をやられていますね-

「そうですね。ヤクザ、刑事が多いですけどね。あと職人も多いかな。役は結構色々やらせてもらいましたね」

-今回の映画は、キャストのみなさんの年齢も近かったと思いますが-

「そう。おかしかったですよね、楽屋が。年代がほぼ一緒でしょう? 楽しかったですよ、本当に(笑)。今までの現場というのは、若い子ばかりじゃないですか。会話にならないんですよ。俺も行かないし、向こうも来ないし。だから、スーッと行って、スーッとやって帰ってくるという感じ。

だけど、これはもう楽屋が楽しくてね。『ワーワー、ワーワー』、やっぱり年代が一緒というのは、こういうことなのかなあって。その楽しさが映画の中にも出ている気がしますよ」

-仲間同士でケンカというシーンもありましたが、仲直りのしかたもいいですね-

「そうなんですよ。何かそういう臨場感は楽屋から引きずっていたんじゃないかな。そう思いますね」

©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会

-撮影でとくに印象に残っていることは?-

「やっぱりゲートボールの試合のシーンですよね。みんな盛り上がるし、これだと年寄りも楽しくて結構夢中になる要素はあるんだなあということがわかりました」

-親子関係の変化も良かったですね-

「そうですね。ああいうふうなことは、世間ではあるでしょうね。そう思いました。年寄りだというのが自分の中では全然意識ないんですよ。『そうなんだ、俺は年寄りなんだよな』って思ったりもするんだけど、全然そう思えない自分がいるんですよね」

-酒豪としても知られていますが、スリムでスタイルも全然変わらないですね-

「変わらないんですよ。身につかないタイプでね(笑)。良かったですよ。出不精(でぶしょう)だし、ずぼらものだし、家で小説なんかを読んでいるのが最高の幸せですよ。それにちょっと飽きたら、映画を観たりしてね。山ほどDVDを持っていますからね。

それでそんなことをしていると、4時くらいになるでしょう? そうするとビールの時間ですよ(笑)。一番の楽しみですから、365日欠かしません。そんな感じですよ。それしかないですから。からだのことやなんかは考えない。別に健康だし」

-間もなく映画が公開になりますね-

「やっぱりワクワクしますよね。今はこういう景気の悪い世の中ですけど、お客さんが入って欲しいなと思いますよ。にぎにぎしく入ってもらいたいなって。観ると元気になれると思いますからね。自分も頑張ろうって思ってもらえたら望外の喜びです」

スリムなプロポーション、颯爽とした身のこなしが若々しい。映画『それいけ!ゲートボールさくら組』の公開に加え、5月28日(日)からは、新歌舞伎座(大阪)で藤山直美さん主演舞台「松尾波儔江 三十三回忌追善『泣いたらあかん』」に出演。稽古の日々が続く。(津島令子)