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侍ジャパン・栗山監督が振り返る準決勝メキシコ戦。スリーバント、1球待て…激闘を制した名采配の思惑

4月2日深夜放送のGET SPORTSでは、侍ジャパン・栗山英樹監督がゲスト出演し、番組ナビゲーターの南原清隆と対談。WBC世界一の舞台裏を語った。

テレ朝POSTでは対談の模様を全6回に分けてお届け。5回目は「準決勝で光った栗山采配」に迫る。

◆源田へ指示したスリーバントの意味

決勝進出を懸けた準決勝のメキシコ戦。

吉田正尚の3ランで3-3の同点に追いついた日本は、直後に再びリードを許し2点差をつけられた。

迎えた8回裏、ノーアウト1塁2塁のチャンス。打席の源田壮亮はバントの構えで2球続けてファウル。栗山監督が送った指示はスリーバントだった。

南原:「スリーバントっていうのはちょっと驚きでした。今までの監督を見ると、2回凡打(失敗)して後は打てという風に指示したと思うんですけど、スリーバントは監督が指示したんですか?」

栗山:「もちろんサインは出しました。源ちゃんなので(走力を考えると)ゲッツーもないし、打たせていいんですよ。ただ指のこともあるし、一番確率が高いのはバントだと思っていたし、あのケースは絶対に送らないといけなかった。あそこでサインを変えるほうがブレちゃう。

(サインを)出した時に一瞬『やっぱり打たせたほうがいいのか』と思いましたけど、『いやバントだな』っていう」

南原:「『もうこれはバントね』って勝手に体が動いてサインを出したということですか?」

栗山:「普通だったら、追い込まれてバント、スリーバント、ファールでアウトになる可能性や、打たせたときにゲッツーになる可能性はないかとかいろいろなことを考えるんですよ、瞬間的に。

でもそれが浮かばないんですね。あそこはバントなんですよ。絶対に送って1点取らないといけないところ。大事な局面なほどはっきりさないといけない」

源田は2ストライクから送りバントに成功し、指揮官の采配に応えた。

◆代打の山川に「本当に申し訳ないと思いました」

2塁3塁となった直後、再び栗山監督が動く。キャッチャー・甲斐拓也に代えて、ここまで5打席しか立っていない山川穂高を代打に送った。

この大事な場面で代打に立った山川は、犠牲フライで点差を1点に縮める。

南原:「山川選手に代えたのは、どういった狙いがあったんですか?」

栗山:「右バッターでしたし、山川の状態が上がってきているのはわかっていたので 。惜しかったですよね、あれ。ホームランになるかもしれないぐらいの打球だったので」

南原:「もうじゅうぶん仕事は果たしてくれましたか?」

栗山:「はい。1点でじゅうぶんだったので」

2022年、打撃2冠に輝いた実力の持ち主ながら、今回の代表チームでは同じ一塁のポジションに岡本和真がいるため、主に代打の切り札に徹していた山川。

栗山監督の起用について、こんな言葉を残していた。

山川:「代打って勝っているときじゃなくて負けているときなので、正直に言うと僕が代打で出ないほうが(試合運びは)絶対にいい。栗山監督には『いろいろ迷惑かけてごめんね』とすごく謝られました。岡本との(ポジション争いの)兼ね合いもあるので、シーズンが控える中で打席に多くは立っていないので。

そこで栗山監督に謝られましたけど、そんなつもりはまったくないですし、どんな形でもチームに貢献するのがジャパンの在り方だと思うので」

このコメントに対し、栗山監督は…。

栗山:「穂高なんかは言いたいことはいっぱいあると思います。ただ、こちらは役割分担をはっきりさせていく中で、ホームランを打てるバッターが代打にいるほうが勝ちやすい形になると思った。そう思いながらも、試合に出させてあげられなかったのは(昨季パ・リーグ)2冠王のバッターですしね、もう本当に申し訳ないと思いました」

南原:「ああいう選手が当たり前のように『個人成績よりもWBCはそういう戦いですから』とさらっと言えているのが、今回の侍ジャパンの本当の強さの底辺というか、支えていたものなんですね」

栗山:「そうですね。実は試合に出ていない選手が大きかったですね。今回でいうと中野拓夢選手や牧原大成選手、周東佑京選手、山川選手。なかなかずっと試合に出られなかった選手が本当に一生懸命やってくれたのが勝つ要因でした」

◆村上の逆転打を生んだ名采配

南原:「周東選手を(代走に)コールしたのも、迷いなくこのときに勝つんだ、勝ち切るんだということだったんですか?」

栗山:「そうですね。あそこはムネに任せたということなので」

後がない9回裏、1点差を追いかける日本は、先頭打者の3番・大谷翔平が2ベースヒットで出塁。その後、4番・吉田がフォアボールを選びノーアウト1塁2塁とする。

ここで栗山監督は、1塁ランナーの吉田に代えて、足のスペシャリスト・周東佑京を代走に送った。

そして、5番・村上宗隆が待望の二塁打。大谷のヒットから時間にして10分後のサヨナラ劇には、栗山監督の確かな戦略と決断に基づいた采配が凝縮されていた。

南原:「村上選手に代打を送るのか、バントをさせるのか。監督はどういう心で最後どう決断したんですか?」

栗山:「9回表を守っているときにパーっと見ていて、ランナーが出たら翔平からだったので、ノーアウトランナー1塁2塁になったら村上のところに回っていく。当然1点差、バントで送るというケースなので、牧原にバントの準備をしてもらうよう指示はしていました。案の定、翔平がヒットで正尚フォアボール。それで、フォアボールのなり方を見たときに…」

南原:「ちょっと待ってください。スタッフから聞いたんですけど、フォアボールのとき、スリーボールになったときに監督が『一球待て』というサインを出したというのは本当ですか?」

栗山:「あそこは『待て』出しましたね」

南原:「それはどういった思いで?」

栗山:「あそこはどうしても打ちたくなるケース。ピッチャーのコントロールを見たら、ひとつのストライクをあげても全然正尚なら大丈夫(だと思った)。ノースリーから打とうとすると強引になる可能性もあるので。待ち球の球種が合ったりすると、逆にボール気味でもタイミングが合うので(打ちに)いっちゃうじゃないですか。

あそこは一気にいかなくていい、ランナーが溜まっていくほうがいいケースなので、冷静になりましょうという意味で僕にしては珍しく『待て』を出したんですね」

南原:「これでだんだん監督の思い浮かんでいることが少しずつ嚙み合ってきましたよね。だんだん勝つ方向に向き出しました。村上選手が打席に入ったときは、一瞬迷わなかったですか?」

栗山:「最初はとにかくすべての準備をして、最後は自分が決める。一番まずいのは準備ができていないこと。『バントの準備をさせておけばよかったな』みたいなのが一番ダメじゃないですか。準備はできているので意外に冷静に考えられました。

代打バントって結構成功すると思われているけれど、結構難しいというのがまず頭に浮かびました。負け方としてはそれが一番ダメですよね。代打がバントして失敗してアウトになる。こんな失敗許されない。この状況だったら、ピッチャーの状態を考えて絶対にムネだと思ったから、周東選手をファーストに送って(村上に)『長打お願いします』という感じを作りました。

プラス外野フライさえ打って1・3塁になれば、ファーストに周東選手がいるので盗塁してまた2塁、3塁になる可能性もある。送って同じ状況も考えられるし、一瞬にしていろんなイメージを浮かべたんですけど、絶対ここはムネが打つと決めて」

南原:「打つ手はとにかく打っているから、(願うように)『頼むムネ!』ってことじゃなくて、(信頼して)『さあ頼むぞ!』」って送り出したんですね」

栗山:「そうですね。願いというか、必然というか、『さぁ行くぞ!ムネ』っていう感じでした。『頼む頼むムネ。打たないとヤバいから』みたいな感じではなかったですね」

南原:「そこなんですね、やっぱり大事なのは」

栗山:「そこまで信じてきたので、打たなかったらしょうがないじゃないですか」

◆「大谷翔平がバットを短く持っているんですよ」

栗山:「ただ実を言うと、このシーンには一番大事なことが隠れている。誰にも言っていないんですけど、大谷翔平が初球ツーベースを打ったときにバットを短く持っているんですよ。

これは僕が(日本ハムで)2016年に日本一になったときに、一番ピッチャーで出場していた大谷がベンチに『ホームラン打ってきます』と言って出ていったときと一緒。周りにヒット打ってくるからと言って出ていったらしいんですよ」

9回、ヒットで出塁しチャンスにつなげた大谷の打席。栗山監督の言葉通り、ほかの打席と比べるとごくわずかではあるがグリップエンドと手の隙間が大きくなっていた。

栗山:「短く持っているんですよ、いきなり。だからあの高めの球、変な打ち方してツーベースなんです」

南原:「短く持っているのはわかったんですか?」

栗山:「試合が終わってから聞きました。『監督、知ってました?こうだったらしいですよ』『マジで?』って」

南原:「あそこは大谷選手も大きいのじゃなくてとにかく繋いでということですか?」

栗山:「塁に出ようとしたんですよね」

南原:「そしてカーッと(ヘルメットを)脱いで」

栗山:「それもイメージ通りだったから、ああいう風に表情に出たのかもしれないですね」

栗山英樹監督×南原清隆対談、次回は「アメリカとの頂上決戦」「栗山監督の秘めたる想い」に迫る。

番組情報:『GET SPORTS
毎週日曜 深夜1:25より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)

『栗山英樹×南原清隆~WBC世界一の舞台裏~ノーカット完全版』はABEMAで配信中!

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