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「勝つわけないから、もう荷物をまとめて…」第1回監督・王貞治が回顧するWBC。奇跡を呼び込んだ意外な采配

開幕した第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。本日3月9日(木)には、日本代表・侍ジャパンと中国代表との初戦が行われる。

2月26日に放送されたテレビ朝日のスポーツ番組GET SPORTSでは、侍ジャパンの指揮官・栗山英樹と第1回大会で監督を務めた王貞治さん(現・ソフトバンク会長兼特別チームアドバイザー)が対談。

日本をWBC制覇に導いた“勝利の哲学”に迫った。

◆未知数だった第1回WBC

栗山監督が王さんを訪ねたのは、侍ジャパンの合宿がはじまる1週間前。本格始動を前にどうしても話を聞いておきたかったという。

栗山:「今の選手たちに聞いてみると、あの時のWBCを見てどうしてもジャパンに入りたいという選手がすごく多いんですね。僕もずっと現場で見させていただきましたけど、すごく感動したし、野球ってすごいなって思いました」

第1回の開催が決まった当時は、どんな大会になるのか未知数だったWBC。

ましてや大事なシーズン直前、3月の開催ということもあり、「本当に出場する価値があるのか?」と疑問の声もあがるほどだった。

そんななかで、メジャーリーグで活躍していたイチロー、大塚晶文を筆頭に、日本球界の2枚看板・上原浩治、松坂大輔、平成唯一の三冠王・松中信彦らトッププレーヤーが顔をそろえた。

王:「私のときは、イチロー君が先頭に立ってくれたんです。合同練習の最初のランニングからビューンってダッシュして、ほかの選手がびっくりしちゃったんですね。彼は『アメリカの選手はいい選手もいるけど、たいしたことない選手も多いよ』と言ってくれて、選手たちをリラックスさせてくれました。やっぱりそういう選手は必要だと思いますね」

◆一発勝負だからこその戦略

栗山:「あのときは、先発ピッチャーが上原浩治、松坂大輔、渡辺俊介の3人で戦っていましたが、先発はどんな風に考えたんですか?」

王:「上原君の調子がよかったので、中国戦は上原君に(先発を)行ってもらおうということで(決めました)」

栗山:「やっぱり初戦というのはみんな緊張しますけど、すごく重要な試合ですよね」

王:「相手が中国だからと言ったって、勝負事は何が起こるかわかりません。現に上原君もホームランを1本打たれていますから。でも彼があとをピシャッと抑えてくれたから、ものすごく楽になりました」

2006年のWBCで王監督が先発の柱に据えたのは、上原と松坂、そして海外では稀なアンダースローの渡辺俊介。

当時は「コンディションが上がり切っていなかった松坂を格下と見られていた初戦の中国戦で起用し、強敵の韓国に上原をぶつけるべき」という意見もあった。

しかし、王監督が初戦に送り出したのは、上原だった。

一寸先は闇の一発勝負。だからこそ、一戦一戦全力で取りに行く。王監督の姿勢に上原は応え、見事にゲームメイクを果たした。

◆韓国は「未来永劫ライバルでしょうね」

続く試合にも勝利を収め、勢いに乗った日本。そこに立ちはだかったのが、宿敵・韓国だ。

栗山:「WBCというと、日本と韓国との激闘みたいなイメージがあります。韓国の野球や対戦はどんな感じでしたか?」

王:「韓国は“打倒日本”という意気込みがすごく強いですよね。これは未来永劫ライバルでしょうね」

第3戦。先に2点を奪ったものの、韓国の気迫に徐々に押し込まれた日本は、終盤に痛恨の一発を浴び、逆転負けを喫した。続く第2ラウンドでの再戦でも競り負け、屈辱の2連敗。

そんな韓国への対抗策とは?

王:「(韓国は)アメリカンスタイルの野球をやりますし、やっぱりピッチャーがいいので点を取れないんですよね。細かい野球もやらざる得ないと思いますけれど、まず先手を取って優位に立たないといけないです。かなり点を取れば諦めますけど、そうでないと本当にねちっこくやってきますからね

栗山:「粘りというか、ねちっこさみたいなのはすごく感じます」

韓国戦では、相手の戦意を削ぐことが何より重要になってくるという。

◆“世紀の誤審”で絶体絶命に

そして、第1回大会といえば忘れられないのがあの判定。

第2ラウンド初戦のアメリカ戦。3-3で迎えた8回表、外野フライで3塁ランナーの西岡剛がタッチアップ。勝利を決定づける大きな勝ち越し点のはずだった。

しかし、塁審ではなく球審のボブ・デービッドソンが、外野手の捕球よりランナーの「離塁が早い」というまさかのジャッジを下し、3塁ランナーの西岡はアウトになる。

“世紀の誤審”と世間を騒がせたこの判定が響き、日本はアメリカとの天王山を落とすこととなった。

その後、日本は韓国にも敗戦。この結果、日本の準決勝進出は、最終戦を残すアメリカとの失点率の勝負になった。条件はアメリカが敗れ、かつメキシコから2点以上奪われること。両国の実力差を考えると、極めて厳しいものだった。

栗山:「準決勝もいけるかどうか本当に際どい勝負になりましたよね」

王:「あのときはメキシコがアメリカに勝つわけないから、次の日の飛行機に乗るためにみんなもう荷物をまとめていました。ただ、せっかくだから野球だけ見ようということで、不謹慎ながら新聞記者の人たちと一杯飲みながら見ていたんですよ。もう絶対勝てるわけないと思っていたのでね。そしたら奇跡が起きたんですよ

まさに奇跡だった。メジャーリーグのスターをそろえたアメリカを相手に、メキシコが競り勝ったのだ。しかも、日本の準決勝進出条件である2点を奪って。

この劇的な展開が、チームのさらなる力を引き出したという。

王:「もうダメだなと思っていたのに、チャンスが出てきたから『ヨシっ!』てなったんです」

栗山:「やっぱりそうですか。余計にひとつにまとまるというか、勢いがつくという」

王:「本当に元気になってくれました」

栗山:「そういうときって、いくら『気持ちを切るな』と選手に言ってもなかなか難しいんですけど、なにか言葉をかけることはありましたか?」

王:「チャンスをもらえたんだから、我々の野球をやろうよと。とにかく自分たちができることだけやろうと言ってやりました。

首の皮一枚残りましたけど、むしろあれで選手たちに度胸がついて思い切ってやってくれましたね。守備だって走塁だって、この選手こんなことできたのかなというぐらい大きなプレーをしてくれました」

◆奇跡を呼んだ王監督の采配

選手たちの個性を引き出し、躍動させた王采配。その象徴的なシーンが生まれたのが、韓国との準決勝だ。

第2ラウンドまで主に3番を任されていたのは、打率およそ1割と極度の不振に陥っていた福留孝介。王監督は、この大一番で彼をスタメンから外す決断をした。

試合は、意地と意地とがぶつかり合い、緊迫の展開に。0-0で迎えた7回表。2塁のチャンスで、左バッターが有利と言われるアンダースローの右投げ投手がマウンドに上がる。

ここで王監督が打席に送り込んだのは福留だった。

すると、起用に答えた福留が見事ホームラン。スタメンを外した福留で勝負を賭け、劇的な1打を演出した。

このシーンこそ、モチベーター・王貞治の真骨頂だった。

王:「短期決戦は、あんなことが起きないとなかなか勝てないから、選手たちをその気にさせておくことが一番いいでしょうね。スタメンを外した代わりに『いいとき行くからな』って言ったら、すごくいい形で相手のピッチャーと勝負する場面ができて、ものすごく大きなことをやってくれました」

不調の選手をただ外すのではなく、「大事な場面での切り札」という役割を与える。そうすることで、選手は落ち込むことなく奮起。これが、奇跡を呼ぶカギとなるという。

◆一発勝負で重要となったチームへの自己犠牲

一方で王監督は、選手たちに普段とは違う役割も要求していた。

栗山:「たとえば、当時の主軸を打っていた多村仁志選手に、バンドをさせていたのが肝になったりしていました。そのへんの使い分けは、すごく重要になってきそうですよね」

所属チームではクリーンナップを任される強打者・多村に、何度も出したバントのサイン。そこにあった哲学とは…。

王:「選手たちに打順関係なく必要だと思ったら送ることをする。1度負けたらおしまいですから。どんな場面でもどういうサインが出ても、忠実に頼むよと、そのことだけは選手たちにお願いしていたんです

栗山:「すごく失礼ですが、会長が選手の時だったらバントの準備をしてくれと言った方がいいですか?」

王:「僕はシーズン中だったら『なんだっ』て思ったと思いますよ。でも、日本を代表したチームとして勝たなきゃいけない。チャンスが出てきたら、どんな手を使ってでも勝たないといけないので、送るところは絶対送る。選手には、心積もりはしておいてくれと言ったほうがいいでしょうね」

自己犠牲もいとわない精神が整ってこそ、一発勝負での勝利への道が開けるのだ。

◆名将が語る「日本野球の素晴らしさ」

宿敵・韓国を3度目の正直で破り、迎えた決勝戦。勢いに乗る王ジャパンは、世界屈指の強豪・キューバを終始圧倒。見事優勝を成し遂げた。

あの歓喜から17年。導いた指揮官に改めて問う「日本の野球」とは――。

栗山:「(WBCで)日本野球の緻密さや素晴らしさを伝えるんだと先輩方から教わりました。日本の野球のよさって、ピッチャーを中心とした丁寧さというんですかね」

王:「それは外すわけにいかないですね。体力だけ考えたら外国の人に勝てませんよ。経験とかチームプレーとか、大きい人と戦うにはどうしたらいいかと自分たちで考えて、工夫してやっていくことが大事だと思います」

栗山:「日本の選手も大きな選手や力のある選手がたくさん出てきて、それがうまくミックスされると、世界の頂点に立てる野球になるのかなと思ってしまいます」

王:「全体的にアメリカはまだパワーに頼っていますよね、ピッチャーでも。その点、日本人は足を使って投げたり、バットも本当にしなやかに使って、最後の最後にヘッドが出たり。そういった部分はやっぱりアメリカよりは優れていると思います。自分の体力にあったピッチング・バッティング・走塁をやらないといけないと思うんですよね」

栗山:「その多様性というか幅というか…」

王:「それは絶対必要ですよね」

対談後、「本当にいろいろなことを教わりました。自分らしくしかできないものなんだと、王会長から厳しく言われた感じがしました」と感想を漏らした栗山監督。

名将たちから受け継いだ勝利の哲学。そして、日本野球の神髄と魂を胸に、いざ世界一奪還へ。

※放送情報:「2023 ワールドベースボールクラシック」
テレビ朝日系列・TBS系列 地上波放送

3月9日 (木)よる6時00分 日本代表 vs 中国代表(TBS系)
3月10日(金)よる6時00分 日本代表 vs 韓国代表(TBS系)
3月11日(土)よる6時30分  日本代表 vs チェコ代表(テレビ朝日系)
3月12日(日)よる6時34分  日本代表 vs オーストラリア代表 (テレビ朝日系)
3月16日(木)よる6時30分 準々決勝 日本戦(テレビ朝日系)※一部地域を除く
3月21日(火)準決勝(TBS系)
3月22日(水)あさ7時55分 決勝 (テレビ朝日系)

番組情報:『GET SPORTS
毎週日曜 深夜1:25より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)