『星降る夜に』文字通り“泣き崩れた”第8話ラスト。暴走する男の悲しみを包み込んだのは“人の体温”だった
<ドラマ『星降る夜に』第8話レビュー 文:横川良明>
人は、1人では生きられない。そんな当たり前のことを、改めて思った。
いよいよ最終回を残すのみとなった『星降る夜に』。セミファイナルとなる第8話は、抱きしめられる人のいる温かさを、受け止めてくれる人のいるかけがえのなさを、ただしみじみと噛みしめるような回となった。
◆泣けない深夜を救うのは誰だろうか
なんだか、ずっと不穏だった。
時化の海を小舟で渡るような不安と緊張感が、物語全体を包み込んでいる。まるで大切な人がいなくなってしまうような、重たい胸騒ぎ。不吉な予感の理由は、深夜(ディーン・フジオカ)にあった。
賑やかなマロニエ産婦人科医院の面々と対照的に、どこか元気がない深夜。鈴(吉高由里子)に尋ねられても、「大丈夫です」と取り繕うだけ。
自分から大丈夫と言う人は、大丈夫じゃない。深夜もまた伴(ムロツヨシ)と同じように大切な人を失った悲しみから立ち直れずにいた。
もともと深夜と伴は対照的なキャラクターとして配置されていた。共に妻を失いながら、医師として第二の人生を歩みはじめた深夜と、自暴自棄の毎日を送る伴。一見すれば、深夜の方がよほど「ちゃんとしている」ように見えた。
でも、人が幸せかどうかが見た目ではわからないように、心の傷が癒えたかどうかもまた外側だけでは判断できない。深夜も伴も根っこは同じなのだ。いるはずだった人が、いない。その喪失を受け止めきれないまま、傷は静かに化膿する。
10年前と何一つ変わらないままの部屋も、今もまだいない人の分まで買ってしまう食事も、深夜の時計が止まったままの証拠。でも、深夜は誰の手も借りようとしないから、鈴も、千明(水野美紀)も何もできない。
深夜は、時に自分の身を挺してでも周りの人を助けようとするのに、自分のことに関してはまるでSOSを出さない。それが、もどかしい。
第8話を観ながら、深夜がどこかで壊れてしまうのではないかと。命を投げ出してしまうのは、伴ではなく、深夜なんじゃないかと怖くて仕方なかった。
堤防から身を投げようとした伴を踏みとどまらせたのは、娘の静空(戸簾愛)だった。静空の泣き叫ぶ声が、父の足を止めた。
ずっと静空は重石だった。愛しい妻の忘れ形見だ。愛する気持ちがないわけではもちろんない。
でも男手一つで娘を育てる中で、きっと何度もよぎったのだろう。娘さえいなければ、もっと自由になれるのにと。娘さえ産ませなければ、妻は死ななかったのかもしれないと。
そして、そんな考えがよぎるたびに、自分を責めた。娘と過ごした5年間は、伴にとって何度もその手を離そうとしながらも離せず必死に握り直した5年間だったのかもしれない。
そして、重石だった娘が、伴を命の岸辺にせき止める錨となった。娘がいたからこそ、伴はなんとか生きてこられたのだ、悲しみの5年間を。
ならば、その子どもさえも妻と共に失った深夜をこの世界にとどめるものは何だろう。何が深夜を悲しみの海からすくい上げてくれるのだろう。
ようやく泣けた伴のその横で、今も泣くことができない深夜のことが気になって仕方なかった。深夜の海に凪を与えてくれるのは、一体誰なんだろうか。
◆人の体温が、悲しみの処方箋になる
そこで思い出すのが、一星(北村匠海)の言葉だ。
「深夜のことも、鈴のことも、あの男のことも、全力で抱きしめてやる!」
その言葉通り、堤防で泣き崩れる伴(あの男)を真正面から抱きしめたのは、一星だった。伴からすれば、何の関わりもない相手だ。抱きしめてもらう謂れもない。
それでも、人の温もりでしか解きほぐせないものがあるのだろう。
思えば、僕たちはまだ赤ん坊だった頃、ずっと誰かの腕の中で育った。どんなに大泣きしても、抱っこをしてもらったら、いつの間にか泣きやんだ。正憲(駒木根葵汰)が添い寝の仕事を通して誰かをほんの少し助けているように、悲しみの処方箋は、いくつになっても人の体温がいちばんなのかもしれない。
一星もまた祖母のカネ(五十嵐由美子)が倒れたとき、鈴を抱きしめることで泣くことができた。どんなに明るく見えても一星だって決して無敵なわけじゃない。抱きしめてくれる人がいるから、一星は最強でいられるのだ。
両親を失った一星は、大切な人がいなくなることの悲しみを知っている。あのどうしようもない喪失感はいつも心に張りついていて、ふとした瞬間にまるで襲いかかるように心を飲み込んでしまう。一星は、そのことをよくわかっている。
だから、心がボロボロになっている人を見たら、抱きしめてあげたいと思う。その気持ちに、相手が男だとか女だとか、好きだとか憎いだとか、そんなものは一切関係ない。
愛に形があるとしたら、そんなふうに抱き合う人と人の形をしているんじゃないだろうか。
次回は、ついに最終回。何一つ手をつけられていない深夜の部屋を、一星たちが遺品整理をするようだ。遺品整理士という職業が、ここに結びついてくるのかと思わずため息が出るような展開だ。
そこで一星たちは何を見つけるのか。それが、深夜の悲しみをどう救うのかは、まだわからない。
でもきっとこの物語らしい優しい結末になるのだと思っているし、きっと一星だけじゃない、鈴や、マロニエ産婦人科医院、ポラリスの人たち、いろんな人の存在が、少しずつ深夜の悲しみをやわらげてくれるのだと思う。
愛には、いろんな種類があって。恋愛もあれば、親子の愛もあるし、友愛や敬愛、たくさんの愛が僕たちを取り囲んでいる。
そんな一つひとつの愛を、改めて慈しむことができるような、そんなラストになるんじゃないかと思っている。
ひとりぼっちで生まれ、ひとりぼっちで死んでいく僕たちだからこそ、生と死の間くらいはなるべく誰かとつながって生きていたい。だって、「人と生きる」ことが「人生」なのだから。
(文:横川良明)
※番組情報:『星降る夜に』最終回
2023年3月14日(火)よる9:00~10:00、テレビ朝日系24局
※『星降る夜に』最新回は、TVerにて無料配信中!(期間限定)