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窪塚洋介、たどり着いた“心底信じている”人生観「起こることは全部良くなるために起こることだ」

映画『GO』(行定勲監督)で日本アカデミー賞新人俳優賞と最優秀主演男優賞をはじめ、数多くの映画賞を受賞し、若き実力派俳優として話題を集めた窪塚洋介さん。

その後は『Laundry』(森淳一監督)、『ピンポン』(曽利文彦監督)、『凶気の桜』(薗田賢次監督)、『魔界転生』(平山秀幸監督)など主演映画が続き、2016年にはオーディションでマーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』に出演。圧倒的な存在感と表現力で海外での評価も高い。

 

◆24歳で父になる。「俺は大きい決断ほど早い」

2003年、主演映画が次々と続くなか、窪塚さんは24歳で結婚。現在、俳優・モデルとして活躍している長男・窪塚愛流(あいる)さんが誕生する。

-24歳の若さでパパになるというのは大きな決断だったと思いますが-

「そうですね。でも、俺は大きい決断ほどすぐしています、多分。『赤ちゃんができた』って前の奥さんに言われて、『えっ!?』ってなって、ちょっと一瞬固まって頭が真っ白になったけど、3秒くらいで答えを出していましたね。

もうそれしかないしなという感覚で決断して前に進んだというか。そうしたら結果、そのときに生まれた子どもが同業者になっちゃっていましたけど」

-映画『泣き虫しょったんの奇跡』(豊田利晃監督)でデビューされた愛流さんもすてきな俳優さんですね-

「ありがとうございます。楽しんでやっているようなので、良かったなって思っています」

-お父さんを尊敬していて、かっこいいなと思っている感じがとてもいいですね-

「だから反抗期がまだ来てないんだなあって。まだ一度もないと思います。生意気になったなあとか、ちょっと自分の意見を言うようになったなあとは思いますけど、殴られたりとか、『てめえこのやろう』ってお互いになるというのはないので(笑)」

-窪塚さんは、かなり過激な役もありましたけれども、とても穏やかな感じですね-

「まあ、それは役なので(笑)。何かそういうイメージがついちゃったというのはありますが、わりとゼロのところにいて、ナチュラルな『何でもできますみたいな役者になりたいな』って最初の頃は思っていたんですけどね。

でも、やっぱり自分のナチュラルなところにいるっていうのが一番楽しいし、自由だし、無理がないからストレスもないし、そこが自分の居場所だなあって思って。多分無意識で、みんなの真ん中というより、自分の真ん中を目指すことになっていったんだと思います」

-いつ頃からそういう境地に至ったのですか?-

「20代の前半くらいには、そういう未来を描いていたとは思うので。どこかでその未来を追い越して、描いた未来の向こう側にいる感覚ですけど、今は。でも、その延長線であることは確かだと思います」

多くの作品に引っ張りだこの状態が続いていた2004年、窪塚さんは自宅マンション9階から転落。大けがを負ってしまう。

「当時は、多分本人が一番自分の置かれている現状というのがわかっていなかったでしょうね。

『俺はもうこの道を行くんだ』みたいになっていたから、根拠のない自信と、それが確信に変わってきてしまっているタイミングだったので、ある意味怖いものもなかったし、どうにでもなると言ったら語弊(ごへい)がありますけど。敬意がなかったわけでもないけど、自分の道を歩いていけばいいんだという風に強く思っていたので、そこが支えだったし。

ただ、それが行き過ぎた結果、理由ははっきりわからないんだけど、マンションのベランダから落っこちるということにつながっていたんだろうなあとは思うんですけど。ケガをした後に、自分の思っていることを表現するってレゲエミュージックを始めたんです」

2006年、窪塚さんは、卍LINEとして音楽活動をスタート。2009年には「空水」としてカメラマンやMV監督としての活動を開始。2010年には蜷川幸雄さん演出の『血は立ったまま眠っている』で初舞台。著書も精力的に出版するなど、マルチな才能を発揮していく。

 

◆「起こることは全部良くなるために起こること」

2016年、窪塚さんは、マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙 -サイレンス-』でハリウッドデビューを果たす。原作は遠藤周作さんの小説『沈黙』。スコセッシ監督が28年間映画化を夢見ていた作品。

この作品は、キリシタンが弾圧されていた江戸時代初期を舞台に、日本にたどり着いた宣教師の視点から神と信仰をテーマに描いたもの。窪塚さんは、キリシタンだが、自分が生き残るためには仲間を何度も裏切り、踏み絵も踏んでしまう、キチジローを演じた。

-ハリウッド映画にも挑戦されて『沈黙 -サイレンス-』のキチジロー、すごく印象に残る役柄でした-

「ありがとうございます。何か夢を見ているような感じで、『ドッキリかな?』っていまだに思うときがありますけど(笑)」

-最初のオーディションではダメだったそうですね-

「そうなんですよ。2008年頃、一度オーディションに声をかけていただいたときは、何某かの意図がある人たちにハメられたかなという気もするんですけど、控室だと言われて通されたところがオーディション会場で、そのまま始まってしまって。

有名な人が片っ端から来ているから、誰もかぶらないようなくらいに丁寧(ていねい)に運んでいたはずなので、『何かおかしいな?』って、腑に落ちないところはいまだにあるんだけど。

いきなりオーディション会場に通されると思っていなかったから、ガムをかんだままだったので、キャスティングディレクターの女性に『マーティンはあなたみたいなヤツは大嫌いだから』って言われてしまって。最悪ですよね。案の定、やっぱりダメで(笑)」

-窪塚さんは、スコセッシ監督が大好きでDVDも特典映像までご覧になっていたということですから、落とされたときのショックは大きかったのでは?-

「いやあ、もう『やっちゃった』っていうか、『くそー』っていうか…。でも、あまり引きずらず、しょうがないわって思うほうだから。

それは多分落っこちてケガをして、引きずっていたら前に進めないから、そういう風に考えられるようになったというのもありますね。あれ以降はもう『起こることは全部良くなるために起こることだ』ということを心底信じているんですよ。

たとえば、今のコロナもそうだし、今世の中で起こっていることも、人それぞれがよりよくなるために起こっているギフトだと思って前に進めば、いつかそれを笑える日が来て、力になって前の自分じゃできなかったこととか、思えなかったことを、この先の未来で我々は思えるようになるためのインビテーションを配られているんだと。

同じ切符なのに、それで地獄に行く人もいるし、天国に行く人もいるという、行き先はここで決められるという風に思っています。そうじゃないともったいないなあと思って。同じ経験を経ても気持ちひとつで未来が大きく違うんですから」

-2度目のオーディションは?-

「2年後くらいにまた声がかかったんですけど、何年もかけてオーディションをやっていることに驚きました。それで今度こそという思いでオーディションを受けさせてもらったら、前回俺にダメ出しをしたキャスティングディレクターの女性がまたいたんですけど、前のことは覚えていなかったみたいです。今度はすごく気に入ってくれて(笑)。

マーティンが来日して最終オーディションということになったんですけど、冗談を言いながら相手役をしてくれたり、リラックスさせてくれて一番いい芝居を引き出してくれて。全部終わった後、ロケ地が台湾だったんですけど『台湾で会おう』って言ってくれたので、『俺に決まったのかな』って思いました」

-スコセッシ監督と仕事をされてみていかがでした?-

「チームスコセッシのプロ意識の高さがすごかったですね。すべてのことがこれまで経験した現場とは違っていて、本当に夢のなかで仕事をしているみたいでした。頼れるのは自分が演技をする、役を生きるということだけしかなくて。

でも、それが通用して、マーティンも俺の芝居を気に入ってくれて。何かプチ・アメリカンドリームみたいなことが撮影中にも起こっていて。そういうのを体感していたら、やっぱり俺は自分の道を信じて生きてきて良かったと思ったし、本当に報われる思いがしました」

-キチジローは簡単に転ぶし、イヤな奴だなあって思いましたけど、どこか無垢(むく)なところがあるのが救いでした-

「そうですね。遠藤周作さんが、『私はキチジローです』って言ってるんですよね。それがやっぱりすごく支えというと大げさですけど、道しるべみたいな感じで、俺を導いてくれていて。

それで、アンドリュー・ガーフィールドが演じたロドリゴと表裏でひとりになっているんだみたいなことを、最初の顔合わせのときにマーティンが話していて。

途中でキリストの絵が出てくるんですけど、アンドリューの顔と俺の顔を混ぜたような絵が描かれていて、表裏でひとりというのは、そういう意味なんだということを理解してキチジローを演じることができたんですよね。

キチジローは、キリストの絵を踏んじゃうし、弱くてすごいダメダメな、いわゆる人間の弱さの象徴みたいな役なんだけど、裏返すとそれが強さになるということを言っているのかなあって思いながらやっていました」

-何度裏切っても最後までロドリゴの側にいるわけですからね-

「そうですね、おじいさんになってもそばにいますからね」

-それで最後に救いがあって。本当に印象的な作品でしたが、海外の作品にも色々出演されるようになって-

「そうですね。やっぱり時代が変わって、海外への扉というのが前よりも簡単に開くような状況になっていて、それは我々この島国の役者たちにとっては、ものすごいチャンスが舞い込んできているタイミングで。

裏社会ものとアニメと侍、テーマが限られているなあという感じはするけど、それでも、もう一回夢を見られる、もう一回夢を見直せるような状況ではあると思うので。

ずっと描いていたシーンではあったんですよね。何か海の向こうから迎えが来るみたいなイメージがすごくあって。

まあ、自分が取りに行ったんだけど、マーティン・スコセッシという船が迎えに来てくれて。どこかで一回、映画、役者としてのストーリーが完結している部分があって。もう辞めてもいいなあって正直、ちょっと思ったこともあったんですよ。これ以上のフィナーレないわと思って」

-『沈黙 -サイレンス-』を撮り終えたときに?-

「はい。だけど、やっぱり、その先の未来に行きたいとも思ったし。ここで前に進まなかったら、ここで終わって、『役者としては良かったね。じゃあ次の人生』っていうのもあったかもしれないけど。

でも、まだまだやっぱりこの仕事が好きで役者としてやっているから、終わりにするのはもったいないなぁっていう風に思って、今も続けているんですけど。でもそうやって思うくらい、役者としてのある節目を迎えられたなあとは思います」

2020年には、角川春樹監督の『みをつくし料理帖』に出演。2021年には『池袋ウエストゲートパーク』の堤幸彦監督とタッグを組んだ映画『ファーストラヴ』に出演した。

2023年2月10日(金)には18年ぶりとなる邦画長編主演映画『Sin Clock』が公開に。次回はその撮影エピソード&裏話なども紹介。(津島令子)

ヘアメイク:佐藤修司(botanica)

©2022映画「Sin Clock」製作委員会

※映画『Sin Clock』
2023年2月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
配給:アスミック・エース
監督・脚本:牧賢治
出演:窪塚洋介 坂口涼太郎 葵揚 他
理不尽な理由で会社をクビになり、社会からも家族からも見放されたタクシードライバー・高木(窪塚洋介)が、偶然手にした巨額の“黒いカネ”強奪のチャンス。偶然の連鎖が引き起こす、たった一夜での人生逆転計画を描く“予測不能”の犯罪活劇が誕生。

「一度つまずいたら、再起のチャンスはどこにもないのか?」そんな現代を生きる“持たざる者”のリアルな空気をスクリーンに焼き付け、想定外のラストへと走り出す新時代のサスペンス・ノワールが誕生。