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モヤモヤの正体<アナコラム・矢島悠子>

<テレビ朝日・矢島悠子アナウンサーコラム>

近頃すっかり定着した「モヤモヤ」ということば。よく使うという方も多いのではないでしょうか。

わたしも使うことがありますが、最近は…このモヤモヤということばにモヤモヤしてきちゃいまして…なるべく使いません。モヤモヤが増してしまうから。

今回はこのモヤモヤについて書いてみます。

◆世の中モヤモヤだらけ

モヤモヤという言葉は当然のことながら、どうにもすっきりしない気持ちの時に使いますよね。

殊に最近は、こういうシーンでの使い方が多いように思います。

誰かに言われたことに対してハッキリは言い返しにくい、こんなこと言ったら角が立つ。我慢しよう。でも…帰ってきてからやっぱり、何だかひっかかる。うまくことばにならない気持ち。

そんなとき「なんだかモヤモヤする…!」と言いますよね。

先日友人と行ったアフタヌーンティー。見渡せば100%女性の店内。笑いながら近況報告をし、時折グチを吐きながら、甘くてかわいいものを頬張るわたしたち。

わたしのテーブルはもちろん、いろんなテーブルから「それはモヤる~!」という声が聞こえて来て吹き出しそうになりました。

そう。世の中モヤモヤだらけ。いやですねぇ(笑)。

モヤモヤの語源は、自然現象の靄(もや)。もやが立ち込めているように実体がはっきりとしない様子。

なるほど、心の中に、もやが掛かってしまっていたら、それはすっきりしないわけです。

モヤモヤの正体が何なのか、特に考えることもないままふてくされてしまったり、「ちぇ」って思いながらお酒を飲んじゃったり、友達に電話して「モヤモヤする~!」と盛り上がったり…。

そうやって解決したかのように見えるけれどモヤモヤは正体不明のまま。眠りに落ちて、朝がきて…そこにまた違うモヤモヤが現れて、いつの間にかモヤモヤが蓄積している。

気が付けば、心の中にはたくさんのモヤモヤが、おりのように沈んで重なっていって…ある日わたしは、自身の気持ちがすっかりわからなくなってしまっていることに気が付きました。

自分自身が行方不明。五里霧中!

鏡を見ると、なんともさえない表情のわたしが立っています。表情までもやが掛かっています。

これではいけない!と思い直し、日々積もり積もっていく、モヤモヤの正体を解き明かす努力を始めたのでした。

◆正体を知るということは、自分自身を知ること

モヤモヤの正体は何か。

まずは紙の上に思いつくことばをたくさん並べることから始めてみました。

今日はこういうことがあって、こんなことばをかけられて、そのときモヤモヤした。

モヤモヤ…イライラした? ムカムカした? 辛かった 涙が出た 悔しかった…?

本当はその時わたしはどう思ったんだろう? どうして言葉を返せなかったんだろう?

なんと言えばいいのか、ピッタリくることばが見つからなかったから。いや、探そうともしていなかったかもしれない。ただその気持ちをモヤモヤと表現してごまかそうとしてなかったかな。

ことばの仕事をしているくせに、情けないですね…。思いのほか苦戦するモヤモヤの正体を暴く作業。

時に苦しくさえ感じました。自分の語彙の乏しさにもゲンナリ…。

辞書をひくこともあるし、友達に電話することも。「ねえねえ、こういうときって何て言うかな?」

モヤモヤとの闘いの中で発見だったのは、当初「モヤモヤ≒イライラ」なんだろうと想像していたことが、そうでもないケースが多かったこと!

相手に対して「どうしてそんな言い方するのかな」とイライラ、とかそんなこと気にしなくてもいいのに、しょうもないことにイライラしているわたし。

そういうことが多いんだろうと想像していたのに、ちょっと違った。

小さなことにイラつく自分ではなかった、というのはある意味でちょっとホッとしました。それだけでも、かなり収穫があったなと思いました。

同時に、モヤモヤの中には、相手への思いだけではなくそれに対応する(或いは対応出来ない)自分自身への気持ちも多分に含まれていることに気が付いたのでした。

ひょっとすると、その割合のほうが多いんじゃないかなというのが、今のわたしの分析です。

ある時のモヤモヤは、「悲しい」だったことも。

ある日、心無いひとことを言われて、すごくモヤモヤしたのですが…帰ってからじっくりとそのモヤモヤと向き合ってみたところ、それは苛立ちではなく、思いのほか傷つき、とても悲しかったのだとわかりました。

そうか、わたし…悲しかったのか。

その言葉に行きついた時、大粒の涙がボロンと零れ落ちました。胸のつっかえが取れる気がしました。

なんだ、悲しかったんじゃん。そうだよ、わたし悲しかったんだよ。ムカムカでもイライラでもなかった。

モヤモヤの正体がわかると、ちょっとスッキリ。自分でさえも、モヤモヤの内実を勘違いしているなんてことあるんだなぁと思いました。

もちろん、モヤモヤが、イライラではなく悲しみだったから解決!というわけではないのですが、正体を明らかにするだけで、こころの応急処置にはなるように思いました。

モヤモヤしないのが一番ですが、モヤモヤはします。絶対しちゃいます。だったらモヤモヤで終わらせず、その正体、しっかり暴いてみませんか?

実際にやってみると、正体を知るということは、自分自身を知ることだと思ったんです。

怒りっぽいわけでもない、傷つきやすいだけでもない、結構一生懸命な自分自身に出会うことが出来た。そして、そんな自分を慈しめるような気がします!

ワタシ、こんなに頑張っているなんて、かわいいとこあるじゃん!って。

もやを抜けた先には、ほんの少し成長した自分がいるのを信じて…今日も静かな格闘を続けるのでした。<文/矢島悠子

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