マキタスポーツ、最新出演映画の撮影が「楽しくはなかった(笑)」理由。そして、嬉しかった20歳の長女の反応
“音楽”と“笑い”を融合させた「オトネタ」を提唱してライブ活動を各地で実施し、芸人としてキャリアをスタートしたマキタスポーツさん。
俳優としても注目を集め、映画『苦役列車』(山下敦弘監督)で第55回ブルーリボン賞新人賞&第22回東京スポーツ映画大賞新人賞を受賞。数多くの映画、テレビ、ラジオに出演。
2022年、初の自伝的小説『雌伏三十年』(文藝春秋)を出版。10月14日(金)には、映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(竹林亮監督)の公開が控え、幅広い分野で才能を発揮している。
※『雌伏三十年』
著者:マキタスポーツ
発行:文藝春秋
芸人・ミュージシャン・文筆家・俳優としてマルチな才能を発揮しているマキタスポーツの自伝的小説。1988年、山梨から野望を抱いて上京した臼井圭次郎は、紆余曲折の末に仲間とバンドを結成するが、なかなか売れずバンドは空中分解。おまけに女性関係や家族間のトラブルも…。
◆自伝的小説で小説家デビュー
マキタさんは、2022年3月、『雌伏三十年』(文藝春秋)で小説家としてもデビューした。『雌伏三十年』は、文芸誌『文學界』(文藝春秋)で2015年6月号からから2016年9月号に掲載されていた作品に大幅な改稿を施したもの。
「もともとは、『何か書いてみませんか』って、『文學界』の担当編集者の方に声をかけてもらったことがきっかけだったんです。ものを書くという表現はずっとやってきたことだし、小説もいつかは書きたいと思っていましたから、オファーをいただいたので乗っかったという感じですね。
それが7年くらい前で、その当時は文芸誌に小説を連載するような芸人はいなかったんですよ。誰もやっていないことだから、やってみるのもいいなと思って引き受けたところもあったんですけど、そのすぐ後に又吉(直樹)くんが芥川賞を獲っちゃいましたからね(笑)」
-主人公の臼井圭次郎は、野望を抱いて上京したものの、なかなかうまくいかず、さらに女性関係や家族間のトラブルも勃発しますが、エピソードの多くはご自身の体験がベースに?-
「ほとんどそうです。兄貴とのエピソードについてなんかは、ちょっと盛っているところもありますけどね(笑)。自分に関してはほとんどそのままです。『俺はこんなところでくすぶっている人間じゃない』とか『これは本当の自分じゃない』というような思いを抱えていたのも事実。
だから圭次郎の焦りや怒りはすべて当時の僕が抱えていた思いですよ。何者かになろうとして必死にもがいていた自分の過去、自意識の葛藤をさらけ出しましたからね」
-多方面でご活躍されていて多忙な日々の中での連載は大変だったのでは?-
「そうですね。その当時ちょうどレギュラーの仕事が増えてきた頃だったし、役者の仕事も入っていたので、めちゃめちゃ忙しかったですね。そんななか、何とか合間の時間を見つけて書いていました」
-一冊の本になったということについてはいかがですか?-
「連載が終わってから本になるまで6年くらいかな。結構時間が空いたのは助かりましたね。あまりに自分の体験だけでなく、考え方の癖やイヤなところなどもさらけ出しすぎたので、ちょっと離れたかったんですよ。すぐだったらきつかったでしょうね。ある程度空いたことで客観的に見られて推敲(すいこう)ができたと思います」
-表紙の絵は娘さん(長女)が描かれたそうですが、お上手ですね-
「ありがとうございます。娘は今、二十歳なんですけど、なんとなく直観で描いてほしいと思ったので『お父さんの若い頃を想像して描いてくれる? バンダナを付けてね』とだけ言って描いてもらいました。あとでギャラを請求されましたが」
-娘さんの絵をご覧になったときはいかがでした?-
「僕の若い頃のタチの悪いナルシシズムみたいなものがすごくうまく出ているなあと思いました。気に入っています。バンダナを付けてということ以外は何も注文を付けなかったんですけど、よくわかっているなあと思いました」
-小説を書いたことで何か変化はありましたか?-
「色々と大変なこともありましたけど、これを書くことで自分自身をあらためて客観的に見たり、向き合うことになりましたからね。結果的に歌や演技など表現に役立つことになりました。そういう意味ではいいタイミングだったなあと思います」
◆マキタスポーツさんが考案した「10分どん兵衛」が話題に
マキタさんが小説を書きはじめた2015年から2016年にかけては、「10分どん兵衛」も話題に。これは、「日清のどん兵衛 きつねうどん」(日清食品)の大ファンであるマキタさんが、通常はお湯を入れてから5分の調理時間を10分待ってから食べるというもの。麺がツルツル、モチモチになり、おいしいと話題になった。
-一時はコンビニの棚からどん兵衛が消えるくらいの話題になりました-
「ありがたいですよね。もともとは、お金がなくて、田舎から送られてきたインスタント麺で食いつなぐために編み出した技なんですよ。お湯で麺を太らせて嵩(かさ)増しをするというものだったんですけどね」
-昨日初めて「10分どん兵衛」をやってみました。普段は硬めが好きなので、ちょっと不安でしたが、モチモチしておいしかったです-
「ありがとうございます。こればかりは本当に好みなので、硬めが好きな方は硬めのほうがいいと思いますよ。
僕は、そこそこ稼ぐようになった今でも週に3~4度はインスタント麺を食べています。買い物に行ったときに新商品を見つけては確認しています。インスタント麺の定点観測ですね。
それもそのままではなく、味を足したりしてアレンジすることを当たり前のようにやっているんですよ。ちょっと後ろめたさを感じたりしながらね。今は東洋水産の『ZUBAAAN!』にハマっています」
※映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
2022年10月14日(金)より東京・渋谷シネクイント、大阪・TOHOシネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマ先行公開
2022年10月28日(金)より全国にて順次公開
配給:PARCO
監督:竹林亮
出演:円井わん マキタスポーツ 長村航希 三河悠冴 八木光太郎 髙野春樹 島田桃依 池田良 しゅはまはるみ
◆長女がSNSで発見「お前の目にも触れちゃった?」
『マキタ係長』(山梨放送)、『闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん』(MBS)、『劇場版 きのう何食べた?』(中江和仁監督)、『東京ポッド許可局』(TBSラジオ)など多くのテレビ、映画、ラジオに出演しているマキタさん。
2022年10月14日(金)には、映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』が公開される。この映画は、小さなオフィスを舞台に、社員全員が同じ一週間を繰り返していくという“新感覚オフィス・タイムループ・ムービー”。
小さな広告代理店で働く主人公(円井わん)は、後輩2人組から同じ一週間を繰り返していると告げられる。にわかには信じられないが、やがて社員は全員タイムループの事実を知ることに。しかし、タイムループを抜け出す鍵を握る部長(マキタスポーツ)だけはそのことにまったく気がつかない…という展開。
-撮影はいかがでした?-
「ずっとオフィスの中での撮影で、シチュエーションが変わらないので、ちょっと語弊(ごへい)がありますけれども、楽しくはなかったです(笑)。
同じことが繰り返されているというドラマなので、本当に同じことを毎日やっていましたからね。僕は、途中まで同じセリフしかほぼ言っていないので。
タイムループを抜け出すキーパーソンなのに、僕だけ最後まで何が起きているのかわからない。周りはだんだん気がついていきますけれども、僕だけ気がついていないわけですからね」
-いろんな作品に出られていますが、こういう作品は珍しいのでは?-
「そうですね。珍しいことをやりたいなと思っていたときにこういう話があったのでうれしかったですね。大きい予算の大きい仕組みの作品にも出てきましたけど、こういうインデペンデントな作品で若手のクリエイターの方とか若い役者の方と接点を持てたのはおもしろかったですよ。
それと、最初にこういう企画とか着想があった上で、そこから本当に熱があって生まれているものであるということがすごくわかるんですよね。だからすごく刺激になったし、おもしろかったですね。
監督はわりとしつこい人で、こだわりもあって(笑)。お芝居のことに関しても、ちょっとした違いとか、どう見えるのかというような工夫に関してものすごく熱心な方だということは感じました」
-とくに印象に残っていることはありますか?-
「撮影に入る前に1回稽古をしているんですよ。それで『だいたいわかりました』みたいな感じで、ちょっと僕はタカをくくっていたところがあったんですけど、実際にオフィス内で撮影をするとき、『もう1回、もう1回』という感じで何度もやりました。
だから撮影が始まってわりとすぐに『これは違うぞ』って感じました。あと、部下のほとんどがタイムループしていることに気がついて、僕だけ気がついていないときに、パワーポイントを使ってプレゼンをやるシーンでは、テンポ感とか言い方に関してすごく気にされていました」
-タイミングもいろいろ大変だったと思いますが、やり直しも結構ありました?-
「ありましたね。でも、今から考えると、そういうのも重要だと思うので、本当に小さいところの積み重ねというのをすごく気にしていたんだと思います」
-完成した作品をご覧になっていかがでした?-
「思っていた以上に意義深い作品というか、高度に文明とか社会が発達した時代だからこそ、こういう作品の意義が意外と重いなあなんて思ったりもしましたね。すごくメッセージを感じる作品になったと思います。
歳をとればとるほど、気がつかないというのはおもしろいですよね。やっぱり歳をとると何も疑問を持たないで日々のレギュラー化された暮らしのパターンが続いていけばいいと思っている。
だから『ひょっとしたら、これはループしている?』って思ったとしても、それに蓋(ふた)をして、『別に変わらなければいい』と思うことが歳をとるということ。僕がやった永久部長というのは、その象徴で、気がついていようが気がついていなかろうが、もうこのままでいいと思っている。
世の中も置き換えてみれば、同じような円環の中から抜け出さないままでいいと思っている人はたくさんいる。問題点もあるのかもしれないけれど、支障がなければいい。別にそれでいいやと思っているのが人の常だし、社会だし、歳をとるということだと思えば、立ち返って本人が昔若かりし頃持っていたチャレンジ精神とかを呼び起こされるわけじゃないですか。
そういうのがすごい象徴的な出来事として描かれているわけですよ。そこを見直すことによって、この円環から抜け出すということをみんな一枚岩になって頑張ることになるわけじゃないですか。それはすごい象徴的な感じがします」
-マキタさんのご家族や周囲の方たちからの反応などはいかがですか-
「長女がこの映画に関しては、SNSで記事を拾っていましたね。『あの映画に出るらしいじゃん。観たいな』って言うから、それはちょっと不思議な感じになりました。『えっ? お前の目にも触れちゃった?』みたいな。うれしかったですね。
そういう形で観ていただくのが1番いいんじゃないですかね。親が出ているから観なくちゃいけないなんていう義務は最悪じゃないですか。そういう歳でもないですし、自分の選択の中、たまたま興味の中にパパも出たんだという感じだと思うんですよ。そういう触れ方が1番いいと思います」
-今、「マキタスポーツ オトネタひとり旅~雌伏三十年ツアー~」の真最中ですが、お子さんたちは今もライブには行かれているのですか-
「今はそうでもないです。昔は僕も若かったし、とくに長女とかは、本当にちっちゃい状態でライブハウスの中で半裸のおじさんたち、ろくでもないおじさんたちをちょっと情操教育のために見せてしまいましたけどね(笑)。精神形成上大きいじゃないですかね。こうなってはいけないという実例もいっぱい見せましたからね」
私生活では4人の子を持つパパ。現役の子育て真っ只中だという。茶目っ気たっぷりの笑顔と“イケボ(イケてるボイス)”が印象的。
2022年で芸人デビュー25周年を迎えたマキタさん。映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』、「マキタスポーツ オトネタひとり旅~雌伏三十年ツアー~」をはじめ、超多忙な日々が続く。幅広い分野でマルチな才能を発揮しているマキタさんの勢いが止まらない。(津島令子)
ヘアメイク:永瀬多壱(VANITES)
スタイリスト:小林洋治郎(Yolken)
ジャケット/FACTOTUM/Sian PR
シャツ/remember/Sian PR
ベレー帽/MAISON Birth/Sian PR