野球というスポーツは、特別で、面白くて、実況するのは難しい<アナコラム・清水俊輔>
<テレビ朝日・清水俊輔アナウンサーコラム>
7月26日、プロ野球オールスターの実況。
8月1週目、中学硬式野球リトルシニア全国大会の実況。
8月9日、テレビ朝日・六本木ヒルズ SUMMER STATION「野球がつなぐ未来」イベント司会。
そして8月13日からは高校野球、夏の甲子園の実況。
この夏の私のスケジュール。まさに“野球漬け”だ。
アナウンサーになって21年目。思い返せば、野球の仕事をたくさんしてきた。もっと過去を振り返れば、5歳の頃から球場で、テレビで、野球を観つづけてきた。
実況アナウンサー、スポーツキャスター。こういう仕事に漠然と興味を持ったのは小学生の頃だ。
こうしてアナウンサーとして野球に関わる仕事をする未来が本当にやってくるとは、その頃は想像すらしていなかった。
当時の自分は野球少年。どちらかというと、プロ野球選手として活躍する姿を想像していたものだ。
◆野球というスポーツの中で交錯する“過去・現在・未来”
さて、野球の実況という仕事は、本当に難しい。
様々なジャンルの仕事をしてきたし、スポーツ実況も多くの競技を担当してきた。しかしやはり、野球の実況がいまだに一番難しい。
野球は、9イニングの中で“過去・現在・未来”が複雑に交錯するスポーツだ。
インコースのストレートという“過去”を見せておいて、外のスライダーを振らせるという“未来”を描く。そんなスポーツ。
ここで送りバントをすると、次のバッターは申告敬遠だろう。そうすると左の代打の切り札が出てくる。となれば、あの左のリリーフエースが登場するだろう…。常に先読み。“過去”をもとに“現在”の状況を整理し、“未来”を想像する。
そうやって、実況している。想像が当たるか当たらないかは問題ではない。想像すること自体が大事だ。
考えることが多すぎて、自らの脳のキャパシティの限界をいつも感じている。1試合喋り終えると、とにかくお腹が空いて、頭が痛い。一息つくと、そのままその場に倒れこみたくなる。
だからこそ、やりがいがある。
振り返ってみると、実況席から数多くの心震えるような瞬間を目の当たりにしてきた。
2006年、SHINJO選手ラストゲームになった日本ハムの日本一。
2013年WBC台湾戦、鳥谷敬選手9回2アウトからの盗塁。
同じく2013年、田中将大投手が魂のリリーフで決めた楽天の日本一。
どの試合も、どの場面も、過去を踏まえて現在を整理し、未来を想像しながら喋っていたけれど、“想像もしていない未来”がやってきて、その現実に引っくり返りそうになる。
でも、なんとか喋りつづけている。
小さいころから野球を観つづけてきた日々。入社1年目、週4回神宮球場に通って大学野球を観ながら実況練習した日々。
こういう過去が現在の自分を支えていて、実況席で経験してきた無数の現在が過去となって今の自分を作っている。
◆やっぱり野球は特別で、面白い
この夏、経験した野球の仕事。
オールスターを実況していると、厳しい競争を勝ち抜き日本野球のトップに上り詰めた選手たちの過去に敬意を表したくなるし、来年のWBCには誰が選ばれるのか、その未来を想像してワクワクする。
初めて実況した中学野球の選手たちを見ていると、明るい未来を想像せずにはいられない。
高校野球を実況するたび、選手たちの向こう側に、生まれたときから大事に育ててきたご家族、近所のおじちゃんやおばちゃん、そういう人たちの姿が見えてきて、ただただ泣けてくる。
未来明るい球児たちにも、たくさんの人が関わってきた過去や一生懸命野球を頑張ってきた過去があって、だからこそ今、甲子園という現在地にたどり着いている。
9イニングという絶妙な時間。一球一球に間があるからこそ考える時間が生まれ、過去と未来が交錯する。
やっぱり野球は特別で、面白くて、実況するのは難しい。<文/清水俊輔>