田中美奈子、超多忙な時期の大作ドラマ出演。助けてくれた渡哲也さんの思い出「美奈子をこんなにしたのは誰だ?」
「’87イエイエガールズ」として活動後、月9ドラマ『君の瞳に恋してる!』(フジテレビ系)、『ゴリラ・警視庁捜査第8班』(テレビ朝日系)など多くのドラマに出演し、『涙の太陽』で歌手デビューした田中美奈子さん。
ワンレン&超ミニのボディコンに抜群のプロポーションと端正なルックスが際立ち、ゴージャスな雰囲気はまさにバブルの代表的存在だった。タレント活動だけでなく、「動物愛護団体elf」(現在はNPO法人)設立、動物共生型マンションのプロデュース、パラオ共和国観光親善大使、キャンピングカーライフに特化したオリジナルブランド「MOIMOI」も始動するなど幅広い分野で活躍中。
◆撮影を中止にして休ませてくれた渡哲也さんの優しさ
1989年、田中さんは、渡哲也さん主演ドラマ『ゴリラ・警視庁捜査第8班』に紅一点の田中美奈子刑事役で出演。
-渡哲也さんをはじめ、舘ひろしさん、神田正輝さん…すてきな大人の俳優さんたちに囲まれて-
「はい。国宝級の方たちがいらっしゃったので、本当に大変なときに色々助けていただきました。渡さんがたまたま『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)をご覧になっていたみたいで、『この子を使おう』って言ってくださって出させていただくことになりました」
-当時は歌番組も多かったので、かなり忙しかったのでは?-
「はい。歌番組もですけど、バラエティ番組やCM、イベントも多かったので、めちゃめちゃ忙しかったです。ゴルフトーナメントの優勝者に花束を渡すためだけに、撮影現場からヘリで移動して花束贈呈してトンボ帰りするということもあったりして、かなりハードでした。
そんなことがあって私が疲れてフラフラになっていたとき、渡さんが『美奈子をこんなにしたのは誰だ?もう今日は撮影なしだ。休ませる。帰れ』って休ませてくださったり、本当にお気遣いいただいていたので、渡さんは芸能界のお父さんだとずっと思っていました」
-撮影で印象に残っていることはありますか-
「はい。ライフルを撃ったことなんてなかったので、撃ったときの衝撃なんてわからないじゃないですか。それで見ていた舘さんが笑っちゃって、『お前ダメだ、そんなんじゃ。俺がやってやる』って言ってくれて。
私が車の上にライフルを置いて構えているんですけど、私の後ろに舘さんがカメラから見えないアングルで隠れていて、私の服の上からブラジャーの紐を持っておいて、撃った瞬間にグッと引っ張ってくれたんです。撃った衝撃がわかるように舘さんがやってくれて(笑)。おもしろいですよね」
-舘さん優しいですね-
「そうなんですよ。だからもう完全に身を任せてやっていました。それで渡さんも、私はパソコンの前でセリフを言うシーンが多かったんですけど、私が覚えにくいセリフがあると、渡さんが台本をビリッて破いてパソコンの前に貼ってくれて、『これで大丈夫だ』って(笑)。
移動中も地方に行くと自分の車がないから、普通はロケバスに乗るんですけど、渡さんの車、舘さんの車、神田さんの車という感じで順番に呼ばれて乗せてくれて。
そうすると一番いい席に座らせてくれて。神田さんも『いいクッションを買っておいたからお前これで寝ろ。疲れているだろうから』って気を遣ってくださって、リクライニングにしてくれて寝ながら移動させてもらったりしていました。
舘さんも自分が寝る場所に『お前ここで寝ていていいから』って言ってくださって、みんなの車に呼ばれて寝かせてもらっていましたね。本当にありがたかったです。
でも、それは多分私が男の子っぽかったからでしょうね。女の子というよりも後輩みたいな感覚だったんだと思います。サバサバして体育会系だったので、扱いやすかったんだと思います。少々雑に扱ってもこいつは平気だなっていうところがあったので(笑)」
-劇中では舘さんと惹(ひ)かれ合うという設定でしたね-
「そうですね。普段そういう感じではないので、ちょっと照れました。『舘さんとそうなるんですか?』って(笑)。先の展開は、脚本を書きながらそういうふうな方向になったんでしょうね。まったく聞いてなかったです。まさかの展開でした。結局、舘さんが劇中死んでしまうので一緒になれないんですけど」
-おもしろいドラマでしたし、カッコよかったですね-
「そうですね。皆さんカッコよかったです。石原プロじゃなければ作らないドラマでしたね。映画並みの予算でしたし、スケールもスタッフの人数もすごかったので、すばらしかったです。100人くらいで移動していましたからね。今はもうあのスケールのドラマはなかなかできないですよね」
◆悪女のイメージが浸透して苦労することに
1991年には、ドラマ『もう誰も愛さない』のヒロイン役に。運命に翻弄された3人の男女(吉田栄作・田中美奈子・山口智子)が金と愛欲の果てに犯罪を重ねていく様を描いたもの。先が読めないストーリーが目まぐるしく展開し、「ジェットコースタードラマ」と称されて話題に。
-「ジェットコースタードラマ」と言われるのが納得の怒涛(どとう)の展開でした-
「ビックリしました。ただ、『悪役です。悪のボスです。悪を先頭切って割り切ってやってください』と監督に言われていたんですね。
それで蓋(ふた)を開けてみたら、悪も悪で、どうしようもないひどい女で(笑)。自分の手は汚さずに人にみんなやらせるみたいな…すごいドラマでした。でも、あのドラマが当たっちゃったがために、あのイメージがすごく強くついちゃって、それには苦しみました」
-端正なルックスだから悪女が似合うんですよね-
「可愛らしい顔立ちだったら悪女の役は来ないんでしょうけど、『顔とかで役を決められるのはどうなの?』って思っていました」
-でも、悪女役のほうがやっていておもしろいのでは?-
「後々は楽しめるようになりましたけど、あまりにも自分とのギャップがあったので、すごくそこがしんどかったときも正直ありましたからね」
-『もう誰も愛さない』も、最終的にはいい人になりましたね-
「そうですね。『急に変わったよね』ってみんなに言われました(笑)。ガンになって余命宣告をされて。ガンになってからのシーンはノーメイクで出ていたので、それはすごく助かりました。メイク時間が必要なくなって、入り時間が遅くなったので、ちょっとでも休めるという感じで」
-セリフもかなり多かったので覚えるのが大変だったのでは?-
「本当に大変でした。役者で大変なのは、セリフ覚えなきゃいけないことですね。私は説明ゼリフがある役が結構多いんです。『ジュニア・愛の関係』(フジテレビ系)という政治のお話のドラマのときも、高嶋政伸くんに、議員というのはこういうものだよって延々と説明するセリフだとか、本当に勘弁してくださいというふうにいつも思っていました。お医者さんだと専門用語だとか、本当に多いんですよ」
-セリフ覚えは早いですか-
「昔は覚えが早かったんですけど、今は全然ダメで覚えられないです」
-滑舌がいいので、とても聞きやすいですね-
「ありがとうございます。滑舌だけは褒められますけど、年齢的に噛みやすくなりました。気をつけないとまずいです(笑)」
◆映画の主題歌の作詞も自ら手がけて
1993年、田中さんは、“鮫”と呼ばれる新宿署の一匹狼の刑事の戦いを描くアクション映画『眠らない街 新宿鮫』(滝田洋二郎監督)に出演。ヒロインでロックバンド“フーズ・ハニイ”のボーカル・晶を演じ、自身が歌う主題歌『眠らない街』の作詞も自ら手がけた。
-パンチが効いていてカッコいい歌でしたね。雰囲気も合っていて-
「ありがとうございます。あれからロックシンガーだと思われていて、キャンペーンで行っても『あれ?ロックじゃないんですね』って言われたりしていました」
-作詞はもともとやっていらしたのですか-
「いいえ。やっぱりリアリティーを求めたかったので、映画の中では曲を作るんですけど『詩を書かせてください』って監督にお願いして、やらせていただきました」
1996年、田中さんは、黒沢清監督の映画『DOOR III』に主演。この映画は、キャリアウーマンの主人公が危険なオーラを放つ男と出会って、奇怪な事件に巻き込まれていくサイコ・サスペンス。
-ホラー要素があるサイコ・サスペンスは、ヒロインがきれいな人だと恐怖感が倍増しますね-
「サイコ作品は初めてだったんですけど、あの映画も楽しかったです。黒沢さんはあの後すごいことになって、もう手が届かない人になっちゃいましたけど」
-現場ではどんな感じでした?-
「『いい役者というのは、こうなんだよ』というようなことを教えてもらったりしていました。あの映画には大杉漣さんも出てらっしゃって、本当に良い経験をさせてもらったなあって思います。
大杉さんには天海祐希さんの『緊急取調室』(テレビ朝日系)でもご一緒させていただきましたけど、近所のおじちゃんみたいな感じでとても良い方だったので、亡くなられたと聞いたときは本当にショックでした。名優が亡くなってしまったなあって。本当にステキな方でした」
ドラマ、映画、CMに数多く出演しながら田中さんは、1999年、動物愛護団体elf(現・NPO法人Ever Lasting Friends)を立ち上げる。子どもの頃から傷ついた犬や猫を保護して一緒に暮らしてきた田中さんにとって自然の流れだったという。さらに人間だけでなく、犬や猫にとって居心地のいい居住空間を目指して動物共生型マンションもプロデュースするなど活躍の場を広げていく。
次回後編では、結婚、家族4人のキャンピングカーライフ、ドロドロのW不倫という題材が話題になった主演ドラマ『幸せの時間』(フジテレビ系)の撮影エピソードも紹介。(津島令子)
ヘアメイク:佐々木広美
※「MOIMOI」
女性目線のキャンプグッズなどを作るために田中美奈子さんが立ち上げたブランド。環境に優しい食器、アメニティグッズ、ウェア、石鹸、ボディーソープ、エコバックなど幅広く展開。
※日本RV協会公式「キャンピングカーアンバサダー」
夫で俳優の岡田太郎さんとともにご夫婦で日本RV協会公式「キャンピングカーアンバサダー」に就任。家族4人で2020年には約3週間かけて九州、2021年には1カ月かけて北海道を回り、キャンプ生活を満喫。キャンピングカーに関するトークイベントも数多く行っている。