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松山英樹はなぜ今強い?「自分のゴルフは楽しくないゴルフ。見ている側はつまらない」本人は自虐するも“世界一”と称される武器

今年で150回目を迎えた世界最古のメジャー大会「全英オープンゴルフ」。

150回の歴史の中で、優勝者に贈られる「クラレットジャグ」を掲げた日本人はまだ現れていない。しかし、もしかしたら今年はそんな光景が見られるかもしれない。

日本人初の偉業に挑むのは、松山英樹(30歳)だ。

アメリカツアー本格参戦から今年で9年目。一時は3シーズン優勝から遠ざかっていたものの、2021年マスターズで日本人男子初のメジャー制覇を達成。今シーズンも2勝をあげ、アジア人最多となる通算8勝に並んだ。

松山英樹はなぜ今強いのか?

テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』は、10年間松山を密着取材。彼を支えた人々の証言を交え、その挑戦と進化を紐解いた。

◆22歳で渡米。アメリカツアー挑戦の軌跡

2013年、史上初めて“ルーキーイヤーに賞金王”という偉業を果たし、翌年から世界最高峰のアメリカツアーへ本格参戦した松山。

渡米した当初は拠点もなく、広大なアメリカをホテル暮らしで転々とする日々。メジャー制覇を夢見て、異国の地でゴルフ漬けの毎日を送っていた。

渡米からわずか5カ月後には初勝利をあげ、順調なスタートを切ったが、この頃の松山はある悩みを抱えていた。松山をいちばん近くで支えてきた“チーム松山”のひとり、飯田光輝トレーナーは、当時の様子を次のように振り返る。

「日本とは違って移動距離もあるし、コース的にもスケジュールもハードなので、とりあえず1年間しっかり戦い抜ける体をつくろうという話をしていました」

アメリカツアー1年目は怪我に悩まされることが多く、試合を途中棄権することも。怪我をせず、タフなツアーを1年間戦い続けることができる体力づくりのため、二人三脚で肉体改造に着手した。

こうしたトレーニングには、怪我の予防以外にもうひとつの目的があった。

自分の飛距離に対して、もっと体を鍛えてスイングスピードを上げれば飛ぶのかなと思いますし、今のままの飛距離で満足できるかと言われたらできないです」(松山)

松山が求めていたのは“飛距離アップ”。

アメリカツアーでは280ヤード付近にバンカーがセッティングされることが多く、それをティーショットで越えることがスコアをつくるうえで有利に働く。しかし、当時の松山はそのバンカーを越える飛距離に達していなかった。

そこで飯田トレーナーと取り組んだのは下半身の強化。

「いい家を建てるにはいい地盤の下ならしが必要。地盤がきれいじゃないとその上にいくらいい家を建ててもすぐにぐらついちゃうという話をして、土台からつくっていくことをやり続けました」(飯田氏)

過酷なトレーニングも投げ出すことなく、自らを追い込み続けた松山。たゆまぬ努力の末、アマチュア時代は75キロだった体重が90キロにまで増量した。

「体の変化もあって、無理して振りにいった時に今まで芯に当たらなかったのが、当たって飛んでくれているという感じですね。アマチュアの時の体を見ると、怪我しそうだなとか今に比べると頼りないなとすごく感じるので、今の体でいいんじゃないかなと思います」(松山)

肉体改造の結果、平均飛距離は300ヤードを突破。目標だった280ヤードのバンカーも悠に越えるようになっていた。

◆優勝まであと1打の差

しかし、メジャー大会では優勝争いこそ演じるものの、あと一歩のところで勝ちきれない。まだ松山には足りないものがあった。

「まだ(メジャーで)勝てていないのは、4日間で1打だったら1日に“0.何打”というちょっとの差がフィーリングという部分で出ているのかなと。そこを少しずつ縮めていけるようなフィーリングを出せれば」(松山)

メジャーチャンピオンになれる者となれない者。そのわずかな差は何なのか? 2012年から7年間、松山のキャディを務めた進藤大典氏はこう語る。

「スタミナでいうと厳しいパーパットをずっと打ち続けて最終日にいくのと、初日から常にグリーンを外したりロングパットを打ってもOKに寄せてタップインで次のホールにいけたときは、全然疲れ方も違うし、集中力の維持も変わってくるんですよね。それが最後の1打に見えない部分で出てくるんです」(進藤氏)

優勝まであと1打の差を縮めるため、松山が変えたこと。それは…。

「(調子が)50%の日もあれば30%の日も70%の日もあると思うので、そのためにコースのチェックも『こっちだったら最悪オッケーだよな』と考えるようになりました。そういうマネージメントをしっかりするのが大事だと思いますね」(松山)

コースマネージメントとは、その日のコースコンディションやカップの位置、風の強さや向き、自身のコンディションやスキルなどの要素を総合的に考え、コース戦略を立てること。自然を相手に戦う個人競技・ゴルフにおいて、スコアを作るための必要不可欠な要素だ。

松山はメジャーのタイトルをつかむため、自身のマネージメントを見つめなおした。その結果、戦略を立てて4日間・72ホールを戦うようになる。

初日から3日目までは、あまり攻めたりしないので楽しくないゴルフ。見ていてもつまらないだろうな、自分がギャラリーだったら自分には絶対つかないなと思いながら見ています」(松山)

自身のゴルフを「つまらない」と表現した松山。しかし進藤氏は、「その場所その場所の自分の状況判断がものすごく長けていて、彼のマネージメントは世界一です」と太鼓判を押す。

◆大一番で現れた松山英樹の凄み

その世界一のマネージメント力が発揮された試合が、2021年10月に日本で開催されたアメリカツアー「ZOZO CHAMPIONSHIP」。

パー3の13番。この日はグリーン右にカップが切られていた。

松山と同じ組の選手はカップのある右側へティーショットを打った結果、傾斜でボールが転がり、グリーンからこぼれてしまう。さらに、その後のアプローチでもグリーンに乗せられず、スコアを落とした。

一方の松山は、ピンの左側の安全な広いエリアを狙ってグリーンを捉えると、バーディーパットを沈めてスコアを伸ばす。さらに別の場面でも、無理にピンを狙って打つのではなく、安全なところへ落とし、そこから攻める。

その場面に合わせた的確な判断力。それを技術で再現できるのが松山英樹の凄みなのだ。

こうした1打1打の小さな積み重ねで優勝争いを演じ、「ZOZO CHAMPIONSHIP」大会最終日の最終18ホールを単独首位で迎えた松山。

562ヤードのパー5。3番ウッドを握ったティーショットは、その距離300ヤード超え。10年間続けてきた肉体改造の成果のたまものだった。

極め付きは、残り241ヤードの第2打。ピン側へつけるスーパーショット。プレッシャーもあるなかで完璧な1打を放ち、イーグルチャンスにつける。

最後の1打も見事決め、日本のファンの前で劇的な優勝を果たした。

勝てなかった時間に自分と向き合い、積み重ねた努力こそが、松山の“今の強さ”をつくったのだろう。

そしていよいよ「全英オープン」に挑む松山。ゴルフ発祥の聖地・セントアンドリュースで行われる一戦を前に、次のように意気込みを語った。

「やっぱりゴルフをしていてもうまくいかないと楽しくないですし、うまくいくように練習もしますし、勝つといちばん嬉しいです。いい準備をして優勝争いできるようにがんばりたいと思っています」

進化した日本のエースが、日本人初の偉業へ挑む。


テレ朝動画では、松山英樹とタイガー・ウッズに現地で密着しているカメラ映像をノーカットで配信。ライブ配信中は追っかけ再生も可能で、カメラを切り替えながら最初から見直したり、気になるショットを繰り返し視聴できる。

そのほか、チケット購入者限定で視聴できる4日間のデイリーハイライトやハイモーションスロー集などの特典映像に加え、抽選で現地全英グッズのプレゼントも当たる。

渋野日向子も出場予定の全英女子オープンゴルフ(8月4日~8月7日)との特典付きセット券も好評販売中。

放送情報:『第150 全英オープンゴルフ』
7月14日(木)~7月17日(日)、テレビ朝日系列地上波にて放送(放送予定詳細はこちら