宇野祥平、あふれ出るスタッフ・共演者へのリスペクト。映画初主演の磯村勇斗との撮影秘話「そんな磯村くんが大好き」
10kg以上減量し、悲壮感を滲ませた入魂の演技で挑んだ映画『罪の声』(土井裕泰監督)で日本アカデミー賞優秀助演男優賞をはじめ、多くの賞を受賞して話題を集めた宇野祥平さん。
映画関係者からの信頼も厚く、2022年はすでに『前科者』(岸善幸監督)、『とんび』(瀬々敬久監督)、『夜を走る』(佐向大監督)が公開。7月8日(金)に『ビリーバーズ』、8月26日(金)に『アキラとあきら』(三木孝浩監督)、8月27日(土)に『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』、9月1日(木)に『さかなのこ』(沖田修一監督)など公開待機作も多数控えている。
◆衝撃的な女装姿で“愛を求める女装男”を怪演
2009年、宇野さんの商業映画初主演映画となった『オカルト』の白石晃士監督とは、『超・暴力人間』、『超・悪人』、『殺人ワークショップ』、『恋するけだもの』など主演作も多い。
2020年に公開された『恋するけだもの』では女装男・江野祥平役を怪演。江野祥平というのは、初めてタッグを組んだ『オカルト』から、宇野さんが白石監督作品に出演するときに必ず付けられる役名。
『恋するけだもの』は、白石監督による短編バイオレンス・ラブコメディー『恋のクレイジーロード』(2018年)をリブートしたもの。
過去を隠し、「女装男が男に声をかけ、交際を断ると殺す」という都市伝説が残る田舎町の工務店で働きはじめたものの、同僚たちから暴力を振るわれ、殺される運命だった宙也(田中俊介)。しかし、噂の女装男が宙也に恋をしてしまったことから、周囲の人々を巻き込んで阿鼻叫喚の地獄絵図へと発展していく…という展開。
-宇野さんの女装姿、インパクトがありましたが、あれは純粋に愛を求めての行動なのですね-
「そう思います(笑)。あれだけ純粋に愛を求めるというのは、ある意味すごいことだと思いますし、純粋すぎるということは凶暴にもなり得るんだと、あらためて思わされました」
-宇野さんご自身はどうですか。あそこまで愛を求める気持ちを理解できますか-
「わからないですけど、わかるような(笑)」
-ご自身の女装姿はいかがでした?-
「少し母親に似ていたこともあって、鏡など見ないようにしていましたね。嫌じゃないですか(笑)。ただ、女性は大変だなあって思いました。
撮影が1月だったので、ストッキングは寒いし、伝線しないように穿くのが難しくて(笑)。『女性はこんなに寒い思いをしているんだ』と思いました」
-宇野さんは女装だけでお化粧はしていませんでしたけど、通常はお化粧もしますからね-
「化粧をするのも大変ですけど、落とすのも大変じゃないですか。男よりやらなきゃいけないことがたくさんありますよね。この作品に参加し、女性の大変さを実感させていただきました。
大変で思い出しましたが、最新作『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』は白石監督の現時点での集大成ともいえる作品になったのではないかと思って完成を楽しみにしています」
2020年は、『罪の声』(土井裕泰監督)、『恋するけだもの』のほか9本、合計11本もの映画に出演。連続テレビ小説『エール』(NHK)の先生役も話題に。
※映画『ビリーバーズ』
2022年7月8日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
配給:クロックワークス、SPOTTED PRODUCTIONS
原作:山本直樹『ビリーバーズ』(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
監督:城定秀夫
出演:磯村勇斗 北村優衣 宇野祥平 毎熊克哉ほか
◆無人島で極限状態の中、食欲、性欲、本能がむき出しに…
2021年は、『花束みたいな恋をした』(土井裕泰監督)をはじめ8本の映画が公開に。『前科者』(岸善幸監督)はテレビ版『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW)も制作された。
これは罪を犯した者たちの更生、社会復帰を目指して奮闘する保護司・佳代(有村架純)が新人保護司として奮闘する姿を描いたもの。宇野さんは、佳代がバイトするコンビニの店長役で出演。
「岸善幸監督とは映画『二重生活』で出会い、それから呼んでいただくようになりました。いつもまったく違った役で呼んでいただけるので、役をいただいて自分にはこういう面があるのかと発見することが何よりもうれしいです」
-宇野さんは、佳代の保護司としての活動に理解ある優しい店長さんで、今回『ビリーバーズ』で共演されている磯村勇斗さんとご一緒でしたね-
「そうなんです。1シーンだけご一緒しました。磯村くんとは撮影が終わった後に少し話す時間があったんですけど、何か不思議な親近感を持ちました。
以前から知り合いのような居心地のよさが磯村くんにはあるんですよ。それで『ゆっくり長い時間一緒にやれたらいいね』と話していたんですよね」
-そのときにはまだ『ビリーバーズ』のお話はなかったのですか?-
「はい。それから数カ月後に『ビリーバーズ』の話をいただいてビックリしました。山本直樹さんの『ビリーバーズ』を城定秀夫監督が映画化すると聞き、二人のファンとしてものすごくうれしかったですし、磯村くんの初主演作が『ビリーバーズ』になることもとてもうれしく思いました」
※映画『ビリーバーズ』
「ニコニコ人生センター」という宗教的な団体に所属している“オペレーター”(磯村勇斗)、“議長”(宇野祥平)、“副議長”(北村優衣)は、無人島で「孤島のプログラム」と呼ばれる修行生活を送っている。性欲や食欲、物欲といった俗世の汚れを浄化し「安住の地」へ出発するための修行だったが、徐々に互いの本能と欲望がむき出しになっていく…。
-ご自分が議長の役だと知ったときは?-
「とても光栄に思いました。議長を演じることができる喜びはもちろんありましたが、まさかの『ビリーバーズ』映画化だったので、観たいという思いが強かったです。山本直樹さんは思春期からずっと影響を与え続けてくださっている方なので。
原作のおもしろさはもちろんですが、城定監督の原作を真っすぐ捉(とら)えた脚本がすばらしかったです。
現場に行かないとわからないことが多かったのですが、孤島、景色、プレハブ小屋、ニコニコTシャツ、磯村くん、北村さん、スタッフの皆さんにヒントをもらいながら、城定監督に丁寧に演出してもらい、議長になれたように思います」
-本部からわずかな食料しか与えられていないという設定なので、この作品でもかなり減量されていましたね-
「そうですね。3人とも節制しました」
-体力的にもかなりきつかったのでは?-
「きつかったという思いはありませんでした。それは磯村くん、北村さんとの日々がとても良い時間でしたし、二人のさり気ない気遣いのおかげだと思います。教えられることが多かったです」
-コロナ前でしたらみんなでお酒を飲んでということもあったと思いますが-
「そうですね。コロナ禍ということもあったので、外に食べに行かないことに慣れていたというのはありますね」
-磯村さんがおっしゃっていましたが、劇中の小麦粉で作ったボンゴレがかなりおいしかったそうですね-
「はい。みんなで節制していたので本当においしくて、今でもあの味はしっかり覚えています」
-はたから何と言われても、信者たちは本当に信じているというのが、いろいろな事件と重なってリアルでした-
「原作、脚本、監督の力だと思います」
-宇野さんご自身は、ひたすら信仰するということは理解できました?-
「理解できたかどうかはわかりませんが、信じるということは、みんなに通じる、みんな持っている部分でもあると思うので。信じられなくなるということも含めてですけど」
-抑えに抑えていた反動で煩悩がというか、欲が溢れ出していく様がすさまじかったですね。どうやったらこういう理屈になるのだろうという感じでした-
「特殊な環境の特殊な人たちに見えますけど、僕たちが普段思っている気持ちがそこにはあるように思いました。
人が誰しも持っている弱さやズルさ、不潔な部分だったり嫌な面が、欲を絶つことによって、より純な不純さが浮き彫りになっていったように思います」
-撮影で印象に残っていることは?-
「あるとき、磯村くんが連日の撮影の合間に仕事で都内に行かなければならないことがあり、翌日には戻る予定で、磯村くんが再び東京に染まっていたら嫌だなと思い、リアルタイムニュースで“磯村勇斗”で検索しました。議長としての仕事でもあります(笑)。
そうしたら磯村くんは都内の劇場でオシャレな衣装に身を包み、華やかな場所にいて少し寂しい気持ちになりました。でも、画像を拡大するとヒゲ面で色黒の笑顔がぎこちない磯村くんがいて、とてもうれしかったです(笑)。そんな磯村くんが大好きです」
-撮影していたときに思い描いていたイメージと完成した作品は?-
「完成した映画を観たときに、『ここの演出はこういうことだったのか!』と気づかされることがとても多かったです。
原作からの脚本もそうですが、現場を経て映画が繊細に変化していったように思います。現場では演出を感じさせない演出なんです。
不安定、不穏な今の時代はあらゆるところに境界線、分け隔てがあり気が沈みがちですが、城定監督の映画にはそういう線引きがないから、観ていて元気になります。
男と女、夢と現実、上半身と下半身、正常と異常、などなど、こうして例を挙げてしまうとかえってその境界線を感じてしまい、つまらなくなりますが(笑)。そうしたらまた城定監督の映画を観れば元気になると思います」
-最後の展開は驚きでした-
「磯村くんと北村さんが本当にすばらしかったです」
-それにしても作品が本当に多いですね。ほとんど休みなく撮影されているイメージがありますが、(新型コロナウイルス感染症拡大による)緊急事態宣言のときは?-
「撮影がストップしていたので、2カ月間ぐらい休みだったと思います」
-その間はどうされていました?-
「撮影が止まったりと不安はたくさんありましたが、観たかった映画を観る良い機会になりました」
-今後、ご自分で映画を撮るということは?-
「それはないです。監督はやっぱり特別な才能だと思います。役者として今まで通り、一つずつ丁寧にやっていきたいなと思っています。
あといつか、議長が出てくる山本直樹さんの『安住の地』を城定秀夫監督に撮ってもらいたいです」
言葉の端々に監督やスタッフ、共演者へのリスペクトが感じられ、作品への愛が伝わってくる。謙虚な姿勢とシャイな笑顔も魅力。日本映画に欠かせない俳優として、これからも現場に奇跡を呼び続けて欲しい。(津島令子)