テレ朝POST

次のエンタメを先回りするメディア
未来をここからプロジェクト
menu

映画界で重宝される俳優、宇野祥平。役者の道に進んだきっかけは、働いていた生花店の店主の「衝撃的」な一言

自主映画から大作まで200本以上の映画に出演してきた宇野祥平さん。

1シーンだけの出演から主演まで幅広い役柄を演じ分け、2009年に公開された『オカルト』(白石晃士監督)で映画初主演。映画『セーラー服と機関銃 -卒業-』(前田弘二監督)、連続テレビ小説『エール』(NHK)など映画、ドラマに多数出演。さまざまな役をこなし、大作から自主映画まで、声がかかればどんな役でも応じ、監督たちに重宝される脇役俳優を描いた映画『俳優 亀岡拓次』(横浜聡子監督)のモデルとなった俳優としても知られている。

2020年に公開された映画『罪の声』(土井裕泰監督)などで第44回日本アカデミー賞優秀助演男優賞をはじめ、数多くの映画賞を受賞。2022年7月8日(金)には映画『ビリーバーズ』(城定秀夫監督)が公開される宇野祥平さんにインタビュー。

 

◆手に職をつけるために生花店に就職

大阪で生まれ育った宇野さんは、幼い頃から野球が好きだったという。

「あまりテレビを見せてもらえない環境に育ったのですが、野球だけは自由に見れたので自然と好きになり、小学校から高校まで野球ばかりやっていました。

テレビの代わりというか、祖父が映画好きだったので、よく映画館に連れていってくれたんです。3本立ての名画座に。

自分が知っている大人と違う顔といいますか、見てはいけない顔を見ているようで怖かったです。怖いけど、また観たいと楽しみになっていきました」

-その頃観た映画で印象に残っているのは?-

「当時は小学生だったので、監督で観ているわけではないのですが、森繁久彌さん、渥美清さん、勝新太郎さん、原節子さん…俳優の方々の奥底知れなさを垣間見ているようで、圧倒されました」

-自分も映画に出たいとか、俳優になりたいという思いは?-

「それはまったくなかったですね」

-当時の夢は?-

「祖母から口酸っぱく『手に職をつけろ』と言われ育っていましたし、夢というものを真剣に考えたこともなかったです。関西に暮らす身寄りは、みんなそうでしたから。

大学に進学しろとも言われず、高校を卒業すると何の疑いもなく地元の会社に就職しました。同期が20人ほどいる明るく楽しい会社でしたが、どこか決まりが悪いといいますか、腹の据わらない心地がして研修期間中に辞めました。

次に働くことになったのは、叔父の紹介による生花店で、関西でも指折りの繁盛店に修業に行くことになりました。手に職をつけなきゃいけないんだと思い込もうとしていたように思います」

-お花屋さんはどうでした?-

「早朝からの仕入れにはじまって、ハンパじゃない量を花束用に包んだり、水切りして冷蔵庫へストックしたり。毎日10時間以上働いていました」

-お花屋さんはどれくらいの期間だったのですか-

「ちょうど1年です」

-そのときは、将来お花屋さんになることも考えていたのですか-

「それすらもあんまり考えてなかったというか(笑)。1年近く経ったときに、生花店をビジネスとして考えているんだと思っていたオヤジさん(店主)が、本当に花が好きなんだという瞬間を見たんですよね。

仕入れに行った帰りにオヤジさんが道に咲いている花を見て車を停めて、『この花きれいやろ?』って言ったんです。それが衝撃的で。そういうビジネスとしてしか考えていないと思っていた人が、本当に花が好きで生花店をやっているんだなあって。

それが一つのきっかけというか、僕はなんとなく働いていたけど、それでいいのかって思ったんですよね。自分も好きなことをやるべきだ。好きなことを仕事にしていいんだって。

働き出してから仕事の合間にまた映画を観るようになっていました。どこかで映画がやりたいという気持ちがありながら、『手に職をつけろ』と言い続けた祖母のせいにしていたように思います」

※宇野祥平プロフィル
1978年2月11日生まれ。大阪府出身。2000年、映画『絵里に首ったけ』(三原光尋監督)で映画デビュー。近年では映画『いとみち』(横浜聡子監督)、『前科者』(岸善幸監督)や、ドラマ『深夜食堂』シリーズ(TBS系)、『君と世界が終わる日に』(日本テレビ系)など映画、ドラマに多数出演。映画『罪の声』などで第44回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、第42回ヨコハマ映画祭助演男優賞など多くの映画賞を受賞。2022年7月8日(金)に『ビリーバーズ』、8月26日(金)に『アキラとあきら』(三木孝浩監督)、8月27日(土)に『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』(白石晃士監督)、9月1日(木)に『さかなのこ』(沖田修一監督)の公開が控えている。

 

◆降板した俳優の代わりに映画に出演することに

好きなことを仕事にしようと決めた宇野さんは、映画関係の専門学校に通うことに。

「家庭の事情ですぐには東京に行けないというのがあったので、専門学校に行って自分で撮って自分で出ればいいんじゃないかと簡単に考えちゃったんですよね(笑)。

でも、専門学校に行くにはお金がいるので、防水工をやっている友人のところで1年ぐらい働いてお金を貯めて、20歳から夜間の専門学校の演出コースに行きました。

昼間はパチンコ店や競艇場で大型ビジョンのカメラの中継のバイトとか、いろんなことをやっていました」

-専門学校は2年間ですか-

「はい。2年間行きました。同級生と自主映画の制作をはじめましたが、本当に好きで監督をやっている人たちもいるのに、僕はものすごく浅はかな気持ちで入ったのでダメだなと。自然と出るほうになっていったというか、やることになったという感じですね」

2000年、宇野さんは、降板した俳優の代わりに映画『絵里に首ったけ』に出演することに。

「競艇場の中継のバイトで一緒だった大阪芸大出身の方が、『絵里に首ったけ』の助監督になって、役者が降板したということで、出ないかという連絡をもらい参加しました」

-それまで演技の経験は?-

「自主映画ではありましたが、商業映画の出演は初めてでした。セリフをしゃべらずに居続けることが、こんなにも難しいものなんだと思いました」

-完成した映画をご覧になったときはいかがでした?-

「うれしかったです。やっぱりスクリーンでかかるということは。プロとして映画の世界で生きている方々とご一緒して、俳優になるためには東京へ出ていかねばならないとあらためて理解し、上京を決意するきっかけになった作品です」

2009年、宇野さんは『オカルト』で商業映画初主演を果たす。オカルト・ドキュメンタリー番組を製作する人々の恐怖を描いたこの作品で、事件の唯一の生存者でネットカフェ難民の青年・江野を演じた。

「前田弘二監督の『鵜野』という短編映画を、白石晃士監督が観てくださって呼んでいただきました」

-白石監督とは多いですね。『超・悪人』、『殺人ワークショップ』、『恋するけだもの』などコンスタントに主演もされていて-

「とてもありがたいことです。作品は過激な印象が強いかもしれませんが、白石さんからは映画への純粋な思いが伝わってくるんです」

-白石監督作品では本当にいろいろな役をやられていますね。『超・悪人』では、時には殺人も犯す凶悪な犯罪者。10年間犯行を続けてきて、本当に愛する人と出会ったときに報いが…という展開でした-

「はい。やっぱり違った役を与えてもらえるのはすごい幸せなことなので、とてもうれしく思います。

撮影が3日間で大変ではありましたが、撮影期間が短いからこそ生まれた映画だとも思います。なかなか観てもらえる機会が少ない映画ですが、観てもらえたらうれしいです」

-『殺人ワークショップ』では殺人方法を教える闇のワークショップの指南役を-

「白石監督がENBUゼミナール(俳優や映画監督を育成する専門学校)というところで講師をしていたときの作品です」

-プロの俳優さんが少ない現場は大変だったのでは?-

「カメラの前では同じ共演者ですから大変なことはなかったですし、白石監督の生徒さんへの愛情をものすごく感じる良い現場でした」

 

◆『深夜食堂』はおいしい料理も毎回楽しみで

2009年、『深夜食堂』(TBS系)に出演。小林薫さん扮する強面(こわもて)のマスターが、深夜0時から朝の7時ごろまで営業する古い食堂「めしや」を舞台にマスターと客たちとの交流を描いたドラマ。宇野さんは「めしや」の常連客・小道役。ドラマはシリーズ化され、映画も2本作られた。

-宇野さんは、不破万作さんと安藤玉恵さんと一緒にいい感じの常連さんで、こういうお店があったら行きたいと思いました-

「コロナでああいう時間がなくなっていますもんね」

-コロナの前はお仕事が終わるとみんなで飲みに行ってという感じだったのですか-

「そうですね。人並みに飲むので、飲みに行っていました」

-『深夜食堂』のお話があったときは?-

「とてもうれしかったです。松岡錠司監督とは、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で出会い、それから呼んでいただくようになりました。

『深夜食堂』は、時代は移りながらも変わらずにある小料理屋の物語なんです。そこに、松岡監督の視線の温もりを感じます。作品の外の監督自身からも、僕が勝手に感じています」

-『深夜食堂』のお店は本当にいい感じのお店ですね。シリーズ化されて映画も2本作られました。撮影が終わった後、あのまま皆さんで飲んだりされたりは?-

「撮影が終わった後、あのまま飲んだりはないですね。場所が遠かったりするので、それはないですけど、打ち上げや、たまに集まってというのはあります。Netflixでの第5部で10年目を迎えました。

ほんと皆さん仲がいいんです。とても大きいのが、主演の小林薫さんや不破万作さんが控室に戻ることなく現場近くに座られるので、自然と皆さんがそこに集まっていくんです。

二つ、三つ繋いだテーブルをみんなで囲んで座って出番を待つという、贅沢(ぜいたく)で楽しい時間です」

-温かい感じでいいですよね。食べ物もおいしそうで-

「はい。本当においしいんです。フードスタイリストの飯島奈美さんが、いつも温かいおいしいのを出してくださるので、毎回料理も楽しみでした」

話題作出演が続く宇野さんは、『セーラー服と機関銃 -卒業-』、『俳優 亀岡拓次』、そして広くその名を知られることになった『罪の声』に出演することに。次回はその撮影エピソードも紹介。(津島令子)

©山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

※映画『ビリーバーズ』
2022年7月8日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
配給:クロックワークス、SPOTTED PRODUCTIONS
原作:山本直樹「ビリーバーズ」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
監督:城定秀夫
出演:磯村勇斗 北村優衣 宇野祥平 毎熊克哉ほか
宗教的な団体「ニコニコ人生センター」に所属しているオペレーター(磯村勇斗)、副議長(北村優衣)、議長(宇野祥平)の3人は、無人島での共同生活を送っていた。3人は瞑想、夢の報告、テレパシーの実験…本部からメールで送られて来る不可解な指令“孤島のプログラム”を実行していたが…。

はてブ
LINE
おすすめ記事RECOMMEND