ラグビー・松島幸太朗選手、世界最高峰リーグでの2年。そして2023年ワールドカップへの展望<ロングインタビュー>
2023年に行われるラグビーワールドカップフランス大会。
開催国であり優勝候補筆頭でもあるフランス代表の選手も数多く在籍し、世界のスーパースターが集結する世界最高峰のプロラグビーリーグ、フランスラグビーリーグ「TOP14」。興行的に最も成功しているリーグと言われ、決勝戦は約8万人がスタジアムを埋める。
今週末に行われる優勝決定戦を前に、このリーグに2シーズン参戦し今期2年の契約を終えて日本ラグビー界に復帰する松島幸太朗選手にインタビュー。「TOP14」について語ってもらった。
◆2シーズンの振り返り「選手としてメンタル面で成長した」
──TOP14のASMクレルモン・オーヴェルニュで主力として2シーズン、今季終盤を除いてほぼ休みなくプレーされました。日本の中継でも多くのファンが松島選手のプレーを楽しみましたが、あらためてこの2シーズンはどのような意味のある2年間だったと考えていますか?
「コロナなどいろいろ制限があり、私生活でも制限があったのですが、その中でもしっかり楽しめたのが大きかったです。新しい環境になってモチベーションも上がり、とても充実していたと思います」
──環境を変えることは、松島選手のキャリアにおいて必要なことだったわけですね。
「そうですね。やはり1つのチーム(サントリーサンゴリアス。現、東京サントリーサンゴリアス)で長くプレーしていましたので、新しい刺激を求めて、自分が(プレーを)経験していないところに行きたいという思いがあったので、 そういう意味ではすごくよかった(2シーズンだった)と思います」
──ほぼ休みがなく、プレータイムも非常に長いTOP14の2シーズンでしたが、やはりタフなリーグだと感じましたか?
「そうですね。また、コロナの影響もあって試合のキャンセルが続き、オフの時期に試合が入ることもあって、ずっと出ずっぱりでした。すごくキツかったのですが、試合に出ることによって経験もしっかり積めますし、試合以外の部分でもタフさを求められるので、そういうものはここ(TOP14)でしか経験できないと思いましたし、試合に出ることによって、確実に経験を積めているなという実感はありました。そして、各チームのファンのパッションがすごく強く伝わってきました」
──2シーズンを戦い終えて、選手としてここが一番変わった、成長した、という点を教えてください。
「選手としてメンタル面で成長したところですね。試合中にもそれを実感できますし、1回目のシーズンが終わって、2回目のシーズンに入った時もそう感じました。今でも成長を実感できるので、(今までと)違う環境に身を置いて本当によかったと思います」
◆肩のケガも、焦りはなし。「他の部分も含めて強化していきます」
──クレルモンは残念ながらシーズン終了を迎えましたが、まだしばらくはフランスにいる予定ですか?
「(日本に)引っ越しますが、荷物を運んでもらえるのが今月末ぐらいなので。もうしばらくここにいますが、ちょっと旅行でもしようかなとは思っています」
──シーズン中は時々クレルモン=フェランからパリまで行かれていましたが、それもリフレッシュを兼ねての旅行だったのでしょうか?
「そうですね。(クレルモン=フェランは)非常に小さな街で、土日、日月はお店があまり開いてないですし、家族全員でリフレッシュするために(パリなどに)行きました」
──ちなみにフランス語の習熟度はいかがでしょうか?
「1年目はコロナがあって、あまり外に出られませんでした。フランス語の授業も受けていたのですが、それにも影響が出て、対面で授業ができない状況が続きました。もう少し勉強したかったという思いはありますが、それでも聞き取りは結構できるようになりました」
──今季終盤は肩のケガで欠場されていましたが、具合はいかがでしょうか?
「結構よくなりましたが、まだちょっと痛みがあります。最初は(完治まで)6週間から8週間と言われましたが、もう10週間になりますので、結構な大けがだったのかなという感じです」
──しかし日本代表の活動も見送ったことで、リハビリのための時間ができました。焦りはなさそうですね。
「はい。全然ゆっくりやっていく(回復に努める)予定です。肩だけではなく他の部分も含めて強化していきます」
◆TOP14で最も強く思い出として残っている試合は?
──コロナや言葉の問題があり、最初にチームになじむまで時間がかかったり、苦労したりしませんでしたか?
「いえ、海外から来た選手が他にもたくさんいましたので、そこまで困ることはなかったです。フランス人の選手も英語で会話してくれましたし。みんなすごくフレンドリーで、むしろやりやすかったです」
──特に仲良くなった選手はいますか?
「1シーズン目にいたティム・ナナイ=ウィリアムズですね。ジョージ・モアラもそうですし、フランス人選手で言えばモルガン・パラや、若い選手も積極的に話してくれましたので、すごくやりやすかったです」
──クレルモン=フェランの街やファンが醸す雰囲気は、やはり日本とは違いますか?
「そうですね。普段はすごく静かな街ですが、試合の日になるとみんなスタジアムに行きますし、スタジアムの周りのバーも活気づくので、試合がある時とない時で印象が違います」
──ホームとアウェイの熱量のコントラストはTOP14の大きな特徴ですが、ホームのスタッド・マルセル・ミシュランでのファンの応援にはかなり後押しされたのではないでしょうか。
「そうですね。ファンは、どの選手に対しても『お前は特別な選手だ』と言ってくれましたし、他のチームもそうですが、プライド、情熱をもって応援してくれているのが伝わってきました。上位のチームが下位のチームのホームで負けることもありますし、TOP14ではホーム&アウェイが非常に重要な要素だとあらためて感じました」
──アウェイでもやりやすかった、など印象に残っているスタジアムはありましたか?
「やりやすかったところはあまりないですね。どのチームのファンも応援が熱く、ボルドー・べグルやトゥールーズ、ペルピニャンは特にすごかったです。やはり自分のチームのファンの前でやる試合はまた違った気持ちになります」
──熱いファンに支えられているTOP14ですが、あらためてどんなリーグだったと感じますか?
「やはりフィジカルですね。キックが多いとよく言われますが、どんどん回してラインブレイクする展開ラグビーもします。個々の能力が高いこともあり、見ていてもやっていても面白いですし、様々なプレースタイルが見られますので、そういうところがTOP14の魅力なのではないかと思います」
──TOP14で最も強く思い出として残っている試合、またはプレーを教えてください。
「うーん…。ひとつ挙げるのは難しいですが、1シーズン目のホームでのトゥールーズ戦でしょうか(2020年9月6日の第1節、TOP14デビュー戦)。たしかお客さんをフルには入れていなかったと思うんですけど、それでも観客の声援がすごく、試合をやってて気持ちよかったです。18、19歳の頃に2、3ヶ月間トゥールーズで練習していた時期があったので、個人的にもすごく気合の入った試合でした」
──その当時からフランスでプレーしたいという思いがあったのでしょうか?
「いえ、その時は誘われて行ったので、そこまでは全く思っていませんでした。ヨーロッパに行きたいという思いは全然なかったんですけど、高い目標を持ち始めた頃だったとは思います」
◆TOP14でプレーしてほしい日本人選手
──日本にもTOP14で通用する高いポテンシャルを持った選手はまだまだいるでしょうか?
「たくさんいますね。移籍して自分の持ち味を出す必要がありますし、そのためにはまずチームに馴染めるかどうかが問題となります。フランスでは信頼を勝ち取るのが大事で、信頼を得てないと全く試合に出られません。フランス人でも全然出てない選手もいますし、そういった大変さはありますので、自分のプレースタイルに合っているかなどしっかりリサーチしてから移籍したほうがいいと思います。
ただ、試合数が多いのでいつかは(出場できる)チャンスが来ると思いますし、チャンスがあれば若い選手はどんどんフランスへ出ていっていいのではないかと思います」
──日本のどの選手に行ってほしいですか?
「(日本代表No.8)姫野和樹やテビタ・タタフは普通に通用すると思います。BKも行ってほしいですが、たとえば9番(SH)、10番(SO)はTOP14ではコミュニケーションがすごく大事になります。9番はキック力が相当求められますし、どのチーム(の9番)もすごいキックを持っていますので、9番(SH)、10番(SO)はかなり難しいことを要求されると思います」
◆チームメイト・他チームの印象に残った選手は?
──今、“ハーフ団”のお話がありましたが、クレルモンには2人のレジェンドがいました。最終節の退団セレモニーで送り出されたSHモルガン・パラ選手とSOカミーユ・ロペス選手は、松島選手にとってどういう存在でしたか?
「チームの顔ですし、リーダーでもありました。特にパラはみんながついて行きたいと思えるような選手で、ロペスはチームを引っ張っていくっていう気持ちが練習中もすごく伝わってくる選手です。みんな彼らにしっかり付いていき、チームのために身体を張るというスタイルが出来上がっていたので、一緒にやっていて楽しかったですね」
──松島選手とはポジションが違いますが、やはり学ぶべき点の多い2人でしたか?
「そうですね。技術的な部分はもちろんですが、やはり『どうやってチームを勝たせるか』など自分(のポリシー)を持っていますし、そこに対してプライドもあったと思いますので、いろいろ勉強になりました」
──フランス代表WTB/CTBのダミアン・プノー選手についてはいかがでしょうか?
「彼は本当に能力が高くて、自分でガツガツ行くときもありますけど(個人技だけでなく)チームプレーもできますし、しっかりパスする場面ではパスすることもできる選手なので、チームにいてものすごく心強いです」
──プノー選手のラグビー以外での一面も教えてください。
「日本のファンの人からどう見られているのかわからないのですが、すごく愛嬌がある(笑)。どこか抜けている感じのある天然キャラですね。みんなから愛されてますし、彼も他のチームメイトに対してしっかり愛情表現をするので、そういったところが愛されている理由なのだと思います」
──印象に残った他のチーム、選手もお願いします。
「チームで言えばやはりトゥールーズですね。たとえ負けている試合でも最後まで全力で逆転を狙ってくるチームですし、本当に最後まで気を抜けない相手です。フランス代表選手も多く一人一人の能力も高いので、気を抜けない相手のひとつです。個人的には、ラシン92のWTBテディ・トマは対戦していて嫌な相手でしたね。手足が長く、足もめちゃくちゃ速くて、スペースを与えるとすぐにゲインしてきます。トライを取り切る能力も高い選手ですね」
──テディ・トマ選手は2017年のフランス代表戦で対戦されてますね。
「その時はあまり印象に残っていなかったのですが、こっち(フランス)に来てあらためて『こいつ、すごいな』と思いました」
◆来季以降、そして日本代表について
──すでに日本のチームへの復帰を表明されていますが、またいずれ海外でプレーする可能性はありますか?
「そうですね。全然(可能性は)あります。ただ、2023年のワールドカップが終わると31歳の年に入ります(※2024年2月26日で31歳)。年齢も年齢なので、そこがどう影響するかですね。やはり(選手を)取るほう(チーム)からしたら動ける選手がいいと考えるでしょう。僕自身はしっかりコンディションを作って、自分のレベルを下げずにやっていきたいと思います。
ですので、しっかり自分で(コンディションを)作って、あとはチャンスがあれば、という感じです」
──再びTOP14でやってみたい気持ちはありますか?
「はい、TOP14でも、プレミアシップでも。ただTOP14はもう経験したという思いもあります。個人的にはそのほうが(再び)行きやすいわけですが」
──リーグワンで活躍した若い選手も日本代表にたくさん合流しています。今のメンバーについて感じること、またフランス代表とどこまで戦えるかなど、お聞かせください。
「フランスもどういうメンバーで日本に行くのかわかりませんが、監督(ファビアン・ガルティエHC)が言っていたのは『フレッシュな選手を起用する』ということです。出場試合数が少なかった選手、ケガなどで出場が限られた選手が日本に行くことになると思います。そこがどう出るのかっていう感じですけどね。それでもフランスの選手層は厚いので、勢いのある怖いチームになると思います。
ワールドカップはもう来年です。来年(フランス代表に)選ばれるためにも、ここでアピールしようという選手も絶対出てくると思います。仮に若い選手、フレッシュな選手が中心になったからといって、ナメてかかると足下をすくわれるでしょう。(日本代表がそうならないためには)最初からしっかりフィジカルでいくこと、あとは規律の面で自分たちをしっかり律して、ペナルティを少なくすることです。
相手のペナルティが増えれば増えるほどの自分たちの流れになると思うので、規律の部分はキーポイントになるのではないかと思います」
──今やフランス代表に欠かせないFBメルヴィン・ジャミネ選手もかつては2部の選手でした。そういうポテンシャルを持った若い選手がフランスにはたくさんいるわけですね。
「そうですね。若い選手が活躍してるチームはたくさんありますし、能力の高さを感じます。どの試合も見ていて楽しいです」
──日本代表とフランス代表は7月の2試合に加えて、11月にもトゥールーズで対戦します。松島選手はやはりその試合に出場したいという思いはありますか?
「そうですね。個人的には次の秋(のテストマッチでの復帰)をターゲットにしています。試合もないので自分としては体作りに専念します。日本代表に選ばれればしっかり出し切るつもりです」
──来年のワールドカップで、日本代表は2019年日本大会の8強を越える4強以上がターゲットとなります。どこまで戦えるというふうに 今感じていますか?
「(2019年大会前と違って)サンウルブズや(一部の)テストマッチがなくなったことで、それがどう影響するのかわかりませんが、やはり経験を積んでいる選手は新しく入ってきた選手にしっかりその経験を伝えたり、ワールドカップとはこういうものだというのを伝えていくことが大事だと思いますので、その(本番の)イメージをしながら合宿に臨み、(練習が)キツい時はこうする、など常に(本番を)イメージしながらやっていく必要があると思います」
※放送情報:『フランスラグビーリーグTOP14 2021―2022プレーオフ決勝』
カストル・オランピック vs モンペリエ・エロー・ラグビー
<CSテレ朝チャンネル2にて放送>
<「スカパー!番組配信」で同時配信+見逃し配信中>
【生放送】
2022年6月24日(金)深夜3時50分~
【録画放送】
2022年6月27日(月)よる7時10分~