河相我聞、最新出演作は水谷豊監督からオファー。発想、芝居プラン…現場で圧倒され「持っている能力が違いすぎる」
『天までとどけ』シリーズ(TBS系)や『未成年』(TBS系)で知られ、バラエティ番組などで料理上手としても話題を集めていた河相我聞さん。
私生活では19歳のときに長男が誕生するが、アイドル的人気を博していたことから公表することを止められ、3年後に一度破局。別れてから約1年後、1999年に復縁、正式に入籍し、2002年には次男が誕生。2児の父親に。
◆息子2人を育てるシングルファーザーに
2人の息子に恵まれた河相さんだったが、2011年、再び離婚することに。
「自分の未熟さゆえにいろいろなことが重なり別れることになりました。子どもたちが俳優を目指していたので、二人とも僕の元にいたほうがいいよね、と妻が言ってくれまして、それで子どもたちとは僕が一緒に住むことになったんです」
-息子さんたちは河相さんと暮らすことになったわけですが、大変だったのでは?-
「僕の場合は、母が一緒に暮らしていますし、昔からの友だちや仕事仲間、元妻と彼女のご両親も力を貸してくれたので、そこまで苦労してきたという感じはないんですよね。みんなが助けてくれたので」
-仕事をしながら子育てもしてというと結構ハードだったと思いますが-
「ハードだって言っちゃハードなんですけど、ほかの人の話を聞いていると、全然楽だったんだなあって思います。
良くも悪くも反抗期がなかったんですよね。本人たちは反抗期があったって言うんですけど、僕からすると、全然そういうのがなかったと思うのですよ。
自分は反抗期がひどくて、本当にもう手をつけられない状態だったので(笑)」
-息子さんたちとの日々を綴ったブログが『お父さんの日記』(宝島社)という著書になりました。お子さんたちが小さい頃から子ども扱いせずにきちんと対応されていてすごいですね-
「よく言えばですね(笑)。親になってから自分を客観的に見てしまうところがあって、自分ができていないというのもわかるし、勉強どんなに頑張ってもできなかったのもわかる。
だから、『勉強しなさい』とか『ちゃんとしなさい』なんて言えなかったんですよね。自分がちゃんとしてなかったので、『うーん、わかるよ。俺もできなかったからなあ』みたいな感覚だったんでしょうかね。
だから『子どもに言わなかった』というよりかは、『言えなかった』というほうが正確なのかな(笑)」
-単に「学校に行け」と言うのではなく、河相さんご自身も大検を受けてというのもすごいです-
「それも息子が『学校に行きたくない』とか『勉強が嫌い』とか言い出すのは僕のせいだと思っているんですよ。僕は学校が楽しいと思ってなかったし、勉強ができなかったので。
でも、子どもはどうしても親の背中を見て育ってしまうところもありますから、これはなんとかしないといけないだろうと思ったんです。息子たちも当時は役者をやりたがっていて、芸能のほうに行ってうまくいけばいいけど、そうは簡単にはいきませんからね。
僕自身が小学校3年生から不登校だったので学歴に関係なく生きてきて、学歴がないことで困ったこともなかったですけど、子どもと自分の人生は違いますから。
次男が中学3年生のときに『高校に行きたくない』って言い出したので、息子が違う選択肢も選べるようにと勉強を頑張って42歳で高校卒業認定(大検)を取ることにしました。
その後、次男に『高卒認定は取っておいたほうがいいよ』と勧めたら取ってくれたので、次男が大学に行くなら僕も大学に行こうと考えていたんです。一緒にキャンパスライフもいいかなって(笑)。
でも、次男は『大学には絶対に行かない』って言うし、長男も大学には行かなかったんですよね。学費を貯めていたんですけど、それは彼らが何かやるときにお金を費やそうと思っています」
-なんだかんだ言って教育費かかりますからね-
「本当に思った以上にかかるんですよね。だから少しづつ積み立てていかないとダメなので35歳ぐらいからはお金のことに関しては、すごい細かくなりましたね。
とにかく子どもに何かとお金がかかるから、絶対貯めておかないといけないと。あと、将来親の介護にもお金がかかるだろうということで、ギャラをもらったら、三つの通帳に振り分けるというふうにしていました。
きちんと管理できるようになってからは子どもの養育費とかで困ることはなかったです」
◆“救いようのないクズ”の役は楽しくてたまらない
長男の沙羅さんも次男の唯円(芸名・竜跳)さんも自分の意思で俳優の道に進み、それぞれ父子共演も実現。唯円さんは、2015年に河相さんも出演した『アルジャーノンに花束を』(TBS系)で山下智久さん演じる主人公の子ども時代を演じ、沙羅さんは2018年、『はぐれ署長の殺人急行3』(TBS系)で河相さんが演じた事件のキーパーソンの青年期を演じた。
-息子さんたちも俳優業をされていましたが、現在は?-
「どうなんでしょうね。辞めたとは言ってないですけど、二人とも事務所は辞めています。現在、長男は映像制作の仕事をしていて、次男はフリーターですね。
僕がラーメン屋を楽しくやっていたときは『ラーメン屋になりたい』って言うし、俳優を楽しくやっているときは『俳優になりたい』っていうように、僕が楽しそうにやっているときには興味をもつみたいで。やっぱり子どもは親の背中を見て育つ感じがします。結構共演していましたね」
-『アルジャーノンに花束を』ではいしだ壱成さんと久しぶりの共演だったと思いますが、唯円さんは壱成さんの息子役。粋なキャスティングだなと思いました-
「そうですね。感慨深いものがありました。しかも監督も『未成年』と同じで、脚本も同じ野島伸司さんでしたし、ああいうつながりであそこまでなるとは思わなかったですね。別に僕が手回ししたわけでも何でもないのに、ああいうことになるってすごいなあって」
-いしだ壱成さんと久しぶりの共演でしたね-
「はい。久しぶりに会ってすごいいっぱい話して楽しかったのと安心した記憶があります。壱成くんもいろいろと大変でしたからね。当時もずっと連絡はとっていたんですけど、昔から繊細で感受性も強いので、少し心配に感じていましたから」
-『聖者の行進』とか『未成年』、すごかったですよね-
「そうなんです。壱成くんは、一緒に共演していても輝きが違っていたというか、とんでもなかったので。若いときは時代にマッチしていたし、本当にすごかったんです。説得力だとか、言葉にできないすごさがあって。
だから時代ってすごいなぁって思うんです。昔は何かするにしても、芸の肥やしになるからといわれていましたけど、今はそういう時代ではないので難しいですよね」
-河相さんも時代の流れとともに少しずつ演じる役柄が変化して悪役もされていますが、最初に悪役をオファーされたときはどうでした?-
「当時たまたま犯人で悪い役をやったら、『こういうのができるんだ。そういうふうに見えないからおもしろい』って、そういうお話がたくさん来るようになったんです。これは自分の違う一面を表現できておもしろいと思ってどんどんやりました。その代わりCMとかは絶対にできないんですけど(笑)。
今ではいろんな人が出るので考えられないんですけど、当時は同世代の俳優は2時間ドラマをやりたがらなかったんですよね。犯人役は子どもがいたりすると難しいところもあるし、今と違って2時間ドラマは少し敬遠されていたんですよ。お芝居もサスペンス特有のお芝居になってくるので。だからどんどんやる自分のところにお話が来たのかもしれません。
長男からは泣いて『やめてくれ』と言われたんですよ。でも、やらないと食べていけないからなあと思ってやめなかったんですけど。そのことで長男が、いじめられたら本当に考えようと思ったけど、いじめられることがなかったので、『お父さんちょっとこれから殺されてくるから』とか『今日はこれから殺してくるね』と言って出かけていましたね。
本当にもうずっと説得していましたよ。『悪いやつがいないとおもしろくならないんだよ、ストーリーは』とか、『正義なんて悪がいなかったら何もできないんだよ。事件は起きないんだからね』って。物語で悪がどれだけ大事かということをずっと言っていました」
-悪役のほうが演じていておもしろいでしょう?-
「おもしろいです。自分の中の下衆(げす)の部分とか、イヤな部分を出せば出すほど『いいねえ』って言われる。これって特殊ですよね(笑)」
-昔は好青年の役をずっとやられていましたけど-
「好青年のほうがやっていて苦しかったですね。なんかむずがゆいんですよ。悪役のほうが楽しい。救いようのないクズとか下衆な役をやると、もう楽しくてしょうがないですよ(笑)」
-今までで1番クズだったなと思う役は?-
「女の人の顔に青酸カリを垂らしながら『言わないとやっちゃうよ。入っちゃうよ、口に』って言うんですけど、『これは下衆だなあ。最高だなあ』って(笑)。
とんでもない悪い人の役は楽しいんですよ。それで最後にはぶっ倒されるわけじゃないですか。何か気持ちいいんですよね(笑)」
-本当に幅広くいろんな役柄をやってらっしゃいますよね-
「僕は、基本的に断らないので。スケジュールさえ合えば、何でもやるようにしようと、だいぶ前に決断したところがあって。
仕事を選んで自分のイメージを作ってやっていく役者さんもいらっしゃって、すごい羨ましかったんですけど、それにはやっぱり能力もありますからね。そういうタイプの人もいますけど、僕は無理で、やっぱり監督さんとか脚本家さんとかに出会わなかったら難しいんですよね。
なので、いろんなことをやって経験を積んでバッターボックスに立つ回数を増やして、経験値を積んでいこうと。経験値があるからということで仕事が来るほうがいいんだろうなって思って」
-浮き沈みの多い芸能界でずっと仕事が続いているというのは、ある意味すごいことですよね-
「子どもの存在が大きかったのかなと思います。自分の背中をどうやっても見ちゃうので、自分がちゃんとしてないと、子どもたちはそれでいいんじゃないかって思っちゃうのがまずいと思って。
だからちゃんとできる部分はちゃんとしようというのがあって、頑張っていたのかなあという感じです。でも、結構もがいていましたけど、周りから見ると、そういうふうには見えないみたいなんですよね(笑)。『飄々(ひょうひょう)としているね』って言われます」
※映画『太陽とボレロ』全国公開中
配給:東映
監督:水谷豊
出演:檀れい 石丸幹二 町田啓太 森マリア 田口浩正 永岡佑 梅舟惟永 木越明 高瀬哲朗 藤吉久美子 田中要次 六平直政 山中崇史 河相我聞 原田龍二 檀ふみ 水谷豊
◆水谷豊監督からのオファーは「めちゃめちゃうれしかった」
河相さんは、水谷豊さんが『TAP -THE LAST SHOW-』(2017年)、『轢き逃げ-最高の最悪な日-』(2019年)に続いて長編映画のメガホンをとった監督第3作『太陽とボレロ』に、ある地方都市で18年間活動を続けてきたアマチュア交響楽団(弥生交響楽団)の副指揮者・片岡辰雄役として出演。
弥生交響楽団が解散することに。決断を下した主宰者・花村理子(檀れい)は、ラストコンサートを計画するが、個性豊かなメンバーに振り回され、しだいに不協和音が…。
-河相さんは『相棒』(テレビ朝日系)でも水谷さんと共演されていましたね-
「はい。水谷さんとは『相棒』や『だましゑ歌麿IV』(テレビ朝日系)でも共演させていただきました」
-『相棒』では『未成年』で共演された反町隆史さんと久しぶりにお会いしたのでは?-
「そうですね。久しぶりにしゃべりました。でも、久しぶりに会った感じじゃなくて『元気?壱成どうしてる?』という感じで、あのとき(未成年)のまんま普通にしゃべっていましたね。
うれしいですよね。『未成年』のメンバーは、桜井幸子さんが引退したくらいで、みんな頑張ってやっていますよね。だからたまに共演して昔話とかすると楽しいです」
-『太陽とボレロ』のお話が来たときにはどうでした-
「めちゃめちゃうれしかったです。自分が水谷さんに指名で呼んでいただけるというのは、本当にうれしかった。監督ですしね。映画って独特の世界観があって、ドラマとはまた違うので、映画の現場ってすごい憧れがあるんですね。僕は、映画はあまり多くないので」
-水谷組の現場はどんな感じでした?-
「すごく温かい現場で、監督がめっちゃ動いている現場でした。監督があまり座ってないんですよ。
穏やかで楽しい現場だけど、ちゃんと緊張感もあって。映画なので結構長回しもあって、大変なシーンとかも1カットでいったりするんですけど、連携が取れていてすごいんです。
水谷さんが『こういう感じで』って自らやって見せてくれたりするんですけど、それがすごすぎて同じようにしようと思ってもできないんですよね。『すごいなあ』って。
こういう発想もすごいし、お芝居のプランもすごいし、同じようにやろうと思ってやってみても、全然違うんですよ。僕は水谷さんが演じてくれたみたいにやったはずなのに、できてないなあとか。だからそのすごさたるや圧倒されますよね」
-水谷さんが自ら演じられた指揮者もすごかったですね-
「監督をやりながら演じるってすごいと思いますよ。監督と役者の切り替えが瞬時によくできますよね」
-河相さんは老舗呉服屋のボンボンで楽団のメンバーからは良く思われていないユニークなキャラでしたが、印象に残っていることは?-
「水谷さんに『こういう人、キャラをよく想像できますね』みたいな話をしたときに、『このキャラは僕じゃないからね』って(笑)。『水谷さんてこういう人なのかな?』って一瞬思っちゃうくらいユニークなキャラだったので(笑)」
-なぜこんなに嫌われているのかということも最後にちゃんと明かされて-
「そうなんですよ。それに結構滑稽(こっけい)なこともやらかすんですけど、おもしろい発想で、台本を読んだだけでは思い描けなかったこともいっぱいありました。
台本に書いてないこともちゃんとおさえていただいて、水谷さんを見ていてすごく勉強になりましたし、とても楽しかった。今までにない役だったので、コミカルですごくおもしろかったです」
-出来上がった作品をご覧になっていかがでした?-
「ものすごくうれしかったです。やっぱり自分がスクリーンに映るというのと、水谷さんの作品に出演させてもらったといううれしさがありました。
あとオーケストラのすごさですね。僕は副指揮者でしたけど、楽団メンバー役の俳優陣はみんな大変だったと思います。吹き替えなしの撮影でプロのオーケストラと共演しているので。これはやっぱり映画館で観てほしい作品だなと思いました」
-水谷さんは、監督として3作目ですが、すべてテイストが違う作品というのがすごいですね-
「持っている能力が違いすぎますよね。俳優としてずっと第一線でやってこられて結果も残して、それで自分で監督もする。
もうすごいんですよ。人としても素晴らしいし、明るいし、人よりも動くし、何という才能なんだろうって思います。お芝居は昔の作品からとにかくすごいと思っていましたけど、『相棒』以外の作品で共演させていただいても、魅入ってしまうくらいすばらしいんです。それを長い年月続けてこられているわけですからすごいです。
芸能界ってそういう人たちがいらっしゃるので、だからこそ自分がどこにいられるのかというのはすごい考えさせられます。今後、コロナ以降がやっぱり大変になるだろうなと思うので。この余波がきて」
-河相さんはお料理もできますし、ドラマーとしてバンド活動もされていますが、今後はどのように?-
「このご時世、先輩方の訃報を聞いたりすると、自分もそんなに長くないんじゃないかなといろんなことを考えたりするわけですよ。人生の折り返しは越えていますし。
これからも俳優としてやっていけるのかとか、自分の人生を考えたときに、いろんなことをやりすぎて分散している力を一つにまとめるようにできたらいいなとは思っています。子どもに手がかからなくなったので、そういった意味では力をこれまで以上に仕事に注げるし。
ただ、仕事がないときとかにやっぱり自分が表現する場というのは、お芝居ができなくても音楽だったりとか、何かインスピレーションでいうと料理だったりとか、そういった意味で補っていくということはやっていくだろうと思います」
-今年はドローンの資格も取られたそうですね-
「ドローンに興味があって、たまたまドローンのスクールの話を聞いておもしろそうだったので、行こうって。本当にノリです。悪い癖というか、おもしろそうだと思ったらやっちゃうんですよね(笑)」
ノリではじめてもすべてある程度うまくいってしまうところがすごい。シングルファーザーとして子どもたちに向き合う日々を綴ったブログ「お父さんの日記」と「聞いてくれ、もうガモンできない。」もユニーク。ノリで今度は何にチャレンジするのか楽しみ。(津島令子)