斉藤暁、震災を題材にしたアニメ映画の声優に。注意され続けた福島弁でやれる喜び「僕にもできることがある」
『踊る大捜査線』シリーズ(フジテレビ系)で北村総一朗さん、小野武彦さんとともに“スリーアミーゴス”として人気を集め、舞台、CM、バラエティ番組に引っ張りだこになった斉藤暁さん。
『科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)、映画『僕らのワンダフルデイズ』(星田良子監督)など多くの作品に出演。2022年6月3日(金)に公開されるアニメーション映画『とんがり頭のごん太-2つの名前を生きた福島被災犬の物語-』(西澤昭男監督)では、ごん太の飼い主の声を担当している。
◆『科捜研の女』シリーズでも小野武彦さんと共演
1997年に『踊る大捜査線』がスタートした2年後、1999年、斉藤さんは『科捜研の女』に京都府警科学捜査研究所研究員・榎戸輝男役で出演することに。
「第1シリーズは榎戸という研究員の役で、第5シリーズからは別の役、日野和正という研究員。あのドラマで沢口靖子さんという方と知り合って、あの人だからあれだけ長く続いたというのがよくわかりました。第23シリーズまで続きましたからね」
-第6シリーズから第10シリーズまでは「スリーアミーゴス」の小野武彦さんもご一緒でしたね-
「そう。小野さんが所長役で、小野さんの後に僕が所長に昇格しましたけどね」
-撮影期間は、1週間のうち半分ぐらいは京都に行かれていたのですか-
「僕の場合は、最初の榎戸役のときには外のロケも結構あったので、しょっちゅう行っていましたけど、所長になってからは外のロケがないからホッとしました(笑)。
真冬でも外で撮影しますからね。沢口(靖子)さんのこだわりというのもすごくあるしね。曖昧(あいまい)なままではやらないんですよ。どうしてこうなるのかということをきちんと理解して納得してからやるんです。
真面目だし、それがここまで長く続いてきた秘訣なんだなあと思いました。そういう女優さんを間近で見てこられたということだけでも僕は感謝ですよ」
2017年には連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)に米屋の店主・安部善三役で出演。娘役の伊藤沙莉さんとのテンポのいいやり取りが話題に。
「米屋の主人でね。あれも楽しかった。娘役の伊藤さんの返しがすごかったね。顔も似ているから本当の親子じゃないかみたいなことを言われたことがありましたよ(笑)」
-お二人の息がピッタリでやりとりがとてもおもしろかったです-
「ほとんどケンカしかやってないでしょう? ポンポンポンポン返ってくるんですよ。『このスケベ』なんて娘から言われるんだからね(笑)。すごい脚本だった。
『あの親子だけ取り上げて何かドラマを作ってくれない?』って言ったことがあるんだけどね。米屋だけ取り上げてやってほしいって(笑)」
※映画『とんがり頭のごん太-2つの名前を生きた福島被災犬の物語-』
2022年5月28日(土)フォーラム福島にて先行上映
6月3日(金)~9日(木)ヒューマントラストシネマ渋谷、フォーラム福島にて公開
製作・配給:ワオ・コーポレーション
監督・脚本:西澤昭男
声の出演:石川由依 斉藤暁 神尾佑 本泉莉奈 置鮎龍太郎ほか
◆実話を元にしたアニメーション映画で声優に
2022年6月3日(金)に公開されるアニメーション映画『とんがり頭のごん太-2つの名前を生きた福島被災犬の物語-』で斉藤さんが声を担当したのは、被災犬ごん太の飼い主で、なみえ焼そばが人気の「富田食堂」の店主・富田清役。
富田さんは、福島県の浪江町で息子夫婦と「富田食堂」を営み、孫と8歳になる愛犬・ごん太と幸せに暮らしていたが、2011年3月11日午後2時46分に一変する。
福島第一原発からわずか9キロの地だったため避難することに。すぐに戻れると思い一家はごん太を置いていくが、自宅へは戻れず、転々と居を移すことになり、ごん太とは離ればなれになってしまう。
その後、ごん太を保護した動物愛護ボランティアのスタッフらは「ピース」と名づけて世話をするが、病気にかかっていることが判明し、余命1カ月と診断される。ボランティアの吉野(声:石川由依)は元の飼い主に会わせたいと奮闘することに…。
原案著者の仲本剛氏から映画化の条件として「福島弁の言葉を大事にして欲しい」という強い要望があり、福島県のキャラクターには、方言指導も立てた上で、福島出身の俳優・声優を起用することにして、味のある演技力で斉藤さん(富田清役)のキャスティングが真っ先に決まったという。
-最初にお話が来たときは?-
「うれしかったです。まず震災関係のドラマだということ、何か一つでも僕でもできることがあるということがうれしかった。
それで脚本を読ませていただいて、実際に映像を見て声を収録したときに、『これはそれまで僕が知っているアニメじゃない』って思った。
それと一番うれしかったのは福島弁でやれるということ。『自由劇場』にいたときに福島弁を注意されて、何度『福島へ帰れ』って言われたことか。『帰らなくていいんだ。ちゃんと福島弁を使ってできるんだ』と思うと、それがうれしかったですね」
-斉藤さんのアフレコは、ほとんどが一発OKだったそうですね。脚本の意図を汲み取った豊かな表現力には監督も大絶賛されていたと伺いました-
「いやいや、福島弁だしね(笑)。わりとスムーズにいきました。肩の力を抜いてできましたね」
-動物好きには涙が止まらないシーンがたくさんありました。避難先に連れていけないけど、せめて自由に動けるようにとリードをはずしてあげるのですが、車をずっと追いかけてくるごん太の姿が切なくて-
「そうですよね。動物は敏感だから、何か違うということをごん太も感じていたんだよね。『牛たちが折り重なるように飼い葉桶に首を突っ込んで死んでいた』とか、いろいろな話を聞きました。僕は実際には見てないけど、『何でこんなことになっちゃったんだよ』って思いますよ。
だから映画の中でカメラマンが『チキショウ、チキショウ』って言いながらシャッターをきったと語っているシーンが心に刺さりますね」
-斉藤さんのご実家やお兄さまが継がれたでんき店は?-
「おふくろが老人ホームにいましたけど、全部倒れてかわいそうでした。今は93歳で、僕の顔なんてもうわからないんですけど震災の頃はまだ元気でしたからね。
『すごかったんだ。もうあそこにはいたくない。戻りたくない』って言っていました。あの震災から一気にどんどん記憶がなくなっていったからね。一人で置くしかなかったということがつらかった。
兄貴はおやじのでんき屋を継いでいましたけど、そのでんき屋も震災で倒れました。まさかあんなことが起きるなんて想像もしてなかったからね。
だから、あの映像を見たときに、やっぱり『嘘だ!』って思った。つらかったね。今でもつらい。風化させちゃいけないと思うんだけど、おふくろには忘れさせたいんだよね。
僕の顔ももうわからなくなっているんだけど、あの記憶だけは残っているのかなと思うと、忘れさせてあげたいと思いますよ。かわいそうだからね」
-この映画がもうすぐ公開になりますが、今どんな思いですか-
「これが記録映画だということ。この映画を見て考えなきゃいけないことって、たくさんあると思う。だから世界中の人に観てもらいたいという思いがあります」
◆特技のトランペットでバンド結成。ライブ活動も
斉藤さんは中学2年生のときにトランペットをはじめ、社会人になってからはしばらく中断していたが、28歳頃から再びはじめたという。
俳優の仕事の合間を縫って、コンサートやジャズフェスティバルへ積極的に参加。自ら作詞や作曲も手がけ、ヴォーカルも担当。60歳になったときには、還暦の記念にオリジナル曲『Beauty 安達太良(おっぱい山)』も。
コロナ禍で撮影がストップしていた期間は、ほとんど曲作りをしていたという。
-YouTubeで見たのですが、一般の方と桜の下でセッションもされていましたね-
「あの方は近所の人なんですよ。『斉藤さんですよね。一緒に歌いませんか?』って言われて。電話がかかってきて、『YouTubeをやっているんだけど上げていいですか?』って言われて、『ダメ』って言えないから、『じゃあ一緒に歌いましょうか』って(笑)。
今は曲作りが趣味になってきましたね。2週間か3週間前に『もらった飴玉』という曲を作りましたよ。僕にも孫が2人いますが、3歳の女の子の孫の曲を作りたいなあと思って作ったの。
孫に『この地球を救ってくれ』って。僕に孫ができて『宇宙人じゃないかな』って思ったら、パッとできたんですよ」
-斉藤さんは特技のトランペットも広く知られていますね-
「そう。だからトランペットをやって歌うというスタイルで、バンドを作りましたからね。3年前にバンドを作ったけど、そのあとすぐにコロナがはじまって、一回もライブがやれてないんですよ」
-前に『さんまのスーパーからくりTV』(TBS系)でもバンド(サザエオールスターズ)をやってらっしゃいましたね-
「あれはにわかバンドだからバンドとは言えませんけどね(笑)。芸能界にはこんなに楽器をやる人がいるんだというのはわかりました。それでまたみんな上手なんですよ(笑)」
-斉藤さんは、『僕らのワンダフルデイズ』(星田良子監督)、『マエストロ!』(小林聖太郎監督)など音楽を扱った映画にも出てらっしゃいますが、トランペットじゃなかったですね-
「そう。トランペットじゃないんですよ。トランペットをさせてくれない(笑)。『マエストロ!』はホルンでしたね。『僕らのワンダフルデイズ』はキーボードだったから練習が大変でした。それで和音、『ドミソ』ってこうなんだとか、『ドファラ』ってこうなんだとかいうのがわかりましたけどね(笑)」
-今後はどのように?-
「バンドでライブを6月26日(日)にやる予定なんですよ。バンドを作ったはいいけど、コロナで一度もライブができてないからね。コロナがどうなるか心配だけどね。今年こそはやりたいなあ」
温かみを感じさせる話し方と優しそうな笑顔が印象的。心がホッコリする。ライブも楽しみ。(津島令子)