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サヘル・ローズ、過酷な体験を乗り越えてきた彼女が贈る“言葉の花束”「人生は他人に決められるものじゃない」

義父からの虐待、ホームレス、酷いいじめ…過酷な体験を乗り越えて芸能界で仕事をはじめたサヘル・ローズさん。

滝川クリステルさんにソックリの「滝川クリサヘル」として注目を集め、『スーパーJチャンネル』(テレビ朝日系)では10年間、人気コーナー「新・東京見聞録」のリポーターをつとめた。同時に念願の俳優として映画、テレビ、舞台に出演。さらに著書『戦場から女優へ』(文藝春秋)、『言葉の花束 困難を乗り切るための“自分育て”』(講談社)を出版。

芸能活動以外にも国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めるなど、国内外の厳しい環境に置かれた子どもたちや差別と貧困に苦しむ女性たちへの支援も行っている。

◆「無理だ!」という声には“こんちくしょう精神”で

日本人よりもきれいな日本語を話すサヘルさん。8歳から日本で暮らしてきたサヘルさんは早い頃から日本語をマスターしていたが、さらに完璧な日本語を身につけるために声優学校にも通いはじめたという。

-本当にきれいな日本語ですね-

「うれしい。ありがとうございます。大学3年生のときに声優の専門学校にも入ったのですけど、それは声優になりたいとかじゃなくて、本当に純粋に言葉をちゃんと根っこから学びたいと思ったんです。

そのときの先生たちに『ナレーションは今の日本語力だとサヘルには難しいよ。どうしても外国人の話す日本語になってしまっている』と言われ続けていたのですが、『ナレーションやりたいなあ』って、ずっとナレーションという仕事に憧れていたんです。

今はナレーションの仕事もさせていただいているので、先生たちは『すごい。よくここまで成長したよ。努力の結果だね』って言ってくれています。だから、『ほら、やれたよ。やれないことは人生にはないんだよ』って(笑)。

昔から散々『無理だよ、やれないよ』とか『表現の仕事なんて3カ月しかもたないよ。この世界は早いから3カ月後には消えている』と言われてすごい傷つくことはあったんですけど、私は“こんちくしょう精神”がすごい強い人間なので(笑)。

同時に人生は人に決められるものじゃない。自分で自分の人生を決めるものなので、他人に私の人生を決めてもらいたくないですし、『無理だよ』って鼻で笑われたとしても笑わせておきたい。

なぜなら私が自分で努力して、絶対にやれないことももちろんたくさんある。でも、やれることもその中にはあるというということは実証してきているから、自分の人生の中で強みなのは常に挑戦をして諦めてこなかったこと。

常に挑んでいるから、やれなかったことも実際にありますけど、それでもうれしいんです。誇りをもっています。アクションを起こした自分に誇りをもっているから、『やっておけばよかった』ということはないんですよね。

そういうことも人生の中で、いろんな先輩たち、出会ってきた方々、そして自分の苦しみ、苦い経験から得られた人生は教訓に満ちているなあって思います」

 

◆海外の映画祭で最優秀主演女優賞を受賞

2009年からは念願の俳優としても活動。映画『ペコロスの母に会いに行く』(森崎東監督)、映画『西北西』(中村拓朗監督)、映画『女たち』(内田伸輝監督)、『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)、舞台『グッドピープル』など多くの作品に出演。2017年に主演した短編映画『冷たい床』(末長敬司監督)でミラノ国際映画祭(MILAN IFF)外国語映画部門・最優秀主演女優賞を受賞した。

-コンスタントにお仕事をされてきて念願の俳優業も-

「はい。ゆっくりですけど自分のペースでやらせていただいています。多分私は表現者としては扱いづらいと思うんです。

なぜかというと、外見がまず日本人と違うし、監督たちによく言われるのは、『脇にもおけない、メインにも置けない』ということ。良い目立ち方なのか悪い目立ち方なのかわからないですけど、『役名を日本人にしても、どうしても顔立ちが異なるから難しい』ってなってしまう。

同時に、何よりも言われるのが、やっぱり私の生い立ちだったり、今行っている活動の一つひとつ…私が出るとそこに引っ張られてしまうというのは否めないですよね」

-生い立ちが印象深いことが原因ですか-

「そうなんです。表現者というのは、多分自分のプライバシーとか、プライベートを明かさない。なぜなら明かしてしまうと、どんなに役を演じたとしても、そこと重ねられてしまうと思うんですよね。

役というのは見てくれた人が感じ取ってくれて、別物であるべきだと思うので、本来だったらやっぱりプライベートは出さないほうが絶対にいいんですけど、私の場合は伝えるメッセージもすごく強くありましたからね。

今いただいている、もしくは舞台などでいただいている役柄は、差別を経験しているか、差別の当事者というのが多いんです。大体毎回言われるのは、殴られているかボコボコにされているか、迫害されているか、差別か…見ていてだいたい苦しいって言われるんですけど、私はそれでいいと思っているんです。

なぜならそういう役が、逆に私だからこそできる引き出し、私が経験したことをそこに投影するからこそリアルになれると思う。お芝居ではない、ほかの人にはやれない唯一無二の存在になれるとしたら、自分の経験をそこに投影させていくことだというように、大人になってから自分の中で認められるようになりました。

昔は悔しかったです。『どうしてやらせてもらえないんだろう?やらせてもらえたらやれるということが見せられるのに、何で?どうして見た目だけが判断されるんだろう?』って。

『ペコロスの母に会いに行く』では着物を着て長崎弁もしゃべれるし、いくらでも日本人になれるのに、見た目とイメージだけがひとり歩きしてしまうことに歯痒さは感じていました。

でも、30半ばを過ぎて、ゆっくり今やれること、与えられたことを丁寧にやり続けることが私の人生の中のやり方なんだなと。焦ることをやめたら、あがくことをやめたら自分の居場所は自然とゆっくりと見えてきました」

-短編映画『冷たい床』では、海外の映画祭で最優秀主演女優賞を受賞されました-

「とてもうれしかったです。大学院生役で、好きになった人にちょっと問題があって大変なことになるんですけど、あの作品は2日間で全部撮ったんです」

-ホラー映画のヒロインは美人だと恐怖感が倍増すると言われていますが、怖かったです-

「ありがとうございます。あの映画でやりたかったのは、手先の筋肉の使い方、血管の動かし方。それはすごく重要なんですけど、日本の場合の表現というのは顔を使わないんですよね。

私たち中東では、目を使ったりとか、ピクッとした動きもあやつれるようにやるんです。『冷たい床』のときにはやりたかった指の動きだったり、足の動きとかをいろいろ挑戦させてもらえたので、すごく楽しかったです(笑)」

-『冷たい床』ではカンヌも含めていろいろな映画祭に行かれましたが、いかがでした?-

「映画祭って響きがすてきで本当に色々とあるんだなって。悔しい思いもたくさんするし、上映される場所も華やかなところだけじゃないところもたくさんあるんですけど、世の中にはこんなにも映画が溢れていて、一年にこんなにたくさん作られているんだとあらためて思いました。

その経験をしたときに、いつかもう一回帰ってきたい。それは映画祭で自分が賞を取りたいということではなくて、やっぱり映画は世界にメッセージを発信するために必要な要素なんですよね。

そこで日本の現状を知って欲しい。日本というのは裕福なイメージがあるので、まさかこれだけ社会的養護が必要な子どもたちが溢れているとは誰も思っていないと思うんですけど、日本の中で隠れている闇、そしてその闇の中で大人が置き去りにされてしまっていて、その大人が自分の子どもに暴力を振るっているという、負の連鎖が一向に止まっていない。この事実をちゃんと知ってもらいたい。

そのためには映画祭で発信する場をいただきたいというのは、自分の中にあります。いつか必ずここ(映画祭)に帰ってくる、いつか自分の作品でとは思っていたので、それがまさか作る側でとは思っていませんでしたけど、必ず行こうと思います。

人間というのは、ポジティブなことを言えばそのポジティブなエネルギーは自分に返ってくるので、謙遜(けんそん)するよりも行くと決めて言ったほうがいいなあと思っています」

※映画『マイスモールランド』
2022年5月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開
配給:バンダイナムコアーツ
監督:川和田恵真
出演:嵐莉菜 奥平大兼 平泉成 藤井隆 池脇千鶴 韓英恵 サヘル・ローズ

◆自身と重なる主人公に共感。難民ではない自分が演じることの難しさ

サヘルさんは、2022年5月6日(金)に公開される映画『マイスモールランド』で、見初められて結婚した夫が入管に長期間収監されていて、強制送還されるかもしれないという不安を抱えながら日本で暮らしているクルド人の難民・ロナヒ役を演じている。

この映画は、「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人が難民認定された例はこれまでないに等しいという現状を、17歳の少女の目線を通して描いたもの。埼玉県でごく普通の高校生活を送っていた17歳のクルド人サーリャ(嵐莉菜)は、あるきっかけで在留資格を失い、当たり前の生活が奪われてしまう…。

「この映画にはドラマ版もあって、私が演じたロナヒはドラマ版のほうが、少し詳しく描かれていたんですけど、実際には私は難民ではないので、一歩間違えると当事者を傷つけてしまう題材だから難しかったです。

なぜなら、現実は甘くないんです。映画の中ではある程度しか描かれていませんが、実際に入管とかで通訳をしていると、『いやもっと過酷だから、もっとボロボロになるよ』って。

現実を知っている人間からすると、映画は問題を世間に広く伝えるために必要な表現手段だけれども、演じるときにすごく責任があるなと。

ロナヒは、自分の夫がずっと収容されていて、いつ帰ってくるかわからない。実際にそういった方々はたくさんいるわけですよね。そういう方々が観たときに、どんな気持ちなるのだろうってすごく考えました。

私は、すごく反省している点がいくつかあるんです。無意識に苦しかったから、悲しみの感情で訴えかけてしまったんですけど、自分も振り返ってみると、当事者は悲しみの感情を押し殺しているんですよね。

苦しいときに苦しいって涙を流さないんですよ、むやみに。だから、違った角度からロナヒを見つめなおすことができたんじゃないかなって」

-日本で育ったサーリャにとっては女性も社会に出て仕事をすることが普通で、女は家庭に入るのが当たり前だと思っている父親とは違う。それがわかって憂えているロナヒの表情が印象的でした-

「うれしい。それはすごく思っていました。ロナヒは夫に見初められて親の勧めで結婚したわけですが、自分とサーリャを重ねていたし、ロナヒは母親がいないサーリャの親代わりだったので、気持ちがわかるよと。

サーリャも小さいときから親の通訳をしていたり、地域のコミュニティーで他のクルド人の代わりにいろんなことをさせられていた。私もそうでしたから、サーリャの気持ちはとてもよくわかりました。

サーリャも思春期を等身大で生きられていないんですよね。そういう意味では自分の人生と重なりました」

-政局に対するデモを行った過去があるため、帰国させられたら処罰される可能性があるという大変な状況にあるというのはよくわかりました-

「うれしいです。やつれた感じを出したかったし、ボロボロになっている感じをどうやったらいいだろうって思って、すっぴんでやらせてもらいました」

-クルド人のコミュニティーで、大人はバイリンガルの子どもに頼ってしまい、日本語を覚えないからますます日本の社会では孤立してしまう-

「その通りです。ましてや日本は難民に対してなかなか申請しても許可がおりないんですよね。『難民問題はしょうがないよ』で片付けられる問題ではなくて、国に帰されることによって、命を奪われてしまう人たちのことは守ってあげてほしい。

もちろんいろんな人たちがそれを理由に来るかもしれない。一概に責任は持てないかもしれないけど、なかには戦火の中逃げてきた人は書類なんか持っているわけがない。まず命を守ることに精いっぱいだったわけで、今、ウクライナの人たちを受け入れてくれているのはすばらしいことだと思います。

人数のことを言う人たちがいるけど、人数どうこうよりも、まずはそのアクションを起こしてくれてありがとうということですよね。

だけども、それをどうしてシリアのときにはできなかったんだろう。クルドとか中東のときにはしてもらえなかったんだろうとは思います。

みんな家族がいて、祖国を離れたくて離れているわけではないんですよね。前のことを言っていても過去に戻すことはできないので、同じことをもう繰り返さないためにも、この教訓を大事にしませんかって。もっとお互いを1人の人として見合えたら、手を取り合えたらと思っています」

芸能活動だけでなく、難民キャンプの学校運営のサポートや、子どもたちの教育現場を支援する活動、国内の養護施設などに物資や食料などを届けるなどさまざまな活動をしているサヘルさんは、アメリカで人権活動家賞も受賞している。

「人権活動家賞には、私にはちょっと早すぎたなって。メッセージを伝えるためにはすごく大切なツールだけれども、賞に振り回されたり賞に飲み込まれちゃいけないなというのはすごい思いましたが、これに恥じないように、この賞がこれから先に活きるためにも堂々とちゃんと活動を続けていきたいと思います」

※『言葉の花束 困難を乗り切るための“自分育て”』
著者:サヘル・ローズ
発行:講談社

◆お母さんへのラブレターが一冊の本に

2022年1月、サヘルさんは『言葉の花束 困難を乗り切るための“自分育て”』を出版。イランで生まれ、孤児院での生活を経て、8歳のときに養子縁組した養母と日本へ。差別、貧困、いじめ…一時は絶望して自死も考えたという自身の体験を基に、さまざまな困難を抱えている人々に贈る言葉の花束。

-本を出そうと思ったきっかけは?-

「『ありがとう』って母に伝える母へのラブレターでもあったし、出会ってくださったすべての人に『ありがとう』っていう、言葉のもっている本当の意味を再度いろんな人に伝えたかったんです。

今、言葉がとてもないがしろにされている。SNS上でもそうですし、人と人が言葉を通して誰かを傷つけてしまったり、自分自身を傷つけてしまうことがあるんですけど、やはり言葉の本来のもつ力、私は言葉によって生かされた人生だったので、もう一回人と人がお節介をし合って手を取り合って生きられるし、『頑張らなくていいよ』ということをこの本を通して伝えたいと思いました。

『頑張れ』っていうポジティブな本ではなくていいと思うんですよ。だからこそ、自分のことをすごく客観的に見て、私は自分のすべての弱さもさらけ出しています。

結構成功例だけの本があるのですが、成功例って、もう成功しちゃっているから、それはその人にしか当てはまらないんです。

でも、そうじゃなくて、弱さと失敗の本を出すべきだと思うんです。失敗から人って学べるので。失敗って最高の成功だからこそ、失敗して自分が苦しんできたことを通して学んでもらえたらうれしいなって思います」

-完成した本をご覧になってご自身ではどうでした?-

「母が喜んでくれたことがうれしかったです。母が完成した本を読んでいるのを見て私が泣きました。多分、本を書いて誰よりも自分が救われました(笑)。だから自分を救いたかったのかなあって。

何よりもこの本が自分の分身としていろんな方々の手元に届くことがうれしい。今のご時世、私の命がいつまであるかわからないです。よく人生は長いと言いますが、長いようで時間はない。毎日『今日1日』と思って生きているので、私が最後に残せる遺言書としての一冊です」

-早々に重版も決まって、それだけ多くの方々がサヘルさんの言葉の花束を受け取っているということですね-

「ありがとうございます。幸いです。もちろん全員には私の言葉が響かないかもしれないけど、その中でも一人でも二人でも、これを受け止めてくれて、『頑張らなくていい』ということと、まず大事なのは、今日本の中で必要としていることは、『みんな自分を好きになって』って。

みんな何かをしようと頑張ってくれている、アクションを起こすことは必要。でも、その前に自分を大事にしないと他の人のことも大事にはできないし、自分が幸せじゃないと他の人のことも幸せにはできないから、自分を大切にして、その次に家族を大事にしてください。

そして家族を大事にしたときにもし余裕があったら、今度は他の人のために生きてください。支援とか活動は強制ではないし、支配になってはいけないので、支援を支配にしないためには、まず自分の心にゆとりを持って欲しいなと思います」

サヘルさんが7歳のときに養子縁組をして母となったフローラさん。それ以来、ずっと一緒にさまざまな困難を乗り越えてきた二人だが、数年前にフローラさんのがんが発覚する。

「『なんでフローラなの?どうして私たちはいつも苦しいことばかりなの?』って思いました。でも、私が守っているので大丈夫です。

もちろん検査が続いていますし、他のところに転移してしまうこともあるんですけれども、母も覚悟を決めて、いつまで人生があるかわからない中、今を楽しんで生きてくれています。

何か悲観的になっちゃうと、もう前に進めなくなってしまうので向き合うしかないなって。人生は向き合ったほうが生きやすいので」

-『徹子の部屋』で拝見しましたけれども、お母さまと作られた「サヘルガーデン」すてきですね-

「ありがとうございます。手入れが大変です(笑)。昨日も消毒をしていたんですけど、消毒だけで3、4時間かかります。

でも、地域の方々がお庭に足を運んでくれて、地域の方とのコミュニケーションの場になれているんですよね。ご高齢者の方が『お庭の花を見ることが出かけるきっかけになった』といってくださって。『なかなか歩かなかったのが歩くようになった』って。

それが少しは恩返しになっているかなって。恩返しってものとかだけじゃないんです。何かを共有したり、感動を共有したり、誰かとつながることも大事な恩返しになるんだなあって。

『サヘルガーデン』は今、人々にとっての憩(いこ)いの場になれていること、地域のご高齢者の方々の支えになっていることがうれしいです。今、薔薇が150種類になりました。

挿木したのがまさかのちゃんと育ってくれちゃって(笑)。いつか『サヘル・ローズ』という薔薇を生み出したいと思っています」

過酷な体験をしてきたサヘルさんだからこそ優しさに満ちた言葉が心に響く。仕事で多忙な日々を送るサヘルさんのために毎日おいしい料理を作って待っていてくれているというフローラさん。さまざまな困難を乗り越えてきた二人の愛に胸が熱くなる。(津島令子)

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