髙木美帆、5種目挑戦は「ウサイン・ボルトがマラソンを走るようなもの」だった。4メダル獲得の快挙を実現させた進化
多くの感動を生み、熱戦の幕を閉じた北京オリンピック。
そのなかで、日本選手最多となるメダルを獲得したのが、スピードスケート女子の髙木美帆(27歳)だ。
1000mで金メダル、1500mと500m、団体パシュートで3つの銀メダルを獲得。1大会で4つのメダルをとったのは、冬のオリンピックでは日本人初の快挙だ。
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』は、北京オリンピックに挑む髙木を特集し、その強さの秘密に迫った。
◆「短い種目も長い種目も両方強かったらカッコイイ」
平昌オリンピックでは、団体パシュートと1000m、1500mで計3つのメダルを獲得。「日本中距離のエース」という呼び名を見事体現してみせた髙木。
あれから4年。彼女は世界も驚くほどの進化を遂げていた。
「世界一のオールラウンドスケーターだ」
「どんな距離でも滑れる万能選手です」
周囲はこんな言葉で髙木の強さを称賛している。
じつは今回の北京オリンピック、髙木は5つもの種目に出場。これは日本女子で史上3人目となる挑戦であり、500mを含む5種目出場は過去にはあの橋本聖子氏しか成しえていない。
「自分の中では、短い種目も長い種目も両方強かったらカッコイイなっていうのが根本にありました」(髙木)
「両方強かったらカッコイイ」と簡単に口にするものの、短距離から中・長距離までを滑るということは一体どれだけスゴイのか? 500mのスペシャリスト・清水宏保氏はこう語る。
「もうあり得ない。短い距離から長い距離まですべて滑りきるというのは、ウサイン・ボルト選手がマラソンを走るようなものです。本当にスピードスケート界の当たり前が当たり前ではなくなってしまっている。それをできるのは古今東西世界のスケーターを見ても髙木美帆しかいない」
◆短距離種目への挑戦がもたらした“相乗効果”
金メダリストの清水氏ですら常識外だと舌を巻く髙木の5種目出場。
そのなかで、髙木が平昌オリンピック以降とくに力を入れてきたのが、それまでほとんど経験のなかった500mへの挑戦だ。
「単純に500mでも速くなりたいという気持ちが前提にあるんですけど、1500mや1000mに対してスピードが今後の課題になってくると思っていたので、その相乗効果といいますか」(髙木)
得意の中距離種目において、元々後半の強さが持ち味の髙木だが、一方で前半のスピードを課題としていた。スピードスケート競技でもっとも短い500mへの挑戦が、その前半のスピード強化につながると考えたのだ。
それからは500mの出場回数を積極的に増やし、レース経験を重ねていった。
すると、2020年の全日本選手権では、オリンピック金メダリスト・小平奈緒をも破り、500mでも国内トップに立つまでに。
さらに、狙いだった多種目への相乗効果も徐々に表れはじめる。
2021年12月のワールドカップでは、1000mで優勝。この種目、髙木はここ数年表彰台に上がり続けてはいたものの、優勝にはあと一歩届かなかった。それが、ついに5年ぶりの頂点に立ったのである。
「優勝したときの1000mは、スタートでのハマった感じもありましたし、ラップがすごく出ていたので、そこの200mがラップにつなげられたのはすごく大きいなと感じています」(髙木)
手ごたえを口にしたのは、スタートから200mまでのラップタイム。
このレースで髙木は17秒7で通過しているが、前回優勝した5年前のタイムは18.1。最初の200mで0.4秒も速くなっていた。
元々得意とする後半の強さに加え、500mへの挑戦で前半のスピードまでもがアップ。傍から見れば負担が大きいと思われる5種目挑戦によって、多種目のさらなる進化を遂げていた。
◆「全種目で本気で戦いに行く」
さらに、平昌オリンピックから大きく変わったのが「メンタル」だ。
「5種目全部に出るのは、それだけでも十分すごいことだと思うんですけど、5種目出ることが目標ではないだろうなと思います。出ると決めたのであれば、全種目で本気で戦いに行く」(髙木)
この「本気」という言葉に、技術だけではない、4年間の心の変化が凝縮されていた。
平昌オリンピック、髙木はもっとも得意とする1500mで、「金メダル大本命」と言われながらも銀メダルだった。
なぜ頂点には届かなかったのか。振り返ったとき、金メダルを獲得した団体パシュートとの「メンタルの違い」に気づいたという。
「団体パシュートに関しては金メダルを強く意識していました。『獲りたい!』『このチームで戦いたい』と考えて挑んだ結果がカタチになった。周りからの促しや期待からではなくて、何かを成し遂げるときには自分自身が強く『やりたい』と思わないと、自分の最大限の力は発揮できないのかなと考えるようになりました」(髙木)
周りからの期待が先行するのではなく、自分自身の強い意思がなければ、力を出し切ることはできない。
経験をもってそのことに気づき、全種目本気で挑んだからこそ、日本人最多メダル獲得という快挙を成し遂げられたのだろう。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜日夜25時25分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)