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長谷川初範、伝説のドラマ撮影秘話。別れのシーン撮影後にひとり号泣「一気に役が噴き出てきた」

1979年、森光子さんの推薦で舞台『おもろい女』に出演することにした長谷川初範さん。

1980年に『ウルトラマン80』(TBS系)で主人公・矢的猛を演じ、ドラマ初主演をはたすと、その後も数多くの映画やドラマに出演。そして、1991年には伝説のドラマ『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)に出演し、浅野温子さん演じるヒロイン・薫の亡き婚約者と武田鉄矢さん演じる星野達郎の恋敵の二役を演じ、一躍注目を集めることに。

 

◆『ウルトラマン80』のオーディションだと知らず…

1980年4月から1981年3月まで放送された『ウルトラマン80』。長谷川さんは、オーディションで主人公・矢的猛を演じることに。

-『ウルトラマン80』のオーディションはどういう経緯で受けられたのですか-

「森光子さんが出演されていた作品のプロデューサーの方に呼ばれてTBSに向かいました。何のオーディションかも聞けないまま会場に着くと、オーディションはすでに終わっていて、僕一人だけでした。

それで『すみませんけど、これは何のオーディションでしょうか』って聞いたら、『君、ウルトラマンだよ!』って台本を掲げながら言われて、そこではじめて『ウルトラマン80』のオーディションと知りました。

まったく予想してなかった展開に、その場で『ちょっと考えさせてください』と言ってしまったんです。

僕は横浜放送専門映画学院を卒業した後、今村プロ制作のドラマ『飢餓海峡』(フジテレビ系)で俳優デビューしましたが、僕が出演してないシーンでは、浦山(桐郎)さんの助監督もやっていました。撮影中、山崎努さんと若山富三郎さんがお話しているのを間近で聞いて、『すばらしいなあ。先々山崎努さんや若山富三郎さんみたいな役者になりたい』と思っていました。

だから、自分が思い描く役と違う特撮ヒーローと聞かされて気持ちを整理できなかったのだと思います。『ちょっと考えさせてください』って言ったら、ものすごく怒られたんです。それなのに後日、『長谷川さんに決まりました』って言われて『なんで? なんで僕なの?』って(笑)。ビックリしました。

でも、当時の映像や写真を振り返って見てみると、ヒーロー顔をしているんですよ。不思議ですね」

-撮影はいかがでした?-

「とにかく一生懸命やりました。視聴者をどうやって惹きつけていくのか、当時からいろいろと作戦は練りました。ウルトラマンを演じるにあたって、僕が子どものときに見ていたウルトラマンと言うと、変身する前も実にクールでかっこいいキャラクターだったなあと思ったんです。

でも、クールでかっこいいという概念が本当にそうなんだろうか。もしかしたら人間よりも熱くて失敗しやすい人だったらもっとおもしろいんじゃないかと考えたんです。『えっ? お前が宇宙人?』みたいな感じでそれまでの概念をひっくり返すみたいな主人公にしたいと思っていました。

-人間味のあるキャラでしたね-

「変身前の主人公は中学の新人教師ですけど、一生懸命に走ったり、失敗して生徒に励まされたり…、カッコいいヒーローというか当時の僕そのものでした。

今村さんから『俳優というのはダメダメで、それで魅力的で、とにかく人間のいろんな感情ができる変な人にならなきゃいけない。変人になれ』としきりに言われていました。

僕が出はじめたときに『長谷川、二枚目で行こうとするなよ。二枚目で行けるのはアラン・ドロンと草刈正雄だけだ。だから変化球でいけ。直球で勝負できるのはこの二人だけだからな。技術だ』ってガツンと言われていました。

それまでのヒーローとは逆パターンの主人公は違和感ありありで、当時はあまりウケなかったんです(笑)。『ウルトラマン80』の撮影時、最初の頃は、何もわからず、技術もなく、演技もうまくなかったのですが、僕が向かおうとしている方向には進めたと思っています。

スキー場に撮影に行ったとき、アメリカンスクールの子どもたちがスキーをしていたのですが、みんな僕のところに集まって、超人気者だったんです。アメリカの子どもたちにも受け入れられていると実感できて、そのときはうれしかったですね』

 

◆『101回目のプロポーズ』でダンディーな二枚目ぶりが話題に

1991年に放送されて大ヒットを記録したドラマ『101回目のプロポーズ』で長谷川さんは、ヒロイン(浅野温子)の婚約者で結婚式直前に交通事故で亡くなったピアニスト・真壁と彼に生き写しのバツイチ敏腕サラリーマン・藤井の二役を演じて話題に。

-ダンディーな二枚目で印象的でした-

「台本では藤井を完全に悪役として書かれていたのですが、それを、ただの『そっくりさんで悪役』だけではないキャラクターにどうやって作っていくのか研究しました。

いわゆるフランス映画とかイタリア映画みたいにたたずんでいて、言っていることは辛辣(しんらつ)でイヤな奴なんだけど、イヤな奴というのをあまり視聴者に感じさせないような仕草は、入念に仕込みこんでやりました。だから皆さん二枚目だっておっしゃっているんだと思います」

-そんなに嫌な感じに見えませんでした-

「そうおっしゃっていただけてうれしいです。真壁は素の自分を活かしましたが、藤井はかなり作り込んだので。

台本上ではプロレスで例(たと)えると、ベビーフェイスの悪役になっていました。プロレスでもそうですけど、悪役が強ければ強いほど『この先どうなるんだろう?』って盛り上がっていく。悪役がショボいと絶対に全体が盛り上がらないから、それを強くイメージして必死に頑張りました。僕も勝負だと思ったので」

-浅野温子さんが毎回涙を流すシーンも印象的でした-

「そう。浅野さんは気持ちをつくって泣く、絞り込んだボクサーのようで、時間をかけてストイックに極限までつくり込んで、気持ちができたら『本番』という感じ。だから本番が終わった後はもうヘロヘロの状態でした」

-真壁さんが登場する回想シーンもステキでした-

「当初、僕の撮影は真壁役だけだったので、1日だけで終わる予定でした。真壁がピアノを弾いているシーンで、ピアノの出だしだけでも弾けるようになろうと思って、撮影現場で早めにスタンバイして音を流してもらいながら練習していたんです。

しばらくして、僕は背中越しで見えませんでしたが、スタジオの2階の部屋から浅野さんが準備を終えて下りてきているような雰囲気に現場がなりました。

スタッフの皆さんが『おはようございます』とあいさつをされたので、『まもなくはじまる』って緊張しながらも音楽がまだ流れていたので続けて弾いていたら、浅野さんに突然後ろからガッツリ抱きしめられて、ワーッと頭に頬ずりされまして。もう止まらなくなっているから、監督がそれを手持ちのビデオカメラで撮影しはじめたんです。

浅野さんは『階段を下りてきたら、自分がイメージしていた真壁さんがそこにいた。だから感情が噴き出してああなっちゃった』っておっしゃっていました」

-放送がはじまって回を重ねるごとに話題になっていきましたが、実感はありましたか?-

「僕は、最初は真壁役だけの予定でしたが、1カ月くらい経ってから急に呼び出されてプロデューサーさんから『長谷川くん、そっくりさんで出てくるから』って言われたんです」

-藤井役として出演することは聞かされていなかったのですか-

「言われてないです! 僕が一番驚きましたよ!『えっ? 僕もう一度出られるんですか? ありがとうございます!』って。でも、『回を重ねるたびに視聴率がどんどん上がってきているから、君が出て視聴率が下がったら君のせいだからね』って、かなりプレッシャーをかけられました」

-実際にはどんどん話題も集めて視聴率も上がって-

「大きなプレッシャーもいただいた分、この作品にガッツリ入るようにして気持ちも入れたし、真壁の人物像も作っていきました。そうしたら浅野さんがガンガン気持ちを作って現場に入って来られるので、本当に真剣勝負みたいな感じでした。

後半になって二人が別れるというシーンを公園で撮るのに、お昼からセッティングをしてお芝居を決めて、二人が座る場所の見えないところに下からカメラを仕込んだり、カメラも森の中に入れて望遠で狙ったり、僕たち以外誰もいないという状況がつくられました。

夜まで待って、『ヨーイ、ドン』で撮影が開始されると、芝居ということを忘れてしまうくらいリアルな瞬間というか、目の前の彼女が泣いていて本当に二人で別れ話がはじまった感覚でした。

それで撮影の方もOKが出たんですが、もうリアルすぎて、浅野さんが『私このまま帰れない!』っておっしゃられて。失恋したままのこの状態でどうやって帰ればいいのよっていうことですよね

でも、別れた相手役の僕が付き合うわけにもいかないし、あいさつをして先に現場から帰りました。すると1キロくらい走ったところで急に涙が溢れ出てきて、車を止めて号泣したんです。車で一人大泣きしているんです。

浅野さんは終わった瞬間、速攻で『帰れない!』っておっしゃって、僕はOKが出たら、冷静に役から自分自身に戻っていたはずでしたが、現場を離れると一気に役が噴き出てきたんです」

-それだけ皆さん気持ちが入っていたのですね-

「すべてすばらしかったのですが、とくにこのシーンは、すごかったですよ! カメラマンさんも『僕の技術はすべて使い果たした』とおっしゃっていましたから。そんなにまだカメラが発達していない時期に、カメラのいろんな技術を駆使して撮影していただいたスタッフの皆さんの熱量はすごかったですし、あの状況で芝居ができて幸せでしたね。僕自身、あんな緊張感のある連続ドラマははじめてでしたし、いまだに超える作品はないです」

-あのドラマでダンディーな二枚目というイメージが浸透しましたね-

「そうですね。『101回目のプロポーズ』のおかげで、皆さんに僕を知ってもらえたわけですし、皆さんが今でも、『真壁』と『藤井』のイメージを持っていただけているのもドラマを見てくださったからだと思います。

でも、そのイメージが強くつき過ぎるのもイヤだったので、恋愛ドラマのお話をたくさんいただきましたけど、悪役の作品のオファーを優先して引き受けるようにしていました。

恋愛ドラマもやりたくなかったわけではありません。今でも、お話があればやってみたいと思います。僕は俳優をはじめた頃、達者な悪役がこなせる役者になりたいと思っていましたので、まず皆さんのイメージを早く裏切りたかったんです」

さまざまな役柄にチャレンジして多くのドラマ、映画、舞台に出演。2006年の連続テレビ小説『純情きらり』と舞台『チャイコフスキー心の旅』(2007年)でもピアニスト役を演じた。

次回後編では、25歳のときに発症し20年間苦しめられたぜん息、これまでとまったく違う野性的な風貌で出演した映画『アルビノの木』(金子雅和監督)の撮影裏話、公開間近の最新出演映画『リング・ワンダリング』(金子雅和監督)の撮影エピソードも紹介。(津島令子)

©2021 リング・ワンダリング製作委員会

※映画『リング・ワンダリング』
2022年2月19日(土)よりシアターイメージフォーラム他全国順次ロードショー。
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
監督:金子雅和
出演:笠松将 阿部純子 片岡礼子 品川徹 田中要次 安田顕 長谷川初範
漫画家を目指す草介(笠松将)は、不思議な娘・ミドリ(阿部純子)とその家族との出会いを通じて、その土地で過去に起きたことを知ることに…。

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