ドラマ『愛しい嘘』、ピュアとミステリアスを自在に行き来する林遣都。疑惑は晴れた…のか?【ネタバレ有り】
<ドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』第2話レビュー 文:横川良明>
普段一緒にいる人のことを、どれくらい理解しているのだろうか。何かあると、人は決まってこう言う。「そんなことをするような人には見えなかった」と。
でもそれはその人のことをどこまでわかって言ってるのだろう。自分に向けて見せている顔だけが、真実とは限らない。
金曜ナイトドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』第2話は、そんな人の多面性について考えさせられる回だった。
◆林遣都が魅せる、ピュアとミステリアスの両極
とにかく怪しいところだらけの登場人物たち。中でもこの第2話で疑惑がより深まったのが、雨宮(林遣都)だ。望緒(波瑠)の前では完璧な紳士。だけど、「女癖が悪い」と評判で、実際、望緒のいないところで何者かに「愛しているよ」と電話をする場面も。
はたして雨宮は信用できる男なのか。彼の正体が、第2話の焦点だった。
そして判明した、雨宮の秘密。彼には、若年性アルツハイマーを抱える母(高橋ひとみ)がいて、ことあるごとに電話がかかってきたのも、会社を休んでいたのも、母が理由だった。あの「愛しているよ」の相手も母親なのだろう。雨宮は、母親想いの誠実な青年だった。
奈々江(新川優愛)が死んだ日も、雨宮は母の暮らす老人介護施設を訪れていた。これでアリバイ成立。雨宮に関する疑惑は晴れたと言いたいところだけど、そう単純な話でもないだろう。
望緒を突き飛ばした人物は、コートでシルエットが隠されていたものの、背格好は雨宮に近いように見えた。だいたい14年間、音沙汰もなかったのに、いきなり望緒に迫ってくるのも、なんだか怪しい。雨宮が同窓会を企画した理由も依然不明だ。
完璧なアリバイを持っている人ほど怪しいのがミステリーのお約束。いち早くアリバイが証明されたぶん、雨宮の動向に関してはよりマークしておいた方がいいだろう。
演じる林遣都は、『おっさんずラブ』でのブレイク以降、ドラマでは『リーガルV〜元弁護士・小鳥遊翔子〜』の「ポチ」と呼ばれる若手弁護士・青島役や、『スカーレット』の気弱な性格から突然のモテ期によりお調子者に確変する信作役など、どちらかと言うと三の線や、冴えない青年を演じることが多かった。
だからこそ、これだけ色気たっぷりの役どころは久々という印象が際立つ。彫刻のような彫りの深い顔立ちに、落ち着いた低い声、そして品のいい笑みは、ミステリアスな雨宮にぴったり。黒真珠のような瞳は意図的に感情を乗せていないような面があり、何を考えているのかその目から読み取ろうしても、跳ね返されるような無機質さがある。
それでいて、「僕、今井さんには結構頑張って意思表示しているつもりなんだけどな」と照れくさそうに上を向く仕草にはたまらない素朴さがあり、ピュアとミステリアスという両極を自在に行き来する林遣都の演技につい翻弄させられてしまう。
雨宮が犯人かどうかはさておき、もうしばらく林遣都のザ・正統派美男子な役どころをたっぷり味わわせてほしい。
◆稜はなぜ事件のことをひた隠しにするのか
一方、残るメンバーもそれぞれに怪しいところが。一見すると、最も謎めいたところから遠いのは、稜(溝端淳平)だ。明らかに稜は望緒のことを意識しているのに、まるで稜のことを男性と見ていない望緒とのやりとりは、不穏な気配が漂う本作の中で貴重なほっこり場面。
けれど、稜は稜で怪しみが深い。わざわざ東京まで出てきて望緒を見守っているのもそうだし、中野幸の家が火災に遭った事実を望緒にひた隠ししているのもそう。それも事件当時からその話題を避けていたことが今回の望緒の回想でうかがえた。
なぜ稜は中野幸の話題を遠ざけようとするのか。稜は望緒を守る騎士。となると、やはりあの火事に望緒が深く関わっていることは間違いなさそうだ。
玲子(本仮屋ユイカ)もまた秘密を抱えている。望緒を車道に突き飛ばした犯人について「心当たりなら…」と言いかけてやめた。あのとき、玲子は誰のことを思い浮かべていたのだろう。そして、なぜそれを口にするのをやめたのか。
中野幸の火災事件は、望緒を除く全員が、真相を知っているのかもしれない。その過去を封じるために、仲の良かったはずの6人は、14年もの間、会わずに過ごしてきた。この6人は、嘘によって絶たれ、嘘によってつながれている関係なのだろうか。
そして、次回への起爆剤の役割を果たしたのが、優美(黒川智花)だ。優美はスマートフォンを2台所有していた。あの秘密のスマートフォンで電話をしていた相手は誰なのだろうか。口ぶりからすると、異性のように感じられた。となると、相手は雨宮か稜か。
モラハラ夫と嫌味な姑に囲まれた優美は、針のむしろ状態。そんな優美に、優しく接することでマインドコントロール下に置いた。その手口と、「忙しいのはわかっているんだけど」という台詞から考えるに、雨宮の方がしっくり来るが、はたしてどうか。
望緒のもとに届くあのファンレターも怪しい。差出人の名前は「クロ」。「クロ」とは警察用語で「犯人」。この差出人こそが、一連の事件の黒幕と見ていいのだろうか。
◆怪演俳優・徳重聡が台風の目に
さらに、今回存在感を見せたのが、優美の夫・正(徳重聡)だ。
徳重聡といえば、“21世紀の石原裕次郎”でおなじみ。だが、近年はむしろ、『下町ロケット』で見せた強烈な演技の方が印象深いだろう。怪演俳優の名をほしいままにしている徳重が、今回もその実力を余すことなく発揮。物陰からじっと見ているだけでこんなに怖いのは、徳重聡と『ずっとあなたが好きだった』の佐野史郎くらい。
「み、せ、て」と目をひんむく顔は貞子よりホラー。優美の手をウェットティッシュで拭きながらべろりと舐めるくだりは、夢に出るレベルの不気味さがある。しばらくはこの正が物語をかき乱す台風の目となりそうだ。徳重聡には、「いいぞ、もっとやれ」と伝えたい。
しかし、正はただドラマを盛り上げるためだけのお騒がせキャラではない。礼子によって、奈々江の事件が、雨宮に追及の手が及びそうになったところで捜査終了になったことが明かされた。いかにIT社長といえど、雨宮にそれだけの権力はないだろう。
考えられるのは、山梨県警の刑事部長であり、名家の御曹司でもある正の方だ。正がなんらかの理由で圧力をかけ、捜査を打ち切らせたとしたら…。その理由が、この謎だらけの袋小路を切り開く突破口になるかもしれない。
突き飛ばされたのが望緒に見せかけて、りえ(松村沙友理)だったり。優美がスマホを2台持ちしていたり。電話をしている望緒の背後に秀一がいたり…。
観る人をミスリードさせたり、ハラハラさせる演出や仕掛けが盛りだくさん。物語のスピードも停滞感がなく、謎の部分と、少しずつ明らかになる真相の部分のバランスもちょうどいい。
おおまかな状況説明は終わり、いよいよキャラクターも動き出した。これからますますこの『愛しい嘘~優しい闇~』にのめり込む日々が続きそうだ。(文:横川良明)
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※番組情報:金曜ナイトドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』
【毎週金曜】午後11:15~深夜0:15放送、テレビ朝日系24局(※一部地域で放送時間が異なります)