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WRC(世界ラリー選手権)、トヨタが27年ぶりのダブルタイトル獲得!「最後のヤリスが最強に」

2021年シーズン全12戦のWRC(世界ラリー選手権)が最終戦を迎えた。

©TOYOTA GAZOO Racing

ドライバーズチャンピオンシップは、トヨタのセバスチャン・オジェとエルフィン・エバンスによる一騎打ち。そしてトヨタは、マニュファクチュアラーズタイトルとのダブルタイトル獲得もかかった状態での最終戦だ。

オジェが王者を獲得した場合、8度目のワールドタイトル獲得。そしてトヨタがダブルタイトルを獲得した場合は、1994年以来27年ぶりとなる記録づくしな一戦だ。

©TOYOTA GAZOO Racing

舞台はイタリア北部のモンツァ。本来であればラリー・ジャパンになるはずだったが、新型コロナ感染拡大の影響で中止になってしまったため、モンツァの地が最終戦代替地となった。ラリー・ジャパン大会スポンサーのフォーラム8の名前も引き継ぎ、大会名は「WRCフォーラム8 ACI ラリー・モンツァ」となっている。

注目の最終戦、その上位の結果は以下の通り。

1位:セバスチャン・オジェ(トヨタ)
2位:エルフィン・エバンス(トヨタ)/1位から7秒3遅れ
3位:ダニ・ソルド(ヒュンダイ)/同21秒3遅れ
4位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/同32秒0遅れ
5位:オリバー・ソルベルグ(ヒュンダイ)/同1分32秒0遅れ
6位:ティーム・スンニネン(ヒュンダイ)/同2分22秒6遅れ
7位:勝田貴元(トヨタ)/同2分34秒5遅れ
8位:ガス・グリーンスミス(Mスポーツ)/同2分50秒2遅れ
9位:カッレ・ロバンペラ(トヨタ)/同4分49秒6遅れ
(以下はWRC2、WRC3クラスのドライバーが入賞)

©WRC

優勝はトヨタのセバスチャン・オジェ。コ・ドライバーのジュリアン・イングラシアとふたり、2013年の初タイトル獲得から2018年まで6年連続、そしてトヨタに移籍した2020年と今年でついに8度目のワールドチャンピオンを獲得した。

2位には同じくトヨタのエルフィン・エバンスが入り、トヨタはワンツーフィニッシュでマニュファクチュアラーズタイトルも獲得。1994年以来のダブルタイトルも決めた。

©WRC

そして、このラリー・モンツァはシーズン最終戦になっただけでなく、エンジンカーによるWRCマシン最後のラリーとなった。

2022年からはルールが新しくなり、最高峰クラスのラリー1は、現行の1.6リットルターボエンジンに、全チーム共通となるドイツのコンパクト・ダイナミクス社製モーターとバッテリーユニットを組み合わせたハイブリッド車となる。

タイムを競うSS(スペシャルステージ)ではハイブリッド、リエゾンと呼ばれる移動区間はEV車のように電気モーターのみで走行する予定だ。1982年から1986年までWRC最高峰クラスで戦ったグループBと呼ばれたマシン以来、最高のパフォーマンスと多くの関係者が認めた現行のWRカーは、惜しまれつつも終了となった。

◆トップふたりの争いはまさに“鍔迫り合い”

最終戦を振り返ってみよう。

今回、全16SS、合計253.18km、リエゾン区間426.44kmで争われたラリー・モンツァ。新型コロナの影響が強く残っていた昨シーズンの最終戦と違い、F1で使用されるモンツァ・サーキットの敷地内だけではなく、ローマ帝国時代からイタリア屈指の高級避暑地として名高いコモ湖周辺の山岳コースも含めたターマック(舗装路)ラリーとなった。

今回の注目は、トヨタのオジェとエバンスによる一騎打ち。トヨタはサードドライバーのカッレ・ロバンペラに、もし2台のどちらかが攻めすぎてリタイアすることがあっても、マニュファクチュアラーズタイトル獲得のため安全マージンを持って走行する戦略を指示していた。

©TOYOTA GAZOO Racing

こうして始まった最終戦の金曜日はSS1からSS7までの7ステージ。初日からふたりの争いは全開だった。7ステージ中、オジェが3ステージ、エバンスが2ステージでステージトップを獲得。総合では、SS5までオジェがトップを守るが、SS6でエバンスが逆転、SS7終了時トップのエバンスと2位オジェのタイム差は1秒4であった。

午前中のSSは山岳地帯特有の霧が出ていて、何台かのマシンがクラッシュ。WRC公式TV解説者も「カメラで映っている以上にドライバーにとって視界が悪い状態での走りです」と説明するほどのなか、トップふたりの走りは図抜けていた。

この争いは、土曜日にさらに激しくなる。2日目はSS8からSS13までの6ステージ。この日は晴天で前日のような霧もなく、全チーム、午前中からの走りも攻めたものとなっていた。

この状態でミスをしてしまったのは、ヒュンダイのヌービル。

SS9をスタートして500mほど先の右コーナーでリヤタイヤが流れるようにして大きく膨らみ、それを修正した反動で車体が戻ってきたイン側のガードレールに強くヒット。フロント部分を破損し、180度回転する形でマシンを止めた。幸いマシンは走行可能だったのでUターンして復帰。なんとか走りきったが、このステージ、トップから27秒9遅れとなり表彰台獲得は厳しくなった。

一方、トップふたりの争いはまさに“鍔迫り合い”だった。

©TOYOTA GAZOO Racing

SS8でオジェが再び総合トップに立つと、SS9でエバンスが逆転トップ、SS10でさらにオジェが逆転、SS12エバンスがまたまた逆転、そしてSS13でオジェが三度逆転して2日目トップに立った。

2位エバンスとの差はわずか0秒5だ。これだけ激しい勝負だけに、トヨタのサードドライバーであるロバンペラは絶対にクラッシュできない、違ったプレッシャーのなかラリーを戦うことになった。

◆凄まじい力を見せたトヨタチームのメカニックたち

そして迎えた日曜日、最終3日目はSS14からSS16の3ステージ。

モンツァ・サーキット敷地内でのラリーだ。サーキットコースや旧サーキットのバンクコーナーを利用したSSには、意図的なシケインと呼ばれるコーナーを設置しているのだが、このシケインのために利用されていたのが巨大なコンクリート。このコンクリートがドラマを生んだ。

SS14でヒュンダイのオリバー・ソルベルグがこのコンクリにマシンをヒットさせてしまいタイムロス。そしてトヨタのオジェもコンクリにわずかに接触させてしまう。幸いなことに、接触したのは右前輪タイヤとホイールのほんの一部で、マシンが破損することはなく、エバンスと同タイムでSS14を通過した。

©TOYOTA GAZOO Racing

しかし、このシケインの餌食となったのがトヨタの勝田だった。SS15のシケインでかなり強めに左前輪をコンクリートにぶつけてしまい、それが原因で次のシケインでクラッシュ。なんとかステージは走りきったが、左前輪はタイヤとサスペンションが大きく破損した状態となってしまった。

ここで凄まじい力を見せたのが、トヨタチームのメカニックたちだ。

ルールにより、最終パワーステージ前にガレージでマシンを修復するのに許された時間はわずか15分。その、たった15分で見事に左前輪のタイヤとサスペンション交換をやってのけた。このメカニックたちの頑張りに応えるように最終パワーステージで勝田は2位を獲得。モータースポーツがいかにチームスポーツであるかという一面を見せてくれた。

じつはオジェとエバンスの争いもSS15で決着がついた。

©TOYOTA GAZOO Racing

オジェを追うエバンスは攻めすぎて、わずかにコースオフさせマシンをコース脇の牧草ロールに当ててしまった。車体に大きなダメージはなく、すぐコース復帰したが、勝負を決するには十分な結果だった。最終パワーステージで逆転は難しく、オジェは今シーズン5勝目を挙げて8度目のワールドチャンピオンを獲得した。

こうしてトヨタはドライバーズチャンピオンシップ、マニュファクチュアラーズタイトルのダブルタイトルを獲得した。2017年から18年振りにWRC復帰した現在の「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team」にとっては初の快挙だ。

◆豊田章男氏「チームは最後のヤリスを最強にしてくれた」

©TOYOTA GAZOO Racing

この快挙を受け、当然ながらチームオーナーである豊田章男氏のコメントも過去もっとも熱いメッセージとなり、王者となったオジェのコメントはチームへの感謝に溢れていた。

※豊田章男氏・コメント

「今シーズンは、どのラリーも貴元を含む4人のドライバー達の誰かが表彰台に立ってくれていました。私も『誰かが勝ってくれるだろう…』という想いを持ちながらワクワクした気持ちで全戦を見守ることができていたと思います。

そして迎えた最終戦。セブは8度目のチャンピオン。エルフィンは初のチャンピオンを掛けて最後の最後まで全力で駆け抜け戦ってくれました。いちファンとしても最高にエキサイティングな気持ちにさせてもらえました。『こんなにもエキサイティングな走りを最高峰の道でヤリスが…』我々トヨタにとっては本当に夢のような話です。そんな気持ちにさせてくれた2台のクルー達に心から“ありがとう”と伝えたいと思います。

そしてその戦いを制したセブ、ジュリアン、チャンピオンおめでとう! 今日も最後まで全力でエルフィンを迎え撃った君たちの走りに心から敬意を表します。8度のチャンピオン獲得は本当に偉大な記録です。その内2回がトヨタでのチャンピオンであることを我々も誇りに思います。本当にありがとう!

我々は同時にマニュファクチャラーズタイトルも獲得することができました。『マニュファクチャラーズタイトルも絶対に獲る…』、『同時にセブとエルフィンにも心おきなく戦ってもらう…』この2つを成し遂げようとチームは心をひとつに最終戦に臨んでくれていました。自分が上位にいればチームタイトルは決まると分かっていたカッレの走りがまさにこのことを示していたと思います。カッレ、ヨンネ、チームのためにありがとう。

このような采配でチームが笑顔になれたのはヤリ-マティがいたおかげです。ドライバー出身のヤリ-マティは“ドライバーファースト”の想いに溢れたリーダーでした。チームの判断の全てがドライバー視点でなされていたからこそドライバーみんなが笑顔でシーズンエンドを迎えているように思います。

同時に、ヤリ-マティは“負け嫌い”です。きっと私と同じくらいかもしかしたら私以上かもしれません。要所要所で見せてくれた“負け嫌いな采配”がこのチームを強くしてくれたと思います。

ヤリ-マティが私を驚かせてくれたことはもうひとつありました。メンバーとの丁寧なコミュニケーションです。早朝のサービスパークでメンバーひとりひとりに“おはよう”を言ってまわるヤリ-マティを映像で見せてもらいました。そんなヤリ-マティがいたからフィンランド、エストニア、ドイツ、日本にまたがる総勢200名のメンバーの心がひとつになったと思います。

目指していた“ドライバーファーストのチーム”、 “家庭的かつプロフェッショナルなチーム”を実現してくれて本当にありがとう。そして、このチームは2017年からヤリスWRCを強くし続けてくれました。2017年、最初のラリーの時に私がみんなにお願いしたのは『シーズンの最後に走るヤリスが一番強いヤリスになるようにしよう』でした。

ヤリスWRCは5年間で59戦の道を走り、勝てなかったラリーからも、勝てたラリーからも多くのことを学びました。チームは本当に最後のヤリスを最強にしてくれたと思います。そのことにも改めて感謝します。みんな、ありがとう!

来年からは新たなレギュレーションのクルマに変わります。その開発も佳境を迎えているとのこと、今年もみんなはクリスマス休暇を返上して準備を進めることになってしまうと思います。チームのみんなやご家族には苦労を掛けますが、引き続き、力を貸してもらえればと思います。

来シーズンもファンの皆さまにエキサイティングな気持ちになってくれるようなクルマを準備していきましょう! そして、一戦一戦を走りきってもっともっと強いヤリスをみんなでつくっていきましょう! ファンの皆さまもTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの新たなクルマ、新たな戦いを楽しみにしていただければと思います。引き続き応援よろしくお願いいたします。!」

◆オジェ「これ以上の良い終わり方はなかった」

©TOYOTA GAZOO Racing

※セバスチャン・オジェ コメント

「今の気持ちを表現するのはとても難しいことです。いつもそうですが、チャンピオンシップを勝ちとるためには多くのことを捧げてハードにシーズンを戦う必要があり、へとへとになってしまいます。しかし、私達は今日のような瞬間を経験するために戦っているのです。

チームのメンバー全員に感謝します。彼らの存在なしに我々は何もできないですし、今日はチームの全員がワールドチャンピオンになったのですから、みんなで祝いましょう。トヨタが成し遂げたことは非常に素晴らしいことですし、チームはタイトルを獲得するに相応しい、多大な努力を重ねてきました。また、これでジュリアンとの旅が終わりになるのかと思うと、感慨もひとしおです。

これ以上の良い終わり方はなかったと思います。この週末を迎えるにあたってはやるべきことがたくさんあり、戦いがまだ終わっていないことを理解していました。エルフィンに勝つ必要こそありませんでしたが、リラックスすることはできず、順位を落とすわけにもいかなかったので、最終的に優勝できたのはパーフェクトな結末といえます」

さて、2021年シーズン、ドライバーズチャンピオンシップ上位8人は以下の通り。

1位:セバスチャン・オジェ/230ポイント
2位:エルフィン・エバンス/207ポイント
3位:ティエリー・ヌービル/176ポイント
4位:カッレ・ロバンペラ/142ポイント
5位:オット・タナック/128ポイント
6位:ダニ・ソルド/81ポイント
7位:勝田貴元/78ポイント
8位:クレイグ・ブリーン/76ポイント

そしてマニュファクチュアラーズ争いは、トヨタが522ポイント、ヒュンダイ463ポイント、Mスポーツ200ポイントで終了した。

この最終戦を振り返って、じつは注目したいのが勝田貴元の走りだ。コンクリートに接触クラッシュしたSS15以外、同じマシンに乗るロバンペラを上回った。

たしかにロバンペラはマニュファクチュアラーズタイトルのため安全マージンを持った走りをしていた。SS15では走行中に突然ドーナツターンを決めるシーンがあり、ステージ終了後に公式TVから「あれは何だったのか?」と聞かれたロバンペラは、ピンクのドーナッツ写真が貼られたペースノートを見せ、「この指示に従ったんだ」とおどけてみせ、自分の役割が違っていたことをアピールするなど、余裕があったのは事実だ。

しかし、それでも上位に食い込むには手抜きはできない。そのロバンペラを上回った勝田の走りは、確実にワークスドライバーレベルに達していることを証明したといえるだろう。

©TOYOTA GAZOO Racing

こうして2021年シーズンは終了した。2022年シーズンは1月20日からスタートするラリー・モンテカルロ(1月20日〜23日)を皮切りに全13戦を予定し、最終戦はラリー・ジャパン(11月10日〜13日)だ。

マシンがハイブリッド車となり、オジェはフル参戦を終了し、トヨタからスポット参戦となる。オジェが出場しないラリーを担うのはエサペッカ・ラッピ。すでに新ルールに準拠したマシン開発は進んでおり、その正式デビューは年明け早々になるだろう。

また、いよいよ常に上位争いする力をつけてきた勝田貴元の活躍、そして初優勝にも期待したい。たった2カ月、しかしながら2カ月後が本当に待ち遠しい!<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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