加賀まりこ、18年に及ぶ事実婚「彼のことがずっと好きだった」。自閉症の息子に伝えたい「ありがとう」
17歳のときにスカウトされて女優デビューし、小悪魔的なルックスでアイドル的人気を博した加賀まりこさん。
20歳で一時休業して単身フランス・パリへ。半年後に劇団四季の舞台『オンディーヌ』で復帰し、本格的に女優として活動を再開。27歳のときには立木義浩さん撮影のヌード写真集『私生活』を発売。また、“未婚の母”として女児を出産するがわずか7時間後に亡くなるという悲劇に見舞われながらも、常に前を向き第一線で活躍。
キネマ旬報助演女優賞、日本アカデミー賞優秀助演女優賞など多くの賞を受賞し、11月12日(金)には主演映画『梅切らぬバカ』(和島香太郎監督)が公開される。
◆地下鉄で女子高生に囲まれて
事務所に所属せず、マネジャーや付き人も付けず、仕事もすべて自分自身で決めてきたという加賀さん。2005年から出演したドラマ『花より男子』シリーズ(TBS)で松本潤さん扮する道明寺司の母・楓役を演じて若い世代からも注目を集めることに。
「反響がすごくてビックリした。漫画なんて普段は読まないから知らなかったし。でも、放送がはじまってから私が地下鉄に乗っていたら高校生に囲まれちゃってね。普通そんなことはないから、『なーに?あなたたちどうしたの?』って聞いたら、『道明寺のお母さんが地下鉄に乗っている!』って(笑)。そりゃあそうよね。『ああ、そういうことか』って」
-『花より男子』に出演することにされたのは?-
「あれもお願いされてよ。私は『イヤよ。こんな何を考えているかわからない女はやりたくない』って言ったの。そのときちょうど彼(パートナー)が制作部長という立場だったから、『悪いけどあなた断わっておいて。筋違いかもしれないけど』って言って。
そうしたら担当のプロデューサーと演出家が夜遅くに家にいらして、『加賀さんに今降りられたらこの話がすべて流れます』みたいな大げさなことを言われて。『なんで?』って(笑)。そんな重要なパートでもないと思っているからね。
でも、そういうお2人に頭を下げられて、結構イヤイヤながらやったんだけど、どうせやるなら億万長者なんだから宝石とか本物を付けようと思って。あのとき身につけていたものを全部足したら1億円とかいうときがあったのね。そのときはもちろんガードマンが付くんだけど、TBSがじゃなくてそれを貸してくれる宝石店がつけるの(笑)。
でも、今でもDVDが売れていてまだ入金があるの。月に1回だか忘れちゃったけど、『何の入金?』って思うと『花より男子』って書いてあるの。あれに出ている出演者ってものすごい数がいるわけじゃない? 仮にひとり1円ずつだとしてもそれで何万円か入っているということはすごいことよね、ビックリしちゃう(笑)」
-すごいですね。映画版では『オンディーヌ』の相手役だった北大路欣也さんと共演されて-
「そう。久しぶりにね。おもしろかったわ」
2017年に『やすらぎの郷』、2019年~2020年には『やすらぎの刻~道』(ともにテレビ朝日系)に出演。石坂浩二さん、浅丘ルリ子さんとの共演が話題に。
「年齢に応じていろんな役がいただけていいよね」
-加賀さんが演じた水谷マヤは華やかで元気で-
「元気なのはほかにいないからじゃない?(笑)。倉本(聰)さんは『まりこ、頑張って全部しゃべってくれよ』っていう感じ。セリフが多くて大変だったわ」
-ストーリーの流れというか、ト書きの部分も担(にな)っている感じでしたね-
「本当にそう」
-元恋人の加賀さんと石坂さん、そして元ご夫婦の浅丘さんと石坂さんが共演ということも話題になりました-
「そうね。いろいろ言われたりしたけど3人ともそういうことは全然無意識だけどね。家族みたいな感じよ」
※映画『梅切らぬバカ』
2021年11月12日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:和島香太郎
出演:加賀まりこ 塚地武雅 渡辺いっけい 森口瑤子 斎藤汰鷹 林家正蔵 高島礼子ほか
◆事実婚18年のパートナーと自閉症の息子
「恋多き女」としても知られている加賀さんは、30歳のときにテレビのプロデューサーと結婚するが5年後に離婚。59歳のときから現在のパートナーである6歳年下の演出家男性と事実婚を続けている。
「彼は長年の麻雀仲間だったの。若くして離婚した彼には自閉症の息子がいて、お母さんに手伝ってもらいながら育てていたし、仕事もしていたから恋愛どころじゃなかったと思う。だから、私が彼を好きになってから振り向いてもらうまで5年かかった。私もその間ほかに好きな人もできなかったし、彼のことがずっと好きだったから今は時間をかけてよかったと思っているわ」
11月12日(金)には主演映画『梅切らぬバカ』が公開。この映画は、母親と自閉症を抱える息子が社会の中で生きていくさまを温かく誠実に描く人間ドラマ。加賀さんは自閉症の息子・忠男(忠さん)と2人暮らしの母・珠子役。
毎朝決まった時間に起床して朝食をとり、決まった時間に家を出る毎日を送る2人だったが、息子が50歳の誕生日を迎えたとき、将来に不安を感じた珠子はある決断をする…という展開。
「この映画の話が来たのは2020年の夏で、若い監督が映画を撮るというのに地に足のついたものを撮る、チャラチャラしたものを撮らないということが気にいったの。それで、実際に会ってみたら『背が高くてカッコいいオトコじゃん』って(笑)」
-監督は脚本を書きなおす度に加賀さんにチェックしていただいたとか-
「書きなおすと言ってもそんなにすごくなおすわけじゃないけど、全編にもうちょっと息子にありがとう的なことを感じるようなシーンを作ってと言ったの。パートナーの息子も自閉症で私の子どもでもあるわけだから、自閉症ということには私も慣れているしね。
そういう意味では塚地(武雅)さんが本当にすてきだった。休み時間とかも、『ちゃんとご飯食べてる?』とかそういう言葉もかけづらいくらい役に入っていて、日常の役者同士の会話みたいなのも全然無しで本当に親子でいられたからね、撮影中。それもすごく幸せだった」
-「ありがとう」と伝えるシーンは本当にすてきなシーンでした-
「そうね。でも、どうしても息子に『ありがとう』っていう感謝の気持ちは伝えたかったのよね。絶対『生まれてきてくれてありがとう』で、私は障がいは個性だと思うの。そういう受け取り方をしてほしい、一般の人たちに。
息子を連れて一緒に歩いたりするとわかるんだけど、やっぱりちょっと大きな声を出したりするときがあるの。そうするとみんなギョッとしたように振り向いたりするじゃない?
そうじゃなくて、みんな微笑んでほしいなあって。この映画を見て忠さんのことを好きになって欲しいなって思う。彼らは自分から何かをすることはないし、もっと微笑んでくれたらいいなあっていつも思うのよね」
-この作品を見ると、自分たちからではなく何かされたことによって大きな声を出すというのがわかりますね。わからないから誤解されている部分というのもあるでしょうね-
「そうね。ただ、『今日の帰りはタクシーに乗って帰ろうね』って先に言っちゃったりすると、もうタクシーのことが気になってずっと『タクシー、タクシー』って言っているとか、そういうところはこだわりが強いところがあるからね。
たとえば、指に巻く絆創膏が気に入ったらずっと全部の指に絆創膏をして、私が取ろうとすると怒るっていうか、『イヤ』って言う。だから絆創膏を全部あげて、『飽きるまで遊んで』って感じ」
-この作品に出演されて思ったこと、気づいたことはありますか-
「先のことを考えたらやっぱりつらくなるだけですよ。どうしたって、私たちの方が先に死んじゃうんだし。それもあって息子の場合は預かってくれるところを見つけましたけど」
-完成した映画をご覧になっていかがでした?-
「あまりにも淡々としすぎていて大丈夫かなって。私たちは撮っている本人だからね。試写のときに監督の叔父さんである北の富士さんと一緒だったんだけど、北の富士さんもどう受け取っていいんだか(笑)。甥っ子さんの監督作品でしょう?」
-北の富士さんとはお知り合いだったのに、監督が甥御さんということは?-
「全然知らなかった。撮影が終わった次の日に北の富士さんから電話があって、『映画撮っていたんでしょう?』って言うから『何で知っているの?』って言ったら、『俺の甥っ子なんだよ』って(笑)。『早く言えよ』ってことよね。そうすればもうちょっとかわいがり方が違っていたのにって(笑)。ビックリよ」
茶目っ気たっぷりの笑顔がとてもチャーミング。今も週に2回はピラティスに通っているという。「いまの自分が一番好き」と言い切るところがカッコいい!(津島令子)
ヘアメイク:野村博史、福島久美子
スタイリスト:飯田聡子
ニット、パンツ/ともにKEITA MARUYAMA
ブーツ/H.A.K