遠藤雄弥、15kg減量して挑んだ小野田少尉役。新たな代表作へ「キャリアの中でもう一度あるかないかのこと」
中学生のときに映画『ジュブナイル』で主人公の子役時代を演じて注目を集め、その後多くの映画・ドラマ・舞台に出演している遠藤雄弥さん。
順調な俳優人生を歩んでいたが、25歳のときに「このままではいずれ役者としてダメになってしまう」と不安になり自分自身と向き合おうと発起。
一時は仕事がまったくなくなったというが、その間に映画監督のワークショップに参加したり、仕事をしてみたい監督の名前をノートに書き留めながら自分自身を見つめ直すうちに、松田優作さんの主演映画『野獣死すべし』(村川透監督)を見たことで俳優の仕事をあらためてスタートさせる決意をしたという。
◆自ら映画のオーディションに
親身になって応援してくれたマネジャーの支えもあり、俳優として生きていく決意を固めた遠藤さんは、自ら営業に出かけたこともあったという。
「『クローズEXPLODE(エクスプロード)』(豊田利晃監督)がそうなんですけど、当時の事務所にも話して結局2、3分だけお話でき、『クローズのオーディションをやるからオーディションには絶対呼んでやる。あとは自分で勝ち取れ』ってオーディションに呼んでいただきました」
-オーディションで出演を勝ち取って-
「豊田監督の映画で育った世代なので、ご一緒にさせていただけるなんて夢のような話でした。しかも『クローズ』でというのがすごいうれしかったです。
あと、柳楽優弥さんと共演させていただいたことが大きかったです。柳楽さんは『誰も知らない』(是枝裕和監督)であれだけ注目されて紆余曲折(うよきょくせつ)いろいろあったと思いますけど、本当に力があって真摯に作品、役と向き合っている俳優なので感慨深かったです。
子役からずっと頑張っていらっしゃる俳優たちとは何か仲間意識というか、頑張ってもらいたいなあという思いはありますね。『シャカリキ!』とかテレビドラマをやっていたときとの大きな違いは責任感が出ました。『これが最後だ』と思ってやるようになったので、そこは鍛えられたかなと思います」
2017年にはドラマ『森村誠一の棟居刑事10 棟居刑事の凶縁』(テレビ朝日系)で、『野獣死すべし』の村川透監督とはじめて仕事をすることに。
「ご一緒するのははじめてでしたけど、村川監督の作品に一度救われているので村川組に参加できたということは本当に感慨深かったです」
-実際にお仕事をされてみていかがでした?-
「めちゃくちゃ怒られました(笑)。衣装合わせのときに、『僕は野獣死すべしに救われたんです』と言ったらすごく喜んでくださったんですけど、ある種俳優にすごくゆだねてくださるんですよね。衣装合わせも『お前は何を着たいの?この中で』っていきなり言われたので、僕が『えっ?』って言ったら、『いや、えっじゃないんだよ。お前がやるんだろ?お前が決めるんだ』という感じで。
でも、すごい勉強になりました。怒られてピリついた緊張感のなかで撮られる方なので、『みんなこの緊張感のなかでやられていたんだなあ』って。なかなか体験できない空気感がありましたね。貴重な体験をさせていただきました」
-ピリピリした緊張感のなかで切磋琢磨(せっさたくま)してというのも作品を作る上ではある意味必要だと思いますけど、今はなかなか難しいですね-
「そうですね。やっぱり(松田)優作さんとかはあのスタイルと対等にというか、食うくらいの勢いでやられていたのだろうなと思うと、『やっぱり尋常じゃないなあ、すごいなあ』って思います」
※映画『ONODA 一万夜を越えて』
2021年10月8日(金)より全国公開
配給:エレファントハウス
監督:アルチュール・アラリ
出演:遠藤雄弥 津田寛治 仲野太賀 松浦祐也 千葉哲也 カトウシンスケ 井之脇海 足立智充 吉岡睦雄 伊島空 森岡龍 諏訪敦彦 嶋田久作 イッセー尾形
◆約15キロ減量して実在の少尉役に挑戦
1945年の終戦を知らされないまま約30年間、フィリピン・ルバング島で(日本軍の)秘密作戦の任務を遂行し続けた実在の人物・小野田寛郎さん。壮絶で孤独な日々と戦った小野田さんを題材にした映画『ONODA 一万夜を越えて』(アルチュール・アラリ監督)で遠藤さんは小野田さんの青年期を演じ、成年期を演じた津田寛治さんとW主演をつとめている。
-オーディションはいつだったのですか?-
「2018年です。当時のマネジャーから、『フランスの映画監督が小野田さんをモチーフにした映画を撮るということで役者を探しているからオーディションを受けてみる?』と言われて。フランス人のクリエイターと仕事ができる機会なんてないので、そこにまず純粋に興味があって『受けます』って(笑)」
-小野田さんのことはご存じでした?-
「いいえ、ほぼ知らなかったです。シナリオがある程度出来上がっていたので、それを読んできてくれと言われて読ませていただきました。そこではじめて小野田さんのことを知るというか、横井庄一さんとごっちゃになっているくらいの知識だったんです。だからシナリオを読んだときに衝撃が強くて、実話がモチーフだということにすごい驚きました」
-オーディションはどんな感じでした?-
「2018年の2月か3月、アルチュール監督が来日しているときに事務所の会議室に来てくださって。そこで面接というか、『このシーンとこのシーンをやってください』と言われてお芝居を見ていただいたんですけどすごかったです。
映画制作は言葉も文化も超えるんだなというのをそのオーディションのときに感じて。もちろん通訳を介さなくちゃいけないんですけど、そのフィーリングのすごく大事なところのつながりというのは言葉が通じなくてもあるんだなというか、信頼ですよね。
オーディションの時点で監督の芝居を見る集中力というか、すごい深いところまで見てくださる感じが心地よくて。ぜひこの監督と映画を作りたいと本当に思いました」
-自信はありました?-
「役者がやりやすいように引き出してくださるのがすごく上手だし、すべてを受け入れてくれる懐の深さもあるんですよね、アルチュール監督は。すごくその時間が楽しかったんですよ。監督もすごく楽しんで僕に対して演出をしてくださったという手応えはたしかにあったんですけど、皆さんにもそうなのかなというのも感じるから(笑)。
でも、一緒にやりたいという感触はお互いにあった気がして、それを信じたかったですね。決まるまでは1か月くらいあったんですけど、その間は本当にドキドキしながら待っていたので決まったと聞いたときには本当にうれしかったです」
-成人してからの小野田さんを演じたのは津田寛治さん。『シャカリキ!』でも共演されていますね-
「そうなんですよ(笑)。津田さんが先生役で。『シャカリキ!』ではじめて共演させていただいたんですけど、それからコンスタントに細かい共演が何度かあるのでじつはとても長いスパンでご縁があるというか。
成人してからを演じるのが津田さんだと聞いて『なるほど』と思いました。ちょっとおこがましいですけど、ディテールも津田さんと僕ってそんなに離れてはいないかなという感じがしていて。出来上がった作品を見たときに、実際にこれは監督の手腕もあるんですけど本当にひとりの小野田寛郎という人物像に見えるというか、なるほどなあと思いました」
-たしかにまったく違和感がないです-
「そうですよね。津田さんも『違和感ないなあ』ってお話しされていました(笑)」
◆カンヌで15分間のスタンディングオベーション
撮影が行われたのは2018年の12月から2019年の3月までの4か月間。カンボジアのカンポットで行われたという。
「最初はすごく構えていたんですけど、僕らが滞在していたカンポットという街は観光地の側面もあって。とても過ごしやすい街だったのでリラックスした雰囲気のなかで作品に集中できました。レストランも洋食、中華、カンボジア料理などいろいろあって。
みんな減量しなくちゃいけなかったのでレストランに食事に行く機会なんてないだろうと思っていましたが、サラダだけ食べに行ったりしていました。撮影中も週に2日は休みもあったのでゆっくりからだを休めることができましたし、あとはひたすらシナリオを読んでいました」
-撮影は順調でした?-
「そうですね。順撮りに近い形での撮影でした。ジャングルのシーンは、じつは国が管理している国立公園だったのですが、それでも結構ガチなジャングルでした(笑)。いろいろな意味でちょうどいいバランスのなかでやらせていただいたという感じがあります」
-遠藤さんは減量しすぎて大変だったとか-
「そうなんです。最終的には11キロくらいの減量でしたけど、クランクイン1週間くらい前にカンボジアに入ったときは約15キロ絞った状態だったので、メイクや衣装のテストをしたときに監督から『遠藤さん、ちょっと痩せすぎちゃったから少し増やせますか』って言われて(笑)。
それで食パンとピーナツバター、チョコレートなどをいっぱい入れた袋を渡されたのでシナリオを見ながらずっと食べていました(笑)」
-もともと細い体型だったと思いますが、15キロの減量はどのように?-
「2か月くらい毎日食事は一食で、お昼にざるそばかサラダを食べる生活でした。たとえばボクサーの役で減量するとしたら走ったりして運動で発散できるんですけど、落とすだけだと運動もしないしひたすら体重を落としてシナリオを読んでという感じなので沸々しちゃうんですよね。だからそういう意味では結構きつかったです」
-役作りはどのように?-
「クランクインまで半年ぐらいあったのでシナリオを読み込んで、小野田さんに関する文献も読みましたけど、それはあくまでもひとつの情報という感じでそれにとらわれすぎないようにしました。撮影現場では信頼の絆というのが僕だけじゃなくて、役者と監督の中には本当に強く繋がりがあったんです。それはすごく貴重な経験でした」
-2021年のカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でオープニング上映されて15分ものスタンディングオベーションが話題になりましたね-
「はい。映画に敬意を払ってくださるお客さんが多い環境のなかでの15分ものスタンディングオベーションは本当にうれしかったです」
-これから先もいろいろな作品に出会うと思いますが、代表作の一本になりましたね-
「そうですね。『ジュブナイル』しかり、この齢(よわい)にしてこういう作品に出会わせていただけたというのは僕のキャリアの中でももう一度あるかないかのことだと思います。本当に豊かなキャスト陣とクリエイターに出会えた大切な作品になったなと思うのでありがたいです」
-間もなく公開ですが、今の思いは?-
「監督は実際の小野田寛郎さんを忠実に描いてその史実を伝記映画として伝えるより、小野田さんというモチーフから着想したドラマ、この出来事のなかに人間の豊かさだったりとか、人としてのあり方というのが詰まっているんだということを描きたかったのだと思うんです。
そこにこの映画のすべてが集約されている気がするというか、そこを感じとっていただいて何か心に響いていただけたらすごく僕的には幸いだなと思います」
まっすぐな視線、真摯な姿勢がすがすがしい。「これからも毎回これが最後かもしれないと思いながら、いただける役に全力で取り組んで表現者として活動していきたい」と話す遠藤さんの新たなステージに期待している。(津島令子)