アニメ『ドラえもん』小倉宏文監督インタビュー「小さい頃はよく、ドラえもんのことで揉めました」
今日9月3日は、ドラえもんの誕生日。今年2021年から計算すると91年後となる2112年9月3日、ドラえもんは誕生しました。
誕生日の翌日となる9月4日(土)、テレビ朝日では「ドラ誕祭り」と銘打って盛大にお祝い。午後5時からのレギュラー枠では『ドラ誕2021直前スペシャル』、そして午後6時56分からは特別番組『ドラえもん誕生日スペシャル』を放送します。
“作品の”誕生から50年以上経っても変わらず愛され親しまれるドラえもん。
今回、恒例となっている「誕生日スペシャル」の放送を前に、アニメ『ドラえもん』で現在監督を務めている小倉宏文監督にインタビューを実施しました。
2010年に自身初の監督作品として『黒執事II』を手掛け、その後『エリアの騎士』、『新あたしンち』、『はたらく細胞!!』など数々の話題作を手掛けてきた小倉監督。
アニメ『ドラえもん』は、2015年よりコンテ・演出として参加、2020年に監督に就任しています。
そんな小倉監督は、幼少期は『ドラえもん』にどのように親しんできたのでしょうか?
小倉監督:「僕はいまアラフィフなので、『ドラえもん』とはもろに同世代なんですよね。もう本当に一緒に歩んできたって言っていい世代で、現在に至るまで放送されているテレビ朝日系列のテレビアニメもスタートから見ていました。で、学校では“てんコミ(てんとう虫コミックス)”の『ドラえもん』の話をしていた感じです。
当時は藤子・F・不二雄先生が現役でバリバリ活動されていた頃なので、『ドラえもん』に限らず藤子先生の作品にはたくさん触れましたね。すごく影響を受けて、当時は幼なじみと学校帰りによく『ドラえもん』について議論もしました(笑)」
――議論ですか?
小倉監督:「はい(笑)。『あの道具は、何かこういう理由でつくられてるはずだ!』とか、『あの道具はたぶん、こういう理屈で動いてるんだ!』とかね。小学生っぽい議論ですよ。
“ルームスイマー”という、水が塊になって部屋でもどこでも自由に泳げるひみつ道具があるんですけど、『あれは何で泳げるんだ?』とか『こういう理屈なんじゃないか?』とか、ランドセルを道端にほっぽり出して議論して、いつの間にか揉めたりもしていました(笑)」
――それはなんだか素敵な光景ですね!
小倉監督:「そうですね(笑)。あ、そういえば最近、そのよく議論していた幼なじみから久しぶりに突然メッセージが届いたんですよ。25年ぶりくらいかな。驚いて開いてみたら、『ドラえもんを見てたら、監督のところにお前の名前があった!』って。
僕は岡山県の真星という小さな田舎の集落出身なんですけど、『お前は真星の英雄だ!』なんて言ってくれました(笑)。その幼なじみには、借りたコミックスの1巻を少し傷つけてしまって新しいのを買わされたことなんかもありましたね(笑)。
あと子どもの頃で思い出すのは、1980年に公開された映画『ドラえもん のび太の恐竜』を見に行ったときのこと。当時は現在のように映画館が全席予約制じゃなくて、いざ見に行った日は立ち見も含めて全部満席で、結局見られなかったんです。
田舎に住んでたのでそうそうまた行けないとあって、もう泣き喚いちゃって…。だから、せめてってことでドラえもんのぬいぐるみを買ってもらって帰ったんですけど、僕そのぬいぐるみを40年以上経った今でもまだ持ってるんですよ。捨てられません。古いものだしだいぶ縫ったので、もう似ても似つかない感じになってしまってますけどね(笑)」
◆“日本一有名なコンテンツ”の監督として意識していること
――それだけ思い出もあって、小さい頃からずっと『ドラえもん』にはどっぷりハマってきたんですね。監督になったのも、そのような思い入れから?
小倉監督:「本当に一緒に歩んできているなっていうのはありますけど、まあ当たり前のこととして、みんな大人になるときには一度離れるじゃないですか。それは自分自身もそうなんですけど、アニメ業界に入って仕事をしているなかで、あるときかなり偶然が重なって、『ドラえもん』の現場に“潜り込ませて”もらえるようになったんです。それが2014年から2015年くらいですね。
そこからコンテや演出をやらせてもらって、2020年にお声掛けいただいて監督になれたという経緯です」
――監督に就任したときは、どんな気持ちでしたか? プレッシャーはありましたか?
小倉監督:「演出から段階を踏んでいて、いわゆる大抜擢というような感じではなかったので、『知らない作品に来てしまった…。作品で何を表現しよう…』というような恐怖やプレッシャーはありませんでした。
ただ、やはり日本一有名な歴史あるコンテンツなので、それを背負うということで襟を正してやらなければという気持ちにはなりました。
どんな作品をつくるかということで言えば、それはもう先人のみなさんがイヤというほど積み上げていらっしゃるので、こっちとして何か新しくこうしなくてはという感じではなかったんですけど、やっぱりそこを受け継ぐ、背負うことのプレッシャーはありますよね。
行動も変わります。たとえば、短パンでコンビニ行っちゃダメだよな、とか(笑)。アニメ『ドラえもん』の監督をするからには、他の作品にはないような、向き合うときのスタンスの特殊性は当然あります」
――そのほかに、何か監督として意識していることはありますか?
小倉監督:「多くの人がかかわり、また長く続いている作品だからこそ、複雑なことが起こる場合もあります。自分やまわりのスタッフの一存では決められないようなことですね。そのようなときに、スタッフたちが道に迷わないようにしないといけない。自分が常に先導の役割というものをちゃんとやらなければならないということは意識しています」
――作品づくりにおいては、いかがですか?
小倉監督:「“バリエーション”については、気をつけています。『なんかこの話、前に見たような気がするな…』とは思われたくないなと。だから変わったことをしている場合もありますし、一方で王道、もう徹底的に王道をいくっていうパターンもあります。
そもそも、『ドラえもん』という原作自体がとても振り幅が大きい作品なんですよね。その原作の振り幅の大きさにアニメが劣ってしまうのはまずいだろうと。だから、なんでも受け入れていく度量が必要だなと感じています」
◆原作からあらためて気づいたこと、声優陣への信頼
――原作の話が出ましたが、あらためて原作に向き合うなかで、何か発見はありましたか?
小倉監督:「ありますね。我々は原作からアニメ化する際、原作を“バラしてみる”作業をします。それは当然、ふつうの人はしないわけで、その体験の中では否が応でも原作の深いところに触れたり新しい発見をしたりっていうことはあるものです。
短い話なのに、『ああ、ここに至る伏線がこんなところに張られてるのか』とか、むかし読んでいたときには気づかなかったことにも気づく。あとは、意外なところだと、キャラクターの“目線”ですね」
――目線ですか?
小倉監督:「はい。どの作品のこの目線というわけではないんですけど、たまに、どうしてこのキャラクターはこっちを見ていたんだろう?と思うことがあるんですよ。それでよくよく見てみると、『あ、そういう意識があってこっちを見てるのか』って気づいたりするんです。
何も考えずにパーっと読んでると、ふつうに喋ってるんだから向き合って喋ればいいのにって思う部分なんですけど、ふとちょっと違うところを見ている場面をよくよく読むと、そういうのもやっぱり意味があって仕掛けてるんだってことがわかるんですよね。
アニメの映像として紡いでいくなかでそういうことが分かるのは、我々の仕事ならではの体験だと思います」
そして最後、小倉監督は、2005年よりアニメ『ドラえもん』で声優を務めている水田わさびさん(CV:ドラえもん)、大原めぐみさん(CV:のび太)、かかずゆみさん(CV:しずか)、木村昴さん(CV:ジャイアン)、関智一さん(CV:スネ夫)への強い“信頼”を語りました。
小倉監督:「2015年にこの作品に加えていただいたときに、その時点で現在の座組で10年ほど経っていて、もう各々の関係性のようなものが既に出来上がっていました。それを今もそのまま活かさせてもらっています。
漫画の『ドラえもん』はもちろんそれが原作としてありますが、アニメならではの関係性っていうのは、やっぱり役者さんがつくってくれるんですよね。それを大事にしていきたい。そこで何か、たとえば『スネ夫とジャイアン、もっと仲悪くしてください』ということでもないと思うんです(笑)。
それに、こちらが想定していなくても、(シーンを出来上がりまで)持っていっていただいちゃっているところも結構あります。『ここ持つかな…キツいかな…』と思っていても、わりかしどうにかしていただけてしまうという。こちらもそれに甘えてしまってる部分があります。普通にありますからね、『スネ夫ならきっと大丈夫だよ!』って言ってるときが(笑)」
9月4日(土)には、「ドラ誕祭り」と銘打たれたもと、1日に2回『ドラえもん』が放送されます。
水田わさびさん、大原めぐみさん、かかずゆみさん、木村昴さん、関智一さんらに加え、水瀬いのりさん、前野智昭さん、小松未可子さん、森川智之さんら豪華ゲスト声優陣が登場して“謎のドラヤキ星人”を演じる長編冒険ストーリー「どら焼きが消えた日」は必見です!
※番組情報:『ドラえもん誕生日スペシャル』
2021年9月4日(土)午後5:00~午後5:30、テレビ朝日系24局
『ドラ誕2021直前スペシャル』
2021年9月4日(土)午後6:56~午後7:54、テレビ朝日系24局
『ドラえもん誕生日スペシャル』