内村航平「5年間妥協したことない」崖っぷちから五輪出場をたぐり寄せた“諦めない強さ”
4大会連続となる五輪代表に内定した内村航平(32歳)。
2012年のロンドン、2016年のリオデジャネイロと五輪2連覇中の「個人総合」から種目別の「鉄棒」一本に専念し、熾烈な代表争いを勝ち抜いた。
6月14日放送の『報道ステーション』では、内村本人に松岡修造がインタビュー。代表入りまでの苦難の道のりを振り返りながら、東京五輪に懸ける想いを聞いた。
◆「これじゃ五輪に行けないな」
松岡:「オリンピック4度目おめでとうございます」
内村:「ありがとうございます」
松岡:「僕が見てきたここ数年の内村さんは、ケガも多く、僕の知っている航平さんじゃない。キングじゃない。すみません。自分ではどのように捉えていらっしゃいましたか?」
内村:「つらかったですね。でも経験しなきゃいけなかったことだと思います。修造さんの言う“キングじゃない僕”を、経験しなきゃいけなかった」
リオ五輪の翌年の「世界体操2017」で、内村は競技中に左足じん帯を痛め、体操人生初の途中棄権。その後も、慢性的な肩の痛みなどがあり、12年ぶりに代表落選した。
この挫折こそが、内村が言う「経験しなきゃいけなかったこと」だった。
内村:「原点に帰れたということですよね。1回見つめ直して『自分は体操が好きなんだ』と。好きならオリンピックを諦められないので、オリンピックに行くためにはどうしたらいいのかと。やはり『6種目やってこその体操』とずっと言い続けてきて、それが自分で自分の首を絞めていたので、『これじゃ五輪に行けないな』と。
もう一度輝くためには、重大な選択(=鉄棒に専念)をしないといけないと思いました。リオ五輪の後、けっこうやり切っていたので、『個人総合はムリだな』って正直思っていたんですよ」
松岡:「そうなんですか?」
内村:「もうやりたくないと思っていて。あれ以上の戦いは個人総合ではたぶんできないだろうと思っていました」
松岡:「そんなこと言わなかったじゃないですか!」
内村:「言わないですよ、もちろん。僕、本音はちゃんと隠すタイプなので(笑)」
松岡:「でも、今言いました」
内村:「あとになって言うタイプなんです(笑)」
◆「5年間妥協したことない」
こうして個人総合から鉄棒1種目に絞り、東京五輪出場にこだわった内村。この決断が功を奏した。
体の負担は減り、さらに難しい技にも挑戦。モチベーションも上がり、徐々に輝きを取り戻す。代表選考会で行った5回の演技は、すべて世界体操金メダルの得点を超えるスコア。3大会連続となる金メダルも視野に入れているという。
松岡:「ケガもありました。種目もひとつに絞っています。1年前だったらたぶん出られていない。そう考えたら、出られたことがすごいと思うんです」
内村:「いろんなことが運だと思います。東京五輪が延期したことも、鉄棒に絞ったことも、絞って五輪に行けるようになったことも。(僅差になった)代表選考の最後の勝ち取り方も、運ですよね」
松岡:「それは自分でつかみにいくものなんですか?」
内村:「つかみにいくものというか、常に大きな目標に対して諦めないで日々を過ごしているからじゃないですか。この5年間、妥協したことないと思うので」
◆東京五輪での役割は「大長老」
こうしてつかんだ4度目の五輪代表。今、どんな思いで臨もうとしているのか?これまで出場してきた3大会と比べてもらった。
松岡:「北京オリンピックの時はどんな役割でした?」
内村:「若さ、勢い、ですね。若い勢い」
松岡:「ロンドンのときはどうですか?」
内村:「このときはもう“柱”ですよね」
松岡:「そしてリオは?」
内村:「リオは、柱が“大黒柱”になりました」
松岡:「絶対崩れないってやつですか?」
内村:「はい。崩れないし、なくてはならないみたいな」
松岡:「じゃあ最後の東京です。東京オリンピックの役割は?」
内村:「本当になんでも知っている“大長老”みたいな感じですかね。役割が結構あるんですよ。個人枠として出るんですけど、団体チームの4人が五輪初出場なので、彼らのサポートもしていかなきゃいけない。
体操ニッポンとして考えたときに、団体の金メダル、個人総合の金メダル、種目別の複数の金メダルを目標に掲げてこの5年間やってきて、五輪4大会出ている選手はいないので、やはり現役でやっている僕が言うのは一番効くと思っています。世界チャンピオンで五輪チャンピオンですから」
◆五輪では「言葉にできない何かが生まれる」
そんな東京五輪について、内村は2020年に開催された国際大会の閉会式で、「『できない』ではなく『どうやったらできるか』を考えて、どうにかできる方向に変えてほしい」と訴えていた。
今、彼はオリンピックに対して何を思うのだろうか?
内村:「(東京オリンピック開催について)非常に厳しい情勢であるのは間違いないです。信じてやる以外ないです。やっぱり僕たちがオリンピックでやるパフォーマンスを見てもらうと、何かを感じるはずなんですよ。言葉で表せない何かがあると思うんですよ、オリンピックをやることで。
日本がよくなるとかはもちろんわからないですけど、言葉にできない何かが生まれるので、僕たちはそれを生きがいにやっているところもある。チーム日本として勢いづけられたらいいかなと思います」
※番組情報:『報道ステーション』
毎週月曜〜金曜 午後9:54〜午後11:10、テレビ朝日系24局