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梅垣義明、伝説の“豆飛ばし芸”誕生の裏側。最初は「そんなことをするため東京に来たわけではない」

1984年、『巨泉×前武 ゲバゲバ90分!』(日本テレビ系)や『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)を手がけた放送作家、喰始(たべ・はじめ)さんが創設した劇団「WAHAHA本舗」のオーディションに合格し、劇団員となった梅垣義明さん。

生活は一変し、稽古に次ぐ稽古とアルバイトで多忙な日々がはじまったという。

◆「女装してシャンソンでも歌ってみたら?」

「WAHAHA本舗」の稽古は台本があるわけではなく、セリフ・ネタは自分で考えないといけない。喰さんからはダメ出しに次ぐダメ出しの連続だったという。

「僕が一番、喰さんに怒られたと思うんですよね。蜷川幸雄さんは灰皿を投げることで知られていましたけど、喰さんは鼻をかんだティッシュを丸めて投げるんですよ。俺なんて何度投げられたことか。『セリフを言うときはお客さんのほうを向いて言う』、『お客さんにお尻を向けない』、『手裏剣は投げられてから刺さる。投げられる前に刺さらない』とか、初歩中の初歩が難しくてね。

でも、今考えれば柴田理恵・久本雅美・佐藤正宏は『劇団東京ヴォードヴィルショー』にいて、どうなるかわからないのにやめて劇団を作ったエネルギーはすごいなあと思いますね」

-柴田(理恵)さんがおっしゃっていましたけど、「WAHAHA本舗」を作ったときにはまだ皆さんまだ無名で、「喰始は才能があるのに、どうしようもない若手ばかり連れて行ってどうするんだと言われていた。だから売れている人間を喰が引き抜いて行ったと言われると、そうじゃないんだから腹が立つ」と-

「そうでしょうね。やっぱり昔の映画で野球ができない子どもたちを集めた『がんばれ!ベアーズ』みたいなものなので、売れている人間を連れて行ったと思われたら心外でしょうね、喰さんも」

-その後皆さん売れましたね-

「そうですね。僕が言うのもおかしいですけど、うちの演出の喰さんはその人のできるできないを見てうまく引き出すというのはやっぱりすごいと思います。

でも、最初は本当に何もできませんでしたね。大学時代、モテたくてディスコに散々通っていたし、渋谷のショーパブでアルバイトして踊っていたので踊りには自信があったんですけど、カウントで踊れない。リズムが取れない。ショックでした。でも、それほど下手だったけど踊りは好きでしたね」

1988年、劇団員になって4年目、「一人ひとりがおもしろくならなくてはならない」という喰さんのコンセプトのもと、『一人一店舗シリーズ』として個人公演を決行することに。梅垣さんは「梅ちゃんは声がいいから女装してシャンソンでも歌ってみたら?」と喰さんから提案され、シャンソンと出会ったという。

「音楽も好きだったけど、特別うまいと思ったことはなかったんです。でも、僕がちょっと歌えてこういう顔をしてガタイもでかいから、女装して美輪明宏さんみたいに歌ったらおもしろいんじゃないかと喰さんに言われて。シャンソンというより美輪さんが好きだったんですよね。美輪さんの歌に憧れて、ああいう舞台をやりたいと思ったのが最初でした」

◆初ソロライブで大失敗、鼻から豆を飛ばすことに

1988年、梅垣さんははじめてのソロライブ『梅ちゃんの青い部屋』を行った。久本さんと柴田さんが接客係、佐藤さんがギター伴奏という劇団員総出の贅沢(ぜいたく)なものだったが、出来は最低だったという。

「お客さんからおつまみとして出した落花生を投げつけられるし、アンケートには『金返せ』とか『プライドをもってやれ』とか、罵詈雑言(ばりぞうごん)が並んでいました。おもしろいネタがまったく思い浮かびませんでしたね。

それからしばらくして、喰さんから『ただ普通に女装してシャンソンを歌ってもおもしろくないから、何かネタをやりながらということにしよう。つまみとして鼻から豆を飛ばすのはどう?』って言われたんだけど、そんなことをするために東京に来たわけではないですからね。芝居をやろうと思って来たわけだから、『ちょっとなあ』って思いましたよ。

それで、『そんなもので笑いが取れたら苦労しませんよ』って言ったんですけど、『とにかく一度やってみようよ。曲は越路吹雪の「ろくでなし」』と言うからやってみたら結果は大成功。お客さんが喜んでくれるからそれでいいやと思ったし、これがきっかけで状況が変わりました。お客さんの笑いが自信になっていくんですよね」

-最初、鼻に豆を入れて歌いながら飛ばすことになったときはウケると思いました?-

「おもしろいんじゃないかなっていうのはありました。ここまで長くやるとは思いませんでしたけど。60過ぎまでやるとはね(笑)。だから、ああいうことをやっていてもワハハだからできることであって、違う劇団にいたらあんなことさせてくれないと思いますよ。

喰さんみたいな『おもしろいことは何でもやっていいよ』という親分だったからできたと思うんですよね。多分ほかの劇団にいたらこんなことはやってないでしょうね」

鼻から豆を飛ばす芸に観客は大爆笑。その笑いが自信になり、堂々としたステージになっていったという。「WAHAHA本舗」の“歌姫”として多くのシャンソンナンバーを笑いにアレンジ。そして梅垣さんは1万円という破格の料金設定の『梅ちゃんの青蜥蜴(とかげ)』を敢行することに。

「はじめての舞台も悪かったんだけど、これも喰さんのアイデアでやった『梅ちゃんの青蜥蜴』は、僕なんかのチケットが1万円ですよ。それも3日間。ちょっとしたおつまみを出して、桟敷席で。そのときに1日目がもうボロボロで、自分でもわかりますよ、おもしろくない。

多分、柴田たちも見に来ていたんだけどかける言葉がないわけ。だから楽屋に誰も来ないんですよ。だっておもしろくないのは自分でもわかっているし、見ている人もわかるわけだから。楽屋に来てくれたのは演出家の喰さんだけで、『もっと自信をもってやれ』って言われて。僕は美輪明宏さんが好きだから、『美輪さんみたいな気持ちになってやれ』と言われたのを覚えていますよ。

それで1日目が終わって、そのときは本当に死のうと思いましたよ、俺。死のうというか、もう逃げたいって思った。でも、何とか逃げずに2日目に行ったら美輪さんが見に来てくれたんですよ。ステージに出て行ったら美輪さんが客席に座っているんです。

それはちょっと緊張とうれしいのと、その日はまあまあ初日よりはよかったみたいな感じでしたけど、でも初日は本当に死のうと思いましたね。初日に死のうと思って2日目に美輪さんが来てくれて、3日目もなんとか終わったんですけど、そのときはのちのちこれはネタになるだろうなんて思わないくらいに落ち込んでいました」

-美輪さんはご覧になって何かおっしゃっていました?-

「リップサービスだと思いますけど、『楽しかったわよ』って。『また見に行くわ』って言ってくれたんですけど、そのあと1回も来ていませんからね(笑)」

-美輪さんとは2016年に舞台『毛皮のマリー』で共演されていますね-

「はい。僕は美輪さんが大好きですし、リスペクトする人ですからうれしかったです」

-初日にもう逃げ出したい、死のうと思うような状態からよくもち直しましたね-

「やっぱり自分の気持ちのなかでもっと自信をもってやろうと。人前に出る仕事というのは結構大きいじゃないですか。同じことをやってもおもしろいかおもしろくないかというのはやっぱり自分次第だと思うんですよ。だから、あのときに自分の精神のもち方で舞台は変わるんだと思いました。失敗したらまたやり直せばいいんだって」

梅垣さんは舞台だけでなく、映画『十五才 学校IV』(山田洋次監督)、ドラマ『はみだし刑事情熱系』(テレビ朝日系)、『麒麟がくる』(NHK)など映画・ドラマにも多数出演。美声を活かし、アニメーション映画『東京ゴッドファーザーズ』ではメインキャストの声優をつとめ、CMのナレーションでも知られるようになっていく。2006年には『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演し、豆ではなく硬貨を鼻の穴に入れることに。

「スタジオに入ったらテーブルの上に1円、5円、10円、50円、100円玉が置いてあるから『おかしいな』と思ったんですよ。それで(黒柳)徹子さんが『あなたは鼻にモノを入れるプロだから小銭を入れてみてくださる?』って言って。硬貨を鼻に入れたことなんてないけど、もうやるしかないじゃないですか。しょうがないからやりましたよ。

そうしたら一応全部入ったんですけど、50円玉だけが取れなくなっちゃって。そのままトークを続けることになったんですけど、話すたびにヒューヒュー音がして大変でした。番組収録のあとで取れましたけどね」

鼻から豆を飛ばすほかにも、『川の流れのように』を歌いながら股に噴霧器を装着して大量の水を客席に撒(ま)いたり、男性客の顔にラップを巻いてキスをしたり…ユニークな芸を多数もつ梅垣さん。

次回後編では、「WAHAHA本舗」について、4年ぶりとなる全体公演『王と花魁』、コロナ禍での日々、配信でのショーも紹介。(津島令子)

※舞台『イキヌクキセキ 十年目の願い』
2021年7月2日(金)~11日(日)KAAT神奈川芸術劇場
2021年7月16日(金)~18日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
出演:屋良朝幸 浜中文一 松本明子 松下優也 ヒデ(ペナルティ) 梅垣義明 安寿ミラ 松平健
東日本大震災から10年。はたせなかった幻の卒業式…。故郷を離れた人、地元に残った人、それぞれの見えなかった運命の糸が、一つひとつ繋がりはじめる…。

※WAHAHA本舗全体公演『王と花魁』
2021年10月28日(木)~31日(日)新宿文化センター 大ホール
構成・演出:喰始
出演:柴田理恵 久本雅美 佐藤正宏 梅垣義明 すずまさ 大久保ノブオ
2020年上演予定で延期になった「WAHAHA本舗」4年ぶりの全体公演。“和”をテーマに、枠にとらわれないコラボレーションや、バカバカしくもエレガントな“WAHAHAワールド”が…。

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