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梅垣義明、WAHAHA本舗に合格した理由は“顔”。学生時代、ファーストキスは「寝ている男友達に…」

派手なメイクの女装姿で『ろくでなし』を歌いながら鼻に豆を詰めて客席に飛ばす芸で知られ、久本雅美さんや柴田理恵さんとともに「WAHAHA本舗」を長きに渡って支え続けている梅垣義明さん。

『ラ・ヴィ・アン・ローズ』を歌いながら男性客の顔にラップを巻いてキスをしたり、『川の流れのように』などを歌いながら股にホースを挟み、大量の水を客席に撒(ま)くというユニークな芸も。舞台だけでなく、映画『十五才 学校IV』(山田洋次監督)、ドラマ『はみだし刑事情熱系』(テレビ朝日系)、『麒麟がくる』(NHK)など映画・ドラマにも多数出演。

2020年に新型コロナウイルス感染拡大防止のために延期となったWAHAHA本舗全体公演『王と花魁』も10月28日(木)~31日(日)に新宿文化センター大ホールで行われることが決まった梅垣義明さんにインタビュー。

◆厳しい父親のしつけで「理髪店」が恐怖

岡山県笠岡市で生まれ育った梅垣さん。理髪店を営む父親はしつけにかなり厳しかったという。

「最初は神戸でやっていたんですけど、岡山でやることになって引っ越したんです。でも、自分は神戸で散髪屋をやっていたというプライドがあるから、『神戸理容館』という看板を出していたんだけど、みんなから反発を食らって3日間でその看板を下ろして。見栄(みえ)っ張りでカッコつけしいのところがあるんですよ」

-子どもの頃はかなり厳しかったそうですね-

「おやじは職人ですからね。『職人はプライドをもって仕事をしているのだから』って、散髪してもらっているときに居眠りしたりするとガンガン殴られていました。

殴られて泣きながらの散髪がトラウマになって、散髪の椅子に座るといまだに緊張して首の後ろが熱くなる。それでも散髪が好きで月に4回は行くんだけど、おやじのことを思い出して怖いから早く店を出たい。早く出たいから頭を洗うのとヒゲそりはやめる。

おやじは『散髪をしているのに動く、飲み物を飲む、雑誌を読むとはなにごとか』というから、一切飲み物は飲まないし絶対に動かない。鏡の中の一点をジッと見て、手も動かさない。

散髪に行くために家で頭を洗っていく。それぐらい気を使わないといけないとおやじに言われていたのでそうなったんですけど、おやじの影響は大きいですね。『あいさつをきちんとしろ』、『ありがとうは3回言え』、『字がうまければバカでも賢く見える』とかいろいろ言われていました。

おやじは都会の人間でおしゃれだったんです。カッコつけしいだしね。昔の写真を見ると白いスーツを着てヤクザかチンピラみたいでしたよ(笑)。

店をやっているからというのでカラーテレビも1番早く買ったし、クーラーも早かったですよ。当時は業務用のクーラーというのがまだなくて、今でも覚えているんだけど、アメリカの車のクライスラーという車のメーカーがクーラーを作っていて、それを輸入して使っていました。

クーラーがある家なんてほかになかったから、近所の人がみんなクーラーに手をかざしてあたりにきていましたよ。父は音楽好きなのでステレオを店に置いて、エルヴィス・プレスリーやアンディ・ウィリアムスの音楽を流しながら仕事をしていました」

※梅垣義明プロフィル
1959年7月12日生まれ。岡山県出身。1984年、「WAHAHA本舗」のオーディションに合格。「WAHAHA本舗」のディーバ(歌姫)として活躍。美声を活かし、アニメーション映画『東京ゴッドファーザーズ』(今敏監督)では声優をつとめ、CMなどのナレーションも多数。映画『十五才 学校IV』(山田洋次監督)、ドラマ『はみだし刑事情熱系』(テレビ朝日系)、『その女、ジルバ』(フジテレビ系)など多くの映画・ドラマに出演。舞台『イキヌクキセキ 十年目の願い』が7月2日(金)~11日(日)、KAAT神奈川芸術劇場、16日(金)~18日(日)にCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで上演。10月28日(木)~31日(日)にはWAHAHA本舗全体公演『王と花魁』が新宿文化センター大ホールで上演される。

◆ファーストキスは寝ている男友達の唇を…

180センチ近い長身でスポーツ万能に見える梅垣さんだが、じつは大の苦手だという。

「俺はスポーツが全然ダメなんです。こういうガタイだからスポーツができるように思われるんだけど、全然ダメ。見るのはサッカーも野球も好きですけれどもね」

-9歳のときには溺れて2歳年下の弟さんに助けられたこともあったとか-

「ありました。学校の壁新聞に『兄思いの弟、溺死寸前の兄を救う』って書かれて(笑)。弟は本当に真面目な人間で、子どもの頃から中学校、高校、大学もずっと柔道をやっていて警察官になったので僕とは真逆の人間。全然タイプが違いますよね」

-子どもの頃は何になりたかったのですか-

「小学校の卒業文集に『建築家になりたい』って書いてあったんですよ。なぜかと言うと、うちは田舎だったから普通の民家はいっぱいあるんだけどビルがなかったんですよね。

だから、ビルをはじめて見たときにカッコいいと思って、それで建築家。だけど、なにせ田舎ですからね。親は自分が商売人だったから僕には会社勤めをさせたい気持ちがあったみたいですけど、それに対する反発もあって会社勤めはしないだろうなと思っていました。でも、結構おやじも厳しいことを言うんだけど、やっぱり好きなようにさせてくれたというのはありますよね」

-舞台をやりたいと思うようになったきっかけは?-

「高3のとき、先生のモノマネをしたら好きだった女の子が笑って声をかけてくれたんですよね。それでみんなを笑わせる喜びを知ったというのはあります」

-高校生の頃ガールフレンドは?-

「全然。中学、高校時代の男子なんて妄想ばかりですからね。みんなモテたいのにモテない。ある日、男友達が何人か泊まりに来たことがあって、『キスはレモンの味がする』とか言うけど、どんな感じなのかなと思って。みんな寝ちゃったからその中のひとり、岡田くんの唇にキスしてみたんですよ。誰にも気づかれなかったし、こんなものかって感じでしたけどね(笑)。

それから1週間後くらいに、岡田くんに彼女ができたんですよ。それで『俺はじめてキスした』って言ったんだけど、ひそかに『違う、お前のファーストキスの相手は俺だ』って(笑)」

◆「WAHAHA本舗」のオーディションへ

高校卒業後、梅垣さんは一年間浪人生活を送り、京都産業大学に進み、落語研究会(落研)に入る。与えられた高座名は「童貞梅三郎」だったという。

「結局、落研にいる人間はみんなハッピを着て騒ぎたいだけなんですよ。なんかチャラチャラしていて話してもおもしろくないし、当然みんなこういう世界に行くんだろうなと思っていたんだけど、3回生くらいになったらみんな髪を切って新聞を読みはじめるようになって就職しちゃうんですよね。

『なんだ、みんなは趣味だったんだ。学生のときだけなんだ』って思って、みんなけっこう割り切ってるんだなぁと思った。俺はもうこっちに来るつもりだったから、漠然と東京に行けば何とかなるだろうと思って」

-東京に行く準備とかはされていたんですか-

「バイトもしていたし、レコードとか洋服とか売ったけどそんなにお金にはなりませんでした。そのときもありがたいことに親がお金を貸してくれて、なんだかんだ怒られて文句を言われながらも助けてもらいましたね」

-一浪して大学に5年間在籍して中退して上京ですか-

「そうです。24歳で上京しました。『自分には役者が向いている。舞台が向いている。東京に行けば何とかなるだろう』という感じでした。

僕ら地方の人間は高円寺か下北沢にというのが頭にあって、あと音楽が好きだったからミュージシャンが多いのは立川、福生、こういうところに住みたいなというのはイメージだけですよね。役者を目指すなら高円寺だろうと高円寺に住むことにして、ラーメン店でアルバイトをすることに」

-住むところとアルバイトを決めて「WAHAHA本舗」を受けたのは?-

「『WAHAHA本舗』に入る前に、僕は全然芝居のことを知らなかったからいくつか芝居を見に行ったり、舞台のオーディションを受けたりしたんですけどダメで。当たり前のことなんですけど、ほかの劇団はオーディションを受けるときにオーディション料を取るんですよ。あの当時で5000円とか1万円だったと思いますけど。それが劇団の収入になりますからね。

でも、『WAHAHA本舗』だけは、うちの喰始(たべ・はじめ)の考え方で、芝居をやろうとする人間はもちろんお金がないし、劇団もお金がないのにお金を取らないんですよね。

そのときは『WAHAHA本舗』のことは知りませんでしたけど、主宰者の喰始の名前は『巨泉×前武 ゲバゲバ90分!』(日本テレビ系)や『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)で知っていたのでオーディションを受けることにしました」

-審査する側に久本雅美さんと柴田理恵さんもいたそうですね-

「そうです。オーディションのときはテーブルと椅子があって、普通は審査する人は椅子に座って見るじゃないですか。でも、柴田と久本は床に体育座りして見ていたんですよ。あとから理由を聞いたら、自分たちがオーディションに来る人の人生を決めてしまうわけだから、オーディションを受けている人と同じ目線で見ようということにしたって。

それで、柴田がお茶を出してくれたので、『ああ、この人はいい人だなぁ』と思ったんだけど、稽古がはじまったら芝居に関してド素人なのでかなり怒られました (笑)。

でも、雰囲気は他のところと違いました。『WAHAHA本舗』という、これから何かやっていこうという劇団と名前がある劇団とは違うし、オーディションでお金を取ろうという劇団とも違う。そういう考え方はいいなあと思いましたね」

-オーディションはどんな感じでした?-

「僕はオーディションなんていうものは、何かできるやつはもうどこかで芝居をやっているし、オーディションというのはその人のやる気とかそういうものを見るものであって、何かいい印象を与えておけばいいやみたいなちょっと計算的、打算的なところがあるんですよね。

できる人間はどこかでやっていますよ。オーディションになんて来ないですよ。ある意味、そういう面接のようなものでは何か印象だけ与えておこうみたいな感じで。

だから、『地元ではテレビの構成作家や司会業をやっていました』とウソをついたり、『落語をやっていたのなら何かひとつやってみせて』と言われて『今日はちょっと、明日お見せします。明日はおもしろいですから』と返したりしていたんですけど合格。あとで柴田に聞いたら『おもしろい顔をしているから入れた。あんなおもしろい顔はめったにいないから』って言うから、それで十分です」

1984年、「WAHAHA本舗」のオーディションに合格し、劇団員となった梅垣さんの生活は一変。稽古に次ぐ稽古。それも台本があるわけではなく、セリフ、ネタは自分で考えなければいけなくなったという。

次回は「WAHAHA本舗」での日々、鼻に豆を詰めて客席に飛ばす芸などについて紹介。(津島令子)

※舞台『イキヌクキセキ 十年目の願い』
2021年7月2日(金)~11日(日)KAAT神奈川芸術劇場
2021年7月16日(金)~18日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
出演:屋良朝幸 浜中文一 松本明子 松下優也 ヒデ(ペナルティ) 梅垣義明 安寿ミラ 松平健
東日本大震災から10年。はたせなかった幻の卒業式…。故郷を離れた人、地元に残った人、それぞれの見えなかった運命の糸が、一つひとつ繋がりはじめる…。

※WAHAHA本舗全体公演『王と花魁』
2021年10月28日(木)~31日(日)新宿文化センター 大ホール
構成・演出:喰始
出演:柴田理恵 久本雅美 佐藤正宏 梅垣義明 すずまさ 大久保ノブオ
2020年上演予定で延期になった「WAHAHA本舗」4年ぶりの全体公演。″和″をテーマに、枠にとらわれないコラボレーションや、バカバカしくもエレガントな″WAHAHAワールド″が…。