栄光のサファリ・ラリーでトヨタが勝利!勝田貴元、2位表彰台で日本人27年ぶりの快挙<WRC>
WRC(世界ラリー選手権)2021年シーズンの第6戦「ラリー・ケニア」が開催された。
アフリカの大地を舞台とし「サファリ・ラリー」と親しまれたラリー・ケニアは、海千山千を誇る歴戦のラリードライバーたちにとっても“冒険”の地。そんなラリー・ケニアは、WRC(世界ラリー選手権)では2002年を最後に開催されていなかった。
しかし今シーズン、第6戦に組み込まれることに。ベテランの現王者セバスチャン・オジェでさえ初めてのラリーであり、誰もが帰ってきたサファリ・ラリー勝者の称号を手にしたいと願っていたことだろう。
事前にコースをチェックするレッキ走行でインタビューを受けたオジェは、「本当に美しい大自然で、現地の人々は暖かく迎え入れてくれて、レッキ中もアフリカの野生生物を満喫した。素晴らしい経験だ。ただ直線ひとつとっても難しい。本来直線は簡単なはずだが、ここでは所々に深い穴があり砂は柔らかく、そんな中を高速で走らなければならない」と、感動しながらもラリー・ケニアの難しさを語った。
そんな第6戦ラリー・ケニアは、最終日まで目が離せない波乱の連続となった。
前戦のラリー・イタリア、その前のラリー・ポルトガルから続くグラベル(未舗装路)ラリーだったが、かつて世界三大ラリーのひとつに数えられたサファリ・ラリーは、今回初挑戦となる現在のWRCドライバーたちを大いに苦しめたのだ。
◆勝田貴元、WRC初表彰台!ライバルも祝福
ラリー・ケニアの上位の最終結果は以下の通り。
1位:セバスチャン・オジェ(トヨタ)
2位:勝田貴元(トヨタ)/1位から21秒8遅れ
3位:オット・タナック(ヒュンダイ)/同1分9秒5遅れ
4位:ガス・グリーンスミス(Mスポーツ)/同1分54秒6遅れ
5位:アドリアン・フルモ−(Mスポーツ)/同1分54秒7遅れ
6位:カッレ・ロバンペラ(トヨタ)/同10分53秒4遅れ
(7~9位はWRC3クラスのドライバーが入賞)
優勝は、今季4勝目となったトヨタのオジェ。
そして今回大いに注目を集めたのは、2位に入った日本人ドライバーの勝田貴元だ。勝田にとっては嬉しいWRC初表彰台獲得となる。
3位にはトヨタ時代に勝田と何度も食事に行き、トヨタを離れる際も「別チームであってもドライビングのことでタカが聞いてきたら何でも答えるよ」と答えていたオット・タナックが入り、表彰台のシャンパンファイトでは、両ドライバーから愛情こもった手荒い歓迎を受ける姿が印象的だった。
また、現地主催者が音楽を流すタイミングを何度も間違え、結果的に2度も日本国歌「君が代」が流れるというハプニングがあるなど、19年振りの大会らしい一面も感じられた。
そんなラリー・ケニアを振り返ろう。
今回は木曜日にSS1が開催されるラリーとなった。開催の地はケニアの首都ナイロビ。特設ステージには多くの観客が集まり、その熱気が伝わってきた。
◆突然の雨も…。牙をむくアフリカの大地
2日目の金曜日から本格的なラリーが始まる。アフリカの大地は、いきなりドライバーたちに牙をむいた。
SS3でフロントサスペンションを破損したトヨタのエルフィン・エバンスは、SS3ゴール直前にマシンを止めてデイリタイアを選択した。同じSS3ではヒュンダイのダニ・ソルドも直線でスピンさせ、マシンを痛めてデイリタイアとなった。
2日目最後のSS7では、トップを走行していたヒュンダイのティエリー・ヌービルが走行中にリヤタイヤを破裂させるようなバーストをしながらもなんとか走行。ヒュンダイのタナックもSS7でリヤタイヤをバーストさせつつもゴールに辿り着いた。
だが、この2人はまだ運が良かった。トヨタのカッレ・ロバンペラは同じSS7でマシンが深い轍にハマってしまい、マシンが抜け出せなくなるというトラブルでデイリタイア選択という不運に見舞われたのだから。
3日目の土曜日、ドライバーたちに襲いかかったのは“天気”だった。
この日最後のSS13、なんと乾季のはずのアフリカの大地に突然雨が降り出した。これにより、完全に路面状況が変化する。
苦しめられたのは、ヒュンダイのタナックだ。雨による湿度で曇ったフロントウインドウが乾かず、視界を奪われ、走行中のマシンを止めてフロントウインドウを拭くという作業に追われる。この結果、36秒5もリードしていたオジェに逆転され4位に落ちてしまった。
一方、大いに注目を集めたのは総合2位を守り続けた勝田だ。突然の雨などにも苦しめられたが、2位を守ったまま3日目を終えた。1位ヌービル、2位勝田、3位オジェという展開で最終日を迎えることになる。
◆勝田、一時は総合トップに立つ
そして迎えた日曜日。アフリカの波乱は終わっていなかった。
この日最初のSS14でトップのヌービルのマシンは右後輪サスペンションダンパーを破損。なんとかSS14は走りきったが、SS15のスタートラインにマシンを移動させることが出来なかった。ヌービルは痛恨のリタイアとなる。
この結果、SS15を終えて、勝田が0秒8という僅差ながら総合トップに立った。勝田自身にとって初の総合トップだ。
SS16でオジェが逆転してトップに立つが、トヨタチームの注目もWRC公式TVの注目も勝田に集まった。最後SS18のパワーステージでは、WRC公式TVが勝者のオジェよりも勝田の中継に多くの時間を割き、初表彰台となるゴールの瞬間まで送り届けたほどだ。
パワーステージ走行直後の勝田はWRC公式TVに「最高の気分です。長い週末でした。誰もがトラブルを抱えつつ、(僕たちは)生き残りました。その結果、僕はここにいます。何よりチームスタッフに感謝したいです。彼らはマシンに大きなダメージを負っても毎回完璧に修繕してくれました。彼らのおかげです。ありがとう」と答え、全力でサポートしてくれたトヨタチームのスタッフに感謝した。
こうして栄光のサファリ・ラリーは終了。優勝したオジェは自身初となるサファリ・ラリー勝利を喜びつつも、勝田の走りを称賛した。また、元チームメートのタナックもパワーステージ後の勝田を抱擁で迎えた。
この勝利はトヨタにとっても大きい。WRCではトヨタにとって1994年以来のサファリ・ラリー勝利なのだ。そして、日本人ドライバーの表彰台も1994年に2位となった篠塚建次郎(当時三菱)以来となる。実に27年ぶりの快挙だ。
◆豊田章男氏「震えるほど感動しました」
そして、この勝利を誰よりも喜んだのはチームオーナーである豊田章男氏だ。以下はそのコメントの一部。
「タカ!本当にすごい!少し悔しいけど、すごく嬉しい! あのセブをリードして最終日を迎え、そのままずっと優勝を争って2位表彰台! 震えるほど感動しました。
今日は昼から君のお父さんとずっとタカのことを見守ってました。二人とも、タカのことが気になって他のことが何も手につかず、ことあるごとにラインで会話をしていました。今日は仕事が休みで本当によかった。君のお父さんは仕事だったみたいですが(笑)。
初めて走る厳しい道で、世界最高のドライバーとトップ争いをしながら走り切る…。タカはこの一戦だけで今までの何倍も成長したと思います。今シーズン、残り6戦、最後はラリージャパンもある。さらに楽しみでしょうがなくなりました。
だけど、やっぱりセブはすごい! それも今回、心から思ったことでした。
ケニアの道は写真を見ているだけでも、いかに厳しいかが伝わってきます。最後の3ステージ、タカに追いつき抜いていく走りをセブができたのは、そんなに厳しい道でも、タイヤを大切にしながら走っていたからだと思います。
そんな尊敬すべきドライバーがTOYOTA GAZOO Racingの一員として戦ってくれていること、そして、その走りを我々の仲間の成長に繋げてくれていることに心から感謝します」
また、優勝したセバスチャン・オジェのコメントは以下の通り。
「サファリ・ラリーで優勝することができて素晴らしい気分です。金曜日にトラブルに見舞われた後は、勝てる可能性が残されているとは思っていませんでしたが、可能な限り多くのポイントを獲得するため、最後までベストを尽くしました。
サファリでは何かが起きると思っていましたが、実際その通りになりました。金曜日のトラブル以降は非常に好調で、ペースはとても良く、マシンも素晴らしかったです。両チャンピオンシップで大きく前進することができたので、チームにとってはとてもいい日になりました。また、素晴らしい結果を残したタカを祝福したいと思います。最後に彼を捕まえるのは、それほど簡単ではありませんでした」
ラリー・ケニアを終えて、ドライバーズチャンピオンシップは以下の通りとなった。
1位:セバスチャン・オジェ/133ポイント
2位:エルフィン・エバンス/99ポイント
3位:ティエリー・ヌービル/77ポイント
4位:オット・タナック/69ポイント
5位:勝田貴元/66ポイント
6位:カッレ・ロバンペラ/56ポイント
7位:ガス・グリーンスミス/34ポイント
8位:ダニ・ソルド/31ポイント
そしてマニュファクチュアラーズ争いは、トヨタが273ポイント、ヒュンダイ214ポイント、Mスポーツ109ポイントとなった。
栄光のサファリ・ラリーはトヨタ勝利で終了。WRCシーズンもいよいよ折り返しだ。
シーズン後半戦最初となる第7戦は「ラリー・エストニア」(7月15日~18日開催)。再びヨーロッパの地に戻り、5戦の戦いが続く。シーズン最終戦の「ラリー・ジャパン」に向けて盛り上がっていくことは間違いないだろう。勝田のさらなる活躍に期待したい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>